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26話 ステキなホリデー?

告白騒動のあった3日間は、結局色んな人を振り回し、反動で痛手を被った。

虎太郎サンとの距離が進展したのか分からないけど、最近ふと虎太郎サンを目で追いかけてしまう時がある。……だけど、それを誰かに言うと茶化されそうなので、黙っておこう。それにどうなるか分からない、元々の家柄とか差があり過ぎるし、周りの人があーだこーだ言うから、付き合うにしても気を引き締めていくだろうな。


「東條先生、大丈夫ですか?」

「えっ、あっ次の患者さんですね」


私にスタンガンを食らわせた友永さんに気遣われ、気合を入れ直して診察に挑む。

なんとか仕事を終えて帰ろうとした私に、見慣れた車が目の前に止まった。


「お疲れ様、車乗ってくか?」

「……うん、乗ってく」


前に不審者と出くわし、手負いの状況という状況では、無理に歩く事は賢明じゃない。素直に乗せてもらい、病院の状況を話しながら家へと向かう、被虐趣味うんぬんは置いてだったのに、予想外の言葉をかけられた。


「野々山さんは、明日の早番から復帰出来るみたい」

「ドMと囁かれても庇った甲斐があったな」

「う、うるさい! それに、なんでその情報を知ってるの?」

「あそこの病院に、まあまあの寄付してるから、関係者とかの情報もバッチリ流れてるんだ、もちろん、患者の情報とかは漏れて無いけどな」


くっ、この人にそんなウワサ話聞かれたく無かった。かなりの確率でイジってくるからね……。

にしても、虎太郎サンのまあまあって、どれくらいのものだろう?


「正解の誤差1割以内でご褒美やるけど、どうだ?」

「失敗したら?」

「特に考えていない、気楽にやってくれ」


うーん、仮にも大企業の創業者一族、結構出していると思うから……。


「5000万とか?」

「なかなか良い線だったな、後1つ桁を増やせばジャストだった」


5000万にゼロを1つ……5億!?


「まあまあって金額じゃないよ!?」

「慈善活動に金を出し渋ってどうするんだ、役員報酬の出勤してない分を貯めて使った分だから、それ位は出せる。もちろん、名義は会社の名前だが」


簡単に5億出せるって、海外のスーパースターくらいかなって思ってたから、この人は本当に金持ちだとつくづく思う。


「まあ、そんな感じでお金を出している訳だから、タツを紹介してすぐ採用してもらったり、時間を調整してもらってケガの療養という事で、3日お休みをもらった訳だが」

「……へっ?」

「非常勤の先生を紹介してその分の金額を出すから、タツを休ませてくれって院長に頼んだって話だ」


な、なんだってー!? そんないきなりお休みもらったら、患者さんの診察とか迷惑がかかる。非常勤の先生がいると言ってもメンタルクリニックは相性も大きい、相性が悪いと今までの治療がぶち壊しになっちゃうのに!


「そこら辺も、万が一の事が無い様に、深刻度の低い患者の日に調整してもらった。自殺や合併症の危険があるのに、別の医者を代役にして休ませる訳にはいかないだろうし、休む気は無いんだろ?」

「当然よ、……もう自分のせいで人を死なせたく無いんだから」

「……タツ?」


私がかぶりを振ってなんでも無いと否定すると、それ以上虎太郎サンがつっこむ事はなさった。


「まあ、以前東京の仕事のついでに連れて行ってやるって言ったからな、その約束を果たそうって事だ。観光しても良いし、迷惑にならない範囲で仕事場に来ても良い。2日間あっちに行って、3日目は帰ってのんびりするのはどうだ?」

「結構強引に約束果たされたけど……いいよ、もう半確定路線っぽいし」


割と振り回されているけど、気遣ってくれている所もあるし、せっかくだからありがたく受け取っておこう。


「よし、じゃあ帰ったら支度して行くぞ」

「は?」

「明日から3日間お休みもらったから、今から行かないと時間が無駄だろ」

「いつの間にそんな準備してたの!?」


展開が速すぎ! こんなに速く用意出来るって事は、結構前から準備してたな虎太郎サンよー!


