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初陣

結構時間空いてしまいました^^;

 先に動いたのは鞭使いだ。荒ぶる闘牛の如く、こちらへ向かって走り出している。だがその目は先ほどよりも焦りが増しているようだった。

 対する俺も少しずつ走り出していた。それと同時に、相手の動きの観察も。昔はよくコーチに、『あらゆる戦いにおいて共通する極意。それは相手をよく観察して先を読み、自分が最終的に有利となるように駒を進めること』だと言われたものだ。


 俺のコーチは剣道の元日本代表で、四十年程前までは日本でかなり活躍していたそうだ。今では六十過ぎとなり剣道自体は引退しているが、今もこうして俺にその実力を継承させてくれている。

 そんな素晴らしいコーチの為にも、相手が例え鞭だろうと負けるわけにはいかなかった。


 鞭使いと俺との距離は既に二十メートルをきっていた。相手の鞭のリーチは約三メートル。それに対して俺の太刀は約二メートル。若干の不利がありつつも、俺は構わず突っ切ってゆく。勿論、何の策もなしに自爆しようなどと考えている訳ではない。


 元々、鞭には主に軟鞭と硬鞭の二種類が存在する。一般的に知られているのは軟鞭で、柄に革紐が取り付けられているものだ。逆に硬鞭は、全くしなってなく棒状をしている。

 相手の鞭は幸いと言うべきか軟鞭で、先程述べたようなものだった。革紐にはやはり刺がついているが、紐自体はそれなりに軟らかそうだ。察しの良い人なら、もう俺が何をしようとしているかわかっただろう。


 太刀で相手の鞭を切り落とそうなんて、俺くらいしか考えないのではないか。俺自身も当然、竹刀で鞭を狙うような練習はしたことがなかったので成功するかはわからなかった。また、鞭の熟練者なら革紐が動く速さは音速をも超えるらしい。それを捉え、斬るには相当な集中力と技術が必要なのは言うまでもない。


 相手と俺の距離は残り十メートル、九メートルと迫ってきている。残り七メートルとなったあたりで、鞭使いは鞭を後方へ引き絞った。そして、鞭と太刀のリーチの合計である五メートルに達したところで遂に、俺と鞭使いは衝突した。

 鞭使いは、俺が鞭のリーチに入るとすぐさまそれを振り下ろした。空気を切り裂く音と共に振り下ろされた鞭は、俺の左肩に目掛けて斜め上から襲いかかってきている。

 だが俺は、その動きを既に予想はしていた。戦闘の始めから焦っていながら、武器を後方へ引き絞るモーションをする程度しか頭が働いていないのならば、鞭を振る動作に捻りを加えずに上から振るだろうと思ったからだ。

 相手の動きを大方読んでいた俺は、振り下ろされる直前に若干身を屈めて鞭を切断する体勢に入っていた。

 そして鞭が俺の左肩に迫ったその瞬間、凄まじい速さで標的に食らいつく俺の相棒の姿がそこにはあった。

 その刃が鞭に触れた途端、爆発したかの様な凄まじい音が空気中を震わせた。

 だがそんな破裂音を出したのにも関わらず、俺の腕にさほどの衝撃は来なかった。それほど斬れ味が良いのだろう。

 断ち切られた鞭は先から二メートル程が無惨に地面にこぼれ落ち、戦う気力を失くしているかの様だ。

 相手を一瞥してみると、残り一メートルとなった短い鞭を片手に持ち、呆気に取られている様だった。この状況の整理に少し時間がかかるのだろう。

 だが俺も、先ほどの切断の事で少し思考を働かせていた。

 鞭を断ち切る時に起こった凄まじい刀身の速さには明らかに、『俺の意思とは別の力が加わっていた』からだ。

 物理的な力ではないだろう。あの時は風はほぼなく、周りには俺と相手しかいなかったはず。ではあれは何だったのだろうか。まるで刀自身が、真に俺の相棒として動いているようなあの感覚は……。

 とりあえず今は、試合の決着が先だ。俺のすぐそばで、未だ案山子(かかし)の様になっている相手に切っ先を向ける。

 すると案の定と言わんばかりか、一瞬で体が震え、恐怖に怯えている様だった。

 だが、相手と同様に刀を持つ俺の手も震えていた。

 俺自身、人が犯してはならない最大の禁忌、『人殺し』をする事に対してかなりの戸惑い、不安があったのだ。

 世の人殺しはいったいどうやって、その心の壁を乗り越えたのだろう。


——そして長時間に渡る心の葛藤により、俺は一つの結論を導きだした。



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