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4話 料理とカードと乱闘と

「そこまでです、両者完成した料理を持ってきてください」


最初に西郷が、お膳を審査員の皆さんに出した。


「まず、俺の料理からで良いな? ──どうぞ召し上がってください」


出された料理は、体に良さそうな和食だった。ほうれん草の胡麻和え、赤味噌のみそ汁、鯖の味噌煮、白米という日本人のご飯という定番メニューで、美味しそうな匂いがして、思わずお腹が鳴って恥ずかしかった。


「後で食べるか?」

「結構です!」


そんなやり取りを無視して、審査員の皆さんは手を合わせていた。


「いただきますー」


審査員の皆さんがそれぞれ食べると、無表情を貫こうとしながらも、どこか美味しそうに食べていた。ここで勝てないと、ポーカーで勝てないと思うんだよね。実力を上回る不運でだから……っ!


「それでは次に東條さんの料理です」


私は今まで作った料理を、いつも通りに作って審査員の皆さんに出した。勝ちたいけど、私の料理が美味しいって言ってくれたら嬉しいなー。


「……ほう、美味しそうだな」


私が作った料理は、キャベツの千切り、豚の生姜焼き、ご飯にシチューというスタミナとバランスを考えた料理。これはもちろん、紅葉のサッカーと私の古武術の体作りを考えた料理だ。


「いただきますー」


審査員の皆さんが一口食べると、なぜか震えだした。……なにか手違いでもあったかな?


「……美味い、表情に出したらいけないって言われたけど、ここまで優しくてあったかい料理を出されたら無理だよ」

「……いやこれはヤバい、さっきも美味しかったけど、今のはすごく美味しい。こんな料理を食べたかったよ」

「お店では出せない、技術ではない美味しさを味わさせてもらった。もう勝敗は決まったでしょう」


この言葉を聞いて胸が熱くなった、昔食べてたお母さんの味は皆に響いたんだと思うと、誇らしく、たまらなかった。


「だろうな、この勝負はタツの勝ちだ。審査員の顔が違うし、お前の紅葉に対する愛情が出ているからな──この勝負、俺は降参する」

「ふざけんなー!」

「お前に勝つって田中とメシ代かけてるんだからなー!」

「東條ーありがとうー!」


賭けの上に更に賭けをしているんだ……。賭博罪にならないところをちゃんと分かっているのが大人だけど、皆さん血の気が多すぎ。男女関係なくドスの利いた声が店内に響いてるよ。


「この勝負は、西郷さんの降参により東條さんの勝ち! 片付けと準備の為、10分間の休憩を挟みます」


休憩に入って、熱が冷めるかと思いきや、更に熱が上がる事態になっていた。


「今なら600円追加で当たったら紅茶バック2箱ゲット! 更に100円追加で賭けの予想を変更できるよー!」

「……ハズレても1箱はゲット出来るから、挑戦してみて」

「イザベルちゃん、500円追加!」

「おれは東條さんに変更で!」


ここぞとばかりに小銭が飛び交う状態に、私は呆れるしか無かった。商魂たくましすぎる、紅茶バック1箱400円なので、下手すると多少の赤字になるだろうけど、この状況を楽しんでいる節がある。それに変更でローリスクで稼げるから、全体的なリスクマネジメントはなんとかなっているようだし。


「さて、準備が整いましたので、2番目のポーカー対決に参りたいと思います。5回勝負し、チップの多い方が勝ちです」


ポーカーのルールは、まずチップを出してカードをもらい、そこから更にチップを出していき、最後に手札の強い人が勝つ。途中でゲームを降りて負け金を減らすのもアリだ。

今回はディーラーとして、服部さんが参加する事になった。西郷に勝負出来ないのは悔しいが、圧倒的な勝負を見せてあげよう!



