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ぼっちな私のユリハー思案  作者: あこ
西条莉奈編
12/19

西条の家・過去


       プロローグ


 気は張っていたと思う。

 中学に入って、人並みに友人関係を築けるとは思っていなかった。いや、築こうとしない。むしろ、排他的でいてあんまり人は近づけないようにしようと試みようとしていた。

 水瀬灯里には、妹を第一に気にかけなくちゃならない。姉として、親に任された身として当然だ。

 だから、友達なんてできるとも思わなかったし、作ろうとも思わなかった。けれども――、

「あの水瀬灯里ちゃんだよね? これから三年間よろしくね」

 可愛げな顔をした子が話をかけてきた。例えるなら天使のように全てを優しく包み込むような笑みをしていていた。彼女は無愛想でそんな彼女と真逆な灯里に話かけたのも、多分、灯里が彼女の隣の席だったからだ。

 彼女が灯里の名前をフルネームで読み上げたのは、黒板に貼られた座席表を見てからのことだ。

 灯里もそれを見ていた。隣の席くらいの人の名前は知っておこうと思ったのだ。確か名前は――、

「西条莉奈……」

「うん、莉奈でいいよ! 灯里ちゃん!」

「ああ……」

 もどかしい空気が流れた。

 灯里にとって、今は妹のことで手一杯で友達関係を求める必要などなかった。

 彼女と席が隣であったことが、その始まりだというのならば――拒絶をすればよかった。

 などは思いもしない。彼女の天使のような笑顔に、灯里はそっぽを向いて小さく笑みを零していた。



 席が隣同士であるために知り合った彼女、西条莉奈。彼女は人当たりが良く、まるで犬のような性格の女の子だった。

 隣であった水瀬灯里だけでなく、複数の友人関係を築いているようで四月半ばにして、彼女が水瀬以外と親しく話す姿を目撃していた。

 称賛すべきコミュニケーションの高さに、水瀬も心底では尊敬の意を示していた。そんな清高な様子に対して、鼻も掛けない可愛げな姿は、女の立場から見ても清く見受けられた。

 そんな彼女と知り合って、もう三ヶ月くらいが経つ。夏休み目前の月日。彼女と知り合ってもそうだし、中学生に上がって初めての夏休みが迫っていた。

 そんな時だった。それを皮切りに、西条莉奈はいう。

「どこかに行こうよ! 灯里ちゃん!」

 給食の時間の最中、彼女は嬉々としていった。

「あー、そうだな」

 と、水瀬は適当に答える。

「もー反応薄いよー、ねー、冬美ちゃん」

「う、うん。そうだね…………」

 莉奈のまったく、といった声に佐倉冬美は俯いて答えた。

 少し凛として暗い様子の彼女は佐倉冬美だ。いつから、一緒に給食を食べるようになったかといえば、いつの間にか、というべきだろう。

 友人関係と同じように、いつの間にか彼女はいた。そんな曖昧な表現で締めるように、ふとした瞬間に彼女はいたが、一つ云えることは彼女がここにいるようになったのは西条莉奈が連れてきたということだ。

 暗く答える彼女の前で、莉奈は髪をかきあげ口をあけ彼女に何かを示していた。

「え、え…………」

 それを察した佐倉は困惑した様子で給食の品であるハンバーグの切れ端を箸で掴むと、それを莉奈の口元に運んだ。

「あーん……」と、彼女は気恥ずかしくいう。

 それを莉奈は嬉しそうに頬張った。

「……………………」

 水瀬にしてみれば――もう慣れた光景である。ここは女子中であるし、こういった光景は普通なのだろうと認識していた。寡黙に、彼女らの甘い光景を前にして食事をする。頭の中では、今日の夕飯をどうすべきかと、逃避ぎみに巡らせていた。

