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31話 縁もたけなわ

あームカつく、旅行に来たのに、仕事して怒られてケンカして、オマケに置いてけぼりを喰らったし。


「すまん、あのアホが突然仕事を振ってきた、学校に行って講演会しろと。今日は1人でのんびり観光してくれ」

「勝手にすれば?」


まあ、怒って好きにしろとは言ったけど、本当にチェックアウトしたら出て行くとかあり得るんだね! 全く……ここら辺の土地勘なんてないし、まずは本屋さんに行って観光ブックでも……。


「離して下さい!」

「良いじゃん、おれらと遊びに行こうぜ?」

「だから学校に行かないといけないんです……!」


なんてベタなガラの悪いナンパと、迷惑している女子高生の組み合わせなんだ。しかも朝っぱらからさ……ケッ! オマケに女の子と目が合っちゃった、助けないとダメだよね。


「おまわりさんー! こっちです!」

「ちっ!」


さっさと退散したナンパ師に目も向けずに、女の子の方に近づくと、可愛いながらも芯の強そうな女の子がこちらを見て驚いていた。


「ありがとうございます、まさか助けてくれるとは思ってなくて」

「目が合ってそっぽ向けるほど、私は人が出来てないからね。学校行ける?」

「はい……ですけど、足を挫いちゃって」


うーん、おんぶをしたい所だけど、あいにく腕がポッキリだもんな……仕方ない、タクシーを呼ぶしかないか、後で虎太郎サンに請求してやる。

電話でタクシーを呼び、待ってる間に自己紹介をしてもらった。


「私は東條竜姫、あなたは?」

小山田佳織おやまだかおりです、三春ヶ丘高校の1年です竜姫お姉様」

「お、お姉様!?」


なんだその貴族みたいな品の良さそうな呼ばれ方は、茜やイザベルからからかわれそうで嫌だ……。


「そんな上品な感じじゃないから、むしろボンビーな苦学生だったし、普通にさん付けで良いよ」

「そうですか……? では、竜姫さん」

「なに?」

「タクシーってなんでしょうか?」


……まさか、佳織ちゃんって結構良いとこのお嬢様なのかな。それがなんでこんな所にいるんだろう?


「お金を払って移動出来る車の事だよ、知らない?」

「ええ、いつも移動はカツヤさんに任せていましたから」

「まさか、専属の運転手さん?」


さも当然という感じの顔をして、佳織ちゃんは頷いた。運転手付きの家ってそれは結構な……。

そんなお嬢様な佳織ちゃんと話していると、タクシーがやって来たので、目的地を告げて飛ばしてもらった。ビルとか都会な所から閑静な住宅街を過ぎ、だんだん建物が減って来て山の方に向かって行った。


「こんな所に学校があるんだ」

「基本は寮暮らしなんですけど、夏休みの準備とかで1回家に帰っていて、道に迷った所で絡まれてしまって……」

「私が助けた訳だ」


さっきのお兄さん達は運が良かった、もし腕の調子が良ければ、おそらく飛び膝蹴りをかました後に、卍固めを極めて憂さ晴らしをしただろうから……チッ、やっておけば良かった。


「ちょっと顔が怖いですけど、どうかされました?」

「いやー、仕事があるからって私をほっぽり出して出かけた大家がいてね、見つけたらちょっとシバこうと思ったくらいイラっとね」

「そ、そうですか……」

「もう直ぐ着きますよ」


運転手さんが車を停めて、ドアを開けてもらって見えたのは、整備された青々しい木々と、少し物々しいセキュリティがされていそうな門があった。

タクシーにお金を払って領収書をもらって、お別れのために少し待ってもらうと、佳織さんは警備員さんに声をかけた。


「遅くなってすいません」

「遅いぞ、門限は過ぎている」


あっ、ここは私が事情を説明しないと。


「すいません」

「貴方はどちら様ですか」

「実は……」


そうして経緯を説明して、佳織ちゃんが絡まれた事と、足を挫いてる事を説明してあげた。


「そうか分かった、連絡するから待っていなさい」


なんとか一件落着っぽいので、タクシーのおじさんに……ってあれ?


