プロローグ:決断
久々の新作です。割と設定を温めていた話なので楽しんでいただけたら嬉しいです!
《プロローグ:決断》はお話の都合上、たいへん短く切れてしまっています。
明日も連続で更新しますのでよろしければ……!(明日はボリューミーなはずです(笑))。
少女は街の中にいた。近代的な建物が並ぶ都心の真ん中で独り、膝を地面についていた。唸るように嗚咽を漏らしながら、わなわなと肩を震わせる。
「……!」
明らかに周りの目がこちらに向いていた。
どこか哀れむような、同情するような、あるいは蔑むような、そんな表情を浮かべながら少女を見下ろしている。
なぜ――――――否。
少女がしゃがみこんで泣いているからではない。少女の前に正教会のローブを纏い、フードを深くかぶった人影があるからに他ならなかった。
俗世離れした異質な光景である。
この世界において無知であるならば、泣きじゃくる少女を優しく介抱する聖職者を連想することもできるだろう。ある一点から見ればそれも間違いではない。
少なくともこの少女にとってはそうであるかもしれない。全く別の意味で、だが。
しかし多くの人からすれば、これは差別の対象であるのは間違いなかった。ローブを纏った聖職者が現れる相手はこの世界でも限定されるからだ。
「……ねぇ、あの子、なんで泣いてるの?」
「あれは見てはダメよ! 《人もどき》になんて関わってはいけないの、いい?」
「うわ、見ろよ、《フォルス》の子がなんであんなところで……」
「きっと忘れていたんでしょ、《十五歳の決断》の日だって」
「にしたってここではやめてほしいな、運気が下がるぜ」
うずくまる少女を見ながらも、人々は様々に侮蔑の言葉を浴びせて過ぎ去っていく。誰もが少女に興味こそ持っても、好意的な感情は抱かない。誰も少女を助けようとはしない。
助けを求めるように少女は目の前に立つローブの聖職者を仰いだ。
「っ……!! ああ、あぁ……ああああああああああああああ!!」
少女は耳を塞ぐように頭を抱え、もはや人の声とも似つかない悲鳴を上げる。
ローブの聖職者には顔がなかった。全くの無。フードの奥は吸い込まれそうなほどに真っ暗で何も見えない。ただ一つ、ローブの聖職者の前――少女の目線の先には異質にもダイアログが示されているだけだ。
《十五歳の決断》。または《決断令》とも呼ばれるそれは、この世界で人ならざる紛い物として差別された者が十五歳の誕生日……その生まれた時間に迫られる、人生の選択肢。
少女はそのダイアログに手を伸ばし、決定ボタンを押す。
この世界には嫌気がさしていたから。この世界はあまりにも辛くて、苦しい。
だから、もう少女の選択は決まっていた。
迷わなかった。
決めてしまったからには、もう元には戻れない。やり直しは効かない。そういう世界だ。
――――きっと、私を知って想ってくれる人がいたなら。その人は私を叱ってくれるだろうか。
――――怒って、怒鳴りつけて、そして最後には頭を撫でてくれるだろうか。
――――こんな私でも、暖かさを、温もりを、与えてくれただろうか。
しかし、それは叶わない。これから先そんな人が現れたとしても、もう手遅れだ。
もう運命は既にある方向へ舵を切ってしまったから。
少女は涙で掠れた声で叫んだ。
「死にたい! 死にたいのっ! できるだけ早く! ねぇ……!」
自らの決断を肯定するように。
その運命が果たされるそのときまで気持ちが揺らぐことのないように。
少女は空っぽのローブの聖職者に向かって叫び続けた。