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23話 やはり運はない模様です

夜遅く女性が帰るのは、多少なりともリスクを伴うと、残念ながら目の前にいる伸びた男性を見て分かった。


「とりあえず……帰ろう」


冬服を着てると暑くなってきた時期だというのにトレンチコートを着た男性を置き去りにして家に着いた。なんだろう、最近まともな人に会ってない気がする。変人の元には変人が集まると茜が話してたけど……私は違う! 心療内科の先生には独特な人も多いけど、私は文武両道な普通のお姉さんだ!


「ただいまー」

「おう、おかえり。元気無いけど、どうした?」

「よく分かりますね」

「声のトーンがわずかに低い、あと少しだけほほのハリが無い、見る力は歳徳とホストで鍛えたからな」


おー水商売もバカにできないよね、確かに人生経験や人間観察にはよさそう、うるさ型の小言は避けられないけれど。


「……ちょっと変態さんを叩きのめしてきて、最近ヤバい人しか会ってないなぁって」

「……タツが強いのは十分分かっている、だが帰りは迎えに来させてくれないか?」

「えっ……!?」


虎太郎サンがまさかの紳士発言! 明日は槍が降るかもしれない。


「好いた人の心配をするのが悪いか?」

「いや、スパルタンな虎太郎さんからそんな発言が出るとは思わなくて」

「俺は相当マイナススタートだな……」


いや、そのいじけた顔とか割とかわいいですよ。それに素直に好きと言ってくれるのは嬉しい、なんか心を開いてくれた気がするから。


「タツ、頼らないのも大切だが、タツの場合はもう少し頼る事が大事だ。タツは1人で何でも出来るヤツだが、そういうヤツ程頼るのが苦手だぞ」


虎太郎サンに説教されてしまったが、これでも最近は、茜とかイザベルに結構世話になってるのに……。


「まあ、最近は色んなヤツと出会う機会が増えたから、助け船が来てもらいやすくなってはいるだろうけどな」


なんだか心の中を読まれてる気がする。時々心の中であっかんべーする時があるけど、その時とかバレてるかと思うと……ヤバいかも。


「それより、ご飯作ってあるから温めておくな、今日は回鍋肉と葉物野菜のサラダに、ひーの実家から来たヘボを、おそそわけでもらったから、一口でも良いから食べてみろ」


また女性読者が離れそうなものを……ひさぎさんの実家がある岐阜に、スズメバチの幼虫を食べる地方があるんだけど、巣ごと買ってピンセットで取るという、虫が苦手な人にはまず無理な作業をしないといけない上に、松坂牛よりも値段が高い高級食材なので、まあ色んな意味で簡単には食べれない料理だ。


「去年もらったヘボの賞味期限が近いから、ぜひ食べて欲しいと言ってたな、栄養もあるし、疲れてるならどうだ?」

「食べますけど……同僚の人はどんな反応してたんですか?」

「バンの選手か? キッドは美味しそうな顔をしてたし、レイさんは普通に食べてたな。大多数はドン引きしてたが……特にメグさんは、泣きながらひーを2軍に落とすと騒いでたらしいな」


メグさんにそんな弱点が……。


「あの人、人形好きで怖いもの苦手な、女子度高めな人だぞ?」

「全国のファンが幻滅しちゃうから言わないで!」


クールな笑顔で女性ファンが多かったメグさん、その秘密はA級の秘密らしく、中学時代から親交がある先輩で、親友の旦那さんでもある上島選手と、情報網の元締めであるミホさん、ミホさんからリークしてもらったレイさん位しか知らないとの事だった、虎太郎サンは一緒に住んでいたから、知っているだろうけど、信用してる人しか心の内を話さなかった人というのは確かかな。

とりあえず、お腹空いたしヘボ料理は嫌いでは無いのでいただいちゃおう。


「……本当に、料理対決で虎太郎さんに勝てたのが不思議な位美味しい」

「どこぞのドイツ人が、『技術をいかすのは精神だけだ』って言ってたからな、思いやりが強いタツが勝つのは目に見えていた」

「えっ……」

「ポーカー対決でまず負けないのは、見なくても分かってたがな」

「そうでしょうね!」


もう〜見直した私がバカだった、人が気にしてるのに……!


