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ぼっちな私のユリハー思案  作者: あこ
西条莉奈編
14/19

空白・過去

「あ、ごめんね。水瀬さん、今日ちょっと用事あるから」

「そうか。悪いな、引き止めて」

「うん」

 授業を終えた放課後の教室。水瀬灯里はいつものように西条莉奈の机に赴き下校を誘ったが、自然なままに断れた。断られるのは何度もあることだから、灯里も莉奈もお互い淡々としていた。

 莉奈は灯里に澄んだ瞳で一瞥すると、カバンを持って黒板に近い席にいる一人の女子の手を引いて教室を去っていった。それを見て灯里は思う――今日もか。

 一瞬だけ莉奈から手を引かれた女子の照れるような仕草が瞳にちらついた。これだけでも何を示唆しているか十分な証拠が揃っているわけだが、とかく灯里は溜息をついて誤魔化した。

 不意にカバンからスマホを取り出して画面を覗き込んだ。これといって深い意味はないが、強いて言うならば妹からメールが来ているか確認している呈であるくらいだ。別にバツの悪さを払おうとしているわけではない。だが、

「……今日のご飯なにつくろっかな」

 誰宛にもならない呟きが薄紅の唇をつつくばかりであった。

 その場で立ち尽くしたって仕方がない、と足は教室を後にした。

 行きつけのスーパーにて、適当にご飯の材料を何日か見越して購入した。カゴいっぱいにセール品を詰め込んで、会計を済ましエコバッグがないことに気づくもレジ袋二枚分の出費に無駄を感じていた。結局、レジ袋二枚にぎゅうぎゅうに詰めて買い物を終えたモノの、その重さに若干の後悔をしていた。

 買い物した商品プラス学校のカバンも持っているのだから重くて仕方がない。とはいえ、買い物の仕方に主婦感が出ている自分自身に、なにげに年老いを感じるのは複雑な気持ちだ。

 まあ、妹と二人暮らしを初めて一年も経てばこうなってしまうのは仕方のないことだろう。

 年の早さを感じながら、頭の隅で蘇る一年前の事。

 今は夏も過ぎ去り、夏の残り香を多く残した秋であるが……。もう一年経った。

 途端に買い物袋の重さを忘れて寄り道をすることにした。

 こんな物を持った状態で寄り道なんて甚だ忌まわしいことに違いないが、秋ともいえぬ季節感がそうさせるのだろう。なんて、秋を知らない季節感のせいにして足は勝手に進んだ。

 寄り道とはいえ、灯里の家路の通りにそれはある。ただいつもの帰り道と違うだけで一応家路の動線ではあった。

 一軒家の立ち並ぶ住宅地。閑散とした地に、レジ袋の擦れる音が鳴る。少しだけ足早となった足音と一緒に混じって住宅地で鳴るその音は、灯里だけのものだった。

 音が止んだ時、灯里は一軒の玄関前で立ち止まった。そこの表札には、佐倉という文字が表札に深く掘られていた。

 佐倉とは、一年前――入学当初知り合いだった佐倉冬美の苗字だ。灯里の直接の知り合いではなかったが、莉奈を間に一緒に昼食を取っていたのを思い出す。

 今はその彼女はいない。去年の夏にあった出来事によって、彼女はいなくなった。

「…………」

 冬美はしばらく不登校になった後、冬に差し当るところで転校した。それは無論彼女が告げたものではなく先生から告げられたことだ。理由は確か曖昧な言葉で濁されていた。

 灯里はその時できるだけ達観に徹して聞いていたが、やはり心中は穏やかとはいかなかった。だが、話を聞いている最中にチラと見た莉奈の表情、彼女はどこか苦悶したような、いつもと違う表情していた。

