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36話 常時ポーカーフェイス

遅くなりました、紅葉メインです

「……紅葉君って表情あまり変わらないよね?」


『月見草』で休憩してる時、そんな事をイザベルがふと言った。でも、イザベルも結構表情が変わらないんじゃないかな?


「そうかな? 感情豊かだと思うよ、そりゃ試合の時は冷静沈着だけど、普段は喜怒哀楽を表現してるよ」

「そうは見えないよねー」


石丸さんがカウンターから紅茶を出しながら

、ズバリと切ってみせた。本当にオブラートって石丸さんの辞書には無いのか?


「感情を表に出すのが苦手なだけで、言葉とか動きでどんな感じか分かるよ」

「んーでも、せっかくならちゃんとした表情を見たくない?」

「別に問題ないんじゃない?」

「……あるよ、前の職場も感情が読めないってイジメられたから。ただでさえハーフってだけで色眼鏡かけられたし、多少表情が分かる程度には、気持ちの出し方を知っていた方が良い」


おおっ、イザベルがなかなかの長文をどもり1回で言い切った、これは結構な力説じゃないだろうか。

うーん、じゃあちょっと試してみようか。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「──と言う事で、準規君とみのりちゃんに協力してもらいたいんだけど」

「具体的にはどんなのですか?」


私は準規君の部屋から拝借した、グラビア写真集と、同じくみのりちゃんの部屋から拝借した、ホラームービー、そして虎太郎サンから黙って持ち出した、リスのタミアスが主人公の『森の子リス・タミアス』のディスクを見せた。


「ちょ、なんでそんな本があるんですか!?」

「うわー……」


みのりちゃんが若干引き気味に準規君を見ている、妹としては兄の趣味を見てドン引きするのは当然か、準規君、ゴメン。


「思春期の高校生に刺激的なのと、全年齢的に刺激的なのと、全年齢的にほんわかしたのを持ってきたんだけど、準規君」

「ナ、ナンデスカ?」

「この他にもミホさんのツテでもらったグラビア写真集があるから、どんな子が良いかとか男子トーク担当で」

「ええっ!?」


虎太郎サンは結構忙しいし、歳が少し離れている。わりかし仲が良くて歳が近い男の人と言うと準規君位だから、この役は準規君だ。


「拒否るならこのグラビア写真集を伊織ちゃんに」

「やります、やらせて下さい!」


彼女にこういう写真は見せられないって一般男子なら思う。上手く誘導出来たな、しめしめ。


「みのりちゃんはビビり顔を引き出せる様に、色んなタイプのショートムービーも借りたから、お願いね」

「な、なんかこっちが怖くなって来た……」


思ったより尻込みしてるみのりちゃんに、やる気を引き出す一言を加えてみる。


「多少紅葉に抱きつく位なら、姉として許可するから」

「是非ともやらせて下さい」


思いっきり手を握られた程懇願されたけど、みのりちゃんって紅葉の事を……?


「で、私はこの全年齢用のほんわかアニメを見るから」

「なんだか納得出来ない……」

「って、虎太郎さんそれを見てるのバレたら、怒りそうな……」

「それでシバかれるなら、その前に逃げるから大丈夫」

「ほう……じゃあやってみろ」

「あっ……はうっ!」


気付いた時には完全に逃げ場を塞がれ、人生で一番痛いデコピンを喰らった。くっ……準規君め、気付いていて黙ってたな、その角度なら虎太郎サンは完全に見えていたでしょ!

虎太郎サンはこちらが気付くより結構前から聞いていたらしく、説明する前から賛同してくれた。


「確かにある程度の感情を出すのは賛成だから、俺も協力する。──これを一緒に観るから」

「……川のせせらぎ全集?」


余計に無になるわ! ツッコミ? ツッコミ待ちなの?


