18話 これって恋?
大分更新遅れました、すいません。
虎太郎サンの所属している『オール・スターダスト』のライブが始まり、最近虎太郎サンを見る機会が更に減った。いたらケンカばかりだが、会えないとなかなか張り合いが無いものだと、初めて気がついた。
「虎太郎さん大丈夫かなぁ」
「どうしたの、みのりちゃん?」
「話を聞いてる限りでは、竜姫さんでもブッ倒れそうな過密スケジュール何ですよ。寝る時間が良くて5時間位で、酷いと3時間寝られるかなって位で」
それはちょっと心配だ、いくら私より体力があるからって、デスクワークじゃなくて現場でがっちり動くんだから。
「どれ位公演やるの?」
「9ヶ所、北海道、宮城、東京、名古屋、石川、大阪、広島、香川、福岡だよ。それを1ヶ月でやってくの」
「その間にアイドルのプロデュース業と楽器の練習、歳徳の仕事も少しありますからいつ寝られるのか分からない仕様になってますね」
準規君も説明してくれたが、これは……研修医時代を思い出すハードスケジュールだ、あの時は患者さんに舐められ、先輩医師に怒られ、看護師さんにパシられてた、人権がなくて本当にキツかったのを覚えてる。
「おはよう、……お姉ちゃん顔色悪いよ」
「おはよう、大丈夫だよ。昔の修羅場を思い出してただけだから」
「……不倫発覚の時だね」
「……間違いない」
「研修医時代の話だからね!」
本当に失礼な中里兄妹にデコピンを決めて、紅葉の朝食を準備を始める。今日は休日、溜まった洗濯物や掃除を一気に片付ける日だ。悲しい事に年下組は戦力外、いつも交代でやってくれる虎太郎サンはしばらく不在、頼れるのは己の力だけ……って、結構広いんだよここの家。家政婦さんとか呼んでも良いんじゃない?
と思っていたら、チャイムが鳴った。テレビ付きのインターホンというのはやっぱり便利だと、ここに来てつくづく感じた、なんどか訪問販売が来て、面倒だった記憶がある。その時の気分で、お帰りいただく時の応対が違っていたのは秘密。
「おはようございます、竜姫様」
「野口さん、どうしました?」
画面に映っていたのは、先日一服盛ってきた野口さんだった。ちゃんと和解して後腐れなくなったので、特にピリピリしてはない、逆に相手の方がやりにくいとは思うけど。
とりあえずカギを開けてリビングに入ってもらうと、野口さんが事情を説明してくれた。
「虎太郎様に、竜姫様の家事を手伝って欲しいと言われまして来ました」
おおっ、本当に家政婦さんがやって来たよ。しかも、大企業の社長の家で働いているメイドさん、年下組よりも断然役に立つ、イヤッホー!
「ありがとうございます、希望の光が現れましたよ!」
「ど、どうも……あの、そこまで大変なんですか?」
「部活で忙しい高校生と、家事スキルC-は戦力として計算してませんから」
「竜姫さん酷い!」
準規君がわめいているが、事実なので仕方ない。料理はかろうじてお腹を壊さないレベル、掃除はなんとかゴで始まる虫が出ないレベル、洗濯は機械の使い方が分からないレベルなのでこの数値だ。S、A、B、C、Fの評価なので、単位を取れそうな落第レベルの家事スキルという残念な評価になっている。準規君、せめてC+を取って私に楽をさせて欲しいよ……。
「えーと、とりあえず勝手に動かずに竜姫様に言われた事だけで良いと言われたので、ワタシは指示があるまで動きません、そして仕事が終わったら報告します。……あと、まかせっきりになるといけないので、竜姫様が家事をやらなかったら帰ってくれと言われました」
虎太郎サン、ストレートな辛さはなくなったけど、優しさの中にまだ辛味が残ってる甘辛仕様にシフトチェンジしたようだ。なぜ辛さを残したんだろ、せめて、優しさと辛さを分けた飴とムチにして欲しい……。
「それでも充分です、みのりちゃんの部屋掃除と、洗濯物をお願いします。私は紅葉の朝食作りと、準規君と紅葉の部屋掃除をしますから」
