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15話 あなたへの応援歌

ほんの少しだけ長めです

田邊さんは外見にかなり特徴がある。彼はアルビノで肌と髪は新雪を感じさせる程白く、青い縁のメガネをかけた目は赤とピンクが混ざった色をしていた。

そんな田邊さんに連絡がついたので、ビルまで来てもらって宮崎さんの事を聞く事にする。


「久しぶり、先代」

「お前どこに行ってたんだ? ポンドが苦しんでいた時に」

「1人になりたくて、お寺に行ってスマホの電源切って瞑想してた──バンドの未来を考えてたのと新しい曲を作ってたのもあって」


菩提寺の住職と懇意にしていて、掃除の手伝いと寄付金を納めて、部屋を貸してもらっていたそうだ。とても清らかな気持ちになるため、名古屋に来た時にはこっそり行っているらしく、虎太郎サンも含め、メンバーも知らなかったのは、ジジくさい趣味と言われたくなかったからと釈明していた。


「ポンドを救うにはロボの協力が不可欠だ、──しかし、どうしてここまで気が付かなかったんだ?」

「気が付いていたよ──気が付いていて助けなかったんだ」

「恋人が苦しんでるのにあなたはっ……!」

「まだロボの話は終わってない、落ち着け」


私が田邊さんに掴みかかろうとして近づくと、虎太郎サンに止められた。


「……助けられる事を嫌う人だから、本当に危険な時には自分から言うだろうと思ってたんだ──それに、自分から言わないと助けられないのを分かって欲しかった」

「だからって……!」

「でも、ポンドだけじゃなくて、マンちゃんや先代を傷つけるまで放っておいたのはオレの責任だ……ごめん」


田邊さんが項垂れているのを見て、虎太郎サンはため息を吐いた。


「……お前にリーダーを託したのは、中心人物だからって訳じゃなかったんだがな──見守るのは大事だ、だが暴走していたらブレーキにならないと止まらないんだ。分かったな?」

「うん……」


私は1発殴らないと気が済まなかったが、これ以上私が言っても仕方無いから、とりあえず虎太郎サンの腹を殴っておいた。


「……お前殴り過ぎだ、口で言って分かる年齢なんだから、ちゃんと口で言え。どんな事があっても絶対に俺以外殴るなよ、指導でも、怒りでも絶対にな」


虎太郎サンは怒ってはいないが、真剣に目を合わせてきた。その様子だと過去になにかあったのだろう。


「……ごめんなさい」

「申し訳ありませんでした虎太郎様、って言ったら許してやる」

「ナニ様かこの野郎ー!!」


虎太郎サンのほっぺたをギリギリまで引き伸ばしてイケメンを台無しにしてやった、反省? なにそれ美味しいの?


「説得するつもりはあるんだな?」

「もちろん」

「じゃあ早速行くぞ、タツも来い」

「来てください竜姫お嬢様と言ったら行くわ」


無視して置いていくんだろうなと思いながら、報われない仕返しをすると、虎太郎サンは私の手に口づけをした。


「来ていただけますか、竜姫お嬢様?」

「なっ……!?」


いい声で言った上に、手の甲にキスのサービス付きでやってきたー!?


「あっ……うっ……!」

「お嬢様?」

「わ、分かったわよ、行くからそんな斜め上な返しをしないで!」


虎太郎サンに対抗しようとして、逆に慌てさせられた。この虎の行動が読めない……。


「先代、お主も悪よの〜」

「……いい加減にしないと、ふざけて撮ったサービスシーンをサイトに載せるぞ」

「じゃあ、先に車の方で待ってるから」


田邊さんが笑いながらガレージの方に向かって行く、どんな内容かとても気になるが、とりあえず、さらりと逃げた田邊さんの後に続いて、私と虎太郎サンもガレージに向かった。



