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ぼっちな私のユリハー思案  作者: あこ
プロローグ
2/19

帰り道

「実はあなたのことが気になっていたんだ」

 え、それって。

「そうなの。友達としてじゃなくてね……」

 まさか、本当は。

「恋人として気になっていたの」

 わ、私も――


「好きだよ……」

 目の前には顔を赤くさせる妹がいた。

「な、何するのお姉ちゃん……っ」

「へ」

 しかと正面を確認するに、妹の千夏の顔を両手で挟んでいた。

「ね、ねぼけてないで、ご飯できたから早く起きてねっ」

 綾香の手をはたいて千夏はベッド際から足早に離れて、逃げるように部屋から出て行った。

 はっとして今の出来事を想起する。気づかない間に寝ぼけて千夏にキスをしようとしたようだ。

 冷静になって考えてみると、妹の顔をつかんで告白まがいなことをするのは流石に恥ずかしい。それに、千夏は顔を赤くしていたし、寝ぼけていたとはいえ酷いことをした。

 そう反省をして、綾香は千夏のご飯を楽しみに思いながらも何といって謝るかを考えながら彼女は素早く着替えをした。

                 1

 元々妄想癖のある綾香であるが、昨日の友人、西条莉奈を夢の中に登場させて告白をさせるとはどうも頭が悪い。

 いつもはギャルゲーのキャラクターといちゃいちゃする妄想が定番であるが、今日の綾香は登校時に夢の内容が頭に残っていつもどおりとはいかなかった。

 まあ、妹が朝ごはん中に顔を赤らめながらちらちらとこちらを伺ってくるのもあって無意識に頭が働いていないというのもある。

 綾香は表面上妹の様子を風邪か何かだと心配をして彼女にそれを伺ったが、内面は気があるのではないかと期待していた。

 そんな登校時は、徒歩で通う中、学校前までずっとにやけていたために知らぬ間に周囲から引かれていたのである。

 それをみているのは他人だけでなく――

「え、えと、だ、大丈夫? 桐生さん」

「ひゃっ、あ、え、と……西条……さん?」

 挙動がおかしくなりながらもその呼びかけに反応する。若干彼女の名前を忘れて、戸惑っていたが彼女の天使のような声に気づいた。

「あはは……相変わらずだね」

「え、と?」

 要約するとどういうことですか? である。

 であるが、莉奈がそれにすぐ気づくことはなく頭を捻った。綾香はしゃべりに難があるゆえに友達関係としては日が浅く理解に戸惑うのである。

「相変わらず気持ち悪いやつだろ。物好きだねー莉奈は」

 聞き覚えのある悪魔の声が横槍をさしてきた。

「え、気持ち悪い……」

 ちょっとだけ涙目になる。

「み、水瀬さん!」

「あ? 別に本当のことを……」

 悪魔の人は莉奈のほうから視線を綾香のほうに向けると、瞳をうるうるさせる面相を見せているために阿吽を漏らした。

 綾香が終始にやけていることなど自分からじゃ判断つかないし自覚もないために、単に気持ち悪いといわれてもその意図が図れない。そのために涙をためているわけだが、彼女のにやついた様子もなく顔を赤くさせて今にもなきそうな表情をされては悪魔の人と綾香に認知された水瀬は不本意ではあったが圧倒されて気を落とした。

「悪い悪い。冗談だよ冗談。ほらほら」

 と、水瀬は強引に綾香の肩を抱いて頭をなでた。綾香は手で目元をこすった。

「なんだ、かわいいやつじゃないか。一緒に行こう」

 水瀬は綾香の肩を抱いたまま校舎のほうに足を向ける。綾香はされるがまま、水瀬によっていた。

「ちょっと! 私のこと忘れてない?!」

 焦って莉奈は叫ぶ。

「あ、ちょいと流れでこのまま行くとこだった」

 水瀬はのんきなことをいって、それに莉奈は顔を膨らませて怒りを表す。

「もう。じゃあ、私桐生さんの隣にいこうっと」

 といって、水瀬が肩を抱く綾香の元に急ぎ身体を押し付けるように隣にいった。

「へー桐生っていうの。つか、この体勢結構暑いんだけど……」

「自分でやっておいて何いってんの……」

 二人がそう話す様子を耳にして、また二人に囲まれて綾香は楽しくなっていた。

 妄想による自己満なんかじゃない。妄想によってもたらせるのは頭中の平安であり、空想であり、空虚感である。妄想しては、顔を自然とにやけさせるものだが、今の綾香の表情は違う。

