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48話 貴方くらいは救いたい

料理は普通に、スーパーで使われている食材で作って華やか過ぎない様にして欲しいと頼んだ、あまり豪華過ぎると、タツが気後れしてしまって疲れる可能性がある。病み上がりという事もあり、納得してくれたが、将来坊ちゃんの奥さんになる人に……とボヤかれてしまった。確定して欲しいが、確定では無いんだが……。


「はい、クリームリゾットです」

「ありがとうございます、こんな豪華な料理を……」

「大丈夫、おそらくインスタントだから」

「コックに代わってシバくぞ」


素材は手軽だが、料理人が労わりの気持ちを込めて作った料理を安っぽく言うなよ。本格的にも作れるが、食べ慣れた日本米にして気軽に食べてもらえるように、頼んでおいたんだからな。


「あと、また虎太郎さんのリゾットが食べたいっす」

「このタイミングで言うのか……?」


料理を作る側としては、嬉しくない訳がないが何故か餌付けしている気分にもなるな……それはそれで和むから良いんだが。


「紅葉様とみのり様には、こちら豚フィレ肉の香味焼きと、マグロアボカドサラダを追加しておきました。タンパク質とビタミンを取って、体を強くしていただけたら」

「うわー美味しそう!」

「ご飯も沢山食べて、身長を伸ばさないとね」


全国を狙うムサと、プロサッカーを目指すメイの2人は、多少贔屓になるが、食トレとして量とバランスを考えたメニューにしている。2人ともその素質があり、個人的に援助する価値がある。会社の方でも、客観的な判断で、スポンサーとして契約する価値があるなら、紹介もする。特にメイは世界大会で一気に注目を集めて、他にもスポンサーにというメーカーがいくつか来ているという情報も入っている。理想はウチのメーカーで道具を使って欲しいが、メイが使いやすい所を探さねばな。


「紅葉にこんな豪華な食事を……」

「ビジネス的に投資する価値がメイにはあるというのと、個人的に頑張ってほしいという理由も大きい。素人目でも、夢を見たいと思わせるスケールを持った選手だからな」

「うちの紅葉を商品として扱わないでもらえませんか」

「それもそうだな、言い方が悪かった、すまない」


実際スポンサーとして支援するならば、商品価値があると会社に伝えないと、私的流用と思われるからな、それをこの場で言う必要は無かった、まだまだ未熟だな俺も。


「お父さん、おかえりなさい!」

「ええっ、お父さん!?」


結婚式に乱入するボーイフレンドを思い起こさせる勢いで扉を開け、玄がこちらに突進しながら抱きついてきた。驚くタツといい、前にも見た光景だな……。


「結婚してたんですか、虎太郎さん」

「離婚している、前の妻との子供で、再婚先に引き取られたが、諸事情で今預かっている」

「離婚の原因は、何があったんですか?」


紅葉が意外にもこの話に食いついてきた、意外な伏兵に内心驚きつつも、前もって用意していた理由を話す。


「お互いに仕事が忙しくて、家事をほとんど俺に任せ過ぎていたからな、そこから拗れただけだ。子供は可愛いし、時々会わせてもらっている」

「……ということにしておけって事ですよね?」

「ボア、あまり喋りすぎると、寿命が縮まるぞ?」


多少の失言は怒る程度にしているが、この話題は俺じゃなく、故人と、我が子同然の子供達に影響がある。だから、キツく目で注意した。


「……失礼しました」


流石に気配で察したのか、いつもの軽さは影を潜め、神妙にボアは謝罪をした。とはいえ長く説教する気はさらさらない。


「分かれば良い……さて、玄。海はまだ体調が良くないか?」

「そんな事ないよ、今から向かってくるところ」

「げ、玄……」


海がげっそりとした様子で、こちらに向かって歩いてきた。あーあー体力オバケの玄に病みあがりでついて行こうとするから……。

ノッチにお水を頼んで入れてもらい、海に飲ませて一息つけさせた。


「はー……お父さんありがとう」

「大分体の調子が良くなったみたいだな、ご飯食べ終わったら野球ゲームで対戦するか?」

「うん、ゲームならお父さんに負けないよ」


お父さんと呼ばれるのも悪くはないが、本当ならレイさんをお父さんと呼んであげて欲しい。心が繋がってないから仕方ないが、出来れば収まるところに収まって欲しい。愛する人と愛する子供が幸せに暮らすのが、メグさんの望みだろう。ならばそれを叶えないとな、それがメグさんに対する餞だ。