「だが、その位の運のなさでへこたれるヤツじゃないのは知っている、僻まず悔やまず投げ出さずはタツの美しさの1つだ」

「……ありがとう」


けなしたかと思えばほめるし、持ち上げたかと思えば落とす、なにがしたいか分からない時があるけど、前に疲れて、本音がポロリと出た時に当てはめるなら、甘やかしすぎない様に手綱を引いてくれるのだと、前向きに捉えてみる。


「まあ、美味しそうに食べてくれて、料理を作った人間としては嬉しい限りだ」

「いつも料理を作って待っててくれてますから、今度好きな料理でも作りますよ」

「じゃあ、愛妻弁当──」

「却下!」


この時期にそんな事を言ってくるなんて、バカじゃないの! ううっどうしよう、あと2日で決断しないといけないのを思い出しちゃった……。昔のコマーシャルでカードを見てどうすると言ってたのがあったけど、いざ自分がそうなると本当にどうしよう……。

腹黒な後輩か、俺様な同居人か、どっちにしろ私の苦労は確定コースじゃないかな……見た目的にはうらやましがられる分、なおさらタチの悪い仕様に。

1回、誰かに相談した方がいいかもしれない、恋愛経験があって、異性同性の両方の意見が聞ける人……。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「……どうしたの突然、店が終わった後に話がしたいって」

「わたくしも交わってよろしいのでしょうか?」


すぐにアポが取れて、かつ割と中立な立場で話してくれそうな恋愛経験者という事で、『月見草』のカップル2人に話を聞いてみる事にした。


「ちょっと恋バナで男女両方の意見が聞きたくて……イザベルにも服部さんにも相談に乗って欲しいんです」

「……ついにタツキにも春が来た?」

「おめでとうごさいます、では、恋愛相談の内容とは?」


私は素直にこれまでの経緯を話したが、話し終わった後の2人の顔はなんだか嬉しそうで、少しムッとした。


「……虎太郎様がついに告白しましたか!」

「……ずっと片思いみたいな感じだったけど、一歩前進」

「いや待ってよ、帆風の事も話したのに、どうしてそっちはスルーするの!?」

「竜姫様にも良くしてくださっているので、出来るだけ中立ではありたいと思いますが、この店の出資者である虎太郎様にどうしても……長い付き合いですので」


……人選間違えたかなぁ、確かに行きつけの喫茶店だし、全く知らない人と常連さんとは思い入れは違うだろうけどさ。


「本当に中立で聞いてくれるんですか?」

「わたくし達が信用出来ないのであれば、これで良いのではないでしょうか」


不満げな私に服部さんが見せたのは、なんの変哲もない500円硬貨だ。それを見せながら説明を始めた。


「今から竜姫様にコイントスをして頂き、決めてもらいましょう」

「……そんな運任せで良いの?」

「2人とも経済的には一生食べるのに困らないだけの力はあるし、学力、容姿も平均以上、運動神経はあってもなくてもこの際あまり関係がない。という事は運任せでもさほど変わりない」


確かに、コイントス法は結構理にかなっている。決断を後押しするのには最適な方法だ、たとえAが出て嫌なら、Bにすれば良いだけなのだから、うだうだ悩まなくて良い。


「じゃあ表が出たら雲隠れ、裏が出たらエスケープ!」

「ここでボケをするとは思いませんでした」

「……真面目に相談しないなら帰る」


待ってよー、帰らないでー! ボケをかました私が悪かったから!


「まあ、人生の大きな分岐点ですから、一歩を踏み出すのが大変なのは分かりますが」

「……すいません、──ところで、2人の馴れ初めとかって聞いてもいいですか?」

「……話を先送りにした?」


ゴメンイザベル、半分当たってます。でも、どうしてもこの丁寧なドS店長と、芸術家気質のサボリ魔が付き合う事になったのか、全く想像ができないのは嘘じゃないよ。


「目線をそらした辺り怪しいですが……まあ、気分転換に話しましょう」


どんな内容なのか、ちょっと変わった2人だから多分普通とは少し違うものだろうな。


「有名な洋菓子店からコミュニケーション不足で辞めてきたのを、たまたま拾ったのがきっかけで、ここで働いてもらう様になりました。……他にも課題があると気づいたのは、3日も立ちませんでしたが」