 嬉しく微笑み、あどけない少女の顔をしていた。

             2

「今日、水瀬さんの家に泊まれないかな?」

 昼休みの終わり。綾香は莉奈に誘われて水瀬を交えて食事を取っている最中に、莉奈は突然水瀬に懇願した。

「はあ? 無理だっての。つうか会って三日だろ? 流石に渋るぞ」

「ああ、そりゃそうだよね」

 残念そうに莉奈はうなだれる。

 その話を聞いて、口に出すことは今の綾香には難しく身体を揺らしてそわそわしだした。

「何か自分の家に不都合があるのか?」

「えっとね。ちょっと子供っぽいと思われるかもしれないんだけど……」

「前置きはいい」

 今度は箸を置いて手を膝に置きひっそりとした様子で構える。

「今日、両親がいなくて家で一人になるの。それで……一人で家にいるの怖くて」

 恥ずかしそうに莉奈はいう。

「ああ。まさか高校生になってそういうやつがいるとは……、悪いけど他の人に頼んで」

――これは私に回るターンだ!

 と期待に胸を膨らませるが、

「そっかあ……誰かいないかなあ」

――来る……。

 そう思って期待はしたものの莉奈は弁当に再び手をつけた。

「…………」

 嘘でしょ。

「あ、そうだ桐生さん」

 莉奈に呼ばれる。今度こそ……。

「次の授業の英語だけど桐生さんって英語得意なの――」

「そ、そっち?」

 と、つい本音が出てしまう。

「そっちって?」

 そう問われて素直に、私の家なら泊まれるけど、なんてすぐに言えるわけもなく目線を揺らして答えに惑った。

「お泊りのことじゃないか」

 水瀬から助け舟がくる。

 ぱっと顔に明るみが出てくる。

「あ、もしかして泊まらせてくれるの?」

 莉奈は嬉しそうにきいた。

 彼女の明るい口調からわざと綾香をはずした様子はない。彼女の様子に少し訝しげになってみるが、不意に水瀬と目が合い、

「桐生がしゃべらないから勝手に判断したんじゃないか」

 と小声で綾香に水瀬はささやいた。

 会話に入り込むことは綾香自身難しい話である。会話は常にギャルゲーからの知識の入用であり、ギャルゲーの会話というのはほとんどが二人である。二人の中に一人が入り込んだり、三人での会話はギャルゲーにはあまりなくそういったシュミレートができていなかった。

 まあでも、昨日の今日で嫌いになってわざと外される、という意図がなくてよかった。

 表情には出さなかったが、心の中ではかなりの安堵感があった。

「どしたの二人とも?」

「ん、いやなんも」

 不自然に水瀬はごまかす。莉奈はそれを不思議に思っても、追求することはなく再び話題を元に戻す。

「桐生さんの家は泊まっても大丈夫なの?」

「う、うん。親は出張でいないし、妹がいるくらいで……」

「へー妹さんがいるんだ」

 他愛のない会話だが、綾香は内心、私会話していると思っていた。

「千夏っていうんだけど、料理が上手で勉強ができてかわいくて、小学生なのに私よりしっかりしているの」

 妹のことになると流暢に話す。

「良い子なんだね」

 莉奈のその感想に綾香は少し感慨深く浸った。

 妹は本当に良くできた子である。親がいない間、本当は姉である自分がご飯のことなどしっかりしなきゃいけないのに、料理はうまくできないし、率先してやると宣言した妹に任せっぱなしである。毎日、起こしにもくるし、それに、姉である綾香をよく心配している。