「どこにいくか、決まってんの?」と、言葉を濁わせて投げ掛けた。

「え? あーそうだね。どこにしようか」愉悦の表情から一転し、軽忽に話した。

「なんだ。言う割には、何も考えていないのか」そう呆れると、彼女は誤魔化して笑った。

 なんとも和やかな時間である。入学当初は、自分のコトばかりでそんなことを考える余裕もなかったが、時間も経ちその環境に慣れたところでそれを意識し始めたのである。

 しかし、そのようなこと中学一年生にして看取するような耳年増な事に常々ため息が出る。一年も満たない以前には、小学生として生活していたはずなのに、途端に十年も老けたように思える。それも、親が家を不在にするという状況がそうさせてしまったのだろう。

 莉奈と佐倉が仲睦まじく話しているのを微笑んで見ていた。

 それから昼休みが終わり、午後の授業へ。それも何事もなく過ぎれば放課後になった。

 下校の時は、給食と同じく三人で下校する。佐倉と莉奈とは、途中まで一緒の道だが、途中で彼女たちとは別れる。彼女たちの家の近くだったら、もっと長くいられただろうに、莉奈と佐倉だけは近いところにあるらしく、水瀬は一人道を別れ帰るのだった。

 家に帰ると、玄関先に乱雑に脱がれた靴があった。それが妹の靴であると、わかると、小さい息を吐いて綺麗に整えた。

「夏奈子ー、靴は脱いだらちゃんと揃えてよ!」

 と、玄関から妹を呼んで咎めた。

「わかったー……。お母さんみたいなコト言わないでよー……」

 リビングの奥の方から、うなだれて返事するのは妹の声であった。もう彼女と、三ヶ月は一緒に暮らしているが、日が経つごとに母らしい言動をするようになっていった。無論、それを灯里自身気づくゆえもなかった。

 本当にわかってんのか、と疑惑に思いながらもそそくさと家の中へと上がる。リビングに入ると、妹の夏奈子は、ランドセルを近くに放ったらかし、机に漫画を積み上げてソファーに寝そべり漫画を読み耽っていた。

「……夏奈子!」

 この状況に思わず、声を荒らげていった。

「な、なにお姉ちゃん……」

 驚いた妹は、目元をピクピクさせながら返答をする。

「寛ぐのはいいけど、ちゃんと着替えて片付けてから寛いでよ」

「えー、着替えって別にお風呂の後でいいじゃん。制服でもないしさー」

「つべこべ言うな。汗かいて気持ち悪いとか思わないの?」

「別にー」

 なんことなく適当に言い張る妹に、心底苛立った。

「……はあ、わかったから、ランドセルくらい部屋に置いてきて」

「はーい」

 と、軽い返事をして、彼女は読みかけの漫画を開いたままひっくり返して置いて、ソファーから飛び起きるとランドセルを持って、二人暮らしになって初めて持った自室へと向かうのだが、そこで灯里はある事を思い出して呼び止める。

「夏奈子、通知表は?」

「ギクっ」

 分かりやすい擬音を言って、立ち止まる妹。

「今日、夏奈子の学校終業式でしょ? ほら、通知表見せて」

「な、なんでおねえちゃんに見せないといけないの……」と、抵抗する妹。

「そんなの当たり前じゃん。お母さんいないんだから、私が見て報告するのがフツーでしょ」

 と、淡々としていった。

 夏奈子はギクリと、背筋を伸ばして見ては、息を吐いた。ダダでもこねるのかと、姉は思ったが、観念したのかランドセルから一つ紙を取り出して姉に素直に渡した。

「おお……」

 驚いて返事をすると、夏奈子は目線であんまり酷いコト言わないでと訴えかけて自室へとかけていった。

 愛する妹のコトだ。正直、ギクリとするほどの成績でない、と思いたい。そう思って、通知表を見てみると、まあそこまで驚く程の成績ではなかった。可もなく不可もなくという具合で、注目したのは担任の先生コメントだった。

