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25話 逆境に愛を込めて

暗い所にようやく目が慣れてきた、それで声のする方に目を向けると、どこかで見た看護師さんの姿がそこにあった。えーと、意地悪しまくってた看護師さんの筆頭格で、今日の朝大丈夫と言ってた人、野々山さんという名前だったかな? 仕事をとてもテキパキとこなし、良い意味でも悪い意味でも、リーダータイプというのが特徴という印象があった。


「東條先生、新島先生だけじゃ飽き足らず、他の男にも手を出してたって本当ですか?」

「んー、んー!」


はいでもいいえでも、口が塞がれてたら話せないでしょ……口の拘束を無くしてよ!


「ダメですよ東條先生、ここは病院ですからお静かにして下さらないと」


結局外さないんかい! でも、ここは病院内というのは確定した。まあスタンガンでやられたと言っても、女性だけじゃそこまで遠くに運べないとは思っていたけど。


「二股かける悪い東條先生には、お仕置きしないといけませんよねー?」


おおー!? なんか思った以上のピンチがきてる! 色んな意味でヤバいかも。


「これはムチです、骨は折れませんけど、普通にミミズ腫れが出来る程度には痛いですよ……こんな感じですっ!」

「んっ!」


空気を裂く音がした直後、背中に強い痛みが襲いかかってきた。なんとか痛みに耐えていたら、何度かその痛みが襲ってくる。


「っ!」

「東條先生、反省してますか?」


2股もなにも付き合っていないのだから、成立しないんだけど、ここで反抗したらもっとひどい目に遭いそうなので、首を縦にコクコク頷いてみる。


「でも、まだ信じませんよ。先生には二度と、こんな事がない様にしてもらわないといけない訳ですから」


ああ、またムチでシバかれるのかな……後で帆風や虎太郎サンに平謝りさせてやる!


「じゃあ、先生? 今度は服を脱いでもらいますよ」

「んっ……!?」


ヤバい、これ以上は弱味を握られる、そうしたらもうなし崩しに服従させられる、それだけは避けないといけない。

私は必死に抵抗するために、体を回転させようとする。手足を一緒に縛られても回転は可能だけど、太ももまでもとなると、勢いが弱くなる。女性が体重をかけたら、男性だろうと完全に動けなくなる程、しっかりと拘束されている状態だ。

「あれ、先生反省なさったんじゃなかったんですかっ!」


またムチが飛んできて、私は体を動かせなくなった。かなり力を入れてきた様で、当たった右腕に力を入れると、シバかれただけじゃこうならない程の激痛が襲ってきたからだ。これは骨イっちゃったな……。


「先生、もうどんなに懇願してももう止めませんし、謝罪も受け入れませんから」


最後の宣告をされて、もう打つ手がなくなった時、突然部屋が明るくなった。


「痛っ!」

「大丈夫か!」


大きな物音がし、眩しさに目が眩みながらも、その声だけで誰なのか瞬時に理解した。


「タツ、まずは口だけでも外すぞ」


まさか、こんな出来すぎたタイミングで助けてくれるとは思わなかった。


「ぷはっ、虎太郎さん、ありがとう」


ようやく明るさに慣れた目で、虎太郎サンに感謝の気持ちを伝える。これも大概だけど、本当に恐ろしい目に遭いそうになった。虎太郎サンには感謝しかない。……ただ、後でシバくのは変わらないけどね。


「さてと、不満があったからと言って、拘束した上にこんな拷問用に近いムチで叩くとはどういう了見か、はっきりさせてもらえませんか?」

「ぐっ……」


王者に会った事ないから、断言出来ないけど、もし会う事があるなら、こういう風格、威厳を感じ取れるのだろう。それ程までに、丁寧な言葉で相手を圧倒していた。


「服が裂けて血が滲んでますし、腕に至ってはおそらく骨折していますよ。……貴女、どう責任を取るつもりで?」

「あっ……その……」


拘束がなくなり、腕が自由になるとそれこそ先ほどの激痛の比ではなかった。あぶら汗が噴き出し、悲鳴をこらえるので精一杯だ。


「っ……ううっ……!」

「すまない、もう少し早く来れれば良かったな」


サドな虎太郎サンも、さすがに今回は優しく労ってくれ、手当をし始めた。うつ伏せになり、近くにあった布で血が滲んでいる所を当ててくれて、折れたかもしれない腕にクッション代わりのタオルを置いてくれた。


