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第6話

まず、思いっきり矢となって飛んでいくようなイメージで、相手の後ろに力の限り踏み込む。それと同時に黒塗りの鞘から、太陽の光を反射する美しい人殺しを解放する。


居合切りといえばイメージしやすいだろうか、右手によって振り抜かれた刃は山賊の体を左脇の下から右方に向けて、ヒュッと心地よい音を奏でながら切り裂く。


山賊の表情はそのままに、体だけが刀に食い千切られ、空中で二等分される。

空に血飛沫が舞い、緑に赤が混じる。


そして、ようやく仲間が強襲されて真っ二つになったことに気がついた山賊の仲間が、先ほど手放した武器を拾おうと屈み込んだ瞬間、空気の流れが少し変わる。


スッと、無理やり擬音にするならこんな音だろうか。カチ上げた刀身を切り返し、武器を拾おうとした山賊の首に叩き落とす時の静かな音は。

上手いこと首の骨の関節に入ったのだろう。大した音も立てずに2人目が絶命した。


もう1人は、どこだ。

即座に索敵に映ると、自分だけ脇目もふらずに逃げようとした山賊の生き残りが目に入った。なるほど、命をとるのか。

山賊のことを笑うだろうか。しかし、戦場において生き残るというのは即ち価値であり、生きるというのはそれだけで値打ちがあるものだ。

それを選んだ山賊の残党を、私は笑わない。だが、ひとつ言うのであればこうだろうか。


逃げ方が足りない。


先ほど首を叩ききった山賊の落とした、大柄なナイフのような野蛮な力溢れる担当を拾い上げ、投げナイフの要領で残党めがけて、しなやかに投擲する。


柔らかいフッという楽器にありそうな優雅な音を立てて、空気の層を切り裂いたそれは、まっすぐ残党の背中に突き刺さり、確実に心臓を貫いた。

これで、三人。


肺の中に溜まった空気を吐き出し、体の力を少し抜き、リラックスする。先ほどの山賊は、いったいどこの住人だろうか。見たところ、西洋のおとぎ話に出てきそうな格好をしているが、どこかの義勇軍の装備かもしれないし、民兵などこのご時世には珍しくない。

だが、まぁそれにしても妙ちきりんな格好だと思いながら、急いで倒れている少女の元に向かう。


「あの!意識はありますか?」


「…………………」


返事が無い。直ぐに最悪の事態を想像してしまうが、まだ決めつけるには早い。急いで彼女の首元に手を当てて、脈を測る。

……………しばらくして、かすかな脈を感じた。彼女はまだ生きている。だが出血量が酷い、このままでは死んでしまう。急いで自分の制服の下に来ていたシャツに軍刀をあて、長めに切る。


そしたら、彼女の傷口にグルグルと巻いて、止血する。化膿したらマズイので、本来であれば清潔なガーゼや包帯があれば良いのだが、山賊の服は不衛生そうだし、彼女の装備も土や血で汚れていたので、とても止血に使う気分にはならなかった。


それだけでは固定が心もとないので、制服を抑えているベルトを外し、彼女に装着させ、少しきつめに締める。

ぎゅっと締めてはいけない。ゆっくりと締める。

すると血が滴ることはなくなり、何とか止血には成功したようだ。


いや、まてよ。

もしかすると追っ手がまだいるんじゃ無いか?。そうだとしたら大分マズイな。

なんとか人目につきづらい場所に移動させるのが先決だな。

だとしたら、水が近場にある最初の洞窟に連れて行くか。あそこであれば隠蔽性もそこそこだ、追っ手が来ても奇襲をかければ勝てる可能性も高い。

傷口が開かないように、所謂お姫様抱っこというやつで彼女を持ち上げる。なるべく優しく運べるように、慎重に足を運んでいく。


さっきまで私が倒れていたところに、彼女を横たえる。そして、軍服を脱いで上にかける。


……それにしても、銀髪…か。初めて見る髪の毛の色だ。白髪のように色素が完全に抜け落ちた色ではなく、ツヤのある月の光のような色で、とても綺麗で美しかった。


さて、おそらく洞窟内の気温は夜になると急に下がるだろう。そうなってもいいように外で薪でも取ってこようか。


そういえば制服のポケットと、図嚢の中身を確認していなかったな。いそいそと図嚢の金具を外し、中身を探る。

すると折りたたみ式の広げると巨大な地図と、皮のケースに入っている万年筆、メモが少しと……ジッポライターが一つか。


真鍮で作られたジッポライターは、普段から使いやすく頑丈なため、よく愛用していた。これがあれば、暖をとるのも簡単だな。


おぉっと、そうと分かれば急いで薪を集めに外に行くか。


日が暮れる前に、動こう。


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