40話 涙もお湯に流しましょう
「は、8でバーストです……」
もし、この国にカジノが出来たとしても、私は絶対に行かない。行ったら身ぐるみ剥がされてもまだ許してもらえない状況になるから……ブラックジャックで3連敗ってどういう事! どうすれば勝てるんですか虎太郎サンよぉー!
「タツならカードカウンティングやれそうじゃないか?」
「……なに、カードカウンティングって?」
「出てきた数字を式に当てはめていく戦法で、一例としては1や10以上出ればマイナス1、7から9は0、2から6はプラス1として計算し、カウントするんです。数値が高いと負けるリスクが減り、低いとリスクが高くなります。捨て札も見ないといけないので、かなり頭をフル回転させないと出来ない技ですが」
うっ、そんな戦法があったとは……ちゃんと虎太郎サンのアドバイスをもらえば良かった。
「ちなみに、今回準規君がカウンティングをしてたのは知ってましたか?」
「えっ、そうなの!」
「こっそり抱きつくフリして、右手ならプラス、左手でトントンしたらマイナスってサイン出しておいたんです。見事に勝ちましたよ」
ブラックジャックの順位はイザベルが安定して勝って文句無しの1位だったけど、伊織ちゃんも堅実に巻き返して2位だった。私は安定の最下位で、全部バーストするという大惨事を起こした……絶望的だね、私の運って。
「……負けたなら、虎太郎は脱がないといけないんだよね」
「俺の裸なんて見て誰が得するんだ?」
「かなりいい身体してますよ虎太郎さんは、男でもカッコいいと思える程に」
「はあ……じゃあ脱ぐぞ」
虎太郎サンが浴衣を脱いで、下着姿になると、女性陣から軽い悲鳴が聞こえた。ああ、伊織ちゃんはともかく、イザベルにも恥じらいあったんだね。心療内科と言えど、医者という仕事柄、裸体は飽きるほど見てるからそんな悲鳴出すほど純粋でもない。
だけれども服部さんが褒めるだけあって、虎太郎サンの筋肉はやっぱりなかなかのものだ、ライブ会場でもその裸体を見せていたが、近くで見るとやっぱり凄く引き締まっていて、腹筋もしっかり割れている。本職がドラムだけあって体は鍛えているんだろう、若くても腰痛と戦う職業らしいし。
「これで良いのか?」
「それだけじゃ罰ゲームにならないでしょう、はい、指定のポーズで撮りますよ」
「準規君鬼だね……」
虎太郎サンの裸体で撮影会が始まった、最初は寝転がってクールに微笑んで、
「今夜は寝かせないからな」
と、キメさせるというかなり恥ずかしいやつ、これが結構破壊力があり、ちょっとドキッとしてしまった。
「次は斜めに立って流し目で笑顔無しで」
「クソッ、ボア後でシバくからな」
「そうしたらネットにこれを流しますからね」
今回かなり強気な準規君に、意外と押され気味な虎太郎サン。ちょっとレアなので、今回は助けを出さないで楽しんでおこうっと。
「こ、これ破壊力高いです……」
「……確かに、クールでセクシーな大人の男性って感じだね」
「うん、これは商売の匂いがするな……」
若干男子に商魂たくましい商人が1名いたけど、女性陣は少しキャーキャーしていた。虎太郎サンって確かに見てくれは間違いなく良いんだよね、これで私に少し優しくしてくれたら良いのに……。
「……はい、撮影終わりました!」
「……何だか屈辱的だ、これ流すなよ」
「それは虎太郎さんのお心次第って……!」
最後まで言えずに、準規君は技をかけられスマホを取られてしまった、あまり強請り過ぎるから反撃に出られたね、途中で逃げ道を作っておいて交渉を有利にしておくのがポイントなんだけど、そういう点まだ準規君は青い。
「さて、竜姫さんも負けたので、お土産代金を奢ってもらいます」
「一体どれだけになるんですか?」
「まず関東支部の方にお菓子1万箱……」
「待って待って、今凄い個数を聞いたんだけど、聞き間違いじゃないんですよね」
「ええ、他にも北海道・東北支部、中部支部、近畿支部、中国四国支部、九州・沖縄支部の6支部あるので累計で5万箱は超えますよ」
そ、そんなの払えないよ! 仮に1箱1500円だとして、5万箱で5億超えちゃうし……あっ、これは冗談だよね、そうじゃないと私破産しちゃうし、服部さんも人が悪いよねー。
「まあ、1支部1万箱は誇張していますけど、それでも累計で1万近くは欲しいので……よろしくお願いしますね」
「バカじゃないの、払えるわけないでしょ!」
思わず口が悪くなる程天文学的数字が来たので、私は断固として抗議をした。貧乏医師に払える金額じゃない、これはダメだ!
