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レッドこと紅くんの孤立奮闘3

金里さんを男子トイレにおいて、僕は廊下に出る……その前に。


「ファイバーズ、レッド。変身」


僕は小さい声で呟いてから、携帯電話を腕に付けてあるバングルに重ねる。


するとバングルが赤く光り、機械音声が発せられる。


「装着者認識! チェンジ、ファイバーズ」


その音声が終わると同時にバングルから赤い光が吹き出し、僕は目を閉じる。


 ◆



説明しよう!


ファイバーズのメンバーには特別な変身機構が搭載されているバングル(腕輪)が付けられている。


これに変身のかけ声と共に携帯電話をかざす事で特殊戦闘服を装着する事が出来るのだ!


その時間、わずかコンマ六秒! 


変身キットはお近くのおもちゃ屋さんで販売しています。


これがあれば君も今日からファイバーズだ!!


*携帯を持っていない場合は専用カードになります。専用カードは変身キットと同伴です。携帯電話の登録は説明書P6をご覧ください。


 ◆


変身を終えて、僕は着心地を確かめる。


いつも思うけど、着ている服の下にユニフォームが現れるのが不思議だ。


ユニフォーム自体は赤を基調とした全身タイツだ。これはファイバーズのそれぞれで色が違う。


青島さんは戦闘服のくせに迷彩色じゃないのはおかしいと言っていたけど、僕は敵、味方わかりやすくてよいと思う。後、遠目にも誰が誰だか分かるし……隠れるのには駄目なんだけど。


不思議な事に、ジャケットなんかはユニフォームの上になる。


でもインナーとかはちゃんとユニフォームの下なんだよね。どういう仕組みなんだろうか?


詳しく説明してもらったけど、さっぱり理解できなかった。


でも機能はすごい。


まずファイバーズのユニフォームを着ると、体が疲れなくなる。


原理はこれまたよくわからないけど、着た状態が保管されるようになるとかなんとか。


『疲れなくなるから、体のパフォーマンスが上がるね。例えばマラソンだって、ずっと全力疾走が出来る。これなら君たちの身体能力でもとりあえず戦える。とりあえずだけどね』


初日に青島さんから受けた説明が蘇ってくる。


『だから訓練では君たちの身体能力を鍛えます。持続力はどうでも良いから、重い物を持ち上げられるように、速く走れるようにするよ』


そこから、僕はひどい目にあった。


さんざん運動をさぼっていたのが悪いんだろうけど、そのツケを一括払いさせられた気分だった。


いっしょに苦労したファイバーズの皆が居なかったら投げだして逃げていたと思う


その他にも、ファイバーズのユニフォームは防御力が高い。


これまたよくわからないけど、青島さん曰く画期的らしい。


ケブラーがどうたらこうたらって言っていたけど良くはわからない。


『他のボディーアーマーは撃たれたら四センチ位は凹むんだよ。弾が内蔵には届かないって言うんだけど、痛くってねぇ。それ無しで撃たれたら痛いじゃ済まないんだけどさ。これはそんなことないし、顔まで守ってくれるし、大したもんだよ! でもライフルの弾はダメだけどね。あとポケットが無いのが最大の弱点かな』


そう青島さんが笑っていた事だけは覚えている。


その後の説明で至近距離でもない限り、拳銃の弾なら大丈夫だって話だったから、これで死ぬってことはないはず。


とはいっても油断大敵……。ええっと、逃げるにはエレベーターか、非常階段だな。


MP5の発射体制を整える。でも撃ったら、おおごとになるな。


『紅さん。撃つときは私が見える範囲で撃ってね。敵がワーッと移動するから。援護しやすくなるのさ』


狙撃手の黄野さんの言葉を思い出す。


今回もそれと同じ。撃てば敵がやってきて大わらわになる……。


銃撃戦になったら大変だ。会場の人がケガをしてしまうかもしれない。


意外と……落ち着いている自分に気がつき、僕は一息吐き出した。


最近、家族から堂々としてきたと言われたことがある。


筋肉が付いてきたからだと思っていたけれど……それだけではないのかもしれない。


もしかして度胸が付いたのかも、とちょっと自分の成長が嬉しい。


敵の「だちづで人」ってふざけた名前の異世界人は問答無用で襲いかかってくる。


だいたい素手だけれど、こん棒を持ってくる事もある。あれはすごく怖い。


それと比べると……まだましだ。拳銃では最悪でも青あざくらいしかケガをしないのだし。


何はともあれ、このユニフォームを着ている限り、僕は安全だ。


エレベーターの見張りはどうかな?