☆☆☆☆☆☆



「ううっ……なんで勝てないの……?」

「恐ろしい位運がないな、4回やってノーカードもなかなかないぞ」


私のチップはスッカラカンになっていた。もちろんゲームなので、実際のお金は賭けてないが、カードを変えてもワンペアも揃わず、ならばとハッタリをかましてみても全然ダメだった。私にはギャンブル運もないのか……。


「あの……よろしかったら泣きの1回をさせてくれませんか?」

「チップも無いのにか?」

「……チップを分けてはくれないでしょうか?」


無理なお願いなのは分かっている、これは私の意地なのだ、1回くらいは勝ちたいよ〜。


「じゃあチップを出す代わりに、コスプレするってのはどうだ?」

「なっ……!?」


アラサーになってコスプレ!? 無理無理無理!


「俺の親友も、罰ゲームは女装かコスプレだったから、それ位はやらないとやる気が出ないだろ?」

「あなた本当に鬼ですね! 大体そんな衣装すぐに持ってこれる訳が──」

「イザベルのだったらサイズはありますよ」


私にだけ聞こえるように、服部さんは囁いた。……まさか、イザベルの秘密ってレイヤー?


「好きなアニメは『マジがる!』だそうです、それと『歌☆ナイ』もハマってます」


あっ、オマケにアニオタさんだ。魔法少女のアニメと、イケメンボーカルユニットの青春物のアニメが大好きなんだね。イザベル、どんな趣味でも私はドン引きしないよ。それが私を窮地に陥れている事態になっていても。


「イザベル、ちょっとこっちに来なさい」

「……?」


そして、私と同じようにゴニョゴニョとイザベルに話した服部さんは、どことなく嬉しそうだったけど、反対にイザベルは魂を抜かれた目をしていた。最近同年代の鬼畜生率が上がってるのが嫌だな……。


「大丈夫、たとえイザベルがアニオタレイヤーだろうと、私はドン引きしないよ。自分以外の人になるのって1つの夢じゃない? 裁縫とか技術もいるし、凄いと思うけどね」

「……そう? じゃあ着させてあげる、こっち来て」


あっ、ちょ心の準備がああああぁぁぁ!

その後私がどんなコスプレをしたか? ……記憶ニゴザイマセン、私ハアノ10数分間何ヲシタノカ覚エテマセン。


「……綺麗だったぞ、そこら辺の芸能人よりタツは綺麗だと思うんだけどな」

「そう思ってても言わないで、何かを失った気がするから……」


かすかに頬が赤くなっているし、目線が泳いでいたから嘘ではなさそうだけど、打ちひしがれている中で言われても効果は薄かった……。


「まあ、チップを3分の1分けるから元気出せ、これで大勝負してお前が勝って、俺が負けたら総合勝利出来るだろ? 勝負はまだ続いてるぞ」


そうだ、なんのためにヒラヒラフリルに膝上ミニスカートの魔法少女コスプレをしたのか、目の前の男をぶっ潰すためだ!

私は気合を入れると、無くなった闘志を再び燃え上がらせた。

そしてカードが配られ、私は強気で攻める。


「レイズ、50」

「レイズ、80」

「コール」


最終的にほとんど賭け金をつぎ込んで勝負に出た、ワンペアは揃った、神様お願いします!


「ショーダウン」

「ワンペアです」

「こちらはスリーカード」

「フルハウスだ、俺の勝ちだな」


……もうポーカーはしない、2度とやるもんかうワアァァァァン!!


「げ、元気出してください。あのアニメ見た事ありますけど、キャラと同じで普段からポニーテールでしたしピッタリでしたよ」

「大丈夫、お姉ちゃん最後まで諦めて無かったから、カッコ良かったよ」

「恥ずかしそうだったところも可愛かったし、惚れ直しそう!」


ポーカーの片付けの最中に、みんなから慰めてもらっていた。みのりちゃんの慰めは微妙な所だったが、ともかくこれで五分になって最後の勝負だ。これで決着をつけて、西郷から何かせびってやる!


