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19話 わずかな恋模様

「さて次のゲストは、オール・スターダストの皆さんでーす!」

「お願いしまーす」


ちょうどから揚げを揚げ切った所だったので、せっかくだから観ることにした。


「Selfjudgeのメンバーに、白虎さんという新しいボーカルの人を加えてスタートしたという事ですけど、どういった方なんですか?」

「そうですね」

「いや、あなたの話を皆さんに聞くんです!」


ワハハと笑い声が聞こえるが、虎太郎サンがあんなうっかりミスをするとは思えないから、おそらく狙っていたな。

気を取り直して田邊さんが虎太郎サンの人物像について話をする。


「合理的だけど情に厚くて、気配りは出来るけど練習はやたら厳しいです」

「練習ってどんな感じなの?」

「先代は元々マンちゃんの前任なんですけど」

「あっ、だから先代なわけね」


神保さんを指さして説明する田邊さんに、皆が相づちを入れながら話を聞く。


「はい、で、最初はオレと先代でバンドをやり始めてすぐにポーが加入して、アネゴと今休んでいるポンドで、しばらくやってたんですけど、練習が終わると、──当時高校生でヤンキー2人に体力自慢の農家ですよ──みんなグッタリしてるんですよ、アネゴが高校の時金沢だったんで、なかなか時間が無いのもあったんですけど、平日は4人で6時間、休日は5人で12時間やるんですよ」

「でも休みとか勉強とかあったでしょ?」

「そりゃありますけど、年末年始でも3時間は練習しましたし、勉強は出来ないと家に帰らせてもらえませんでした」


年末年始でも練習か、ちゃんとやってもプロになれないなら才能無いって諦められる位、めちゃくちゃ打ち込んでる……逆にそんだけやらないとプロになれないって事だね。


「ライフで音飛ばした時に、『本番でやれないなら家でコーヒー飲んでろ』って言われて本当にムカついた」

「わたしも、『お嬢様扱いすると思ったら大間違いだからな』って言われたんだが……でも多少は男子より優しいだろうと思ったら、本気で泣かされたよ」

「白虎さん、あなたメンバーにボロカスに言われてますけど、良いんですか?」

「ええ、その分練習でみっちりイジメ倒しておきますから」

「2人とも余計な事言わないでください……」


蒼山さんががっくしと項垂れていると、観客席から笑い声が出た。皆さんなかなか酷いなー。


「逆に白虎さんが知ってる、メンバーの秘密ってあるんですか?」

「ロボとポーはケンカする程仲が良いタイプで、何回か部費を稼ぐために仕事を競争させると物凄い勢いで働いてくれました。おかげで、こっちはのんびり紅茶が飲めました」

「いやオマエも働け!!」


バシバシツッコミが入った後、そこで話は切り替わり、誰がモテるのかという話題に移る。


「ぶっちゃけ、白虎さんはモテるでしょ?」

「収入がちゃんとあって、ルックスも平均以上あったらそれなりにモテますよ」

「否定しないんかい!」

「でも、1番モテてたのはマンちゃん。中学時代に30人と付き合ってた」


驚きの声がテレビから聞こえる、中学生でそんなプレイボーイって……まあ、曲も歌詞も色っぽいし、恋愛経験値はチートだろうけど。


「二股とか無かったですし、1ヶ月で別れる事が多かったです。今は真凛一筋ですよ!」

「ありがとうっ!」

「堂々とノロケるな!」


と会話は進み、次に虎太郎サンの副業の話が出た。


「そう言えば先代、アイドルのプロデュースを担当してるって聞いたけど、今どんな感じなのかな?」

「えっ、そんな事もされているんですか?」

「以前から実力のあるバンドに目をつけて事務所に売り込んでいたんですけど、その眼力を見込まれて、くすぶっているアイドルを何とかしろと言われて」

「へー! どんな方向でやろうとしてるんですか?」

「好きな事を極めろ、上手くなれ。そうすれば武器になって戦えるようになるというのと、もう一つ、メンバーで1番内気な人をリーダーにしました」

「えっ、それって大丈夫なんですか?」


司会者の疑問はもっともだ、リーダーに向かなそうな人をリーダーにするとなると、軋轢や方向性とかで、上手くいかなくなるんじゃ無いだろうか?


「その子が1番観察力があったんです、メンバーの良い所悪い所をちゃんと理解しているというのと、内気過ぎる所を何とか直さないと潰れるなと。だったら、最年長の人にサポートしてもらって、自信をつけさせてあげたら良いなと」

「あーなるほどね」


確かに、自信や成功体験をつけさせるには、経験出来るポジションに置いた方がいい。サポート役もいれば、グダつく事も少なくなるだろうしね。


「でも、その子達にも厳しいんだろ?」

「ああ、3割位さっさと辞めてくれないかなとか思ってるだろうな」

「残りの7割は?」

「さっさと死んでくれないかなとか思ってるだろうな」

「感謝されてないですね……」

「オマケに割合が逆だよ!」


打楽器隊にツッコミを入れられる虎太郎サンは、少し楽しそうにしていた、やっぱりメンバーと仕事するのが嬉しいんだろうな。


「みなさん、すごく楽しそう」

「あとは英里さんが復帰してくれると良いなぁ」


そうしてアルバムとツアーの宣伝をして、番組が終了すると、準規君が部屋に入って来た。


「竜姫さん、お腹すきました」

「あっ! ちょっと待ってすぐ用意するから」


うっかり1時間近く見てしまったので、結構良い時間になってしまった。……しかし、それなりにモテるか、ちょっと……いや、なに考えてるんだか。


「竜姫さん?」

「ううん、なんでも無い。今日はから揚げだから沢山食べて筋肉つけてね」


ちょっとモヤモヤした気持ちを抱えながら、私はから揚げに軽く水をかけて揚げ直そうとキッチンに向かった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