ちらりと顔を出して伺うと見張りが二人いる。これは駄目だと僕は諦めた。


でもこの最上階の会場に来る為のエレベーターは一階から直通のあそこしかない。


うーん、考えろ、考えろ。単に諦めるだけじゃだめだ。


そうだ……非常口はどこかにあるはずだ。だが周囲にそれらしきものはない。


会場の裏はどうかな? 業務用エレベーターとかあるかも。


僕はそう考えて足音を立てないように注意しつつ、業務員用の扉の前に移動する。


取っ手の無い扉だ。内側、外側どちらから押されても開くようになっていた。


窓も無く、中の様子はうかがえない。


こういうときは、躊躇わない。


なるべく静かに扉を開き、サッと食器なんかが重ねてあるカーゴの裏に隠れる。


どうやらここは会場の裏口の様で、会場の飾りなどが保存されていた。


僕が隠れた見るからに業務用のカーゴには食べ終わった食器やコップが詰め込まれている。


カーゴと中に入っている食器の間から、銃で武装した覆面男の姿が見えた。


その男は通路の奥へと消えて行く。見つかりはしなかったみたいだ。


ホッと胸を撫で下ろし、さらに奥を伺う。


食器や料理を運ぶエレベーターがあった。


大きさからしても、小学校の給食で使っていた奴に似ているから間違いない。


金里さんだけでも、あのエレベーターで下に降ろせるかな?


あとは、そうだなぁ。出来る限り中の様子を探れば上出来だけど。


僕はそう考えて視界を巡らせた。


会場の二カ所あったドリンクコーナーの奥には仕切りが立てられていた。


もしかしたら、あそこに会場から裏手に続く入り口があったのかもしれない。


そこから会場の中の様子を覗けるかな?


位置関係を思い出しながら僕は慎重に奥へと進んで行く。


裏は従業員専用なんだろう、薄暗くて壁紙も少し安っぽい。


こそこそ隠れながら移動すると強い光が漏れ出している部分があった。


耳を澄ましながら一層慎重に進む。


予想通り、裏口は会場の中に続いていた。何やらがなり声が聞こえる。


「であるからして、我々アカツキのさえずり団は、東京の空に突如として現れた暗黒大円より救いの神が出現する為に活動している! 救いの神はこう言った。金は天下の回りもの、だがここに金を貯えている奴等が居る!」


会場のステージの上で、なにやら紫とかで化粧をしているケバケバしい男が、銃を片手に演説をしていた。


「よってこれは天誅である! 我々アカツキのさえずり団は貴様等をタネに資本家どもに警告を行う! これは天命である」


何やら過激な事を言っている。


それにしても東京に現れたって、ダークホールのことだろうか? あそこから来るのは異世界人だ。


僕らは救いの神なんて見た事が無い。あまりにも適当な事を言っている男に腹が立ってくる。


……だめだ、だめだ。怒っててもしょうがない。ええっと。


武器を持った男の数は舞台に居る奴を含めて会場に四人……皆は真ん中に集められている。従業員の人も居るな。


あっ、今一人、会場の入り口から入ってきた。会場入り口のエレベーターを見張っていた二人のうちの一人だろう。


となると……裏を見張っていた奴を数えて武装した男達が少なくとも全体で残り七人はいるんだな。


警察には金里さんから連絡が行ってるはずだ。


男達の人数を減らすなんてことは早々上手く行くはずが無い。


ここは静かに撤退しようと僕は後ろに下がった。


「なにしてんだ、てめぇ!」


突然背後からかけられた声にびくりと肩がすくむ。振り向いた先に居たのは覆面の男だった。


さっき、カーゴの隙間から見た人か!


その手に持っていたサブマシンガンの銃口がこっちを向く。それには反射的な恐ろしさがあった。


黒々とした銃口の中が覗き見えた。


体が勝手に動く、安全装置は既に外している。


『ユニフォームが筋を痛めたりするのは防ぐから、多少無茶な撃ち方をしても良い。でもそれじゃ、銃口は安定しない。狙うときはサブマシンガンのお尻を肩に付けて、心持ち前のめりになるように、反動を体重で押さえつける感じで』


引き金を引く。


ダダダ!


ノズルフラッシュの向こうで、武装した男がうめきを上げる。


人を撃った罪悪感は感じなかった。多分、それどころじゃなかったからだ。


会場の中から悲鳴が上がる。


……裏の準備室なら逆に引きつけていいかもしれない。


囲まれてしまっても、いざとなれば食器を運ぶエレベーターで降りれば何とかなる。


踏み出すと会場の明かりがまぶしかった。


狙える相手は二人だけだった。集められている人質の人が射線に入るところは狙えない。


僕は走りながら狙う、同時に狙われる。


当たっても、たかが青あざ!


僕は心でそう念じてみる。でも怖いものは怖い。


『同時に二箇所を狙うときのコツは当たったと思ったら結果は見ない事。当たったときの感覚がわからないなら、二箇所を狙うのはあきらめた方が良いかな。その内、分かるよ』


この感覚を青島さんは口元がつり上がるようなと例えて、黄野さんは指先が喜ぶと言った。


僕の場合は背筋の筋肉がピリッとする。


引き金を引く。銃が暴れるのを押さえつけて一人目。


背中がピリッとする。


続けて二人目。相手は銃の安全装置を外しているところだった。遅い。


引き金を引く。もう一度背筋にピリッとした信号が走る。


やった!


