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10話 捜査開始

驚きと同時に、スカッとした気持ちが私の中で入り混じっていた。元嫁に出会い頭引っ叩かれる光景もなかなか見れない。


「もう1度聞くけど、用件はなに?」

「こいつの手伝い要員だ、俺は付き添いで来た」

「……あら、あなたは?」


メグさんの視線がこちらを向いたと同時に、トゲトゲがスポンと取れて、優しい笑顔が現れた。前に映像で見たときよりも頬がこけていたが、綺麗な短い髪に、意志の強そうな凜とした表情は変わらない。理想の上司10年連続1位で、同性異性関係無くカッコ良いと言われる人だ。


「東條竜姫です、キッドとは幼馴染で、今回はちょっと協力して欲しい事があって来させてもらったんですけど……よろしいですか?」

「良いわよ、ごめんねビックア4の2人の後始末なんて厄介ごと引き受けてもらって」


ビックア4とはワイバーンズきっての変人4人組の通称で、キッドやひさぎさんもその中の一員だ。側から見れば面白そうだが、いざ当事者になると、台風が直撃した客船クラスの騒動が起こるので本当に、本当に迷惑だ。


「ありがとうございます。お邪魔しますね」


家の中は一流アスリートの家と納得できる大きな部屋に、落ち着いたインテリアに不釣り合いの電子ドラムが置いてあり、叩くポイントの所にマークがついていた。


「このドラムセットは?」

「レイが趣味でやっている練習用のドラムよ、プロというには下手らしいけど、なかなか上手く叩けるらしいわ。そりゃ虎太郎が指導してるから、多少は上手くなるでしょうけど」

「 えっ、虎太郎さんバンドやってたんですか!?」

「一応バンドで良く使う、ギター、ベース、ドラム、キーボードは演奏出来る」

「メジャー契約してるのに、一応って言わないでくださいよ、あれだけの腕前で一応だったら大抵のプロが廃業になっちゃいますって」


にわかには信じられないが、どうやら凄い人のみたいだ虎太郎サンは。まあ、虎太郎サンの腕前がどれ位凄いのか、それは今度確認するとして、今回はキッド夫妻の後始末だ。虎太郎サン曰く、説得だけで何とかするという事だ。まあ、警察沙汰にすると下手すればキッドたちが捕まる内容あるからね……。

私たちは椅子に座って、あれが無くなった日の事を聞いてみた。


「そうね、ひぃの料理に感動して、自分の料理スキルの差にガッカリしてたのは覚えてるわ」

「最初の頃よりは大分上手くなったのにな、砂糖無しのクッキーや、はらわた入りエビチリを作った時に比べればな」

「リアルな初心者ですね……」


洗剤で米を炊いたり、料理が消し炭になったりするレベルなら、漫画の読み過ぎで済むけど、その辺りなら実際にいる初心者がやりそうなミスだ。


「お嬢はチャーハン作るって言ってラザニア作るヤツだけど、家事スキルは凄いからみんな振り回しても何とかなるタイプなんだよ」

「米料理ですらない!?」


準規君がいると、ツッコミの手間が省けて楽だ。ひさぎさんもキッドに劣らずやらかし女王だが、キッドが自分で何とかしたり、助けてもらうタイプなら、ひさぎさんは何もしなくても助かるタイプだ。カジノでボーっとして1000円を10億円にする強運をちょっとだけでも、爪の垢だけでも分けて欲しい。


「現役引退して料理が上手くなったから、少し太ったのか?」

「おかげで腹だけ太ったわ、独身のあなたと違って」


ピリピリした空気と脱線気味の話をリセットして、アリバイを聞いてみる。


「そこから席を外したとかは無いんですか?」

「レイも私もコウもトイレ位は行っていたけど、そんな探す暇は無いわ」

「まあ、そんな事をやっていたと知らなかったら、10分では見つからないですよね」

「パソコンとか見せてもらっても良いですか?」


私が同意すると、準規君がお願いをする。証拠があるかも知れないから、失礼を承知で頼んでみる。


「どうぞ、動画のファイルを見せれば良い?」


思っていたよりも、あっさり見せてくれたメグさんの厚意に感謝しつつ、パソコンを開いてファイルを見たが、可愛い豆柴の映像があった時には、メグさんは恥ずかしそうに顔を隠していた。