『最近、とっても仲の良い子ができたみたいですね♪ 夏奈子ちゃんは、いろんな人と積極的に接する素敵な人で、ヒトミ先生もそんな素敵な力欲しいです!』

「ふーん……」

 通知表の右端あたりにある印鑑には、そのヒトミ先生らしき人物の印が押されている。名は、藤山。

 藤山ヒトミ。初めて、夏奈子の担任の名を目にした。いつかは、面談で会おうだろうから覚えていて損はないだろう。それより、夏奈子は人当たりの良い性格だということを初めて知った。

 普段、家や一緒に外出している時にしか妹のことは見ないし、こういう別の環境下における人格を窺えるのはなんとも新鮮な気分を味わった。同時に、それを知らなかった事に残念だと思った。

 大きなため息を吐きながら、自身でも年を取ったと感じて、通知表を閉じた。それを、キッチン近くの台に置いた。

 しばらくして、妹が自室からランドセル置いて戻ってきた。彼女はリビングに戻ってきたところで、彼女はちゃんと姉の言いつけ通り部屋着に着替えていた。

 リビングに戻るやいなや、先ほどの通りに積み上げた漫画の横のソファーに横たわり漫画を読み始めた。

 相変わらずだらしない妹だ。先生の評価を疑ってしまう。

 またため息を吐いては、慣れてきた夕食作りへを始めた。



 夏休みになったある日のコトだ。

 いつぞやに言われた。夏の誘いを受けたわけだが、その誘い待ち合わせ場所にてドタキャンされた。

 都心の駅前から、地方の温泉への日帰りのつもりだったのだが、まさか一人だけでなく二人にドタキャンされるとは思ってもいなかった。

 二人も同時に用事が入るとは、運が向いていないとうなだれる。ドタキャンは心底、いらつくことであるが、まあ仕方のないことだ。

 そんな文面をスマホの画面越しにしばらく眺めた後、すっとポッケにしまった。

 さて、どうするか。着替えの入ったキャリーバックが非常に手持ち無沙汰に感じる。こんな荷物を持って、駅前からまた二度自宅へと帰るなんて酷く滑稽なものだ。どうせ、都心に来たのならば、何か面白いものでも見て帰るか。

 なんて思って、キャリーバックを引いて都心のビル街を練り歩くことにした。

 にしても、息苦しい場所だ。そう感じるのは、錯覚だという。物が多かったり、塞がる物があったりと視覚からその息苦しさを感じるという。正直、どこもそこまで変わらないと思う。違うのは匂いくらいだろうか。

 そう皮肉に思いながらも、何か面白いものはないものかと思ってしばらく歩いていると、開けた場所に着いた。先ほどのビル街と一転して、長閑な河川敷だ。それほど長く歩いていたせいなのか。遠くには、ビルが見えた。

 こんな場所でゆっくりするのもいいかもしれない。錯覚的にも気持ちが良い。

 そう思っていると、目の前で何やら漫画のようなメイド服をきた女性が大量の買い物袋をぶら下げて歩いていた。

「なにあれ……」

 時代錯誤な格好に困惑する。メイド服のくせに、髪は日本人らしい黒髪だし、どう考えても違和感ある姿である。

 それを追うように見ていると、途端にメイド服の女性は前倒しに倒れた。倒れた拍子に、買い物袋から品物が飛び出した。

「ああー、大丈夫?」

 驚いて駆け寄って、手を差し伸べた。と、彼女は随分血相の悪い様子をこちらに向けた。

「うっ……血液がっ」

 なんだそのいいざまと、突っ込みたくなる気持ちを抑えて、どうにか彼女の様子を和らげないかと、考えて、とりあえず、駅前で購入していた飲みかけのお水のペットボトルを差し出した。彼女はそれを取って、数秒もかからずに飲み干した。

