第93話 裕弥の存在
「ターンアップ、ドロー」
エボルブシーンを飛ばし、千裕はチューンシーンへ。
「[落雷の鎖使いロテア]をアドベント。[CHAIN ROAD]のアビリティでロテアにパワープラス5000」
千裕と裕弥の白デッキはエボルブ、アブソープションをしない。その欠点は、センターの階級が志願兵のままなので、正規兵アーミーを呼び出すことができないことだ。
正規兵アーミーが呼べないとどうなるか。アーミーのパワーの基礎値が低くなる。そのため、フィールドやアビリティによる補助が必須となる。
[Knight]の隣に現れたのはピンク色の髪をした天使だ。鎖に戒められ、目を瞑っている。
「ロテアのアビリティ。手札から同じ縦列にアーミーをアドベントし、そのカードが白属性のカードなら一枚ドロー。鎖使いなら、更に一枚ドロー」
アドベントされたのは[小刀の鎖使いウォシェ]である。千裕の手札が二枚増える。
ロテアとウォシェの前後を入れ替える千裕。
「どっちも志願兵なんだから同じじゃない?」
「いや、志願兵アーミーにも前衛向きと後衛向きとがある。千裕のプレイスタイルなら、前列にいるときパワーアップとかがあってもおかしくない。それに、ロテアの能力はマニュアルアビリティ。次のターンにも発動できる」
「破壊すればいいでしょ」
「バックアップの破壊は黄属性以外には難しい。竜騎士シリーズは破壊特性を持つが、昴が炎竜とのコンボを試みている辺り、破壊よりはパワー重視の編成に見える」
純冷はロテアのアビリティを厄介だと考えていた。何故ならロテアのアビリティは階級を参照しないのだ。アビリティで呼び出す分には、階級は関係ない。つまり、センターより階級が上のアーミーも呼べてしまう。
アブソープションできない[Knight]がセンターでも、正規兵アーミーがアドベントできてしまう、ということだ。ブラフかもしれないが。
「[CHAIN ROAD]のアビリティでウォシェにパワーをプラス。リバースバックアップをセットして、ホリーのバックアップで[Knight]の攻撃」
「アンシェルター」
「コマンドチェック、クリティカルコマンドゲット!」
「うわ」
クリティカルは[Knight]に、パワーはウォシェに付与される。
志願兵アーミーたちだというのに、ウォシェはロテアのバックアップを得て、正規兵も真っ青のパワーだ。
ウォシェは志願兵の中では8000と高パワーを誇る。そこに通常パワー6000にフィールドの効果で5000プラスされたロテアのバックアップを受けて、19000、更に自身もフィールドの効果でプラス5000されている上に、先程のコマンドのパワーも乗って、合計29000である。
「うーん、ここでリバースバックアップオープンできたらよかったんだけど……」
苦い顔をする昴。昴のリバースバックアップのオープン条件が整っているらしいが、リバースバックアップのオープンは先のターン、ホリーによって封じられている。
これを宣言することには意味がある。ホリーの能力でオープンを封じられるのは一回のみだ。次にオープン条件が整ったときは開ける。その機会が来るかはさておき。
「アンシェルター」
昴に3ダメージ目が入り、千裕はターンエンドを宣言する。
「ターンアップ、ドロー」
ここでバックアップがアップできないのとどちらが手痛いか……どちらも地味に嫌な妨害攻撃である。
千裕がセットしたリバースバックアップも気になるところだが、気にしてばかりいては前に進めない。
「フィールド[団結の旗]をセット」
「……リュートのと違う」
名前は似ているが、竜騎士デッキを使う獣人リュートの使うフィールドは[団結の剣]だ。
昴は千裕の台詞に少し寂しそうに笑う。
「やっぱり、裕弥だったときの記憶も戻ってきてるんだね」
「……」
「俺ね」
黙りこくる千裕に、昴は和やかな声で語りかける。
「裕弥がいたこと、ちゃんと覚えてるよ。千裕が裕弥を守るために戦ってたの、知ってる。だから、裕弥が[いなかった]なんて思ってないよ」
「……俺の妄想だったかもしれないのに?」
「妄想じゃないよ。俺は裕弥と話したし、裕弥もウォシェやKnightを使っていた。それに、裕弥が言ってた……[僕が望んだデッキ]っていうの、ずっと引っかかってるんだ」
それはアミと戦ったときに裕弥が口にしていたことだ。アミも言い回しが不思議で覚えていた。
「千裕の中に白の王がいるとして、そのユーヤさんと裕弥が同一人物とは限らないと思う。鎖で戒めるイメージは獣人たちに居場所を与えた賢王には似合わないし。それに、いくら意識が混濁していたって、知り合って間もないであろう賢王のことを守るために千裕はあんなに必死になるかなって思うし、裕弥も千裕のこと知ってたから……きっと裕弥って子はちゃんと存在する。千裕だけの妄想なんかじゃない」
昴は手札の一枚を掲げる。
「竜と契りを結びし騎士よ、降り立て! アドベント! [炎の竜騎士キリヤ]!」
BURNの傍らに炎が渦巻き、そこに勢いよく槍を持った騎士が飛び降りてくる。炎を纏う槍を自在に振り回す騎士は精悍な顔立ちをしていた。
