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50話 再生は破壊から生まれる

名古屋の隣町である、大府市、ベットタウンとして地価も安定していて、住むには丁度いい程よい場所のマンションに住むキーパーソンの片桐早織かたぎりさおりさんに、アポを取って訪問させてもらった。ダンスパフォーマーとして働いているのもあって、細身の体に引き締まった綺麗な脚をしている。綺麗系というより愛嬌のある可愛らしい人だ。元々ワイバーンズのチアリーダーをやっていて、とあるキッカケでメグさんと仲良くなって以降、度々家に遊びに行く様になったらしく、メグさんが亡くなる前に、本人から時々で良いから、家族の面倒を見て欲しいと頼まれて、家の手伝いをしているそうだ。


「……海くんは大丈夫なんですか」

「命に別状はありません、虎太郎さんが暇な日は、一緒に遊べるくらいまで回復しました。ひとまず距離を置かせてもらいましたが、立ち直る見込みがあれば、玄ちゃんと一緒に元の場所戻って欲しいという気持ちはあります」

「それがあの人の望みだ。ただ、本当に優先すべきは今生きている2人なんだ、そこは俺も履き違えてる事はない」


友人の元旦那というあまり良い印象を持ってないからか、虎太郎サンに対して少し硬い表情をしている。まあ、メグさんと虎太郎サンってビジネスパートナーとはいえ、どことなく同族嫌悪な所があったよね。自己犠牲をしがちで、大事な人の為ならプライドかなぐり捨てる所とか。仕事に対してストイックな所とか。


「西郷さん、あなたに経済的な余裕があるのは知っていますし、子供の面倒見がとても良いのは知っています」

「至らない所があれば、ハッキリ言って欲しい」


早織さんは眉間にしわを寄せて、虎太郎サンに痛い所を突いた。


「家族を捨てた人が、軽々しく子供達の面倒を見ると言って欲しくありません。あなたの事はメグさんから聞いていますが、わたしとしては信用に値しない相手であると思っています」


どれだけ嫌われていたんだ虎太郎サン、私といいメグさんといい、優良物件な割に、そこらのナンパ師より女性人気無さすぎる。


「あくまでも一時的に保護と面倒を見るだけだ、失敗は誰にでもあるし、レイさんが良き父になる人だと信じている。ただ、今のままだと子供達もレイさんも潰れてしまう。その手伝いを頼むと言っているんだ、俺がどれだけ嫌いでも、メグさんの為にもひと肌脱いでくれないか」


虎太郎サンは手を八の字にして地面につけて頭を下げた。この人、本当にこの辺のプライドに関しては全く無いな。人としてなら、本当について行きたいと思う人だ、恋人にはまだ二の足を踏むけど。


「……あくまでもメグさんの為にですからね」

「それでも十分だ、感謝する」


虎太郎サンの土下座が功を奏したのか、不承不承ながらも協力してもらえる事になった。


「それで、わたしは何をすれば良いんですか」

「レイさんが自宅に来ても問題なく、お手伝いをしている時点である程度の信頼関係はあるだろう。だから、心の内を開いてくれる様に話し合って欲しい」


うーん、確かに信頼関係はあるけど、もしも手を出してきたら心配だ、かと言って私達がいても……。


「じゃあ、私もついていくよ」

「大丈夫なのか?」

「護身術の心得があるから、いざとなれば早織さんを逃がせるでしょ」

「理不尽な怒りをぶつけられるが……その覚悟はあるか」

「もう目を背けないって決めたからね」


私は首を深く縦に振って覚悟を伝えた、死んでしまった人を救う伝説の名医にはなれないけど、新米だろうと、人を救いたいという気持ちに変わらないから。


「……わかった、気をつけてくれ。それと、本当に危なくなったら、まず自分達を優先して欲しい」

「意外と心配だよね」

「ジャッジの時に良くオカンと言われてたからな」

「プッ!」


ドヤ顔する虎太郎サンがおかしくて、思わず笑ってしまった。そこ威張るポイントじゃないし!