「──もしもし、タツを発見した、怪我をしているから担架を頼む。……ああ、ありがとう」


いつの間に借りたのか、病院内で使用されているケータイで応援を頼んでくれた虎太郎サンは、結構冷静なんだなとちょっと寂しい思いをしたけど、良く見ると顔が強張り、撫でてくれる手も震えていた。


「……本当に、見栄っ張りですよね」

「これでも商人の息子だ、多少バレていたとしても、ポーカーフェイスを意識しないと潰される」


虎太郎サンはそう言った後、野々山さんの近くに行き、腕を揉んでいた。その近くには野球のボールより少し大きめのソフトボールが転がっていたので、おそらく最初に来た時にぶつけたのだろう。緊急時とはいえ恐ろしい事を……。


「いたたたっ!」

「こうしないと治りが遅くなりますから、我慢してくださいね」


確かに早めに血を逃すと治りが良くなるけど、半ば私怨も混じっているんじゃないかな……?


ボーッと見ていたら、いつの間にか担架を持った人たちが現れて、そのまま担架に乗せられて運ばれた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



背中の裂傷、腕は骨折、その他縛られた事による軽いすり傷、……と挙げてみたけど、腕を固定して翌日も仕事をやった。全治1ヶ月はかかりそうだけど、そんなに休んでいられないし、もう片方の腕が動けば、キーボードも打てるしカルテも書ける。ものすごく遅くなるけどね!


「先生、どうしたんですか!?」

「ちょっと腕折っちゃってですね……今日はどうされましたか?」


会うたびに心配されるのは、やっぱり腕を巻いて固定しているからだろうなあ、……そりゃ心配されるよ。

ペースは落ちたけど、仕事は無事に済ませ、休憩時間になって帆風に2人きりで会いたいと告げた。


「本当に大変でしたよね、……申し訳ないです」

「まあ過ぎちゃった事だしね、昨日言えなかったから、時間空いてる?」

「後5分程したら休憩に入れるのでその時に」


その間に、スマートフォンで野々山さんに電話する。あれだけの事をやったら、さすがにタダでは済まず、1週間の謹慎処分となっていた。


「もしもし、東條です」

「……どうしましたか」


やらかした後に、やられた相手から電話着たら気まずいだろうなあと思いつつ、あえて電話したのには理由があった。


「野々山さんは仕事続けたいですか?」

「……多分みんなから疎外されるから無理ですよ」

「じゃあ、それがなかったら来てもらえますか」

「そりゃ好きで看護師になりましたから……」


なら、私の根回しがムダにならなくて済む、良かった……!


「私が弁明しておいたから、風当たりが多少和らぐと思います、だからまた仕事やりましょう」

「……えっ?」


野々山さんがぽかんとした声で、私の話を聞き返した。まあ、骨折までさせた相手にそんな事を言われるとは、露ほどにも思ってなかっただろう。


「野々山さんは若いけどリーダーシップもあるし、下の人も上の人も自然に耳を傾けるものをを持っているので、私としてはいてくれるとありがたいかなと思いまして。ちょっと脚色して話したら、引かれましたけどね……」

「……?」


虎太郎サンは不満をあらわにしていたけど、実際惜しい人材で、こういった事で潰れてしまうなら手を差し出してあげたかった。……その代わり、手を折るまでムチで叩かれるのが大好きなヤバい人と認識されましたけどね!

でも、あの状況なら同意の上でやってもらいましたって言った方が自然だし、野々山さんの風当たりが減るかなと思ったんだよ。私が無理言って頼んでやってもらったという事で、野々山さんを慕っている、他の看護師さんと口裏合わせて院長先生などを納得させた。それがなおさらドマゾと誤解される風になったけど……私はノーマルでフラットです! SでもMでもありませんっ!!


