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13話 天才故の苦悩

4.10一部訂正しました

「2つ用件がある、1つはレイにカウンセリングしても状態が悪化した場合、竜姫さんにも協力を依頼したい」

「私ですか?」

「処方出来るのは医師でないとできないだろう?」

「虎太郎さんより頭良いんですね」


虎太郎サンより詳しくてびっくりしたが、椎名さんは笑って否定する。


「これでも臨床心理士の資格は持っているからな、幼馴染として少し励ましてやりたいんだ──あと、先代の方が知性も理性も高いぞ?」


そう言えば椎名さんとレイさんは同郷の同級生で、仲は良かったが、お互い恋愛感情は無かったらしい。それはともかく、虎太郎サンの知性はともかく理性はあるのか……?


「まあ、レイの件は少し後でも問題無い。それよりもバンドの危機を救って欲しい。下手したら解散するかもしれないんだ」

「バンド解散って……!」

「……そこまで悪くなってたのか、ポンドは」

「……ああ、つい最近カンパを庇ってマンちゃんがケガした。軽傷だったが、腕に傷が残る程の切り傷だ、ポーと一緒に抑えられるのもそう長くない」


えーっと、あだ名が沢山出てきて少し混乱してきた。誰が誰だったっけ……。


「虎太郎さん、普通に名前で言ってください、ちょっと分からないです」

「あーここににわかファンがいたのを忘れてたな」


虎太郎サンが苦笑いしてると、椎名さんが説明をしてくれた。


「要はギターの1人、宮崎英里みやざきえりが苦しんでいる。それで何とか力を貸してもらいたいんだ」


Selfjudgeの編成は、ギター2人にキーボードのメロディー組に、ベース、ドラム、パーカッションのリズム隊で6人。その中で宮崎さんは、主にリードギターをやる事が多い、かなり目立つポジションだから、苦しんでいるとなるとかなり痛いだろう。

「いくらマンさんやポンドさんのリードギターやってるからって言っても、ロボさんの負担が大きくなりますからね」

「みのりちゃんいつの間に!」

「僕が気配を消すコツを教えたから」


いつの間にか、高校生コンビが私の後ろから話しかけてきた。みのりちゃんも武術のセンスは良いから、すぐにモノにしたのはえらいけど、この場で使う必要あるか後でちゃんと話し合っておこう。


「お久しぶりです、椎名さん」

「去年のツアー以来だな、その節は助かった、感謝しているよ」


この2人に共通点があるのかと、首を傾げていたら準規君が説明してくれた。


「みのりはSelfjudgeのファンで、ライブを観させてもらう代わりに裏方の手伝いをしてるんです。虎太郎さんの次にバンドに詳しいですよ」


あーなるほど、筋トレになるしライブ観れるからそりゃやるよね。おそらく虎太郎サンのツテで出来たんだろうけど、そう思うと虎太郎サンは良い人なのだろう……多分。


「ざっとメンバーを説明すると、リーダーでラウド系担当がロボこと田邊青狼たなべせいろうさん。詩がとても素敵なギターの宮崎英里さん、豊かな音楽がウリのベース担当が、ポーこと鳴瀬春吉なるせはるよしさん。ドラムで色っぽいロックが特徴の、マンちゃんこと神保裕二じんぼゆうじさん。パーカッションで宇宙を感じさせる神秘的なメロディーが綺麗なカンパこと蒼山真凛あおやままりんさん。で、ブルースの椎名さんになるんだよ」


うーん、1発で覚えてもらえたかはともかく、最初の話と教えてくれたあだ名を合わせて要約すると、宮崎さんが暴れて、蒼山さんをかばった神保さんが怪我をしたという事になるか。……でも、仲間を傷つける程追い込まれている宮崎さんになにがあったんだろう?


