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43話 うまい話にはワナが……多すぎ

なんだか例年通りの暑さと、ニュースは伝えているけど未だにこの暑さは慣れない。医者としては程々に冷房を使い、是非とも倒れないで欲しいものだけど、その医者は暑さには弱いのです。少なくとも私としては。


「暑い……」

「なら暖房を入れて、タツの干物でも作るか」

「虎の毛皮って、価値が高いんだよね、今から剥製の準備をしておこっかな」

「話の内容に寒気を感じる……」


虎太郎サンも暑がりなのか、私に対して容赦がない。そして、私も暑がりだ。動くと余計に暑いので口合戦でやり返す。


「ねえ、どうして冷房をつけないの」

「じゃあタツ、これやるからつけてみろ」


冷房のリモコンを渡され、急いで冷房を強めにしてスイッチを入れる。が、私は衝撃を覚えた。


「風が……風が涼しくない!」

「絶賛故障中だ、そして業者は2泊3日の慰安旅行中だ」

「業者のみなさんっー!!」


こんな書き入れ時にどうして旅行なんて行っちゃうの、今年は暑くて、熱中症で倒れちゃうから冷房は必需品なのに……。


「なんとかならないの、虎太郎さん……」

「2つ方法がある、1つは出来る限り薄着になって水を飲んで耐える」

「無理です、虎太郎さん……」

準規君が泣きを入れたけど、私も同意する。もう脱いでどうこうレベルは超えている、それに部活から帰ってくる弟妹たちが来たら確実に倒れる。医者という仕事をしてる身としては、防げるのに病院送りにしたくはない。


「もうひとつは何ですか?」

「仕事がもれなくついてくるが、涼しい部屋とプール付き……実家に戻って、何日か休ませてもらうという案だ」

「「採用!」」


綺麗に準規君とハモったくらいに、とても魅力的な案だ。涼しい部屋に行けるだけでもとてもありがたい。紅葉やみのりちゃんが倒れなくて済むし。


「はぁ……じゃあ話をつけておくな」


しかし、虎太郎サンは乗り気ではないようだ。私が贅沢に慣れるのが嫌なのか、それとも仕事が嫌なのだろうか……?

ともかく、涼しい部屋を確保出来たのは大きい。準備して西郷邸に行けるようにしなければ……。


「ああ、2人とも水着を用意しておいてくれ、あるいは濡れても大丈夫な服」

「はぁ……分かりました」


プール付きなら用意はしようとは思うけど、濡れてもいい服とは? 少し理由は分からないけど、多分水仕事でもするんだろう。場所提供してもらってるんだし、それくらいはしなきゃね。

よし、快適な生活の為にいざ出発!




☆☆☆☆☆☆☆



「お待ちしておりました、虎太郎様、竜姫様、準規様」

「野口さん久しぶりです、しばらくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ、お手伝いを頼んでいるわけですから」


そういえば結局お手伝いの内容は聞いてなかった、何だろう、これだけ広い豪邸だから、庭の草むしりとかでも大変そうだし……。


「お手伝いって、どういうのをやれば良いんですか」

「プールの掃除なんですけど、50メートルと25メートルのプール2面をお願いしたくて」


ウッ、結構な大仕事だな……仕事もあるからこれを終わらせるのはなかなかハードだぞ。


「このプールは代表選手にも格安で使用出来る様にしてあって、かなり重要な仕事なので、頑張って下さいね」

「代表選手って水泳以外の選手も入ったりしますか?」

「そうですね、時々地元のプロサッカークラブや、野球選手がオフに若手を連れて練習しに来ますよ。施設の子供に対して解放するプールもあるので、将来のスター選手や子供たちのためにも是非」


子供たちや未来のスター選手のためか……うん、それを聞いたらやる気が出てきた。それにオフにも使うという事は、屋外じゃなくて屋内かな。つまりは外の暑さは心配ない、やってやろうじゃないの!