「とにかく、戻って来たい気持ちがあるなら、ぜひ戻って来てください。帆風の事では私もちょっとダメな所もあったので、これでお互い様という事で」

「東條先生……すいません……すいません……!」


電話口から嗚咽が聞こえてきたので、ゆっくり休んでねと声をかけて電話を切った。そんなに謝らなくても良い、私も少し打算はある。ここで恩を売れば、野々山さん派の看護師さんたちとの仕事が円滑になるからね、その代わりに失うものがすごい事になってるのは……もう仕方ないね。


「先輩、来ましたよ」


ブルーな気持ちになっていたら、帆風に声をかけられた。もうそんな時間か、早いね。


「告白の件、聞きそびれちゃいましたね」

「まあ、稽古しててその後襲われちゃったから。──待っててくれたのにゴメンね」

「良いんです、大変だったのにそんな返事催促出来ませんって」


腹黒な所もあるけど、根は優しいんだよね。だから……。

私は腰から頭を下げて、返事を、決断した結果を話す。


「……ごめんなさい、帆風とはもう付き合えない。好きな人が出来たんだ」

「……そうか、一旦手を離したらもう手に入らないんですね」


心のどこかで感じていた、帆風は弟みたいな存在として認識していたと、もちろん、最初はカッコ良い年下として、異性として思っていた。

けど、私の恋愛経験は、低すぎか未経験と言っても差し支えない程だ、1人目はデートすらしていない、2人目は純粋に恋をしたとは言いがたい不倫だった訳だし……そういう事で、私は帆風に対しての恋心を勘違いしていたのかもしれない。だから再開した時に、告白された時に、心が動かなかった。


「……あれから色々考えてた、悩んだけど、やっぱり付き合えない……付き合っても上手くいかないかな、帆風の事を、1人の男としてもう見れてない自分に気がついたの」

「……それは好きな人が出来たからですか?」

「ううん、弟みたいな存在になっちゃってたから、それが1番大きい」

「……生まれるのが遅かったかなぁ、先輩の大切なヒトになりたかったっ……」


泣きそうになる帆風に、折れてない腕で肩にそっと触れた。

すると涙腺が決壊して子供みたいになきじゃくってしまい、私はあたふたしてしまった。


「先輩ズルいでずー!」

「えっ、ちょ、待ってよ!?」

「やざじくなんでざれだら、あぎらめられないじゃないでずがー!!」


そう言って帆風は走り去って行った、うーん、頑張ってはいるけど、まだまだ精進しないとダメかな。別れた時と同じ状況だし。

とはいえ、その後の仕事は完璧にこなしていたし、私が指導する時もぎこちないながらも頑張ろうと必死になっていたから、その点は偉いなと感心して、ベテラン看護師さんの分と合わせてジュースを奢っておいた。看護師さんに出したのは、私がジュースを出したと知られたくないからです。

仕事が遅くなり、普段より2時間遅れて帰宅すると、虎太郎サンが湯気を出しながらソファーでくつろいでいた。


「おう、お帰り」

「ただいま、こんな時間にマラソンでもしに行ったんですか」

「運動量的にはそれに近いけどな、ドラムの練習をした後に風呂入った、今日は仕事が立て込んだから、練習の時間がずれ込んだだけ」


そんな話を聞きながら、夜食に近い夕食に感謝しながらいただく。エリンギと牛肉のピリ辛ソースに、チョレギサラダという男子ごはん的ラインナップ、この前紅葉が1年でレギュラーを奪った時には、ローストビーフに野菜たっぷりのサーモンカルパッチョ、具沢山クラムチャウダーと栄養バランスと量にも気を配った内容でお祝いし、とても美味しかったのを覚えている。……女子力高くて、気を抜いていると負けそうだ。


「このソース、辛いけどコクがあってクセになる味ね」

「タツ様にピリ辛仕様にした、メイやムサには少しマイルドにして食べやすくしてるがな。──ところで、もう期限を2日も過ぎているが、社会人としてどうなんだ」

「……なんの?」

「ああもう! 人が告白して振られないかやきもきしていたのに、忘れてるなんて酷いヤツだよな」


すいません、ちゃんとしたかは分からないけど答えはなんとか出しました。


「……はっきり言えば、付き合う事は考えてないです」

「……そうか」

「ただ……心の中で可能性がゼロだと全く思わない。良いところも悪いところも知って、ちょうど混ざって、虎太郎さんの事を見れて来たかな」


それで虎太郎サンに対して正直な気持ちを、目を見て話す。


「だから、これから私が虎太郎さんを好きになる様に頑張ってみて」


一瞬目を丸くした虎太郎サンは、大笑いして私に宣戦布告をする。


「じゃあ、今度はタツから告白してもらう様に、尽くしてやるよ」


その不敵な笑みに一瞬ぐらつきそうになるけど、ああ言った手前そう簡単に落ちないから。

ドSで尽くし系、俺様で優しい同居人に不敵な笑みを返して、食事を再開した。

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