「冗談だ、俺はタツとは逆に感動するノンフィクション系を観ようと思う、泣きの方だな」


ふむふむ、これで粗方リアクションが取れそうな種類のは決まった、後は順番だ。


「後はジャンケンで順番を決めようか」

「じゃあ、勝った人からやるよ、ジャンケン」

「「「「ポン!」」」」


という訳で、準規君、私、虎太郎サン、みのりちゃんの順番で、感情表現向上作戦を決行する事になった。

ざっくり説明すると、各々隠しカメラのある所でそれぞれの作戦を決行して、表情を観察するという番組みたいな作戦である。

そして決行当日、トップバッターの準規君が、紅葉の帰って来てのんびりしている頃を見計らって話しかけた。


「メイ君、おかえり」

「ただいま、準規お兄さん。みんなは?」

「ちょっとお出かけみたい」


そして、ビニール袋から、グラビア写真集を取り出して紅葉に切り出した。


「ねえねえ、こんな誰もいない時だから聞くけどさ、メイ君はこの中で誰がタイプ?」


セクシー系やクール系、キュート系など色んなタイプの女の子の写真集があるけど、誰が好みなんだろうか? ちょっと姉としても気になる所である。


「はあ……この子です」

「へえーこういう子が好きなんだ?」


笑顔がキュートな子を選んだ紅葉だけど、その後の答えが意外なものだった。


「ええっと、友達の地元と同じ人なんで、頑張れって思って」

「ピュア過ぎる……」


側で一緒にモニターを観ていたみのりちゃんが後ろ暗い気分で呟いていたけど、それはともかく、狙っていたドキドキ顔を見ることは出来ず、側から見れば日常の写真を見てる感じと同じ顔をしていた。うーん、準規君使えないな……。

続いては私、準規君が退散してしばらくしてお出かけから戻った風を装って、作戦を開始した。


「ただいま」

「おかえり、お姉ちゃん」

「久々にアニメ観ようと思ったんだけど、一緒に観る?」

「分かった、準備するからディスク貸して」

「ううん、私がやるからお茶持って来て」


『森の子リス・タミアス』というタイトルだけで敬遠されない様に、一旦紅葉を離れさせて準備する。ちなみに内容はシマリスのタミアスが色んな動物と巡り合って成長していくほのぼの系だ。

準備が出来た頃、紅葉がお茶を持って渡してくれた。


「ありがと、じゃあ見よっか」

「うん」


そうして一緒に『森の子リス・タミアス』を見始めた、……あっ、頑張れ! タミアス可愛いー……。

私がうっかりガッツリ見ちゃった感はあったものの、紅葉が不満げに退出する事なく一緒に観ることが出来た。


「良かったね、お姉ちゃんも楽しそうだったし、楽しめたよ」


これは良い手応えがあったんじゃない? 意気揚々とモニタールームに戻ってみると、何やらみんなから可哀想なものを見る目を向けられた。


「お前、相当疲れてるんだな……」

「竜姫さんと紅葉君って似てるのに似てないっていうか……」

「簡単に言えば、竜姫さんの癒されている絵と、薄っすら微笑んでいる紅葉君の絵は撮れました」


な、なんだってー!? あの感動するアニメですら薄っすら!? 我が弟ながら本当に大丈夫なのだろうか……そして、姉として至らないところがあったのかな……。

私が膝をついて項垂れている中、虎太郎サンが頭をポンポンして部屋から出て行った。くそぅ、虎太郎サンに同情されたっ!