「海ずるい、あたしも父さんにバッティング教えてもらうんだから!」

「1試合くらい良いでしょ、休憩するのも大事な練習だよ。そうだ、竜姫先生に柔軟トレーニングを教えてもらえば良いんじゃない?」

「ええっ!?」


タツが驚きの声をあげたが無理もないな、だが、古武術の体の使い方や、医者としての基本勉強くらいなら十分通用するんじゃないかと思うが……。


「わ、私まだ記憶戻ってないし、そんな専門的な事教えられないよ……」

「記憶?」

「タツは、今調子が悪くて、ちょっと混乱してるんだ、ただ、古武術とはやっていたから、体の使い方やケアの仕方とか聞けるかもしれないな。そこはどうなんだタツ?」


2人がポカンとしていたので、俺はタツの状況を簡単に説明して、タツの出来る範囲で玄に協力してもらえるよう、それとなくフォローをしてみた。


「うーん……野球と関連がないかもしれないけど、古武術の動きとか少し教えてあげようか?」

「うん、あわよくば女だから舐めてかかってくる男子締め上げれるかもしれないし」


なにやら不穏な発言をしたので、頭の上に手を置いてそこを軽く叩いた。


「武術は自分から攻撃する為に使ったらダメだぞ、誰かを守るために使いなさい」

「はーい……」


やれやれ、負けん気が強いのは決して悪い事では無いが、そこはプレーで黙らせてやろうな。

しかし、あの勝気な性格は誰に似たんだ、負けん気が強いのはメグさんだが……ケンカを売りまくってたのはレイさんか。やはり血は争えないみたいだな。


「虎太郎さんの言う通り、自分のためだけ使う力は何も生まない。誰かを守るために力を使わないとね」

「うん、わかった」

「僕も後で竜姫お姉さんに話があるんだけど、良いかな?」

「うん、良いよ」


一見すると年相応の優しい笑顔に見えたが、何故だか背筋が凍った。海……何を考えてるんだ?


「お父さん、ほら、行こう」

「あ、ああ1試合で時間制限アリだからな」

「ふふん、完全試合で倒しちゃうからね」



☆☆☆☆☆☆



ふぅー、なんだかいまいちピンとこないまま、謎のイケメンに豪邸に連れられて来たけど。どうしてあんな人と知り合ったのやら。オマケにバツイチの子持ちだったけど……なんか2人とも似てないんだよね、2人とも美少女と美少年だったけど。


「竜姫お姉さん、やって来たよ」

「海くんこんばんわ」


寝巻きに着替えて、ベッドの上で足を投げ出して座っていると、海くんが扉を開けてやって来た。いやー本当に可愛いなこの子、アイドルとして10年後世の女性達をキャーキャー言わせてそうだ。


「夜遅くに、女の人の所へ邪魔したらダメってお母さんに言われてたけど、ちょっと用事があって来ちゃいました」

「大丈夫だよ、言うほど遅くないから」


ありがとうございますと可愛くお辞儀する姿に、少年趣味などないハズの私がドキッとしてしまった。この子結構危険だな。


「竜姫お姉さんは、お父さんの事をどう思ってるんですか?」

「へっ、えっ?」


いきなりの恋バナに思わず素っ頓狂な声をあげてしまったが、記憶のない人の事をどう思っていると言われても……。


「あっ、ゴメンね、竜姫お姉さん。僕、今のお父さんの所から逃げ出して虎太郎お父さんの所に来たんだ」

「そうなんだね」


重い、いやそんな複雑な事情があったとは……それと私と虎太郎さんとの関係がどう繋がるのかな?


