Black love
僕、綾小路隼人はある日の放課後に、2つ下の後輩である岩崎貴博に新聞部の部室へ呼び出された。
この時の彼は、いつもの穏やかな表情ではなく、どこか強ばった表情をしている。
なんで? 僕、何かした?
「ねえ、綾小路先輩。てっきり僕が初めての相手になれると思ったのに、浮気しているらしいじゃないですか。相手は誰なんですか? 僕の知ってる人ですか?」
「た、貴博、これにはワケが…」
「僕だけを愛してると言っていたのは嘘だったんですか。ひどい人ですね」
まさかこうなるとは予想外すぎだ。
外ではカラスの鳴き声が聞こえ、夕日が部室を赤く染めている。
僕は自分の置かれた状況に唖然とした。
「貴博……あの……」
「あなたがあんな事をするから、僕は…!!」
「ぐっ…!!」
貴博は目に涙を溜めると、僕の上に馬乗りになり、脇腹に両手を置いて体重をかけた。
小柄な体躯からは想像もつかないほどの凄い力で胃の辺りを押し潰され、猛烈な吐き気が僕を襲う。
喉には熱いものがこみ上げてきて、僕はものの見事に吐瀉物をぶちまけた。
「うっ…げぇぇぇぇ!!!」
消化できなかった昼食の欠片や胃液が散らばり、辺りに異臭が広がる。
やがて引きつる喉の奥からは黄色い液体しか出てこなくなり、僕は力なく床に倒れ込んだ。
「うぁ……っ……」
「綾小路先輩がいけないんですよ。僕以外の男に色目を使ったりするから」
もう、喋ろうに喋れなかった。
まるで、舌が石になったように。
「僕を愛せないあなたなんかいりません。どうしますか? 僕だけを愛すると誓いますか?」
本気そのものの表情で顔を近づけて呟く貴博。
あまりの迫力に負け、僕は瞳を潤わせてこくりと頷いた。
声を出したいのに、首を絞められているかのように喉がギュッと固くなり、息をする事すら苦しくなった。
「反省しているのなら許します。ですが、次にやった時は承知しませんよ」
静かな部室に、ドクドクと鼓動の音が響く。
貴博は影を含んだ笑顔で僕を抱き起こすと、髪を優しく撫でたのだった。