「ただいま」

「あっ虎太郎さん、おかえりなさい」


虎太郎サンも家から帰って来た風を装って、リビングにやって来た。いきなり映画を観るかと思いきや、世間話をし始めた。


「最近、サッカーの調子はどうだ?」

「少しずつ上手になっていってます、背も伸びてきましたし、この調子でレギュラーを獲得出来れば」


色んな人が順番に1人ずつ来る状況を、警戒されない様に普段の会話をする作戦みたいだ、紅葉も警戒してないみたいだし、今のところ上手くいっている。

そうして楽しそうに談笑していると、虎太郎サンが動き出した。


「ちょっとロボからオススメ映画を借りたんだか、一緒に観るか?」

「はい、見たいです」


そうしてディスクを入れて映像が流れていく、泣きのシーンが多くてちょっとホロリとしちゃう位全体的に楽しめた。肝心の紅葉はというと……。


「楽しかったか?」

「はい、最後前を向いて生きていく決意をしたシーンとか凄く良かったです」

「……それをいつものポーカーフェイスで言うのか」

「……?」

「何でもない、あと、俺に敬語をあんまり使わなくて良いぞ」

「は……うん」


虎太郎サンすらも、一瞬どうしようと顔に出た程、大きな表情を見せる事なく、最後のみのりちゃんの番になった。


「紅葉君、ただいま!」

「みのりお姉ちゃん、おかえりなさい」


元気良く帰って来た風を出して部屋に入ったみのりちゃんは、カバンを投げ出して、ソファーに体を投げ出した。


「あー疲れたー!」

「お疲れ様、どうしたの?」

「聞いて聞いて、実はね……」


そうしてみのりちゃんは、部活の苦労話を面白く話しだした。こちらも思わずクスリとしてしまうので、苦労話でも笑い話になるから聞いていて嫌ではない。すると、紅葉にある変化が起こった。


「みのりお姉ちゃんって、太陽みたいな人だよね、持ち前の明るさで、周りを照らしてくれるから」

「紅葉君は自分ではどう思ってるの?」

「僕はひっそりとしてる月かな、太陽みたいな誰からも慕われる人じゃないから」

「紅葉……」


そんな事ないと今すぐ飛んで駆けつけたいけど、それが出来ないもどかしさがモヤモヤとなって落ち着きをなくす。

けど、みのりちゃんが意外な突破口を開いた。


「明るいってさ、お日様の日に月って書くんだよ。あと、準規兄が言ってたんだけど、元々窓に入ってくる月明かりって意味らしくてさ、月でも誰かを照らせるって思うんだ」

「月でも誰かを照らせる……」


みのりちゃんは勉強は得意な方ではない、けど、真っ直ぐで時に違った目線に気付かせてくれる時がある。みのりちゃんの言葉は、紅葉に深く響いたみたいだ。


「みのりお姉ちゃんありがと、僕でも出来る事ってあるって分かったよ」


その笑顔は今まで見た紅葉の笑顔の中で一番輝き、まさしく月明かりの美しさがあった。


「あっ……あはは! 紅葉君って本当にカッコいいなぁ……あたしには高嶺の花だよ」


みのりちゃんの頬が赤くなりながら、ボソリと呟いた声は微かに私の耳に届いた。そうか、みのりちゃん……。


「ねえ、その笑顔を他の人にも見せたらどうかな?」


みのりちゃんの提案に、紅葉は首を縦に振らなかった。


「ううん、そんな簡単に出来ないから、意識しちゃうと変になると思う。──でも、みのりお姉ちゃんだから出来たと思う。親がいないって可哀想って偏見を、全くしないで普通に接してくれたから」


紅葉の言葉に、みのりちゃんは泣きそうになりながら紅葉の肩に手を回した。思わぬ反応に、紅葉が目に見える位動揺していた。


「どうしたの?」

「……アタシは血の繋がった親はもういない。それだけじゃなくて、バイセクシャルって結構周りの反応とかキツいんだ。だけど紅葉君は普通に接してくれる、それって凄くありがたいの。マイノリティーは叩かれやすいから」


普段賑やかな中里兄妹だけど、結構ナイーブな面もある。特にみのりちゃんは、思春期真っ盛りという事もあって、周りの目とか色んな事が気になってくる。だからこそ、周りの優しさが人一倍分かってくるのだろう。


「だったら、みのりお姉ちゃんの味方でいてあげる。だから泣かないで、笑ってよ」


あっ、そんな事を言ったら……。


「紅葉君大好き〜!」

「えっ、あっ……!」


案の定、みのりちゃんは更に泣いて完全に紅葉に抱きついてきた。紅葉もかなり動揺して顔が真っ赤だし……まだまだ20代だけど、10代って若いなぁ……。

結局、変な小細工を使うよりも、優しさなどで感情をしっかり出せる事が証明された。うーん、年下にもちゃんと学べる事ってたくさんあるね。


調子に乗って色んな作品を書きまくってしまい、しばらく遅れます。申し訳ございません。

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