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ここは、夢か異世界か。。。  作者: 鳴神 鈴蘭
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双子のメイド

「ふわぁあ……って、ヴぉっっ!!」

今日も大嫌いな朝が来た。いつもと違うのは豪華なベッドとふかふかのシーツと布団。……そして、何故かオレの右横で寝ている少女。黒髪ツインのメイド服姿。ここはメイドカフェかっつーの。

――――いや、違う。ここは昨日と同じ世界だとするならば、オレを養子にするとかおかしなこと言ってた変態貴族の屋敷の中にある客間の一つだ。

まだ、元の世界に戻れてないのか……。つらっ。まだ、夢の中じゃないかなぁ……。横で眠る少女は美少女メイドだし、まぁ、夢って考えてもいいだろう。

――――陶器のように透き通る肌には確かに血が通っている赤みが薄っらと感じられる。絡まりどころの無さそうな綺麗な黒髪、人形のように整った顔、口から漏れる微かな吐息……。

最新のVR機器の萌げーでもやってる気分だ。触れてしまったら消えてしまいそうなほど可憐なその少女。それが禁忌だとしても、触れたくなるのがオレだ。そっと、その髪に指を絡まそうと手を伸ば――――。

「おはようございます、お客様。お目覚めですか?」

「ヴぇっ!?」

突如、頭の後方(つまり、ベッドの左側)から声をかけられ、またもや、間抜けな声を出してしまった。

振り返ると、そこには二人目の美少女メイド。絹のような真っ白な髪を耳の下で二つにくくっている。ルビーがはめ込まれた様な真紅の瞳。微かに虚無の宿ったその瞳はその人形のように可愛らしい顔に暗い影を薄らと落としていた。

「えっと……、誰?」

「すみません、申し遅れました。イツキ様の担当をさせていただきます、ルルと申します。何卒、宜しくお願いします。」

ルルと名乗るその少女はマニュアル通りであろう言葉を並べると丁寧にお辞儀をした。洗練されたその動きはメイド長などと並ぶくらいなのではないだろうか。

「それで、この子は……?」

イツキは恐る恐る横で眠り続ける少女を指さした。

「私の姉のララです。すみません、お姉様は少しお疲れですので。今、起こします。」

ルルはベッドの周りをまわって、ララの傍らに腰をかけた。そして、その綺麗な真っ白な手を黒い髪の上に重ねた。

「……――――。」

ルルは小さく口を動かして何かを呟いた。その刹那、ルルの手から青みがかった白銀の光が放たれた。暫くすると、その光は変形しながら少しずつ魔法陣のような形を象っていった。

「魔法……。」

この世界に来てから何回か見てきたが、何度見てもやっぱりその神秘的な雰囲気には圧倒される。

「魔法、初めて見ましたか?」

「いや、そうじゃないけど、何度見てもすげぇなぁって。」

「そうですか。」

ルルは話しながらも淡々と魔法の手順を進めている。そのうちに魔法陣が黄色を帯びてきた。

「――――っ。」

ルルがふっと魔法陣に体の力を注ぎ込むようにその手に力をこめた。すると、魔法陣から電のような強い光が放たれて、ララの体に電気がはしった。

「いったぁああああ!!!あぶっ!なっい!」

ララが電気の衝撃で飛び起きると、眠気と着地に失敗したせいかふらついた。ルルとは対照的で明るそうというか幼そうというか……、まぁ元気な印象な少女だ。安らかな寝顔からは考えられないくらい、寝起きから元気だ。

「お姉様、お客様の前です。はしたないですよ。」

「ふぁーい。髪結んでー。」

ララはどすっとベッドの横の椅子に腰掛けた。そして、その髪をルルは慣れた手つきでほどき始めた。ほどかれた黒髪は思っていたよりも長かった。その髪を耳より少し上の位置で綺麗に結び、細めのサテンのお揃いのリボンを括り付けた。

「よしっ!」

ララは椅子からくるっとまわりながらルルの横に綺麗に並んだ。

「「改まして、イツキ様を担当させていただきます、ララとルルです。何卒、よろしくお願いします。」」

対照的な二人は揃って丁寧にお辞儀した。並んでいる姿を見ると二人は双子のようにそっくりだった。髪色は違うが、顔立ち、声色、目の色、体躯……。双子というより、コスプレイヤーがウィッグだけ変えて「双子キャラしてみた~」的なくらいのそっくり。

ただし、ルルとは違ってララの顔には太陽のように明るい笑顔があり、言動にも少しあどけなさが残るが。まるで二人は表裏一体、太陽と月のようだ。

「双子……?」

「いいえ、そうではありません。」

「はい、そうです!!……え?」

二人は同時に反対の回答をした。そして、ララはルルの回答を聞いて驚いたような顔をした。どっちなのか分からないが、何か特別な事情か何かでもあるのだろうか……。

ルルはララを一瞥すると、はぁ、とため息をついた。

「……はい、そうです。ルルたちは双子です。」

ルルが仕方がないとでも言うようにそう言うと、ララはすごく嬉しそうな顔をした。無邪気であどけなくて幼くて……、どこまでも輝くような明るい笑顔。ルルもこんな顔で笑ったらきっと可愛いんだろうな……。

