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優しいって馬鹿にして

作者: 福宮薫

『優しいね』

そう誰かに言われた。

でも、私は優しいわけじゃない。

私は──





私はただ、何者にも分け隔てなく接しているだった。

明るくて元気な人、

おとなしくて優しい人、

孤独を好む傾向にある人。

先輩、同級生、後輩。

それぞれに合った対応を取り、嫌われないようにする。

それだけだった。

(そう、嫌われたくない。好かれたい。愛されたい。

私の根本にある思いはそれで、私はみんなが思っているような『優しい人』じゃない)

優しい、という言葉を受けることは嬉しいが、それと同時にほのかな罪悪感を感じるのも事実だった。

──だからこそ私は、彼の存在が大切だったのかもしれない。

私と彼は、席替えで席が隣になってから仲良くなった。

彼はおもしろく、少し不真面目で、気分屋。

私とは正反対の彼の姿に、私は惹かれていった。

こんなことは初めてだった。

いつも皆「平等」だった私の中に「特別」な存在ができた瞬間だった。





ある日のことだ。

教室で男子達が走り回っていた。

すると、一人が誰かのイスにぶつかり、ガタッと倒れる。

だが、そんなことも気にせず男子達は走り回る。

(まったく…)

私はそのイスに近付き、立てる。

イスにかかっていた服も軽くはたき、かける。

すると、それを見ていた彼が言った。

「優しいね」

いつも言われ慣れているはずの言葉だった。

だが、それは今までに言われたどんな言葉とも違っていた。

少し馬鹿にしたように言われたのだ。

普通は怒るところかもしれない。

でも私は、なぜか嬉しかった。

私は笑った。

「あなたが言うと、なんだか馬鹿にされてるみたい」

だが、私はそれが間違いなく嬉しかった。

彼は私を『聖人』として見ていない。

私は人になれた気がした。





しかし、一瞬は一瞬であり、永遠ではない。

席が変わり、それと同時に私と彼の距離も遠くなった。

物理的にも、精神的にも。

私も、遅かれ早かれこうなることは分かっていた。

だが。

(認めたくない…!!)

そう、私は認めたくなかった。

故に、今も認められていない。

あれから一年経った、今もなお。

(もう一度…「優しいね」って馬鹿にしてほしい)

私に彼以外の人など、いないも同然なのだから。

私が大切にしたかったものは、彼だけなのだから。

まだ思い出にはできそうもなかった。

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