「高校生コンビは部活もあるし、休めないから行ってらっしゃいと言ってたし、ボアには休み取らせて、彼女とデートしに行ったらどうだと、テーマパークの優待券を渡しておいた。アイツ、『ええー酷い!』って言いながら顔が凄く笑顔だったから、正直にお礼言えって言って蹴飛ばしてやったがな」


準規君は3枚目確定だなぁ、ルックスはそこまで悪くないし頭も良いんだけど、お調子者なところがとても残念だ。


「ともかく、2泊3日の準備を30分で済ませてくれ。でなかったら明日の昼ごはんを、レストランから雑草料理に変更するからな」

「こんな理不尽な通告認めない!」


2泊3日の旅支度を女子が30分で出来るか! せめて後10分は欲しいよ。


「そうか、じゃあ俺も手伝うから40分でやってくれ」

「一気に優しくなりましたね」


だけど、これを優しいと取れる様になったのは……いや、止めておこう。気づいたらダメな気がするから。

私は家に着くまでに、すぐに持っていける様に頭の中で必要な物の確認をしだした。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「人が多いなー……」

「大都市だからな、まあ落ち着いた場所も当然あるがな」


東京に着いた私たちは、人混みの中を歩いてそんな他愛のない会話をしていた。名古屋も結構人が多いが、それよりも全然量が違う。若い人が多い渋谷を歩いていると、寝間着みたいなユルユルな服や、ビシッとしたスーツ姿、バンドのシャツを着た人、ロリータファッションなど色々なファッションに出会って飽きない。名古屋だと双子かと思うくらい友達と服がまるっきり同じというのも多いから、パターンが限られてくるけど、東京はその点幅が広い。

私? 前はビンボー姉さんでファッションとかそんな余裕無かったけど、今は以前より比較にならない程の余裕が出来たので、ちょっとおしゃれさんになった。背が高いのを利用して、白のスキニーパンツに紺色の7分袖シャツ、首にはお気に入りのロケットを着けた背の高いのを完全に利用したファッションをしてみた。


「タツは背が高いから、カッコいい着方も出来るよな。凄い似合ってるぞ」

「それはどうも──にしても、女性の視線が虎太郎さんにもの凄く集中してるんだけど……」


私と並んでも背の高いのが目立つ虎太郎サンは、黒のサマージャケットに白のTシャツ、下はデニムにモノトーンのデッキシューズという服装でバッチリ決めていた。

おかげで女子の視線がもの凄い、大半は虎太郎サンの熱い視線、残りは私の嫉妬の気がする。


「カップルに見られてる気がして嫌……」

「酷いな、そんなに俺が嫌か?」

「前よりは良いですけど、要らない誤解が増えるんです!」

「じゃあ後で変装するか」

「えっ?」


どんな変装かちょっと気になる、目立たなくする方向か、それともダサくするのか。虎太郎サン、どうするよ?


「今は仕事に行くから出来ないけどな、──着いたぞ」


目の前のビルを確認すると、スタジオレイニーの看板があり、虎太郎サンはスタスタとビルの中に入って行った。

私も追いかけて中に入ると、想像していたよりは手狭なロビーのソファーに、準規君と同じ年代の子が6人座っていた。ザッと見てもみんな可愛らしく、モデルっていうよりはアイドルという感じだ。


「おはようございます」

「おはよう、時間ピッタリに着いたな──今日はストレスが溜まっているだろうお前らに、相談役を連れてきた」


まさか虎太郎サン……私を騙して連れてきたなー!


「ウグッ」

「心療内科・精神科の東條竜姫です。皆さんよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ……」


虎太郎サンにとりあえず1発かましておきながら、挨拶をすると、向こうは顔を引きつらせながらお辞儀をしてくれた。


「……こいつらが、ザッハトルテっていう足掻いている最中のアイドルグループだ。俺が一応プロデューサーとしてやっている、まあ、方針固めて曲を作る位で、ボイトレやダンスは専門のトレーナーに任せているだけなんだかな」