「……可愛いものが好きで幻滅した?」

「そのギャップ、アリです!!」


グッジョブをしてメグさんを安心させた後、他にも怪しいものが無いかチェックしたけど、特に無かったので電源を切った。


「私の無実が証明出来たわね」

「はい、ありがとうございました」

「ちょっと良いか?」


私がお礼を言って家を出る準備をすると、虎太郎サンがストップをかけた。


「レイさんと一緒に、コウさんの家に行ってくれないか? 俺は少しメグさんと話がしたい」

「ちょっと失礼じゃ……」

「オレは構わないけど?」

「私も気にしないわ、少しサンドバッグが欲しかったから」


メグさん、やけに虎太郎サンに対して厳しい……嫌なら話さなくても良いのに。

そんな思いを持ちつつ、私たちは虎太郎サンを残して次の目的地に向かった。



☆☆☆☆☆☆



レイさんのあだ名はレイブンからきている、大カラスの様な狡猾なプレーをするからピッタリだと思う。

次に会うコウこと田沼鴻たぬまこうさんは、大きな鳥を意味する鴻とは違い、175センチの、プロ野球選手としてはそこまで体格の良い選手では無かった。その分狡猾なプレーをするレイさんに、敵に回したく無いバッターナンバーワンと言わしめる、技も足を使えるショートだ。


「レイ、どうした?」

「ちょっとキッドとお嬢がやらかして……」

「そっか……とりあえず上がって、そちらの2人もどうぞ」


またかという顔を露骨に出しながらも、私たちには丁寧に出迎えてくれた田沼さんに感謝しながら、お邪魔しますとちゃんと言って高級マンションの部屋に上がり込む。ぽっちゃり系の可愛い奥さんにお茶をもらって、ショートケーキを頂く。


「美味しいですね! どこで買ったんですか?」

「ウチで作ったんだ、喜んでもらって良かった」


こんな美味しいショートケーキを作れる奥さんだから、田沼さんのハートを射止めたのだろうなー。


「やっぱり休日はケーキ作れるのが良いね、奥さんが食べている姿を見るのも良いけど、色んな人に美味しいと言われるのも良い!」


田沼さん、あなたが作ったんですか……まさかのオトメン遭遇にも、何とか動揺を顔には出さず、これまでの事情を説明した。


「ドンマイ、レイ」

「のんきにしてるけど、コウだって容疑者だからな?」


プロ野球は、年齢で上下関係が決まる。キッドは別にして、年上にはちゃんと敬語で話す。田沼さんとレイさんは同期の高卒なので、かなり仲が良い様だ。


「それで、田沼さんは──」

「コウで良いよ、奥さんもいるし、キッドで敬語出来なくても慣れたし」


田沼さんの厚意に甘えてここからはコウさんと呼ぶ事にする。ところで、キッドも結構運が良いと思う、人の巡り合わせが抜群に良いからだ。ワイバーンズに入って本当に良かったんじゃないかな、敬語を気にしないスポーツの先輩はなかなかいないと思うよ?