「タクシーいなくなってますね」


えええっ!? 待ってって言ったのに! こんな山道、ヒール付きの靴で帰れって無理でしょ……。

仕方ないから電話使って……まさかの圏外、ちょっと、最近のスマートフォンは圏外ないってショップで聞いてたのに嘘でしょ!


「あのー電話借りてもらえませんか?」

「ここは内線しかない、仕方ないから学校の電話を借りなさい」


無愛想な警備員さんに通されて、車椅子に乗った佳織ちゃんと一緒に敷地内を歩いて行くと、無駄に豪華な建物が突然現れた。デカい、そして綺麗だ。噴水広場もあるし、色んな魚がいるアクアリウムもあって、まさにお嬢様学校という感じだ。

そんな感想を漏らすと、ここは女子校なんですと教えてくれた。確かに男子校ではないよね、佳織ちゃんが普通にここにいるんだから。


「なんだか私には一生縁のなさそうな場所に来ちゃった」

「来たくなかったですか?」

「いや、ただ普通に暮らしてたら、出会わない事もあるんだなって思っただけ」

「わたしは竜姫さんに出会えて良かったと思いますよ、わたしを助けてくれたヒーローですから」


うん、そう言われると照れ……って、ヒロインじゃなくてヒーロー? 私そんなに男前かな……。

そんな複雑とは言わないまでも、頭にハテナが沢山浮き出ながら校内に入ると、中も白を基調とした清潔な校舎、やっぱり佳織ちゃんがいなかったら、一生縁がなかっただろう学校だ。


「……困ります、突然講演の出演を変えるなんて」

「わたくしも困ってます、当社の社長が大変失礼を致しました」


……うん、1回目を閉じてみよう。幻覚かもしれないし、こんな所に見知った顔がいるわけ──。


「なんでここに虎太郎さんがいるんだー!」

「いっ!?」


思わず持っていたバックで、虎太郎サンの脳天にクリーンヒットさせてしまった。女子校の講演てなんなんだ一体。


「ちょ、あなたは誰ですか!」

「コレの居候です、ちなみにこの子を助けたけどヒールで山道は帰れないので電話を借りに来ただけです」


40代後半くらいの、気位が少し高そうなおそらく先生と思われる人に経緯を説明すると、佳織ちゃんが気まずそうに視線を逸らした。


「小山田さん、後で生活指導室に来なさい。──申し遅れました、ワタクシここの教頭をしています二葉と言います」

「東條竜姫です、あのー電話借りても?」

「別に良いでしょう? 一緒に帰れば良いのですから、ついでに舞台袖から講演でも見れば良いじゃないですか」


ムッ、確かに知り合いなら電話を借りなくても良いわけだし、行きのタクシーは払ってくれるだろうけど、断ったらタクシー代を払ってもらえるか分からない。私が乗りたいと言ったからと、私の自己責任にしそうだからね。


「しかし、未婚の貴方に良妻賢母のテーマで講演出来るのですか?」

「逆に未婚だから、こういう妻に、母になって欲しいという話も出来ると思いますが、どうでしょうか」


虎太郎サンの意見も筋は通っている、結局二葉教頭も折れて、虎太郎サンの講演会が決まった。私は邪魔にならない場所で見学しても良いとお許しが出た。


「やっぱりこういう所って、女性は3歩下がってとかそう言う保守的な……」


佳織ちゃんを保健室に連れて行き、外で虎太郎サンと資産家の家について聞いてみた。


「最近はそうでもない、ただ伝統ある家とかだと保守派は多い。あの人もそんな古臭い感じだったしな」


やっぱりお祖父さんとはまだ確執は続いているっぽい、正直、血の繋がった家族を死んでも憎むのは私には理解し難いけど……それは他人が口を挟む問題じゃないのは分かってるから、虎太郎サンが解決したいと思うまで待ってよう。


「じゃあどういう話するの?」

「リーダー論、参謀論だな」

「社会人のハウツー本みたいな……」


この人は明らかに言葉足らずなところがある、行動で分かれば良いし、分からなかったらそれで結構というスタンスで行くのでかなりイラっとくる。まあ、ヒントはある程度はくれるんだけど。