「……酒に心を囚われてしまったんだ」


その言葉に、みのりちゃんが思わず叫ぶ。


「えっ……う、嘘ですよね? ポンドさんは自信家で不安と無縁な人じゃないですか! それに歌もギターも両方とも凄いし……」

「それは……」

「両方とも凄いから、苦しんでいたんだろうな」


椎名さんが言いづらそうにしていると、虎太郎サンがバトンタッチする。


「ポンドは元々、ラウド系の別バンドをやってたんだ。だが声はキュートで音楽に合わなくて思いつめていた、それを向こうのリーダーと話し合ってSelfjudgeに加入した経緯がある。ギターは世界的にも認められていたし、ボーカルとしてもセンスがある。だが、その方向がかなり違っていた。ギターに合わせればボーカルの良さが奪われ、逆ならギターが物足りない。与えられたもののギャップに苦しめられてたんだと今なら分かる」


虎太郎サンは冷静にしてるなと思いながら、話しを聞いていたが、良く見ると右手を握り締めて震えていた。……自分へのいら立ちに震えているであろうその手を、思わず握った。


「なっ……!?」

「全部思いつめないで、虎太郎さんがそんなのだと、いざ宮崎さんが頑張ろうって時に助けられないから──落ち着いてください」


私の言葉に虎太郎サンは深呼吸をすると、ありがとなとお礼を言った。うん、緊張して硬くなっていた手も落ち着いてるし、大丈夫。


「……本当に特別な人何だな」

「なんか言いました?」

「いや、何でもない。という事でわたしと先代と一緒にみんなの所に行ってくれないか」

「はい、分かりました」

「ちょっと待って、あたしも行きたい!」


みのりちゃんが元気良く挙手するが、椎名さんは首を横に振った。


「ポンドのあだ名の由来知っているだろう、初めてジムに行った時、ベンチプレスで49,5キロ叩き出した怪力があるんだ。現にマンちゃんも怪我をしている、今回は紅葉君と準規君と一緒に待機してくれ」

「いきなり女子平均の倍か……」

「女子平均ってどれ位ですか?」

「日本女子平均20キロ、初心者は体重の4割が目安。デリカシーなく言わせてもらえばポンドの体重は55キロだ」


虎太郎サン、さらっと失礼発言が……女性として見てないんだろうけどさ。えーと、55キロで4割だから22キロ……って良く考えたら49,5キロは体重の9割ジャストだ!


「1ポンドが約0,45キロ、110ポンドベンチプレスで出したってマンちゃんが言って面白がった皆がつけて、そのまま定着したんだ」


そんな伝説が……って恋愛小説ジャンルで出しているのになのに筋肉ネタで良いのかな? あと余計な雑学も。


「タツが言いたそうなのは何か分かるがスルーするとして、酒乱癖もあって依存症もあるから危険度が高い。それなのに連れて行く訳にはいかないだろ」

「はーい……」


みのりちゃんの不満そうな返事に、若干不安を覚えつつも、私と虎太郎サンで宮崎さんに会いに行く事になった。


「ところで、アルコール依存の治療って大丈夫なんですか? 竜姫さん小児心療内科が専門と言ってましたけど」

「これでも国立大の奨学生よ、それしか出来ない訳じゃ無くて、1番得意なのが小児心療内科なの。薬物依存も摂食障がいもうつ病もどんと任せて」

「じゃあ良いですか? 最近疲れ眼で……」

「うん、眼科のついでに耳鼻科も行こっか」

「竜姫さん、最近彼女とご無沙汰で……」

「それは管轄ではあるけど後で話そうね!」

「今度旦那とピーする時、パキューンでズガガガガした方が良いんだろうか?」

「椎名さん、カブせなくて良いんですよ!? あと、修正入る位直接的な発言を高校生がいる前でしないで下さい!」


なぜみんないきなりボケ倒して来たんだろう……最近シリアスが多いからその反動?