なるほど、サボりとか、もの静か過ぎなところとか……話してみればいい人だけど、色々社会人としてはギリギリだよね、イザベルって。


「しかし、パティシエールとしてはここまで出来る人はいません。何回か虎太郎様のツテで、有名なパティシエに試食してもらいましたが、皆様高く評価していただきました。中にはヘッドハンティングする方までいらっしゃる程、実力を買ってくださりました」


その有名なパティシエさんの名前と経歴をいくつか紹介してもらった。1人は世界大会で審査員をしている人、1人は某料理ガイドで三ッ星を獲得した事のあるその道の大御所等々……イザベルのケーキとか美味しいって思って食べてたのは間違いじゃなく、世界的なプロから見ても、高い評価を受けてた知る人ぞ知る凄い人だったんだ……。


「しかし、才能があってもクセの強さとコミュニケーションの低さ、職人と芸術家の良さと悪さを同時に詰め込んだのがイザベルです。そのせいなのか、理解してくれる環境が気に入ったのか、ヘッドハンティングは断ったようです」


服部さんにビビって断ったのではないかと、念のためイザベルに確認したら、迷ったけど自分の意思で断ったと言った。


「……シンのいう事はあってる、後で怒られるだけで翌日には引きずらないし、カズも優しい。……もちろん、自分の腕でどこまでやれるのか試してみたかったけど、腕だけじゃやれない事も散々分かってたから」


イザベルの目に嘘をついている様子はなく、挫折も味わった事に対する悟りも、言葉に重さを感じさせた。


「──と、イザベルの経緯はこの位にして、わたくしはその実力と、スイッチが入った時の顔つきに惚れてはいました。しかし、わりかし恋愛に関しては奥手で、実力も確かで、出て行く時に足かせになってはいけないという事もあり、なかなか告白は出来ませんでした」


ドS店長の割にそこはピュアなんだね! この人、虎太郎サンと似たもの同士だったよ。


「……つき合うきっかけって何だったんですか?」

「……なりゆき?」

「えっ!」

「間違ってはないが……ちゃんと説明出来んのか」


彼女に対してやたら厳しい服部さんに、ちょっと批難の眼ざしを向けるが、気にする様子はなく、内容を説明しだした。


「神保様が奥様の蒼山様を連れて来られた時に、またいつもの様にケンカになり、神保様が『そんなんだから彼氏がいない』と言った挑発に、イザベルが反論した際にわたくしを借り出したのです」

「出まかせだったんだ!?」


なんだかロマンティックのカケラもない話だ、しかし、そこからは本当に仲良くなったらしく、休みの日にはデートで洋菓子店巡りをするらしい……って、仕事から離れているんだろうか……? イザベルもサボリ魔なのか、仕事に情熱を燃やしているのか分からない。


「コスプレも時々させてもらいますし、人生を楽しむという点では、楽しませてもらってますよ」

「……趣味をバカにしないし、一緒に付き合ってくれる。ありがたい」


うーむ、仕事に厳しいだけで普段は世話好きな服部さんと、クセは強いけど、集中した時の仕事は圧巻の一言に尽きるイザベル。なんかいいコンビかもしれない。参考にはならないけど……。


「一言言わせていただかせてもらいますが、目指す方向が固まっても、まだ踏み出す勇気が持てないのではないでしょうか?」

「それは……」

「勝手な推測ですが、心のどこかで決まっている様に見えてなりません。しかし、選択のボタンを押す決意がまだ足りていないところも感じます。本当に決めたいのなら、先ほどのコイントスをすぐにやるはずですから」


反論出来なかったのは、当たっていたからか、それともそれすらも当たっているか分からなかったからか。私の頭は混乱のハリケーンに巻き込まれていた。


「……なら、もう1人相談できる人に来てもらうから、──シン、あの人は?」

「なるほど、まあ、1つの意見としては良いかも知れないか」

「今度は誰が来るんですか?」

「……会ったことのある人、明日無理矢理来てもらうから、また明日来て」


誰だろう……なんの情報も知らされないまま、その日はイザベル達と別れて帰ったが、次の日来た時に、意外過ぎて驚く事になる。

最近下ネタ多くなってきてすいません。とりあえず竜姫は振り回され体質です、トラブルメーカーと一緒にいる上に自分も巻き込まれやすく、1番被害を被るタイプ。

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