「初めまして、ザッハトルテです! よろしくお願いします」


みんないい子そうだが、どことなく疲れが見える。今までの苦労のせいか、はたまた虎太郎サンが厳しいからか……後で軽いカウンセリングをしてみよう。


「それじゃ練習を開始してくれ、今日はカウンセリングやってもらう分、早めに終わらせるから集中してやれよ」

「はい!」


室内に入り、私も見学させてもらった。指導は主にトレーナーさんで、虎太郎サンは全体を観察して時々何かメモに残していた。


「何を書いてるの?」

「ダンスやボイトレをしてる時のあいつらを観察して気付いた時のメモだ、技術的な所は俺から言えない事もある。特にダンスは専門外だしな──ただ、どんなヤツかはじっくり見れば分かる。例えば水色の服を着たヤツ──吉見はペースが全く崩れない。力を抜いても大丈夫な時に抜くから後半でバテないんだ。逆に赤色の川上は、序盤から飛ばしているが後半になってもあまりキレが悪くならない。根性があるし他のヤツよりしっかり鍛えてるから出来るんだ」

「じゃああの緑の子は?」

「緑は岩瀬だな、あいつは全体を見てバランスを取っている。メインの時は上手く前に行って下がる時はアッサリ下がる。地味だがあいつがいるから締まりが出る、普段メチャクチャオドオドしているんだがな」


私が適当にこの子はと聞いても、しっかり答えてくれたので、ちゃんと見ているんだなとちょっと俺様野郎の株が持ち直した。

そうやって練習を見ていると、突然虎太郎サンがトレーナーさんと話し合いを始めた。


「ここ何ヶ月か見たが……が良いんじゃないか?」

「しかし……を直さないと……」

「ああ、だがこうしないと……じゃないか?」

「……分かりました、ダンスはこの方向で良いですか?」

「もちろん、素人目から見ても最初と全然違う。さすが名トレーナー」

「ありがとうございます、ではこの方向でやらせていただきます」


話し合いの内容ってなんだろう? ダメ元で虎太郎サンに聞いてみた。


「リーダーを変えてみようって話だ、今のリーダーが赤の川上だが、いかんせん歌や踊りとの兼ね合いが上手くいってない。突っ走るのには向いているが、引っ張るのには不向きだ。それなら引っ張るタイプか見守るタイプが良いと思って、あるヤツを推薦しておいた」

「誰ですか?」

「まあすぐに分かる、パッと見向かないと思われがちで、本人もそう思ってるだろうからすぐにタツに相談するだろう、そのつもりでいてくれ」


それで上手くやって行けるのだろうか……仕方ない、何ヶ月か一緒にいて、無理な事は言わない人だっていうのは分かっている、時々理不尽だと思う事は結構あるけど。

やがてレッスンが終了し、私服に着替えてもらった所でカウンセリングを始めさせてもらった。最初は川上萌ちゃん、以前テレビで死んで欲しいと思っているだろうと言っていたが、あながち間違ってはいなかった。その不満を私の相談で爆発させてきた。


「例のあの人、本当に厳しいんです。東條さんの力でどうにかなりません?」

「どんな事を言われたの?」

「『故郷に帰っても良いんだぞ、おまえらなんて誰も覚えてないだろうからな、この程度の結果を出しているヤツなんて年下でもごまんといるぞ、おまえらの代わりはいくらでもいるんだ。生き残りたかったらその程度で残れると思うなよ!』って、何様か!」


うわーキツい正論を……絶対に辞めたくなるか、絶対に辞めたくなくなるか、それくらい強烈な言葉だ。

相談は虎太郎サンが厳しすぎるからとという事だけど……ここは私がフォロー役にならなきゃ収拾つかなそう。


「テレビでも嫌われている自覚があるって言ってたし、それを言うくらいなら厳しい練習は続きそうだから……不満だったら沢山聞くし、あまりにもな事をしてたら、さっきみたいにシバいておくから安心して──普段の恨みも増し増しに出来るし」

「そ、そうですか……」


なんだかやけにビビられているけど……虎太郎サンだから全力でシバいているんだよ! 準規君は手加減しないといけないし、みのりちゃんはシバくというより稽古だし、紅葉に至っては殴れる訳がない。

となると、体力があって遠慮なく殴っても受け身を取れる虎太郎サンは、貴重なストレス発散になるのだ。


「まあ、虎太郎サンが川上さん達の事を嫌いな訳じゃないよ。嫌いだったらプロデューサーさっさと辞めるね、イジメるより別の仕事やるタイプだろうから」

「そうですか……だったら今度イタズラしても良いですよね」

「ぜひ協力させてね!」


ガシッと手を握り、虎太郎サンギャフン作戦(仮)をすると固く誓い合った。……ギャフンって死語だっていうツッコミは無しで。



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