指示を出して手伝ってもらう内に、私はスクランブルエッグとご飯、ウィンナーを手早く用意する。冷蔵保存してあったご飯をレンジで温めている間に、皮付きの少し良い値段のするウィンナーをフライパンの上に踊らせる。途中でレンジを止めてご飯をほぐし、再び温める。そしてウィンナーをお皿の上に置いたら、卵をやり過ぎない程度に溶いてフライパンに入れる。本当はゆっくりやった方が良いけど、時間もないので中火で手早く済ませる。紅葉自身ふわとろがそこまで好きではないのもあるから、時間短縮で多少固いものでも文句を言われないのがありがたい。
あとはサラダを多めに盛りつけて、バランスを整えたら完成だ。
「はい紅葉、残さず食べてね」
「いつもありがとう、頂きます」
ゆっくりしっかり噛んで食べる紅葉に頭をなでたい気持ちをこらえ、部屋掃除に取りかかる。男子2人とも、ドン引きするレベルの散らかり具合ではないのは、私や虎太郎サンがたまに掃除を手伝っているからだろう。紅葉は部活が凄く忙しいから出来ないのだが、準規君は物が捨てられない上に、整頓が得意ではないからごっちゃになりやすいタイプだ。
そんな2人の部屋掃除は思った以上に早く済んだ、書くところがあるとするなら、隠しておきたい物は、ちゃんと隠せと準規君に言いたくなったという位かな。
内容? それは記憶にございません。ただ、大人の階段を登ったものも、そうでないものも散らかってましたとまでは言っておこう。……準規君、ちゃんと片付けようね。
続いては紅葉、こちらは物と言うよりホコリがたまりがちになるタイプ。私が担当している患者さんでも、掃除の間隔が空きがちになってホコリをためがちになるタイプがいた。なぜか突然一気に掃除してスッキリするみたいだったけど、時間を作って毎日やった方がリズムを作れるし、ストレスもなくなるのでぜひやって欲しいものだ。
そうしてあらかた済んだところで、紅葉とみのりちゃんの高校生コンビを見送って、食器洗いを野口さんと一緒にしながら、話に花を咲かせた。
「野口さんは、虎太郎さんの事どう思っているんですか?」
「そうですね……幼馴染からちょっと片想いした後に、1人の友人として割り切れたというところでしょうか」
「えっ、そんな割り切れるものなの?」
「仕事もありますし、良い人であるのは変わりないので……ただ、吹っ切れたきっかけは最近なんです」
「なになに、教えて?」
「それは秘密です」
不敵に笑った野口さんが気になりつつも、後片づけが終わって少しリラックスタイム、といきたいけど勉強の時間です。医者というのは、引退するまで勉強しないといけない職業、特に若手医師は経験がない分、しっかり事例を学んでいかないといけないし、学会の新しい報告も知らないといけない。まだ論文を提出するほどの経験もデータもないけど、いつかは新しい発見を自分の手で証明したい。
「竜姫様、虎太郎様から電話が着ました」
「いないって言っておいて」
「……もしもし、いないと本人が言っておりますが」
あっ、野口さん虎太郎サンの味方だった……。
し ま っ た!
「竜姫様、広島にいるそうですが、クリームパンとレモンパック。どちらが良いかと言ってます」
「あの人忙しいんじゃないの!? 寝てよ!」
ありがたいけど、頼むから、忙しいんだったら土産とかいい、ちょっとは寝て欲しい。
「……はい、じゃあ代わります。竜姫様、虎太郎様が声を聞きたいとおっしゃっています。ぜひ聞かせてあげて下さい」
仕方ない、結構頑張ってるのに無理してお土産を買おうとしているのに免じて、私の素晴らしい声を聞かせてあげようじゃないか。
「もしもし、虎太郎さん?」
「おお、タツ。ライブ後の徹夜はキツいな」
「さっさと寝てください、なんで寝ないんですか!」
「東京行ったら焼き菓子軍団と会議しないといけないし、他にも練習時間と虎之介の仕事を手伝ってると、しばらく電話出来ないだろ。せっかくだからお土産を買っておきたいし、タツの声を聞いて元気を出したかった」
「うっ……」
そんな事言われたら、少し言葉に詰まってしまう。嬉しいけど、嬉しいけどさ! 同居人として、医者として無理して倒れて欲しくないよ!
