接触
フードをかぶった少年。
細身で赤い髪の少年が足を組みながら見下ろしていた。
少年は壊れかけとはいえ、かなりの高さから飛び降り、華麗に着地した。
人間なら。人間なら無理だろう。
それをやってのけた彼は人間ではないだろう。
近くで見ると何か不思議な感じがした。
生きているのに生きていないような。
しっかりと立っているのに夏の陽炎のごとく揺らいでいるように感じる。
「異常な能力、見ておこうと思ってね」
「君は一体何者なんだ。」
「やだなー、お兄さん。」
次の瞬間、少し離れていたはずの少年が目の前にいた。
離れていたはずだ。少なくとも手は届かないところにいた。
フッと消えた彼は俺から数十cmくらいのところで俺を見上げていた。
「ほら、やってみなよ」
ニコッと笑った彼の拳がドスッと鈍い音をたてて俺の鳩尾入った。
相手のパンチは子どものものだとは思えないほどの強さだった。体内の内臓が悲鳴をあげる。
「あー、僕がやっちゃだめか」
そう呟くと地面が盛りあがって、巨大なモグラが顔を出した。
モグラと目があって直感的にヤバイと思った。
後ずさりした俺に向かってモグラは容赦なく爪を下ろしてきた。
間一髪のところで……逃げきれなかった。
右肩に爪がかすり、血が流れ出した。
すかさずモグラが二発目を繰り出してくる。
もうダメだと思って目を瞑って両手を前に伸ばし、下を向いた。
生身の人間が化け物にかなうはずがない。
死を覚悟したとき拍手が聞こえた。
目を薄らとあけて前を見ると自分の手のひらの少し前で体重を任せた攻撃をしてきていたモグラが塵になっていく。
発動した能力は興奮した化け物を消した。
そこに何もなかったように。
あったものは無に変わった。
無になった有は静かだった。
有の空間は既に無になり、無だけが残った。
「お見事、これは怖いねー」
笑いながら拍手している少年の姿が見えた。
「君の能力、自分が致命傷を受けそうな時に防御としてしか発動しないなんだね。しかも反動が大きいから、ほら、ふらついてるよ?」
だんだん少年の姿が霞んでいって目の前が真っ暗になった。
腕には痛みが走っていた。
傷口は深かった。
右腕の感覚はだんだん消えていった。
少年の笑い声がする。
目の前でモグラが腕を振り上げている。
体が動かない。
動かそうとしているのに。
まるで腕がついてないかのようだった。
蜘蛛に襲われていた。
俺を押しつぶそうとしていた。
突き出した手は蜘蛛を消さなかった。
カメレオンがいた。
尻尾が、瓦礫を吹き飛ばしながら迫ってきている。
目の前のカメレオンは破裂しなかった。
笑い声は止まない。
痛みは止んでいた。
傷口は開いたまま。
俺は目を閉じた。
目を開けた俺は右腕に痛みを感じた。
包帯が巻かれている。
おそらく、死んだ魚のような目をしていた。
俺はベッドの上にいた。
夢だった。
無心の俺の腕を無慈悲な痛みが確かに襲っていた。