「ぷはっ、はー、助かりました。私、低血圧気味でして……」

「そう」

 適当に返事をした。

 彼女はすっと立ち上がって、女性にしては背の高い体躯を近くにしてそれを見えた。

「……あ、買い物袋」

 と、ふとそれを思い出して地面に散らばったそれを見渡した。

「ああ、そうでした」

 彼女は綺麗な顔で返答を示して、一緒になって散らばった品物を拾った。

 拾い終わって、彼女はいう。

「あのお礼に、お家に招待したいのですが」

「え? お礼って、ただ水飲ませただけだけど」

 それも飲みかけのである。彼女の提案には困惑の意図を示す。

「ですが、ここで水を飲ませて頂けれなければ、こんな場所で死んでしまってました」

「それは言い過ぎでしょ……」

「ですから、お礼を申しています」

「あ、そう」

 これは有無を言わさぬ状況だと、諦めた。

 メイド服の女性についていく中で、声をかける。

「そういえば、お前の名前は?」

 そう尋ねると、彼女は振り向かずに応えた。

「……香苗です」

「ふーん、香苗さんね」

「あなたのお名前は?」

「水瀬灯里」

「水瀬さんですか。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

 なんだろうかこの会話。自己紹介にしては、丁寧すぎる会話であった。

 香苗についていき、ほどなくして目的の場所に辿り着く。そこは、いかにもな豪邸であった。

「……うそっ」

 と、驚く。メイドの香苗がいるのも頷ける。だが、メイドとしては洋館にいるのが普通だと思うが、ここの豪邸は和風の日本庭園ある家であった。

「さあ、お入りになってください」

「は、はい……」

 なんとなく行儀よくなって、綺麗な和館に入った。と、名札が目に入った。こんな和館なのだから、きと珍しい苗字なのだろうと見てみると、その名は――西条と書かれていた。

――西条? そんな知り合いいたような……。西条って割といるのか。

 そう頭の隅で思った。

 中に入ると、思った以上に絢爛な内装であった。玄関は和式様美で、日本らしい謙虚な佇まいをしている。広さも十分な余裕がある。

 中に入って感じるが、人気がない。広さゆえのコトなのだろうが、それにしたってそれを感じない。

「それじゃあ、美優! 美優!」

 と、玄関に上がるなり香苗は、美優と誰かを呼び始めた。

 それからして、とたとたと板を鳴らす音が聞こえて近づいてきた。

「なーに、香苗さん。いいところだったのにー」

 その幼い声は、随分不貞腐れたようでこちらに向かってきて、その様子を玄関先で向けた。その子は、小学生くらいの女の子で、服装はメイドの服を着た香苗と違ってラフな格好をした子だ。手にはゲーム機を持っている。

 彼女は、香苗のほうを見てから、こちらを見ると、陽気だった様子から怯えたように顔を変えた。

「え、えと……だ、だれですか?」

 こちらの方を見ずに、香苗に訊ねた。

「この人は、私の命の恩人です。水瀬灯里さんです」

「え、そ、そうなんですか」

 美優はこちらを見ずにいう。

「今からお礼にと、食事を振舞おうと思いまして居間の方へ案内してください」

「え、わ、わたし今、忙しい――」

「案内、してくださいね?」

「は、はい」

 有無を言わされずに、美優は初対面の水瀬灯里を居間に連れて行く事になった。

 水瀬自身、なんとも言えぬ状況だ。美優は、水瀬の鋭い目線を気にしてかチラチラと様子を伺っていた。申し訳ないが、笑顔の香苗には逆らえそうにない。

 先に家の中に入って、どこかへと香苗は向かった。呆然とする美優に、一声かける。

「えーと、居間に案内してくれるんだよね」

「ひっ」

 なぜか怯えさせてしまった。

 だが、怯えながらも使命を全うしようと彼女は背を向けて小さい歩幅で歩き出した。

――ついてきてってことか。

 小さい体躯を追う。長い廊下を歩く。廊下では、何やら高名そうな作家が描いた屏風であったり、広大な庭園が見えたりと情景豊かであった。こういう廊下での歩く音に、日本人はわびさびを感じるのだろう。水瀬灯里には、それを到底理解できそうにない。