「最後の勝負はデスゲームです、10カウント以内に立てなかったら負け、武器は使用不可です」


本気でボッコボコにするチャンスだ、積年の恨み晴らしてやる。


「出会って3ヶ月も経ってないよな、年どころか月も満足に溜まってねえじゃねえか」

「人の心を読むな!」


ゴングが鳴る前に、文字通りの先制パンチを繰り出すと、西郷はアッサリと躱して抗議をしてきた。


「勝負は正々堂々とやれよ、仮にも師範だろ!」

「武士は卑怯者と言われても、犬以下と言われても勝つのが本分なのよ!」


北陸の名将が元ネタの名言なんだけど、それを言った途端、周りから白い目で見られている感じがした。


「憎たらしいのは承知していますが、あまり目に余る行動を取られますと、コスプレ写真を仕事場に配りますのでそのつもりで」

「す、すいませんでしたっ!」

「それでは……ファイト!」


レフリー役の服部さんに、窘められたのか脅されたのか分からない忠告で間を置いてから、試合が始まった。


「2枚目風からド3枚目にしてやる!」

「2枚目にも3枚目にもなった記憶は無いんだがな……本気で行くぞ」


まずは西郷の服を掴んで締めるために、足払いを仕掛けて体勢を崩しにかかる。が、アッサリと間合いを取られて避けられた。

今度は西郷が間合いを詰めてボディブローを繰り出す、身長が高いから少し動きが悪いかと思ったが、小さい選手以上の身のこなしでパンチを出して来るので少し焦ったが、なんとか躱し、後ろに回り込んでスリーパーホールドをかけようと首に腕をかけた。──が。


「っい!」


足の甲をかなりの強さで踏まれ、首をかける手が緩んでしまった。その隙が致命的だった。


「うっ……」

「悪いな、こっちも負けず嫌いだから容赦しない」


一瞬動きが止まる程の強さで鳩尾を殴られて、逆にスリーパーホールドをかけられてしまった。鍛えているのに鳩尾を殴られて動けなくなるなんて、怒られちゃうな……。

綺麗に技が決まり、遠くなる意識の中で古武術の先生に謝っていた。




☆☆☆☆☆☆



「──ん、ここは?」

「『月見草』の居住スペースだ、膝枕の感触はどうだ?」


目が覚めて西郷──負けたから悔しいけど虎太郎と呼ぶ事にしよう──が覗き込む様に私を見下ろしていた。


「膝枕……?」

「ああ、面白いから逆にやってみた」


ガバッと起き上がり、頭があった方を見てみると虎太郎が正座していた場所だった。


「んなー!!」


私は顔を完熟トマト並みに赤くして、虎太郎の顔を殴りにかかった。……まあ止められたけどね。


「1回落としたんだから、無理するな」

「落とした側が言う内容じゃ無いですよね!」


私がギャーギャー騒いでいると、紅葉や中里兄妹がやって来た。


「お姉ちゃん、起きた?」

「紅葉、今起きた所だよ」

「虎太郎さんやり過ぎ、女性に対して本気だもん」

「本気でやらないと負ける、手加減する余裕が無いくらいタツは強い」


女性としてでは無く、1人の武道家として見てもらえたのはちょっと嬉しかった。まあ、少し悲しい気持ちもあるけど……。


「で、約束は果たせてもらえたんですか?」

「まだだな、まあ、おいおい人となりを知ってもらえれば良いさ」


それを聞いた準規君が、切実に頼む様な目をして私を見つめていた、……分かったから。


「虎太郎さんって呼べば良いんでしょう、約束したのを破りはしませんって」

「……ありがとうな、これからよろしく」


肩を叩いて部屋を出て行った虎太郎を見送ると、準規君が私に話しかけて来た。


「竜姫さん、虎太郎さんは小さい時に両親が亡くなったんですよ」

「……そうなんだ」

「だから、無意識の内に家族が欲しいのかも知れないです。兄弟みたいな従兄弟がいるけど、結婚したのが大きいかも知れないです」


虎太郎も両親がいないのか。……っ!


「お姉ちゃん大丈夫?」

「あ……うん、体はなんとも無いから心配しないで」


一瞬思い出したあの事を気付かれない様に、私は何にも無いと紅葉に笑いかけた。


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