 本当は妹が姉で、姉が妹のような関係のようだけど妹は本当に良い子だ。

「うん」

 そう端的にうなずいた。

 綾香と莉奈の会話を横目に、コンビニ弁当を食べている水瀬はそれを一気に食べた。

「それじゃあ、早速今日一緒に桐生さんのうちにいっていい?」

「もちろんだよ」

 即答した。

「莉奈、そのまま行くのか。着替えとかは」

「大丈夫だよ。桐生さん、貸してくれる?」

「う、うん。サイズ合うかわからないけど……」自然と莉奈の胸元に目がゆく。

「大丈夫だって。着れれば大丈夫、ね?」

 と、綾香と水瀬に了承を求める。綾香と水瀬、それぞれにその意味は違うが、綾香は縦に首を振って、水瀬は首を傾けた。

「ま、いっか」

 水瀬はそういって、空になったコンビニ弁当の容器を袋につめた。

「もう時間ないから早く食べるといいよ」

 水瀬は二人を急かし、彼女は自身の机に戻って次の授業の英語の支度を始めた。

「早く食べてもどろっか」

「うん」

 莉奈にも水瀬にも言われ、そう時間もない中、残り一口の妹の作ったおかずをかみ締めながらゆっくりと片付けて、席に戻った。

                3

 放課後まで初めて友達を家に連れるということでドギマギしていた。

 別に得意でも不得意でもない英語の授業中だって、終始考え事で板書など進まず莉奈のほうを見遣って惚けていた。

 ギャルゲの定番でいえば一緒に寝ることだろうか。綾香の考えからすればかなり突飛なことを思い至ったが、真っ先に泊まりで想像するのは睡眠の方法であった。部屋はちらかっていない(妹が片付けている)し、ただいえばベッドがひとつしかない。布団もないわけで……冬用の布団があるがそれを床に敷くのがいいのか――といった考えが莉奈を見遣って妄想するから授業など聞く耳なかった。

 元々先生の授業を聞いて勉強のできるタイプではない綾香だ。いまや授業なんてものより、今宵のお泊りに悶々して仕方がないのである。

「どしたの? もう帰る時間だけど」

「っは、西条さん?」

 あまりに妄想にふけっていたあまり帰りのホームルームでさえ意識なく、莉奈に声をかけられるまで正気がなかった。

 帰り支度の済んでいる莉奈はかばんを片手に綾香の席によって声をかけたのだ。

「よく話しかけられるなー。すげー、妙な顔してるやつに」

 教卓側の傍で遠目で歯に衣を着せない感想を水瀬はいう。

「わ、私変な顔してた?」

 戸惑いながら莉奈にそうたずねる。

「え?」

 その問いに莉奈は困った。焦った様子で水瀬に懇願のまなざしを向ける、が綾香の不安はそもそも水瀬のせいであり莉奈は率直にいう。

「えーと、一般的に近づきにくい顔だった、かな?」

 逸らしたような言い方でいった。

「ど、どういうことなの……」

 一般的の基準が綾香には少々わかりにくいというものもあり、話はすぐに乱された。顔を赤らめてにやつく姿が人を疎遠させることはまだ彼女にはわかりかねるのである。

「まっ、まぁ、早く帰ろうよ。私、桐生さんの妹さんに早く会いたいな」

 口もどかしい感じもするけど、そう急かされては、綾香はかばんを取っ手から取り支度を終えて莉奈、水瀬と共に帰路についた。

「桐生さんの家楽しみだなー」

 莉奈は屈託のない笑顔をして話す。

「そ、そんなこと」

 会話に慣れていないためにテレながら顔を俯けて、度々莉奈のういう話にうなずいたりそれとない応答をするばかりであったが、顔を俯けているのは、他にも理由があり。

「……じー」

 水瀬にじっと見られていたのである。

――な、なんであの悪魔の人こっちにらんでいるの?!

 それが今まさに綾香の心境であるが、帰路の途中ずっと会話に入らずこちらをにらんでいるために不安であった。

 綾香にとって水瀬の印象は悪魔の人と呼称するように、最初に誘おうとしていた莉奈を阻害したり、どいうわけだが批判や弱点をつくという悪態。いい印象などなかった。

 莉奈がいるから平気そうな素振り(実際赤くなっている)をしているが、彼女の訝しげな視線が不安を煽ってくる。

「私には兄弟いないから、桐生さんの妹が楽しみだよー」

「そ、そうなんだ」

「じー」

――まだこっち見ている。

 丁度分かれ道に差し掛かったところで莉奈は足を止めた。それに続いて綾香も足を止めるが、水瀬が近くに来るために若干怯えていた。

「水瀬さんは、こっちのほうだよね?」

 T字の道路でコンビニのある反対側の道路を莉奈は指さす。どうやら、コンビニ沿って帰る綾香の家とは違う方向のようで、心中ではガッツポーズしていた。

「ああ」

 水瀬はひとつ返事。

「じゃあ、明日――」

 『ね』とつくところ水瀬は口を開いた。

「ちょっと小腹すいちゃってさー。なんか食べよう」

「え」

 思わず声が出てしまった。

「ええ、昨日も食べたじゃん」

「いいじゃん、綾香もいることだしさ」

 こちらを見る水瀬。笑顔が妙に怖い。

「わ、私は別に」

 そう困惑気味に否定を試みる。

「んー、そだね。なんか食べようか」

 試みたものの声があまりに小さくて聞こえなかったか。

「よし、莉奈買ってくるんだ」

「ええー」

 なんだか勝手に話が進んでいる様子。それを綾香は呆然と眺めていた。

「仕方ないな。桐生さんは何がいい?」

「え」

 突然話を振られたので驚いた。

「コンビニのレジのところにあるやつだよ」

――コンビニのレジのところにあるやつ?