しかし、服部さんは涼しい顔をして、恐ろしい事を言い放った。
「そうですか、それなら竜姫さんの恥ずかしいマル秘情報を虎太郎さんに提供するという事で代金の回収をしても良いと?」
「なんでそうなるの!?」
「こちらとしては資金を回収しない事には生活がかかっていますし、お土産は配らないといけないというのが支部長としてやらないといけないもので」
は、嵌められた……まさかこうなる事を予測してこの人は私を陥れたのか……!?
「な訳ないだろ、第一に1万箱もどうやってお店が用意するんだ。各支部に用意と言ってもせいぜい600位だろう」
「そうなんだ、とりあえず一安心……って、それでも100万円はするよね!」
「分割ローンで毎月5万払えば、1年と8ヶ月で完済できますよ竜姫さん!」
「結構なローンでしょ、心療内科の報酬どれだけ安いと思ってるの!」
100万円はまだ現実的に払えるけど、逆にローンが現実味を帯びてきた。どうするよ、色んなローンが残ってるのに……。
「……身体で払えばいいんじゃない?」
「かっ、身体!?」
イザベルの爆弾発言に、私は顔が熱くなってしまった。つ、遂に身も心も荒んでいくのか……!
「ああ、デートに行くとか、薬の被験者とか、公も私も色々出来るよな」
「とか言っちゃって、アハハンハンな事とかは良いんですかー?」
「興味がない訳じゃないが、そんな理由で抱いてもつまらない」
虎太郎サンに、良家の子息の教育が行き届いていて良かった……言葉遣いはオレ様だけれども。
「タツに認められる男になって、恋人として付き合いたいからな。借金のカタに粗暴な振る舞いはしない」
「粗暴じゃないけど、十分振り回してるのはスルー?」
「? 振り回されてる時のタツは、生き生きとしてるから、そうしてるだけだが」
「こちとら死にものぐるいでい!」
なぜか江戸っ子が出たけど、生まれも育ちも名古屋で、東京とは全く関係ない。母さんは東京出身だけど、そんな下町っ子ではなかったと聞いている。つまり、ノリだよノリ。
「でも、確かに竜姫さんは平穏な時には、そんなに嬉しそうでもないですね」
「イジられて輝く人に、長い平和は辛いのかも知れませんね」
「……もう手遅れかも」
「手遅れじゃないからね、イザベル!」
私を何だと思っているんだ、平穏無事な生活に憧れる普通の女子だ。決して普通から外れた変人ドクターではない。
「それより、服着て良いか?」
「まだ着てなかったの……」
「罰ゲーム終了がうやむやになったからな、今ならタツの好きなポーズとアングルで、胸キュンセリフを言うがどうする?」
「いらん!」
このオレ様は罰ゲーム楽しんでやがるなーこっちに被弾させようとしてくるんじゃない!
結局おみや代は、各支部に配る量を減らすという方向でなんとか説得に成功し、借金は免れたがそれでも10万はかかってしまった。……金欠はしばらく免れそうもない、唯一の救いは以前より出費が減った事でなんとかやりくり出来そうな事だけど。
「虎太郎さん、もう一回風呂入りましょうよ、腰痛対策もしっかりしないと」
「アラサーになると身体の不調が出てきますからね、日頃お世話になっていますし、後でマッサージでもしますよ」
ゲームがお開きとなって各自自由行動という事になった、男子はもう1度風呂に入るようだ。私は紅葉とみのりちゃんの様子を見に行く事にした。
「ここはこの公式の応用だから、こうすれば……」
「ありがとう、本当に頭いいよね!」
良かった、普通に勉強して……あれ、紅葉が教えてるよね?