 無言の美優についていきしばらく、居間へとたどり着いた。

「こ、ここです」

 か細く彼女は言って、隅のほうに座ってゲーム機をイジリ始めた。

 居間は程よい広さであった。電気家具は見当たらない。あるのは、木製の机と、床間にある何やら高さそうな壺と掛け軸。そして、開けられた戸板からは庭園が伺えた。

 とても物寂し空気感だ。音は、ゲーム機からなるボタン音と時折鳴るゲームの音。

「……え、と、美優、ちゃんはなにをしているの?」

 ネコナデ声でいった。

「…………ゲ、ゲーム」

 と、わかってることをいった。

「そ、そう……。どんなゲーム? 面白い?」

「お、面白い……」

 なんだろうかこれは。親戚のおばと孫の会話のようだ。

「そう……。そういえば、香苗、さんとはどういう関係?」

 他愛もないことを聞いた。

 と、ふとゲーム音が止んだ。

「……ただの他人」

「他人?」

 そういわれ、彼女は確かに香苗のことをさん付けで呼んでいたことを思い出した。

「他人同士で住んでいるのか……。お母さんやお父さんは――」

「親はいない……。ここにはわたしと香苗さん、だけ」

「え……」

 何やら、地雷を踏んだようである。

 まさかこんな広い家に、二人しか住んでいないとは。それに、その二人に関係性がないなんて……。そう気まずくなっていると、タイミングよく居間に香苗が現れた。

「お昼は冷やし中華です。水瀬さんもお召し上がりになってくださいね」

 彼女がお盆に器用に乗せて持ってきた三皿の冷やし中華。それをテーブルに乗せて食事の準備をした。

「わー、冷やし中華だー」

 先ほどの様態から一転して、小学生らしい無邪気な様子で冷やし中華に食いついた。

「ふふ、夏にはピッタリです。ほら、水瀬さんも遠慮なさらずに」

「……ああ」

 美優のいったことを気にしながら、綺麗に盛り付けられた冷やし中華を頂くことにした。



 昼の食事、もといお礼を頂いてから水瀬灯里は香苗を手伝った。その手伝いは洗い物である。そんなことを手伝うのも、美優と一緒にいるのが気まずいからだ。

 それも終え、しばらくすると、家に帰ろうと香苗に言うと、彼女は引き止めてきた。

「お泊りにならないんですか?」

 そういうので、

「妹にご飯作らなきゃいけないんで」

 と、丁重に断った。

「そうですか……。それは残念ですね。ここは二人しか住んでいませんし、客人と過ごすのも良いものだと思ったんですが」

「ははは……、妹を大事にしているので」

 もう一度、断っていうが、ふとスマホが震えた。それを彼女から断って見てみるに、相手は妹の夏奈子だった。文面は一言――友達の家に泊まるからご飯いらないー。

 この妹はっ……。

――たまにはいいか。あの子といるの気まずいけど……。

 そう思って、スマホをしまった。

「どうかしました?」

「いや……、丁度妹は宿泊するみたいで、香苗さんのご好意に甘えさせてもらえますか」

 そう下から目線でいう。

「はい! ぜひ!」

 彼女は素敵な笑顔を振りまいた。

 泊まるという事で、美優を手懐けることにした。とにかく、近寄って彼女のしているゲームを見ることにした。

 美優に近づくと、彼女はその度に視線を狼狽させて避けようとするがめげずにアプローチを繰り返した。

「な、なんですか?」

「いやー、なにしてんのかなって」

「ゲ、ゲームです、よ……」

「なんのゲーム?」

 そう尋ねると、彼女は気恥ずかしそうに応えた。

「ポ○モン……」

「へー、いまこんなモンスターいるんだー」

 興味津々になっていった。

「う、うん」

 と、彼女はいい、

「可愛いのが好きなの」

 彼女がそういって見せてきたのは、犬のようなネコのような動物がモチーフのモンスターで揃えられたパーティだった。

「可愛いなー」

「うん!」

 彼女は可愛げに頷いた。

 こういると、やはり普通の小学生だ。どこにでもいる女の子。だが、昼前のことに、地雷を訊ねたことによって見せた達観したような口ぶり。