その後、体育館の舞台袖に連れてってもらったけど、ちらっと見ただけでも、面接を受けるのかと思うほどビシッとした姿勢で、椅子に座って生徒の皆さんが座っている。これはこれでやり難いような気もするけど、虎太郎サンは大丈夫だろうか……失敗した姿も見て見たいけどね。

そうして時間になり、統一感というより統率された感じの空気の中に虎太郎サンが登場して、中央の演壇に立った。


「皆さんこんにちは、今日講演をさせていただく西郷虎太郎です。今日講演するはずだった歳徳グループ社長の西郷虎之介が急用で来れなくなったので、代打としてやって来ました。従兄弟で重役の末席を汚している身ではありますが、しばらくお付き合いください」


外ヅラモード10割の完璧王子様仕様でスタートし、少し間を置いて本編を切り出した。


「さて、今日話して欲しいと言われたのは男性が求める妻とは、母親とは、というのを男性目線から話して欲しいと依頼されていたみたいなので、バツイチ男性がアレコレとテキトーに喋らせてもらいます──ここ、笑う所ですよ」


虎太郎サンのツッコミに、少し笑い声が溢れて場が多少ほぐれたところで、突然虎太郎サンが質問を生徒にしだした。


「さて、良妻賢母と言われると、どういう感じか、貴方ちょっと自分のイメージで良いから言ってみてください」


指をさされた生徒が少し焦っている中、虎太郎サンが私にマイクを指差したので、仕方なくその子に対してマイクを渡してあげた。結局その子は「伴侶に、子供に尽くす事」と無難な回答をした。他にも虎太郎サンは指をさして言ったけど、大体最初の意見に近いものだった。


「では最後に……足をケガしてた貴方は?」


佳織ちゃんを虎太郎サンが指名して、私がマイクを渡してあげると、意外な答えを出して来た。


「えっと、良妻とは何を指すか、賢い母とは一体何か、それは人それぞれだと思います」


虎太郎サンが眉を上げて、面白いと言った顔を見せた。佳織ちゃんって思ったより、賢い人なのかもしれない、少なくとも、虎太郎サンの興味を引ける人は、何かしらある人ばかりだったから。


「なかなか良い視点ですね、貴方名前は?」

「小山田です」

「ありがとうございます、覚えておきますよ──さて今、小山田さんが言った『人それぞれ』これはかなり重要です。少なくともわたくしにはそう感じています」


一拍間を置いて、話が浸透し易い様に話をする。……この人、結構慣れてるな。


「会社の重役、社長となると周りには色んな人が寄ってきます。特に一流ともなると、周りにはイエスマンが増えてくるものです。個人的には、家庭内もイエスマン、──ここはイエスウーマンと言いましょうか──だと、男性はダメになっていくものです。大抵調子に乗って、攻める事しかしなくなり、引き際が分からなくなって失敗しますから。明らかにダメだと思っているならば、しっかりノーと言えると良いでしょう」


そうやって虎太郎サンが話していくと、いつしか、皆さん正しい姿勢だったのが、前のめり気味になっていった。話が上手いし説得力があって、聞いていると惹きつけられるものを虎太郎サンは持っている様だ。


「しかし、先ほども言いましたが、『人それぞれ』なのです。それは相手だけでなく自分もそう、相手に合わせ過ぎると自分が持ちませんし、独りよがりでは相手は幻滅します」


なぜか男女問わず、周りの先生方も熱心に耳を傾けている。そう思うと、本当に虎太郎サン凄いな!


「ですからある程度自分を知っておくべきです、支えるタイプか、引っ張っていくタイプか。それは相手にも当てはめてください、出来れば両方出来ておくと今後のためにも良いでしょう。支える人でも、時には喝を入れて相手を奮い立たせないといけませんし、引っ張る人も相手を立てる時がありますから、時には3歩下がるのも必要なのです」


うーん、虎太郎サンらしい。古き良き考え方も大事にしつつ、ちゃんと今に合った行動をしなさいって感じか。

その後の質問コーナーで虎太郎サンがやや押されるんだけど、ちゃんと書きたいから次の話で。

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