喜ぶ僕のこめかみに衝撃が走った。


パコォン。


衝撃と一緒に頭の側面で大きな音がした。膝が落ちる。


ちょっと痛い。びっくりした。


衝撃のあった方向を見ると、舞台の上から派手な人が拳銃の先をこっちに向けていた。


「……死んどけよ」


マイクでそう呟かれても、死んではいられない。


「助けにきてくれたのね!」


そう言いながら人質になっていたおばさんの一人が立ち上がって、僕を見ていた。


その背後に銃を構えた男が居る。


やばい!


このまま引き金が引かれるとおばさんに当たっちゃう!


本当はすぐに裏に引っ込むつもりだったけど、僕はおばさんから狙いを外させるためにしょうがなしに仕切りから飛び出した。今会場に立っている男の数は後三人。


僕に向かって銃の引き金が引かれる。


飛んでくるオレンジの光が見えたような気がしたけど、気のせいかもしれない。


前に転がるようして、来賓用テーブルの足の下に滑り込むと、テーブルの端に銃弾が当たって破片が吹き飛んだ。


騒音と悲鳴。


肩で押し上げるようにして丸くて大きいテーブルを横倒しに倒す。


それから椅子を拾って自分が走ってきた方向に投げ捨てる。飛び出した椅子に釣られて銃弾が降り注いだ。


僕はその隙に、反対側に間髪入れず走った。


『このスーツの最大の利点は疲れが無くなる事だ。ヘロインより優秀で、後遺症も無い。君たちに着せる前に僕が一週間試したところで、身体異常は出なかった。安心して良いよ』


僕は全速力で走る。息は乱れない。


『この息が乱れないのがポイント。基本的に人間の挙動は点と線になるんだ。だが僕らは線だけで行動できる。紅君は殆ど運動した事がない。それが利点になりうるとすればこの一点だ。癖がついてないからね』


休まず、躊躇わない。


青島さんの教えに従って、僕は足を動かす。


体を低くして僕は突き当たり近くまで走り抜け、右にカーブ。


正面に銃を構えながら引き金を引く。


運のいい事に手前の男とその奥の人の足にも当たる。


ラッキー。


さらに引き金を引くと二発弾が出たところで、弾切れ。


崩れ落ちた手前の男の手から落ちたマシンガンを蹴り飛ばし、その奥で足を撃たれて呻きながらも、銃をこちらに向けようとする男に向かって僕はポケットのマガジンを取り出し、投げつける。


相手の頭を狙って投げたのに、大はずれ。


投げつけたマガジンは男の頭を飛び越えて外れた。


だが男は覆面の下で目を丸くして、歪んだ姿勢のままで僕に向かって銃弾を撃ってくる。


一発は外れ。もう一発はお腹にあたる。ちょっと痛い。


「でりゃぁあ!!」


だけども僕は走る勢いに任せて、叫びながらマシンガンのお尻で男の顔を殴りつける。


手のひらに嫌な感触を感じつつ、僕はその手を振り抜いた。


後頭部からひっくり返った男の脇をすり抜けるように僕は足を止めずに走る。


目指すは舞台だ。


銃についてたマガジンを落として、新しいマガジンを探して胸ポケットを探る。


その時、又撃たれた。肩と、胸と、脇腹と太もも。痛さに手に持った新しいマガジンを落っことす。


いいや! マシンガンはここまで!


僕は思い切って手に持っていたマシンガンを投げ捨て、ベルトに挿していた拳銃を引き抜く。


親指で安全装置を外せば、大丈夫。もう撃てる。


「な、何だ、お前は!」


台の上に居る紫の派手めな男が泣きそうな声でそう言った。答えは決まってる。


「ヒーローだ!」


叫んで勢いのまま、僕は走りながら銃を撃った。


肩に当たってよろめく男にむかって、僕は勢いをそのままに足の裏で叩き付けるようにそのお腹を蹴る。


男はお腹を押さえてよろめいて、地面に銃を落とす。僕はさらに崩れた男のあごを蹴り上げた。


だがこれで……終わりか?


しんと静まり返った会場の中で、僕は覆面男達を見回した。


……大丈夫そうだ。


僕がようやく一息つくと、会場からドッと歓声が沸いた。


「たすかった!」


「よかった!」


「ああ、よかった!」


口々に安堵の声を上げる人たちに、僕も自然と笑顔になる。


……こんな風に人に感謝をされるって良いかも。


いつも平和の為に、と考えて頑張ってはいるけれど、こうして感謝されたり喜んだりされるとやっぱり嬉しい……。


そのときだった、乱暴に会場の扉が乱暴に開かれる。


安堵の声が一瞬で静まり返った。


そこに居たのは覆面男だった。


……しまった! エレベーターを守っていたのは二人じゃないか!


残っていた最後の一人は周囲を見渡し、舞台に倒れている男と僕を見て、銃口を僕に向ければ良いのに歓声を上げていた人たちに向ける。


お終いだ!


「そこのおまえ! 抵抗するとーーー」


そこまで口を開いたところで、彼の後頭部に銃口が突き付けられる。


撃鉄を起こして彼女は言った。


「抵抗すると、貴方の脳髄をぶちまけますわよ」



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