 綾香にはそれが何なのかわからなかった。コンビニがどういうものが理解できても、中に入ったことがないためにそう曖昧に言われても何があるのかわからない。

「え、え、えっと」

 答えを先延ばしにしながら、思案を重ねるがどうもまとまらず口ごもる。

「……からあげさんがあるだろ。あれ、三味あるから一つずつ買ってきてよ」

「あ、からあげさんね。そだね、みんなで分けて食べようか」

 綾香が口ごもって混乱しているうちに、水瀬が助け舟を出し莉奈がそそくさとコンビニのほうへ走っていった。

 それをぼんやり見送っていたが、水瀬と二人きりになる状況をみて――自分も莉奈と一緒に行けばよかったと後悔する。

「どうしたの?」

 あまりに露骨に肩を震わせる綾香を不審に思った水瀬が声をかける。

「っえ! な、なんでもないよ……」

「なんでもないことないだろ。ていうか、綾香って一人になるとにやついたり、顔を青ざめたり、焦ったり、表情豊かだな」

――自然に名前を呼ばれた……。

 綾香は名前を呼ばれたことに関心していた。

「っふ、今度はにやついているよ」

「へ」

「こうも表情に出やすい人なんて珍しいよ。でも、見てて飽きないからいいけどな」

 そういわれて気づく。昔から妹にも表情は出やすいとは言われてはいたが、まさか心中まで見抜かれているとは。そう思うのは、水瀬を思案するにあたり昼の光景が目に浮かぶのだ。さっきもそうだったが、不十分な口ぶりと表情で自然と助け舟を出す彼女は実はいい人ではないか。

 心の中で勝手に悪魔の人だと揶揄したのは非常に申し訳なく思うわけだ。

「? なんで落ち込んでんだ?」

「え、いや、何も」

 それを言ってしまうのは愚かなことだ。思ったのは自分であり他人に吹聴しているわけではない。言うことにより水瀬は多分何か気の利いたこといえることもないだろう。実に無駄なことだ。けれども、綾香の中では、自分でも自分のことを難解で口に出すことの遅い人であると思っているのに、それを表情の機微で読み取る水瀬に本当の意味で嬉しく思うのである。だからこそ、そういった罪悪感が生まれるわけだが、これは心の中に留めておくことにしよう。

「……お前さ――」

「買ってきたよー」

 水瀬が何かを言いかけたところを買いに戻ってきた莉奈が駆け寄って声を上げた、

 何を言おうとしたのか一瞬気になったが、莉奈が手に持つからあげさんとやらを見てその気はそがれてしまった、

「おいしそうだ……」

 ぽつりと感想述べる、どうやらからあげさんには三種類あるようで、赤いパッケージに入ったもの、青いパッケージ、緑のパッケージと、からあげ自体の色に変わりは見られないけど入れ物は違った。

「私、青ね」

 と、真っ先に水瀬は青を莉奈から取り上げた。

「ちょ! 何も言わずに……」

「いいじゃん、どうせみんなで一口味見すんだから」

「まぁそうだけどさ」

「えっと、西条……さん。どれがどの味なの?」

 ちょっとは慣れて難が見られないようには話せるようになったが、まだぎこちなく莉奈にはなしかけた。

「赤が辛味で青が甘味、緑は……苦味だよ」

 緑を苦味というところで言葉が詰まったということは、きっと緑はおいしくないのだろう。しかし、辛いの苦手な綾香的には甘味が一番食べて平気なものだったが、すでに水瀬にとられてしまっている。先ほど、彼女を見直したとはいえ身勝手で歯に衣着せぬ態度は相いれないものだった、

「緑にしようかな」

 辛味よりましだろうと思い緑を選択する。

「桐生さん果敢だねえ」

 関心していう莉奈。そんな大袈裟にいうものかと、目を丸くさせた。

 そのやり取りを見て水瀬は一人でさっさと甘いからあげを一口食べており、頬を一人緩ませていた。綾香も、苦いからあげを頬張り味を確認するが――顔がすぐにこわばった。

「だ、大丈夫?」

 莉奈が心配して綾香の背をなでる。からあげの味の苦味を想像できないわりに、口に含んだはアツアツのよい衣のついたからあげであったのに噛んだ瞬間から嫌な味が広がった。嘔吐するほど嫌な味ではないが、コーヒーも緑茶も飲めない綾香にはからあげの味を損なっている苦味が邪魔で仕方なく理解できないものだった。