「おふたりは、付き合っているんですか?」

「エッ……」


そ、そんな空気が出ていたのかな。以前ほど嫌悪感はないけどこう……前進しているけどまだ認めないからな! ってところではあるんだけど。


「まだ攻防が続いている所だ、だが、優秀な人材だと認めているからこうして来てもらっている」

「確率ゼロから、ハーフ・ハーフにはなったかな程度です──そんな事より、早織さんを含めた説得は最初で最後ですよ」

「なんでですか」


これは半分本気だ、説得不可能と判断した場合は、3度目はせず、素直に虎太郎サンには里親になってもらう。どっちつかずの状態が長く続くと、子供の悪影響が強くなるから。

その事を伝えると、早織さんは神妙に頷いた。


「責任重大ですね」

「ですが、気負い過ぎないでください。あくまでも最優先なのは玄ちゃんと海くんなので、レイさんの説得が上手くいかなかったら、仕方ないと思ってます」

「……助けたくないという訳では無いんだよな?」

「助けたくなかったら、2度目はしないよ」


 虎太郎サンの心配も分からないでもない、私だって理想はレイさんを助けたいというのはある、しかし……。


「だけど、子供が大人の都合で振り回されてはいけないんだよ。自分の力で身を守れる力がない限りね」

「ああ、そうだな。上手くいかなかった時は腹を括る、だが、上手くいくように祈って待ってるからな」


 玄ちゃん、海くんの今後、メグさん、虎太郎サンの想いが私たちの手にかかっている。自分でハードルを上げたけど、だからこそ失敗しないと決めて臨む。


「じゃあ、行こうか」

「はい、よろしくお願いします」


 虎太郎サンに車を出してもらい、最後になるかもしれない中上邸にカーナビをセットした。




☆☆☆☆☆☆☆




 家に着いた所目にした事のある、流線型の美しいフォルムをした車が停まっていた。


「あれは、ミホさんの……カウンセリングに来たのかな?」

「まあ、腐れ縁だしな、友人として来たのか、はたまたビジネスか……」

「もう知らん! 貴様なんか、1人で血の海に沈めば良い!」

「てめぇの三流カウンセリングなんか、薬にもならねえよ! さっさと出て行け!」


 壮絶なケンカをしたのか、2人とも顔にアザをつけた状態で玄関から出て来た。にしてもレイさん、女子相手に容赦ないんですね……。


「ったく、あのバカは……」

「荒れ狂っているな、アネゴもレイさんも」

「先代か……すまないな、こんなアザだらけの顔で」


 さっきの声とは打って変わって、穏やかな口調で私達と話すミホさんに、車の中に戻って、何があったのか聞いてみた。


「ああ、先代から海君の暴行沙汰を聞いて、一度しっかり話し合う必要があると判断してこうして来てみたんだが」

「ダメだったと」

「結論から言えばな。前々から自傷行為が出ていたんだが、更に暴行になっていって悪化している。この問題でまずどうにかしないといけないのは」

「本人が立ち直ろうとする気持ちですね」


 心の問題は、まず立ち直ろうとする気持ちが大事というのは何度も言っているが、今回は愛している妻を失った悲しみをどう癒すか。


「小学生の時から恋焦がれていた初恋の人と、すぐに死別した傷を癒すのはなかなか厳しいだろうが、やるしかない」

「はい、頑張ります」


 気丈に振る舞っているけど、早織さんの表情が強張っていたので、早織さんの手を取る。


「もし、殴る事があっても、私が体を張るので、心配しないでください」

「でも……」

「これでも護身術の心得はあるんです、不意打ちでもない限りそう簡単にはやられはしません」


 とは言いつつも、身体能力の高いアスリートだから、油断してるとまた静養する羽目になるから、常に心の準備はしていないとね。


「よろしく頼む、あんなクソ野郎でも立ち直って欲しいんだ。そうじゃないと、メグさんも浮かばれないからな……」


 悔しさに歯ぎしりしながら、ミホさんは帰って行った。様々な思いを背負うのは大変だけど……腹括ってかないとね。


「じゃあ行きましょう、鬼が出るか蛇が出るか……」


 車から降り、改めて玄関前に立って、早織さんにドアホンを押してもらった。


「孝志さん、お話があります。入っていいですか」

「……手短に」


 扉が開き、家に入ると、レイさんが気難しそうな顔をして立っていた。先程殴り合いのケンカをしたからなのか、顔に傷が数カ所ついている、加えてやはりというか、以前よりも頬がこけていて、より早く治療しないと手遅れになると見てとれる。