ちなみに準規君と後で話したら大ウソで彼女さんとはラブラブだった。とりあえず蹴飛ばしておいたのは言うまでも無い。




☆☆☆☆☆☆



椎名さんが来た翌日、私は仕事を終えて虎太郎サンと一緒に椎名さんに連れられて、名古屋からのアクセスも良い刈谷市にあるSelfjudgeのシェアハウスに来ていた。

6人も住むから大きいと思っていたが、3階建ての8LDKで、大きいが割とスッキリしていた。6人中3人は既婚者なので、住居というより別荘に近いらしい。スタジオは虎太郎サンの所を使うから、防音室が2階に少し大きく取ってあるだけでここでレコーディングはしないそう。その代わり防音室でカンズメになって曲を作る時もあるので、使用頻度は割とあると、椎名さんが遠い目をして言っていた。……心中お察しします。


「おいポンド、入るぞ」


返事は無いが、椎名さんは2階にある宮崎さんの部屋のドアを開けた。

すると、部屋の中は色んな酒の臭いと吐瀉臭で溢れていて、カンや瓶、カップやボトルまで色んな使用済みの容器が散乱していた。空いているスペースのホコリも多く、大ファンであるみのりちゃんが来たらショックが大きかっただろう。


「……アネゴ、なんか用?」


部屋の主は、ボサボサの赤い髪を胸辺りまで伸ばして、顔をこちらに向けた。椎名さんが凛とした雰囲気があるなら、宮崎さんは可愛いけど挑戦的な負けん気の強い目つきをしていた。だけど今、その目には羽根を捥がれた渡り鳥と同じ位の絶望した目になっていた。


「ちょっと話がある、先代とその同居人の東條竜姫さんが一緒でも良いか?」

「お酒飲みながらでも良い?」


近くにある酒が入っている瓶を取ろうとした宮崎さんを虎太郎サンが止める。


「5分だけで良い、話をしたいから少し待ってくれ」

「……5分だけだから」


宮崎さんにお酒を飲む事を中断させた虎太郎サンは、空いた容器を退かして地べたに座ったので、私もそれに倣って座った。


「ポンド、いつから酒を飲んでるんだ?」

「説教でもするつもり? そんなのどうだっていいじゃない」

「じゃあ話を変える、音楽が辛くなって来たのはいつ頃だ」

「脱退したクセに首を突っ込まないでよ! わたしの事なんて関係ないでしょ!」


少しヒートアップしてきたので、私が間に入って間合いを取る。


「少し落ち着きましょう、虎太郎さんは宮崎さんを怒らせたい訳じゃ無いですよ」

「あんたなによ! 先代の同居人の分際でなに? わたしを笑いに来たの?」

「いいえ、もしかしたらあなたを助けられるかもしれないと思って来ました」

「余計なお世話よ! 見ず知らずのあんたに助けられる筋合いは無いわ!!」


予想以上の力で突き飛ばされて、宮崎さんが近くにあった瓶を手に持って振りかぶって来た。思わず目を閉じてしまって、その直後ガラスが割れた音が聞こえたのだけど、私に痛みは感じないし、かといって至近距離で外した訳じゃなかった。


「タツ、あの場面で目をつぶったらダメだ、いくら避ける時間とスペースが無いとしてもな」

「そんなの言われなくたっ……!」


反論しようとすると、虎太郎サンの右手から血が流れているのが見えた。一瞬だけあの日の事を思い出して、心音が激しく鳴り響いた。


「先代大丈夫か!?」

「問題無い──ポンド、辛かった事を話して欲しいんだ」

「節操なしのあんたに、ギター1本でのし上がったわたしなんて理解出来るわけ無いでしょ! もう出て行ってよ!」

「ポンド!」

「アネゴもよ、みんな出て行って!」


宮崎さんの怒号は、寂しさと苦しさが混ざった悲しい響きを持っていた。しかし、今の私たちに思いは届かないだろうと伝わってくる拒絶感も含んだ叫びに、部屋を出て行くしか出来なかった。


下ネタが突然入ってすいません、椎名は下ネタ好きなバンド仲間に染まったという裏設定があるので大変男前な感じに。虎太郎は嫌いじゃないけど空気読みます。


追記 迷っていた宮崎の名前がごっちゃになってました、大変失礼しました。

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