「みのりや紅葉君の訓練にも使って良いですか?」

「はい、宿泊と使用料を取らない代わりに働くという契約なので。ただ」

「ただ?」

「プラスして虎太郎様と竜姫様は相部屋という内容ですので、ご了承くださいませ」


虎太郎サンが二の足踏んでた理由これかーーー! そして外堀は既に埋められてるだろう……。


「一応聞くけど、別の部屋に変えたら」

「宿泊費と使用料を支払うことになります、ちなみに料金は……」


ゴニョゴニョと教えてもらった料金は、信じられない程ボッタク……高額だった。いや、よく考えたら、こんな高級ホテルの、スイートルーム並みの部屋に泊まるという事は、それくらいが相場なのかもしれない。どのみち、貧乏精神科医が払える金額じゃありません!


「虎太郎様が建て替えるという事は禁止という事も付け加えろと、虎之介様から伝言を預かっております」

「埋められてますね、堀」


既成事実ってもう完全に出来上がってるよね、これだけ相部屋になったら、誰も何もないと思ってくれないだろう……自分の貧乏さが憎い。


「じ、じゃあ私は仕事だけやって帰って、紅葉だけでも泊まるというのは」

「この契約はやむを得ない場合を除いて、全ての同意がなければ出来ないというものなので、残念ながら……」

「ぐっ……」


つまりは、ここにきてしまった以上、虎太郎サンと相部屋は確定事項というもので、拒否権はないようだ。


「気休めにもならないかもしれないが、襲わないし、地べたで寝る。もし襲ったら、その時は盛大に賠償する。それに仕事が終わったら、1つだけ願い事を叶えてやるから、今回はそれで許してもらえないか?」


うっ……これを予見していた虎太郎サンも同罪だろうが、虎太郎サンにしてはかなりの譲歩をしてくれた。これ以上駄々をこねたら絶対に悪者になる。


「……分かりました、ただし、余計な事はしないでくださいよ。怪しい薬とか、子供の教育上よろしくないものとか、そういうので既成事実のトドメを刺そうとしたら、今後虎太郎さんをパシリとして扱いますからね」


無駄かもしれないけど、一応釘を刺しておくのは大事だ。言ったからどうこうよりも、言わないと余計に酷くなると思うから。


「確かに無理強いされるのは嫌ですものね、分かりました、応援は致しますが、こちらからは手出し無用という事にしておきます。……ところで、こちらで水着をご用意いたしましたが、お使いになられますか?」

「遠慮します」


この流れはアレだよ、絶対に何かしら仕込んであるヤツだよ。


「このV型の水着とか、スタイル良いからお似合いでしたのに……」

「言ってるそばからー!」


って、なんでプールの掃除にわざわざそんな露出度の高い水着着せるんだ。せめて強制ルートで着せるにせよ、1人でこっそりプールで遊ぶ時にしてよ、1日大掃除の時にメイクしてオシャレするくらい場違いだって。


「……お前らは恋路を応援したいのか、邪魔したいのかどっちなんだ。余計に防備を固めているが」

「個人の感想的には、竜姫様『で』遊ぶのはとても楽しいです」

「主人も鬼ならメイドも鬼か!」


なんだ、西郷家の使用人はサディスト適性ありが雇用条件に含まれてるのか? サービスのサはサディストのサなら、そんな考え資源ゴミと一緒に捨ててしまえ!


「虎太郎さんは竜姫さんに対してだけ何故か奥手だし、竜姫さんもツンデレだから、こっちでわちゃわちゃしますけど、虎太郎さんがアプローチすれば、余計なお節介が入らないんじゃないですか?」


そういえば確かに無理強いはしないし、私も虎太郎サンに対しては最初よりはマシになっている。それと恋愛発展は別問題だけれど、それにしてもサド以外は優良物件な虎太郎サンはモテる。現にミホさんとロマンスがあった訳だし、付き合うだけなら普通に相手には困らない。どうして虎太郎サンは、私に対して積極的に仕掛けないんだろう。


「確かに、横槍を入れさせない方法としては俺が動けば良い話ではある。が、タツはまだ雇用が安定してないし、変にギクシャクして出て行くとなって苦労をかけるならば、俺の私情はひとまず置いておかないといけない」