「ライブ中に倒れたら、1ヶ月病人って呼びますからね」
「分かった分かった、絶対に倒れない」
本当に分かっているのか怪しいところだが、これ以上釘を刺しても意味はないので、やめておく。頼みますよ30前!
「なあ、いつも厳しくしている理由知ってるか?」
「それはぜひ聞きたいですけど、ふざけた理由だったら、帰ってきてからすまきにして顔に落書きしますよ」
さあ聞かせてもらおうか、ふざけた理由だと思うから顔に変態坊ちゃんとか書いてやる!
「タツが可愛いから」
「………へっ?」
あーっと、今日はエイプリルフールじゃないよね? 結構前に4月馬鹿は終了していた、ハズ。
「タツが可愛くて甘やかし過ぎると、タツがダメになりそうだから、つい厳しくしてしまうんだ。……すまんな」
「あっ、いや、ちょ……」
突然の告白に私の頭は真っ白になってしまい、しどろもどろな言葉しか出てこない。と、突然厳しい人にほめられて動揺しませんかみなさん!
「忙しい中美味しい料理を作ってくれて感謝しているし、掃除洗濯も一緒にやってくれる。なかなか口に出せないからこの場を借りて言っておく。──ありがとうな」
ここまで感謝されるとかえって、別人が声マネでドッキリしているんじゃないかと疑ってしまう。虎太郎サン、休もう! 寝てくれ! あなたはまともな判断が出来てないよ!
「じゃあ今度台湾まぜそばでもおごってください、最近あのクセに目覚めたから」
「ああ、名古屋公演で帰って来た時に食べよう」
約束を取りつけて電話を切ると、野口さんに電話を渡してお礼を言った。
「ありがとうございます」
「いえ、当たり前の事ですから。……どのような内容でしたか?」
「えっ、そ、そんなの別に話さなくても良いんじゃないですか?」
「……明らかに動揺し過ぎです。話さなかったら今回の話は無かった事」
「あーっと! 体調に気をつけてって話と今度台湾まぜそばおごってって話です!」
それでも、野口捜査官の追及からは逃げられそうもない気配を感じて、私はジリジリとこの場から脱出しようと扉の前まで後退した。
「逃げようとしても無駄ですよ」
「あっ! 虎之介君と杏ちゃんが野球拳してる!」
「えっ?」
一瞬のスキを突けばこっちのものだ、野口捜査官、あばよ!
「竜姫さんちょっといい……」
そこで準規君来るのかー!
ダッシュの勢いそのままに、私と準規君は正面衝突し、お互い吹っ飛んだ。
「痛ったー……!」
「準規君、タイミング最悪だよ」
「……竜姫様?」
お互い無事だったが、私は追い詰められた様だ。後ろから野口さんの声が聞こえ、肩に手を置かれた。
「さあ、詳しくは署で聞きますから行きましょう」
「そんなノリが出来る人だったのってあっ!?」
気がつけば腕を後ろから縛られ、私は引っ張られていた。
「お〜た〜す〜け〜!」
「さ〜よ〜な〜ら〜!」
じゅ、準規君!? 笑顔で手を振らずに私を助けてよ!
その後、長きにわたる尋問の末、一部始終を吐かされた私は、とてつもない脱力感に襲われて午前を過ごした。その後、準規君をシバいたのは言うまでもない。……って、これはもう半分位お約束になってきてるね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
紅葉とみのりちゃんの高校生コンビが帰って来て、夕飯のサクサクジューシーな鳥のから揚げと、素材本来の良さが引き立つ、野菜の盛り合わせの支度をしていると、みのりちゃんが録画したテレビを見だした。どうやらトークバラエティのスペシャルの様で、揚げ物をしているから、ながら聞きで内容を楽しんでした。
そして、次のトークゲストに私は驚いた。