 正直言って、変な家だ。他人同士が暮らす広大な敷地を持つ家。片方は、メイド服で、片方は普通の少女。考えを放棄するほどに、ややこしい家のようだ。

 美優と話も投合し、時間はすぐに経った。気づけば、夕飯の時間で香苗が良いスパイスの効いたカレーライスを持ってきた。

 和やかな気分のまま、夕飯は終え広い家で過ごす夜。水瀬灯里は、何気なく一人になりたくて月夜の見える縁側に座った。

 うかうかして、スマホを手にするとなにをするわけでもなくカメラをつけて月夜を見上げた。こんな家だからか、月夜の情景がとても綺麗に写った。

「どうですか? お綺麗でしょう、庭園と共に見上げる月は」

 ゆくりなく声をかけられた。その相手は、香苗であった。だが、その姿、メイド服でなく軽装である部屋着であった。

「服変わってる」

「はい。今はオフですから」

「オフってことは、メイド服は仕事服?」

「そうですよ。私はここのお世話係ですから」

「お世話係ね……」

 それにしては、美優に居間を案内させていたような。それに、美優も香苗のことをお世話係とは言っていなかった。

 香苗は、そっと水瀬の隣に座った。

「……変な家だと思ったでしょう?」

「……そうだな」

「そうはっきりいいますか」

「だって、変だし。美優は、お前のこと……他人だって」

 はっきりいうと、彼女は沈黙してからいう。

「他人ですか……。まあ、そうかもしれまんせね」

 彼女は予想外にも、同意を示した。

「なにそれ」

「……私たちは半分の他人が混じっているんですよ」

「はあ?」

 そう疑問すると、彼女はすっといった。

「――腹違いの姉妹です」

 驚嘆して声が出なかった。

「……それって、もしかしてあの表札の名前って、本名?」

「ええ、そうですよ。西条は父の名です。母は、今いませんから」

「いないって、腹違いってことは美優の母はいるんじゃないの?」

「いえ、最近その彼女も家を出て行きましたから」

「はあ、なにそれ……」

 それで文字通り、広い家で二人きりの状況が出来上がったということらしい。

「こういう事が起きてしまう父ですから、許せなかったのでしょう。まあ、娘は置いていかれましたけど」

「……ふーん」

 反応に困る話だ。

「とかく、親もいない今、美優には私しかいません。美優が、私のことを他人といえど大事な妹の一人です」

 彼女はしみじみといった。

「……? 妹の一人ってもうひとりいたの?」

 虚を突かれて、たずねた。

「はい……、まあ中学に上がる頃に一人暮らしのために出て行かれました」

「そう……」

 どっかで聞いたことある話だと思いながらきいた。

「その妹は、少々問題というか、……色々と渇望している方で――寂しい人です」

「寂しい人ね……」

 こんな家だとそうなるのも無理はない。

「私が受け入れていたものを、一人になってどう発散するのか……心配で、大事にならないといいのですが……」

「大丈夫って、多分」

 そう適当に返事をしていると、スマホが震えた。

 メールのようで、香苗を一瞥してからそれを見る。と、その内容、おかしなことに空メールだった。相手は――佐倉冬美。

「変なメール」

「……佐倉、冬美……。柊子の妹?」

「え、どしたの?」

 宛先のところを見て、香苗が反応を示した。

「水瀬さんはどこの中学ですか?!」

 急き込んで聞いてきた。それに慌てて答える。

「南野女子中だけど……それがどうした――」

「莉奈……、あなた……」

 彼女は急に立って、どこかへと去っていった。

「莉奈……、名前は――西条莉奈……」

 想起する。すべて想起する。

 そして、繋がった。

 この家は、水瀬灯里が初めて知り合った女の子の実家だ。

早めに投稿できなかったんや。。。

申し訳ないです。


評価、ブクマありがとうございます。

投稿頻度が遅いのにありがたい事です!

これからも頑張るぞい!


桐生綾香が主人公なのに、

出てこない話が続きます←

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