「だから、出来れば虎太郎お父さんの所で暮らしたいんだ。お母さんはもういないし、頼れるのがお父さんの所だけだから」


天使みたいな可愛い微笑みなのに、背筋が凍って動かなくなった。なに、この子……。


「でもね、虎太郎お父さんの愛情を受け取るには、竜姫お姉さんが邪魔なんだよ」

「……っ!?」

「竜姫お姉さんじゃお母さんの代わりにならないし、記憶が無くなる前、あなたはお母さんを助けてくれなかったんだよ」

「えっ……」


その時、頭の中で血まみれになった女性が何故か見えた。あの人は……。


「ねえ、救う方法も覚えてないのにその手で誰を守れるの?」

「それは……」

「すぐに言えないのは、事実だから? それとも言い訳を探してる? そうじゃなければ」


だめだ逃げなきゃ、そう本能が叫ぶけれど、体が動かない。

それを知ってか知らずか、海くんは更に私を追い詰める。


「本当は誰も守る事が出来ないんじゃない?」


ダメ……この子の話を聞いちゃダメだ、私の中の何かが壊れてしまう。


「思い出さない? 血の海でお母さんが倒れている光景を」

「あ……ああ……」

「ねえ、思い出した?」


血まみれで倒れる女性、海くんに似た男性に助けてくれと叫ばれて何も出来ない自分、全部がフラッシュバックして……。


「ああああああああああああああああああああああああっ!」

「思い出した?」


この子の親を救えなかった無力さも、自分の親を目の前で殺した責任も全部頭の中で駆け巡った。


「もし、責任を感じてるのならもう苦しまなくて良いよ」

「えっ……」


いつもと変わらない天使の微笑みで、海くんは私を抱きしめてくれた。


「これを飲んでみて、嫌な事を全て忘れられるから」

「あ、ありがとう」


ペットボトルに入った鮮やかな赤いドリンクを渡してくれた。海くん、厳しい言葉を言いながら、こんなに優しいんだ……。

私はそのペットボトルのキャップを外し、嫌な事から忘れて一気に飲もうとした。


「タツ、そのジュースを飲むな!」

「へっ?」

「……父さん」


突然虎太郎さんが部屋に入ってきて、猛スピードで私のペットボトルを取り上げた。


「さっき庭師が慌てて連絡を回してきた、キョウチクトウの木が切られていて、近くのバケツから枝葉が残っていたと」

「キョウチクトウ……毒性が強いんだっけ」

「……僕はたまたま、近くに置いてあったジュースを持ってきただけだよ?」


海くんの方を見ると、天使の微笑みを浮かべているが、その瞳には深い憎しみがこもっているように見えた。


「海、なんでこんな事をした」

「……」

「海!」


これまで見た事ない、といっても長い付き合いじゃないけど、とにかく迫力が普段の俺様ぶっている時と比べようのない程凄まじいものを感じた。


「だって……だってみんな僕を置いていくんだよ! お母さんも逝っちゃった、お父さんは家から出て行った、玄はどんどん僕を尻目に野球の腕を上げて強豪シニアのスカウトが何人も来てる、家にきたあの人だって、お母さんだけしか見てないし、野球に逃げた挙句僕を病院に送った!」


これまでの優しい天使はそこになく、憎しみと悲しみに支配された男の子が、虎太郎さんに思いをぶつける。今までの苦しみを全部吐き出しながら。


「どうして僕には何もくれないの、穏やかな日常も、大好きな野球の才能も、父さんの愛情も」

「海……」

「せめて……せめて父さんは帰ってきてよ、あの時の穏やかな時間を僕にくれよ!」


顔をぐちゃぐちゃにしながら、虎太郎さんにすがりつく海くんを見て、殺されかけたのに同情を覚えずにいられなかった。きっと、どうすれば良いのか分からずに深みにはまったんだろう。やった事は許されないけど、どうにかして手を差し出してあげたい。


「そんなに俺を信じられなかったか?」

「この人に随分と熱を上げてたよね、いなくなればまた一緒になれると思った」


熱を上げてたって……確かに良いムードはあったけども。


「俺は海や玄を嫌いになった事は一度もない、穏やかな時間が欲しいなら、いくらでもウチに来れば良い。だからもう、人を、自分を傷つけないでくれ」

「父さん……」


頭を撫でながら、優しく海くんを見つめる姿は、間違いなく親の愛情と温もりを注ぐ父親だった。

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