「虎太郎さん……」


今の発言、ちょっと株が上がったよ。サディストだけど人が出来てるから、そういう誠意を今後もしっかり見せたら、まあデートくらいは考えるかも。


「まあ、そういう事にしておくよ、ヘタレ従兄さん」

「虎之介様、おかえりなさいませ」


はいはい来たよー、応援が空回りしまくってる、若手社長さんが来たよー。


「いやー本当に、ウチの従兄さんをもらってくれませんか」

「まだ言ってるんですか」

「だって、結婚したら、こんなステキな夫婦いないよ! 眉目秀麗、文武両道、オマケに人の痛みを癒せる慈愛と愛のある厳しさで向き合える本当の優しさを持ってる夫婦なんだから」


待って、今すっごく恥ずかしい……コレはホメ殺しだよ、もちろん虎太郎サンをヨイショはしてるんだけど、それを私に対してもそう言ってるんだから。オマケに熱弁している辺り、嘘ついている風には見えないのが余計に照れる。


「だけど、オレのアシストが余計だって言うなら仕方ないよね。これで最後にするから、2人を永遠に監禁して、幸せに暮らしたって事にすれば問題ないよね」

「ちょっと良いかな……虎太郎さんこっち」


私は半ば本気の目をして、とんでもない発言をしている虎之介君から距離を置いて、虎太郎サンに虎之介君に関する質問をぶつけた。


「虎之介君って、ダークサイドな感じの人?」

「何万人といる会社のトップに立って、会社を成長し続けさせるヤツが、マトモと思わない方がいい。裏道系の女と結婚するヤツだぞ」


……この国を支える超大企業のトップがこんな人だと、本当にこの国の未来は大丈夫か? とても、とても不安だ……。


「ちょっと、なんだか失礼な事言ってない?」

「パンダの尻尾は白色という、意外と見落としやすい話をしていただけだ」


まあ、見落としやすい話だけど……それにしたってなかなかのこじつけ具合だ。何でもないというよりかはマシな程度の。


「相部屋の理由は他にもあるんだよ、大人数でくるパラスポーツ選手の合宿提供の準備をしないといけないから、掃除する場所を減らしたいっていうのが大きな理由の1つだよ」

「むぅ……」


身体も知的もどちらにせよ、サポートするのが大変だろうし、使用人の方々も慣れてない人もいるだろうから、出来るだけ負担を減らしたいんだろうな。ただ、それも嘘ではないけど、何とかなるだろっていうレベルじゃないかな。


「これでも世界大会をやる競技は、一通りここでやれるからね。eスポーツも対象に入ってるから、スポーツじゃないっていう人もいるけど、研究して技術磨いて大会に挑むっていうなら何ら変わりはないし、広告塔にもなってくれたら役員も黙るしね」


私が子供の頃は、ピコピコやってないで勉強しなさいとかは流石に無かったけど、それでもゲームでご飯を食べていくなんて考えなかった、時代は変わるなぁー。


「ところで、ピンチヒッターの準備は万全?」

「嫌なフラグを立てるな、何があった」

「んー派遣やバイトに強制労働させてる社員を切ろうとしたら、裁判沙汰にしてやるって強気できてさ。いざ負けたり、勝っても世論の動向次第では社長降りるから、準備はしておいて」


うわ……そんな人間のクズみたいな人がいるんだ。是非とも勝ってほしい所だけど、責任問題にも取られかねないから、険しい道のりになりそうだ。


「出来る限りの手を打って、それでもダメならやってやる。全く、とんだ貧乏くじだな」

「敗戦処理の中継ぎ投手……」


なんだろう、一見するととても魅力的な大企業の社長なのに、ここまで残念さ加減があるのは。敗戦を、一気に勝ちに結びつける実力はありそうだけども。


「もし、ここの土地代とか大変なら、一部ホテルにしたり、使用人講座とかしたり、自由に使って良いからね」

「新婚旅行とかの宿泊ホテルや、第2の人生プランも良いな。リーズナブルな価格設定も用意しないと、誰も来なくて採算が取れないから、そこはしっかり相談だな」

「既に切られる前提……」


ポジティブなのか、ネガティブなのか、分からない仕様だな。でも、この2人はしたたかにたくましく、荒波を乗り越えていきそうではあるけど。


「早く行かないと、プール掃除出来ませんよ」

「おお、そうだな。じゃあ濡れても良い服着てここに集合な」


準規くんが耐えれなくなって世間話を終わらせて、野口さんの案内で女性使用人の更衣室へと向かった。さあ、ちゃっちゃと仕事を終わらせますか!

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