 ただ、かみしめばうま味は出るので苦味があっても少々おいしく感じるのであった。

「綾香、これを食べろ」

 水瀬が横から甘いからあげを渡してきた。

 つまようじに刺されたからあげ一つを手渡されて、一瞬綾香は受け取りを戸惑うがそのまま手に持った。

「甘いのはおいしいよ」

 莉奈はそう教えてくれる。

 そのからあげを見ても、最初に見た通り何の変哲もないからあげにしか見えない。噛むと甘味が広がるのだろう。その認識をした後に、綾香はやましい想像をする。

――この爪楊枝水瀬さんが口につけたものだよね。

 先ほどの二人の会話をするまでは悪魔の人と思っていた水瀬だが、綾香のことをよく見ていたり助言をしたりと献身的な態度が見られる(意地悪なとこある)。もしかして私のこと好きなんじゃね。なんていう、ばかばかしい想像が、ギャルゲのやりすぎでしてしまうために、こういった間接キスのようなものには敏感だった。

 ごくん、とのどがなる。甘味のからあげを前にして、もはやさっき口にした苦味のからあげの味を忘れてしまった、ただ、そのからあげの味よりも口につけることに緊張して淡い吐息が出るのだ。

「はーい、時間切れー」

 突如そのようなことをいわれ、横から水瀬にからあげを奪われ食べられてしまう。

「んー、おいしい。もたもたしてるからだよー」

「あ、全部食べちゃってるじゃん」

 目の前のからあげはなくなった。しばし、空虚な時間が流れる。

「食べたかったよ……」

「も、もしかして食べたくないとかじゃなかったの?」

 水瀬は、じっとからあげを見る綾香の姿が拒否の様だと思いそのような行動をしたようだ。

「普通甘いのでそんなわけないよ。水瀬さんマイペースだし、突然すぎるよ!」

 取り乱す水瀬とちょっと怒っている莉奈。もともと表情のわかりにくい綾香の真意などそうはっきりとわかるはずない。

 当の綾香というと、がっくりとうなだれていた。甘味のからあげがどのような味なのか気になるよりも、水瀬が一度口にした爪楊枝に口をつけられなかったことが何よりも心中を痛めていた。

 そんな偏った変態精神など、コミュ能力の低い綾香の意図を読み取るよりも難解であり、鋭い水瀬でさえそんなこと想像だもしない。

 莉奈とけんかする水瀬を、声に覇気がない具合でけんかを仲裁し、三人仲良く残った辛味と甘味のからあげを食べた。

 食べ終わった後、コンビニの敷地を出て水瀬は西条と綾香とは別の方向に帰るためくるぶしは左を向けた。

「水瀬さん、じゃあね」

 とお別れの挨拶をする莉奈を見習って、

「み、水瀬、さん。じゃあ」

 といった。ぎこちなかったが初めて莉奈と友達になったとき莉奈が見せた笑顔を真似して笑ってみるが自分でも固いのがわかる。でも、今はこれが精いっぱいだ。

「ははは」

 水瀬は口に手を置いて嬉しそうに笑った。

「どしたの水瀬さん、笑って?」

 訝しげになって莉奈はきく。

「うんや、何にも」

 そういってみるのは綾香のほうだった。綾香は首を傾げた。

「んじゃね。二人とも気を付けてね」

 短いお別れで水瀬はさっさといってしまった。

「じゃあ帰ろうか。早く桐生さんの妹さんにも会いたいし」

 にっこりといって笑顔を見せる。

 そうだ。妹はご飯を作って待っているだろう。妹のためにも早く家に帰らなければ。

 綾香は家に招待する莉奈のために率先して前に出て彼女を赴く。でもなんだか名残惜しく、心持ならない気分に浸って足を止めた。

「どしたの?」

 そうきく莉奈に適当に首を振って、さっきいたコンビニを横目に歩き出した。

ーーきっと友達とはこういうものなんだろう。

 何か懐かしく思い、また苦しく思い。屈託のない笑顔をした誰かの差し伸べる手が思い出されて、また彼女は胸を締め付けられた、 

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