「推理小説の登場人物になった気分だ、疑われてオロオロする役かな」

「パソコンとか見せてもらって良いですか?」


コウさんは少し考え込んだ後、両手を挙げた。


「……実はやったのは僕だ」


割とあっさり犯人が見つかり、推理小説だったら肩透かしも良いとこだけど、一応お約束の言葉を聞いておく。


「……どうしてこんな事を?」

「積もりに積もった恨みかな、あの2人は敬語もしないし、トラブルの種を撒き散らす。ちょっと慌てさせたかったんだ」


レイさんがコウさんの胸ぐらを掴んで、ニッコリ笑いかける。ただし、目は獰猛な肉食獣が逃げ出す程にギラギラしている。


「……お前、いい加減にしろよ」

「レイには分からなくても良い、もちろん、反省してるよ。その証拠にコピーした後は消した、全部確認してもらっても良い」


その言葉にハッとした顔を、レイさんは一瞬だけ見せた。その直後、準規君が2人の間に入って、穏便に済ませようとする。


「ここでケンカしたら、近所の人が怪しむから、一旦落ち着きましょうよ」

「……助かったな」

「そうだね、助かった」


録画媒体を早送りで確認して、全部消去してあるのが分かったので、マンションを出て虎太郎サンに電話をかけた。


「もしもし、虎太郎さん」

「どうした、タツ」

「コウさんが自白したよ」

「メモリーはどうした?」

「罪悪感で消したって」


コウさんが犯人だと報告すると、虎太郎サンは少し間を置いて口を開いた。


「ありがとな、今度の休み開けておけよ」

「別に虎太郎さんの予定に付き合いませんよ」

「いつも頑張ってんだから、ケーキ奢らせてくれ」

「なっ……! とっ、とりあえずそっちに戻りますよ!」」


不意打ちでそんな事を言われて、ちょっとときめいた私は安っすい女だなと思う。これはあれだ、彼氏が長い間いないから、人肌が恋しいだけなんだうん。

電話を切った私をニヤニヤした目で見ている準規君をヒザ蹴りして、私はとりあえず中上邸に戻る事にした。



☆☆☆☆☆☆



「で、好きな女子に面倒ごと任せて、私のサンドバッグになりたい程マゾなの?」

「仮にも夫婦だったのに、めちゃくちゃ言うんだな」


タツがコウさんの家に行った直後、 俺はメグさんと少し話がしたくて家に残った、玄と澪の顔がもう少し見たかったのもある。……って、何でタツが好きだって分かったんだろうか?


「玄と澪の顔が見たかったからな、立派に成長したよな……男の娘がいたけど」


玄はれっきとした女の子だが、澪は男の子だ。俺も最初に聞いた時には逆の方が良いと思ったが、いざとなったら名前を逆にすれば良いと、名づけた本人が頑なだったから、諦めた事がある。


「小学生に上がる頃には、ちゃんと男子の格好をさせるわよ。澪が体弱いの知ってるでしょう?」

「メグさんに似てな」


後で昔の風習で男の子を守るために、女装させて、鬼や悪魔から身を護るという迷信をさせていたのを知った。名前も女子に男子の名前を、男子に女子の名前をつけたのも同じ理由で、陰陽思想から男子は陽、女子は陰の気を持っていて、相対するものを着たり名前をつけると魔除けになるという話がある。玄は大丈夫そうなので、名前だけで男装はせず、澪は病弱だったので、女装もさせて迷信にすがっているのだろう。


「思ったよりも子供が好きなのね」

「ロリコンでもショタコンでも無いぞ」

「赤の他人の子供を育てる事が出来るんだからそうでしょ? 今回は純粋な意味で言ったのよ」


兼任監督時代、情報管理がしっかりしていたので有名なメグさんだが、玄と澪の出生は限られた人にしか知らない最大級の秘密だ。

では誰なのか? 教えてもらえなかったが、少し考えれば大方分かる。偽装結婚して監督を続けていたという事は、監督の立場ではあまり推奨されない相手という事になる。職場の部下──コーチ、あるいは選手の誰かだ。球団職員ではえこひいきなどはそこまで関係無いし、一般人や芸能人は公表しても、余程の事がない限り外部からバッシングは受けないからする必要が無い。望まない出産で隠すという線も、使える物は何でも使うメグさんなら、同情を買ってもらうために公表して悲劇のヒロインを嬉々として演じるだろう。その辺の外聞を気にする人では無いのは出会って半月で分かった。


「いつ知らせるんだ? 本当の親を」

「2人とも聡明だから、途中で気づくでしょう、正式に公表するのは子供たちが成人してから」

「……それを公表する時に、メグさんはいるのか?」

「…………」


メグさんが一瞬視線を逸らしたという事は、悲しいが当たりという事だ。顔は痩せたのにお腹は太る、一応カマを掛けてみたが……。


「末期ガンだな、腹水からして肝臓か胃腸か」

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