 その表情の所在を直接聞いたわけでもないが、未だに心の奥底に眠っている。莉奈は冬美のことをどう思っているのだろうか。元恋人の彼女のことを。

 莉奈に一度だけ冬美のことをほのめかしたことはある。その時彼女が言ったのは、小さなごめんなさいだった。

 それ以降、冬美の話はしない。冬美が莉奈の悪癖に巻き込まれただけの話。莉奈は今、それを忘れたように、よく女の子を捕まえてはお出かけをしているようだ――二の舞になってなければ良いが。

 そんな不安も過ぎって、佐倉冬美の自宅前で立ち止まっていた。インターホンを前にして、それを押す勇気もなくため息だけをついて過ぎ去った。

 佐倉冬美がいなくなって一年。彼女と過ごした日は少なくとも、この一年確かな空白があった。

 灯里は二度所在不明のため息をついた。

 物思いにふけったところで、灯里の足先は自宅へと赴いた。


「ただいま」

 元気のない帰宅を伝える言葉に返ってきた迎えの言葉は家の奥から聞こえてきた。だらしのない返答に、妹の将来性を疑った。

 玄関から入って廊下の側に妹の部屋はあり、大体灯里が家に帰ると妹の部屋前にはランドセルが置かれている。今日も例に違わずランドセルが置かれおり、口酸っぱく言っているはずの注意に効果の薄さにうなだれる。

 まったく、といった具合に呆れる姉の灯里。親がいないせいもあって、妹はだらけ、姉は益々母性を助長させていた。

 と、ランドセル近くに紙が落ちているのに気づく。開けたランドセルからこぼれたようで、それを妹の夏奈子は気づいていないようだ。まあ、ガサツにランドセルを置いている性格の妹がそんな些細なことに気づくわけはないだろう。

 そう思って、一旦買い物袋と学校カバンをおいてその紙を拾い上げた。

「……保護者各位様、三者面談のご案内」

 紙には恒例行事の案内が記されていた。

 そーいえば去年もあったな、と、母親が家に戻って夏奈子の面談に付き合っていたのを思い出す。

 今年は、と想起するに、母は年末に帰ると言っていたことを思い出した。ならば、この面談、

「私が行かなきゃいけないかな……」

 一瞬面倒な具合が胸中に生じたが、それを無理やり呑み込んだ。

 灯里は夏奈子を呼びながら、買い物袋と学校カバンそしてプリントを持ってリビングに入っていった。

「はーい?」

 気の抜ける返事で、ソファーに寝そべって漫画を読む夏奈子。だらしのない妹に諦観するような眼差しを向けて口にする。

「今月三者面談あるんでしょ?」

 前振りもなく、本題を口にする。夏奈子は驚いたように、ソファーから飛び上がって向き直った。

「そ、そうだっけ?」

 白々しい面でこちらを見る夏奈子。

 はあっと息を吐いて、証拠のプリントを仕向けた。

「お母さんもお父さんもしばらく帰ってこれないから、私面談行くよ」

「ええ、お姉ちゃんがっ?!」

 露骨に嫌そうな顔をする。姉としてはガックリくるだろうが、灯里的には腹立たしい面である。

「仕方ないでしょうが、私しかいけないんだから」

 そういうと、夏奈子はうな垂れながらも受け入れた様子だった。

 妹のなにげな可愛さに癒されてながら、制服から着替える準備をする。

「で、夏奈子。あんたの担任の先生なんていうの?」

 着替えに洗面場を使っている最中、妹に語りかける。大声で返答を貰い、

「藤山先生だよー。去年と一緒だって言ったじゃん」

 それを聞いて四月あたりに聞いたなっと思い出す。

 確か藤山ヒトミ先生だったか。妹からそれを聞いて、担任はかぶることがあるんだと思っていた。

「藤山先生か、わかった」

 一人納得したそそくさと着替えを始める。

 今日の夕飯の支度を考えながら着替える。頭の片隅で、三者面談でどう受け答えするかイメージしていた。

いつまで続く(早い投稿)か判りませんが、

止まったら二年後って思ってください\(^o^)/

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