そうして、虎太郎サンのツアーが終わろうとした時に、封筒が投函されていた。

中を見ると虎太郎サンのライブチケットで、最後になる名古屋公演のライブだった。


「……観に来いって事かな」

「これプレミアムチケットですね、オークションで落札すると、10万くらいいくと思いますけど」


みのりちゃん本当!? こ、小遣い稼げる! えーっと、スマートフォンで写真を撮って……。


「でも、竜姫さんの名前が書いてあるから売れませんよ」

「ちっ、余計なまねを!」

「お姉ちゃん、本音がだだ漏れてる」


だって私、お金が無いんだよ! 奨学金とか勉強に使う本とか払うお金が多すぎて、家賃とか無くても、思ったより貯まっていかないんだよ……。


「ここは素直に行ってあげても良いんじゃないですか? 虎太郎さんの歌を聴いた事ありますけど、日ごろの疲れが取れる優しい曲なんで、1回生で聴く価値はありますよ」

「うーん……」

「実は虎太郎さんの歌が入ったレコード、こっそり借りてるんです」


そんな勝手に借りてきて、みのりちゃん大丈夫……?


「バレたらしばらくトイレ掃除の刑ですけど、今はいないんで大丈夫です」

「やっぱりリスクはあるんだね」


悪びれる様子もなく、レコードに針をセットしてすぐにアコギの優しい音色が聴こえてきた。コントラバスとドラムの静かなビートに電子ピアノが加わり、ロックバンドをやっていたと思えない音楽が流れていた。


──木漏れ日のにおいが僕を包む 穏やかな休日 眠たい目をこすりながら ココアを飲んでほっとしたらドアを開けて


いつの間にか色々と 背負い過ぎた荷物は森の中にしまっておこう また持っていくまで友達に預けて


またいつものように僕たちは平穏な日々を過ごしてく


こんな日が続く事はとても大事な事で ありふれた日常を僕は噛み締めてく そんな事を思ったらそっと君が笑って また君を愛おしく見つめるよ──


普段からは想像出来ない、優しい歌詞と穏やかでささやく様な歌声で紡がれた曲に、不覚にもじーんと来てしまった。


「ね? 良いでしょ」

「……すごく良いね。一人称が僕だし、普段とは想像出来ない方向に行ってるから、半分サギみたいな感じもするけど」

「表現するというのは、その人の本質がちょくちょく出てくるものなんですよ」


準規君が話に加わり、虎太郎サンをフォローしだした。


「虎太郎さんに聞いたら、色々な音楽が好きだし、声質と曲の方向性的に、俺よりも僕を使った方が雰囲気にあってるからって言ってました。確かに曲調的に俺より僕の方がしっくりきますよね」

「まあ、この曲調で俺とか言われたら微妙だけど」

「ところで、これを持って来たのは誰ですか?」

「わたしだけど、どうし……」


みのりちゃんが最後まで言えなかったのは、振り返って見た相手が、知られたら1番ダメな虎だったからだ。

哀れみのりちゃんは縮こまり、ペコペコと平謝りするハメになっていた。


「すいません、許してください」

「人の物を勝手に持って行ったらダメだろ、『月見草』に持って行くものだし、扱いには気をつけないとダメだからな。はい、終わり」


説教を長々としないのは、虎太郎サンの良いところかな。短く要点を言わないと、相手も苦々しく思うし、説教した意味が無い。こういった点は、合理的な人だなと思う。上司としてのクセなのだろうか。


「ところで、もう帰ってこれたの?」

「次が名古屋だから、予定も無いし早めに帰って来た。ライブは休みの日だし、来てもらえると嬉しい」


チケットを見ると、確かにその日は休日だ、予定が突然入らなければ、さっきの歌声とか音楽的にも良かったから、行ってみても良いかな。


「突然患者さんが来なかったら行きます」

「その言葉だけで何とか頑張れそうだ……ちょっと寝てく……!」


虎太郎サンが寝室に行こうとすると、突然よろけ、倒れそうになったので慌てて支えようとしたら、イスの脚に引っかかって一緒に倒れてしまった。


「痛っ〜!」


虎太郎サンは大丈夫なのかな、目を開けて確認すると、虎太郎サンの顔が目の前にあった。


「〜〜っ!」


眠たそうな虎太郎サンの目が見開いて、顔が熟したイチゴみたいに真っ赤になっていた。ちょ、そんな反応しないでよ!?


「ご、ごめん!」


私が慌てて立ち上がり、虎太郎サンの手を取って起き上がらせた。するとまた端整な虎太郎サンの顔が近くに見えて、今度は私が目をそらしてしまった。


「ごちそうさまでした」

「後は若いおふたりに任せます」

「準規お兄さんより2人とも年上だけど……まあ、いいか」


ぞろぞろと年下3人組が部屋を出ていき、気まずいのはドジして倒れたからなのか、はたまたちゃかされたからなのか、よく分からないけど、この空気が少し心地よく感じたのはなぜなのか、それはもっと分からなかった。


「すまないな、じゃあちゃんと寝てくる。1時間たったら起きてくるな」


そうして部屋を出て行った虎太郎サンを見送って、病院に行く前に軽く化粧をする前に鏡を見ると、見慣れたはずの自分の顔がやけに違って見えた。いつだったか、初めて恋して化粧とか頑張っていた昔の茜とよく似た、純粋な恋した顔。


「……そんな訳ないよ、あの人に恋なんて」


独り言を、誰にも聞いてないだろうけどこっそりつぶやき、ローヒールのパンプスを履いて家を出た。

一応オリジナルの歌詞ですが、何かに似ていたら教えていただけるとありがたいです

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