「あっ、竜姫さん。紅葉って本当に頭いいよね、参考書読んだらすぐに教えてくれたの」
「いや、そこは先輩のプライド見せようよ」
それで良いのかみのりちゃん、部活に熱心な高校なのと、就職率が高い高校だから選んだのはあるけど、普通の偏差値くらいあるよ。そこで後輩に教えてもらうって……。
「大丈夫、みのりお姉ちゃんの頭は悪くない、勉強の熱意がないだけ」
「問題の根が深い!」
「だって、社会で役に立つと思えないもん」
それは先生が泣くヤツだ、そして紅葉が教えた甲斐がない、頼むからせめて、紅葉の教えをムダにさせないで。
「だけど、紅葉君がドンドン勉強教えてくれるからか、紅葉君の成績が学年でトップ3に入ってるんだよね」
「ちなみにみのりちゃんは」
「何とか下の上をキープしてるよ、平均54点だからエラいでしょ」
それは紅葉がいないと、下の上すら怪しいという事だよね。オマケに平均54点は、決して威張れる成績じゃないよ、みのりちゃんの追試の日は近い。
「中里家は役割分担が出来てるからいいの、兄さんは頭脳派、あたしは武闘派、両方いるから上手く行ってるの」
「ある程度の水準は確保しないと、力が生きないよ。だからサッカーだけじゃなくて、勉強もしてるんだ」
「うっ……」
みのりちゃん、だから先輩の威厳を……もはやなにも言うまい。出来るラインで勉強をして、補習を受けなければ部活に支障は出ないし、成績上位になる程の熱意は無さそうだからいいかな。
「そういえば、竜姫さんはどんな高校生活でしたか?」
紅葉の説教から逃げたな、まあいいや。一部を除いて話してあげようじゃないか。
「高校は文武両道でテストは学年トップ、部活も助っ人で借り出されてそこそこの成績を残してたかな」
「そこそこってどれくらい?」
「サッカーで全国大会ベスト8とかその程度だよ、いきなり出てそれなら良い方だろうけど」
「プロのスカウトが来そう……」
その当時はあまりサッカーに興味がなかったし、やっていたとしても医大に入りたかったから、多分無理だろう。その当時サッカークラブもなかったしね。
「でも、初の彼氏をすぐに振ったんでしょ?」
「どこで知ったのかな、みのりちゃん?」
「兄さんが副業先から聞いたって」
……そうか、杏ちゃんの組織はそんな事まで調べているのか。それなら今度、虎太郎サンの弱みを調べてもらおうかな。そして、準規君は後でちゃんとシバいておこう。
「ねえ、ひと段落ついたし、ジュース飲みたいから紅葉君持ってきて」
「うん、オレンジで良い?」
こうやってみると、本当の姉弟みたいな事をしてるな、弟をパシる姉……それくらいなら良いけど、あまりやりすぎたら、兄妹揃って技を極めてやろう。
「はい、オレンジ──うわっ!?」
「ひゃ!?」
紅葉が充電器の線に引っかかって、バランスを崩した拍子に、私の頭に思いっきりジュースがかかった。冷たいしベトベトするし、甘い香りが髪の毛から……。
「お姉ちゃん大丈夫!?」
「ジュースがかかっただけだから大丈夫、紅葉はケガしてない?」
「うん、コケてもないし、ケガもないよ」
それなら良かった、にしても私だけ見事に大事故とは……コップが割れて、ケガしなくて済んだだけ良かったかな。
「それよりせっかくだから風呂入った方が良いですよ、今なら人も少ないですし、のんびり入れますよ」
「確かに高校生に胸揉まれる心配はないよね」
「根に持ってらっしゃる……」
するなと言ってるのにするんだから、これくらいの反撃はするよ。性的に見れるのに、セクハラするならそれはアウトだから。加減はするけどシバくよ。
代わりの服を持っていき、風呂場の扉を開けると、予想外の事態が起こった。
「…………タツ?」
「…………えっ?」