「なんでアンタが」

「何か逆鱗に触れる事があった時に、サンドバッグ代わりにでも」

「……オレは女を痛めつける趣味はない」


 ミホさんは……というツッコミは今回はなしだ、それにお互い殴っていたのなら、少なくとも女性には一方的には暴行しないが、殴り合うなら男女は問わないんだろう……ミホさんを女性として見ていないなら別だが。


「まあ良い、上がってくれ。お茶くらいは出す」


 なんとかいても良いという事になって一安心した、居間に通され、ほうじ茶を置かれて、しばしの沈黙が流れた、もうここからは早織さんの説得にかかっている、早織さんも心なしか緊張しているみたいで、なかなか話が切り出せなかった。


「……で、用件は」

「孝志さん、少し休みませんか?」

「どういう事だ」

「あなたは今、メグさんに胸を張って頑張っているって言えますか」


 早織さんの手厳しい質問に、レイさんの表情が険しくなる。緊張感が漂う中、早織さんはなおも手を緩めず厳しい言葉を投げかける。


「メグさんが命がけで産んだ、玄ちゃんと海くんに手をあげて、メグさんに顔向け出来るんですか?」

「それをアンタが……」

「頼まれましたから、メグさんから」


 頼んでいたのは暴走するからなのか、はたまた心が折られるのを予期していたからか……いずれにせよ、手を回していたんですねメグさん。


「価値が悪くて気難しいあなたですが、誰彼構わず傷つける人ではないと信じてます」

「……そんな奴がメグさんの忘形見を傷つけるものか」


 皮肉たっぷりに自嘲するレイさんに言いたい事はあったけど、今心に響かせられるのは早織さんだけだ。


「野球でもなんでも、失敗しない人はいません。もし心から反省して、どれだけ恨まれようと一緒にいたいと思うなら、わたしたちが力を貸します」

「今更父親ヅラなんか出来ねえよ」


 ダメか……そう思った時に早織さんがペチッという音が出る程度の軽めのビンタを喰らわせた。


「そんな事ないです、簡単には治せませんけど、やり直すのを諦めるのは早いです」

「もう手遅れだろ! 愛しい人の子供傷つけて、アスリートのクセに体を傷つけて、乱暴なリードで相棒も相手も悲しませる。そんな奴が家族なんかもてねぇんだよ……」

「やれるかじゃない、やるしかないんだよ!」


 あまりの剣幕に声をあげそうになった、早織さんの怒気を含んだ声に、レイさんも一瞬怯む。


「もう玄と海の家族はあなたしかいないんだよ、どれだけ恨まれようと蔑まれようと、大人になるまで守ってあげるの、メグさんの分まで見守るのが今のあなたの贖罪よ」

「……許してはもらえねえな」

「ほぼ無理でしょうが、可能性はゼロじゃない。元親として関係が改善される手伝いはします、あとは貴方次第です」

「全く……慰めもしねぇな」


 虎太郎さんの手厳しい評価に、苦笑いしながら、顔を引き締める。優勝を決める打席であの眼を見た、アレは腹括って何があろうとやり切る人の眼だ。


「玄と海に伝えてくれ、全て自分が悪かった、少しづつでも家族として初めさせてくれないかと」

「レイさん……!」

「そして、東條さん、悪かった」

「ぬおっ!?」


 いきなり私に頭を下げられて、動揺して変な声を出してしまった。どの話だっけ……?


「メグさんの病気は末期癌で、もうての施しようもないのに、精神科医なのに失礼な事を言った」

「なんなら、怪我させてませんでしたっけ?」

「さっきあのエセヤンキーと乱闘したくらいだ、女性を殴る趣味はない」


 ……本当にお互いに恋愛感情のない2人だなぁー。


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