「あっ、ロイス様とのお茶会のこと忘れてた!!」

「いってらっしゃい、お姉様。」

「うんっ!」

ララは急に何かを思いだしたように慌て始めた。そして、ルルはさもいつもの光景のようにそれをさらっと「いってらっしゃい」と言った。まぁ、いつもの光景なんだろうなぁ……。

「んじゃ、いってきます!」

ララは元気よくそう言うと、扉をばんっと開けて走って出て行った。メイドの品格とは……?いや、メイドカフェって思っとこ。そしたら、まだマシ。うん。

――――……、待てよ、さっきララが言ってた「ロイス様」って誰だ?ロイス様、ロイス、ロイス、ロイス……!?

「ロイスってあの変態……?」

「当家の主、ロイス・M・クロックワークス様です。」

クロックワークスねぇ――――。

「へぇ、なんか、時操っちゃいそうな名前だな。」

「はい。当主様の家系は時を操ることに長けた血が流れています。」

「じゃ、あのロリババァ、魔法使いなんだ。」

「そのろりばばぁ、の意味は分かりませんが、当主様はあまり魔法を好みません。魔力をコントロールするのを苦手としてますので。」

魔法使いの家系で魔力のコントロールが苦手?変わってんな、やっぱ。

「ロイス様が魔法のコントロールを誤れば、この辺りには何も残らないでしょうね。」

「えっ……。」

無表情で恐ろしいこと言うなぁ。

「あと、剣を振るうことを好みますので、自信があるのであればお手合わせ願ってみてはどうですか。」

「いや、俺、剣とか持ったこともないし。」

「意外です。剣技などを好みそうと思っていたのですが。あくまで、ルルの勝手な解釈ですので、お気になさらず。」

「まぁ、好きっつーか憧れはあるな。俺のいた国だと剣とか持ってたら捕まるからなぁ。」

世にいう銃刀法違反というやつだ。まぁ、だからこそ、そういうものに憧れるのだが。

「平和な世界だったんですね……。」

「うん、まぁ、そうだな。」

ルルの顔に少しだけ悲しさと優しさの混じったような複雑な表情が浮かんだ。なんだか、うっすら慈愛を含んだような女神のような表情。でも、すぐにまた無表情に戻った。

「では、今から屋敷の案内をさせて頂きます。」

「お、おう。」

――――そして、数分後、何故かわからんが、俺はもはやドレスといってもいいような豪奢さのよくわからん服を着さされている。

「あの、ルルさん……、この服は……?」

「安心してください。今日は特にご来客もないようですし、見られたとしてもロイス様や使用人のみかと。」

「いや、それでも恥ずいよ?恥ずいからね?」

誰だよ、こんな悪趣味なやつ……。

「いやぁ、疲れちゃったぁ。イツキちゃんいる?……あ、めっちゃにあってるよぉ!あはははは!!」

お前かよ!これ選んだの、お前かよ!!

突然、入ってきたロイスとかいう変態に心の中で精一杯ツッコミを入れる。というか、入れざるを得ない。

「てか、イツキちゃんってなんだよ。」

「ふふ、イツキちゃん。お似合だよ?」

「うぜぇええええええ!!!!!」

ロイスは長い茶髪を指先でくるくる回しながら意地汚い笑みを顔に浮かべていた。まるで、俺の絶叫なんてただの余興に過ぎないとでも言うように。

「その余裕の表情がすっげぇ、む、か、つ、く!!!!!」

「もうやだなぁ、お義母さんを敬わなきゃだめよ、イツキちゃん♡」

「誰がお義母さんかよ、思ってねぇよ!あと、その呼び方やめろ!!」

「うわぁ、ひどぉい。お義母さん、傷ついちゃった。」

「めんどくせぇえええええ!!」

頭のおかしい親子(?)の言い合いをルルは傍から眺めていたが、時計らしきものを一瞥すると時間を気にしたのか、眉をひそめた。

「ロイス様、イツキ様に屋敷の案内もしなければいけませんし、あと、お姉様を待たせているのではないですか。」

「んー、一応、『かわいいかわいいイツキちゃんのドレスローブ姿をこの目に収めてくるから待ってて~』って言ったら、ちょーかわいい笑顔で『楽しんでー』って言いながらゲラゲラ笑ってたよー?」

メイドもメイドなら主人も主人だな。いや、逆か?主人も主人ならメイドもメイドか。とりあえず、ここの主従関係はおかしい。

「とりあえず、ルルにも仕事がありますので。」

「はいはい、じゃ、またあとでねぇ、イ・ツ・キちゃん♡」

ロイスは渋々部屋から出て行き、扉を閉める直前でいやらしい笑みをこちらに向けた。

「では、行きましょう。」

「お、おう。……………って、この姿でぇえ!!??」

「…………………。」

俺の悲痛な絶叫はただただ部屋の中で虚しく響き渡った。

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