☆☆☆☆☆☆



シェアハウスに来てすぐに、私たちは宮崎さんの部屋までやってきた。


「ポンド、入るよ」

「来ないで、入ってきたら別れるよ」


それでも関係なく田邊さんは部屋に入ると、飲んだ容器を整理しながら話し始めた。


「わたしに一切連絡もしてくれないから、死んでたかと思った」

「相変わらずポンドは容赦無いなー」


苦笑いした田邊さんは一転、真顔になって宮崎さんの顔を見据えた。


「大事な話がある」

「酒なら止めないけど」

「無期限活動休止して新しくバンドを結成するよ──そのメンバーにポンド以外のみんなを入れる」

「……はっ?」


虚をつかれた形になった宮崎さんに田邊さんはさらに畳みかける。


「楽曲の著作権も先代に譲る、もちろん全部ね」


宮崎さんは田邊さんの胸倉を掴むと、視線で殺せる位の強さで睨みつけた。


「ちょっと待ちなさいよ! そんな事したらわたしの収入無いじゃない!」

「そうだよ」


田邊さんはあっさりとした返事をして、更に話を続ける。


「休もうよ1回さ──そうして元気になって、また歌おう。みんなで曲を考えて、ポンドの歌いたい曲を作れば良いんだ」

「わ、わたしは元気よ! 休む理由はない……」


だんだんと反論する声が弱まってきた宮崎さんに、虎太郎サンが更に話に加わる。


「俺達はポンドの苦しみを分かってあげてなかった、こんなに……こんなに長く居たのにな、──だけど絶対にお前を見捨てない、それだけは約束する。立ち上がるなら手を差し出すから」


そして、虎太郎サンが土下座をしたのには驚いた。あの虎太郎サンが、俺様でお坊ちゃんな虎太郎サンが、なんのためらいも無く土下座をしてお願いをする。


「だからちゃんと治してくれ、このまま家族が潰れていくのを見たくないんだ……!」


泣きそうになりながら、虎太郎サンが頼み込むと、田邊さんも一緒に土下座をする。


「オレはポンドと一緒にやりたい、でも今のままじゃみんなバラバラになっちゃうよ、お願い、どうか話を聞いて」


……この状況で私もしない訳にはいかないよね?

私も土下座をすると、私なりの言葉で宮崎さんを説得してみる。


「医師の仕事は、困っている人に寄り添う事です。無理にとは言いませんが、まずは話を聞かせてもらえませんか?」


宮崎さんの顔は、土下座しているから全く見えないから、どんな顔をしているか全く分からない。私は緊張しながら、じっと言葉を待った。


「……わたしだって辞めたいよ」

「えっ?」


顔を上げると、泣きながら本心を語ってくれた宮崎さんの姿があった。


「でも飲まないと怖い! 身体が欲しいって、ううん、飲まないといけないって脅してくる。暴力はふるっちゃうし、みんながわたしを遠く離れていくのに、それでも辞められないの! ──ねえ、お願い。もう1人はいやだよーー!!」



「今まで大変でしたね、良く本音を言ってくれました、本音を言ってもらえたのはとても嬉しいんですよ」


私は宮崎さんの頭を撫でると、宮崎さんは泣き止むどころか更に泣いてしまった。

依存症と向き合えそうだけど、これからが大変だ、禁断症状や、スーパーに行ってお酒を見ただけでも飲みたくなる欲求と戦わないといけない、おまけに1回でも飲んだら、最初からやり直しになるから、挫折しそうになるのを研修でも見た。

それでも、自分を救うのは自分だ。そして、必死に手を伸ばした時に初めて、私たちがその手を掴んであげられるのだ。そうやって自分を、周りを大切にする事が出来るなら、宮崎さんは大丈夫、きっと立ち直れる。


「じゃあ行こう、こんな所にいたら気持ちが落ち込んじゃうから」

「……うん、今までごめんね」


そうやってとぼとぼ歩く宮崎さんを、さらりと優しく抱き寄せて歩く田邊さんは、本当に大切にしているだなと実感した。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「キャー! ロボー!」

「こっち向いてー!」


虎太郎サンに連れられて、活動休止を発表するライブに私たちは来た。愛知で1番キャパシティを誇るサッカースタジアムの観客席は満員で、この人たちは本当に人気のある人たちなんだと改めて実感する。

椎名さんの曲が終了した後、田邊さんがマイクを持ってMCを始めた。


「ポンドー! 今日も良い演奏と尻してるね」

「ロボ、今日も顔色悪そうだけど、何かあった?」


お互いに軽口を叩いて、ほっぺたを引っ張り合う2人にベースの鳴瀬さんも加わる。


「ポンドー! ヒョロボを潰すなら加勢するぞ」

「辞めないか! 揃いも揃ってライブ中にふざけて」


椎名さんが止めに入ってる間に、後ろのポジションで、神保さんと蒼山さんがいちゃいちゃしていた。


「真凛、ネイル新しくなったね。似合ってるよ」

「気づいてくれてありがとう、嬉しいな」

「ちょっと待て、いちゃつくのは後にしてくれ。仕事中に堂々といちゃいちゃする社会人はいないだろう」


こちらにもツッコミを入れる律儀な椎名さんに、観客席からリア充爆発しろー! と茶化すなど、あったかい信頼関係を築いたのが分かる光景に、私は癒された。


「先代ー 助けてくれー!」


そういえば、ライブの合間にトイレに行くと言って虎太郎サンがいなくなっていたけど、まさか……!?


「ちょっと、貴方達何やっているんですか?」

「やっぱりそっちに行ってた!?」

「あー! 虎太郎さんズルい!」


外ヅラモード全開の虎太郎サンが現れて、観客席から悲鳴が聞こえた。脱退してからも共演はしていて、ファンも虎太郎サンの事を知っているんだと、みのりちゃんが教えてくれた。


「ワアアアアアアアッ!!」

「白虎さんー!」

「久しぶりー!」

「お久しぶりです、皆さん」


虎太郎サンの挨拶に、さらに歓声が湧き立った。くそぅ、ファンのみんなは騙されているんだ。俺様でサドな外ヅラ野郎なのにー!


「皆さんに発表しないといけない事があるんでしょう? そんなバカ騒ぎしていないで、ちゃんと発表しなさい」


虎太郎サンに促されて、田邊さんを始め全員が横一列になる。


「えー先代が言った通り、Selfjudgeから発表があります。このライブをもってSelfjudgeは無期限活動休止します」


その発表に会場から、大きな悲鳴が巻き起こった。近くからはもう聴けないのか、という声も聞こえる。


「活動休止の理由は、ポンドの調子が悪いから。ジャッジは6人いるからジャッジであり続けられる、だからポンドが戻って来るまでジャッジはお休み。代わりに先代がボーカルを担当する『オール・スターダスト』を結成します」


そしてマイクが宮崎さんに渡され、自分の体調を話す。


「という訳でしばらくわたしは休ませてもらいます。別に自殺するからじゃないけど、ちょっと治すのに時間がかかる病気で、認めたくなくて治さずに散々その病気で周りに迷惑をかけてたから、ちゃんと治そうってようやく決心して今回の決断をしました。すぐには戻れないけど絶対に帰ってくるので、それまでOSDで楽しんで──まあ、わたしがいないからカッコいいリフは聴けないけど、それなりに良いバンドだから聴いてあげてね」

「絶対にポンドのシングルより売り上げますから、せいぜい休んで下さいね」

「うわームカつくー!」

「だったら早く復活してくれよ、待ってるから」

「頼む、早く帰ってきてくれよ。先代の練習は厳しくてたまらない」

「大丈夫、ちゃんと治してくればまたやれるさ」

「ポンドさんが帰って来るまで、鍛えて待ってますから」

「うちとまたコロコロしましょう、そのためにもちゃんと治してください」


虎太郎サンはそう言うと、拳を出してグータッチを宮崎さんにした。他のメンバーも次々とグータッチをして、最後に田邊さんが言葉をかける。


「みんな帰って来るのを待ってるから、これからも面倒見るけど言わせて──大好きだよ」


そう言うと宮崎さんの頬にキスをして、会場を驚かせた。あ、熱いなぁ……。


「ばっ……こんなところで何やってるのよ!」


宮崎さんの顔が赤くなったのを、モニターを映しているカメラが捉えていた。観客席からもヒューと茶化す声が聞こえて、とんだ公開処刑だなと思った。宮崎さん、ご愁傷様です。


「最後にオレたちが活動休止する前に、ポンドの為に作った曲を聴いて下さい、この曲に関してはポンドには一観客として聴いてもらいたいので、先代にギターを弾いてもらいます。久々にオレの曲でリードギターやるんで、期待しないでよ」


MCの間に、他のメンバーが所定の位置に戻って、準備を終えていた。虎太郎サンも、エレキギターを持って、素早くチューニングを終えていたのはさすがだなぁ。


「先代もう大丈夫みたいだね、それではお聴き下さい『リスタートヒーロー』」


虎太郎サンが切ないリズムを刻み、やがて田邊さんが歌いだす。Selfjudgeで1番上手い田邊さんの歌は、技術もそうだけど人を惹きつける心が詰まっている、だからこそメインボーカルを1番担当しているのだ。

そしてベース、ドラムが加わり、リードギターにキーボードとパーカッションも少し間を置いて後に続く。

そしてサビの部分に入って、音が盛り上がりを見せた。少しサビを紹介しておくね。


「僕たちは僕たちは走り続けていた 傷ついていた事さえ気づかずに 今は休まなきゃ走れないよ そしてまた一緒に戦おう この世界とこの時代と仲間たちと共に」


ストレートな思いを愚直にぶつけた歌詞は、宮崎さんへの応援歌にふさわしい曲だった。不器用だけど、いや、不器用だからこそ書ける詞だろうな。

そして曲が終わり、喝采を浴びながらSelfjudgeの活動休止前最後のライブが終わった。

誤字が多くてすいません、これからも精進していきます……。

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