「キリヤのアビリティ。ブレイヴポイントを1消費し、自分のフィールドから一枚ダウンチャームに送ることで、山札から好きな炎竜を一体選び、アドベントする。来い、[火種の竜アラク]!」
キリヤの槍の舞に応えるように滑空してくる竜は、キリヤの後方に降り立った。先程開かなかったリバースバックアップがダウンチャームへと送られる。
更に二体の火種の竜が咆哮する。
「フィールド[団結の旗]のアビリティ。指定したものと同名のアーミー一体ごとに前列にパワープラス3000! [火種の竜アラク]を指定」
アラクは場に二体。合計で6000のパワーがセンターとサイドに付与される。
「リバースバックアップをセットして、バトルシーン! サゼムの攻撃!」
「鎖の戒めの道よ、その封を解き放て! [CHAIN ROAD]のピンポイントアビリティ発動」
[CHAIN ROAD]のピンポイントアビリティの発動条件は相手の一度目の攻撃時、場に[鎖使い]が三体以上いることだ。
「場にいる鎖使いの種族が三種類以上なら、自分のリバースバックアップを強制オープンする」
「え。でも、ウォシェがビーストアーミーで、ホリーとロテアはエンジェルアーミーだよね?」
昴の指摘に千裕はにやりと笑う。
「忘れているぞ、昴。[Knight]は[CHAIN ROAD]の効果で[鎖使いKnight]という扱いになっている。そんな[Knight]は──ヒューマンアーミーだ」
「あ……!」
「というわけでリバースバックアップオープン! [藍染AIZEN]!」
「うわ、それ来るの!?」
AIZENの能力には一度昴も苦しめられた。
「[CHAIN ROAD]のピンポイントアビリティの条件参照。開いたアーミーの種族が既に展開されているもののどれとも異なるのなら、オープン時アビリティを発動する。AIZENはゴーストアーミーのため、アビリティ発動!」
絆を引き裂くAIZENの効果はアブソープションの無効化。これにより、センターのパワーは大幅に下がる。これぞ搦め手だ。
[団結の旗]の効果を受ける前列はアブソープションも含まれる。アブソープションとしてのプラス3000に加え、フィールド効果でのプラス6000も失われるのはかなり手痛い。しかもセンター後方にバックアップのアーミーはいないため、センターはBURN単体での攻撃となる。
しかも、アブソープションのパワーが参照されなくなるのは次に昴にターンが回ってくるまで。パワーを下げられたセンターなど、攻撃の的にしかならない。その上ヒーリングコマンドのAIZENはちゃっかり山札に戻る。
アブソープションの効果が参照されないだけで、アブソープションが破壊されたわけではないのが不幸中の幸いか。[BURN]にはアブソープションされているとき、パワープラス5000という効果がある。
とはいえ、9000のパワーが失われるのは痛手だ。おそらく一回目の攻撃という限定効果がついているのは、リプレイコマンド対策なのだろう。センターはコマンドチェックでパワーアップが期待できるが、アタック時のパワーが低いと、コマンドによるパワーアップ対策に消費する手札も少なくなる。リプレイコマンドを引いて、攻撃が通ったとしても、相手もダメージコマンドを引くかもしれない。すると前列しかリプレイできない場合、一度目の攻撃よりパワーが減るため、こちらもまた攻撃が通りにくくなる可能性があるのだ。
相手アーミーのパワーを削ることで、シェルターに必要な手札の消費も少なくなる。よく練られた戦略である。
「サゼムの攻撃はシェルターしない」
千裕に3ダメージ目が入る。昴はめげずにセンターで攻撃。アブソープションのパワーは失ったものの、[BURN]の元のパワーは6000、[BURN]のアビリティでプラス5000、[団結の旗]でのプラス6000は消えていない。17000での攻撃になる。
だが、千裕の[Knight]は元のパワーが7000であることに加え、アブソープションしていないことでのパワープラス5000があり、12000パワーである。しかもエボルブしない前提のデッキ編成であるため、シェルター値の高い奴隷アーミーが千裕のデッキには多いのだ。ダメージコマンドがなかったとはいえ、コマンドチェックが入ることを含めても、シェルターは容易い。
「ウォシェのアビリティ、ウォシェは志願兵アーミーだけど、サイドからシェルターサークルに移動できる能力を持っている。加えて[囚われの歌姫ディーヴァ]でシェルター」
ウォシェのシェルター値は5000、ディーヴァは10000。合計27000。コマンドが出ても通らない。
「コマンドチェック!」
ここでコマンドが出ればまだ攻撃をしていないキリヤに振ったり、リプレイならばサゼムにパワーを振ったりすることができる。
山札の一番上をめくる昴。出たカードは……
「くっ、[竜騎士アレン]……コマンドじゃない……」
それでも攻撃はあと一回残っている。
「キリヤ!」
「アンシェルター」
そう、クリティカルやリプレイコマンドが出なければ、千裕に入るのは1ダメージ。合計4ダメージとリーチはかかるが、昴の攻撃はこれで終了だ。
「ターンエンド……」
「俺のターン。ターンアップ、ドロー」
ロテアのアビリティでホリーをダウンチャームに送り、手札から再びウォシェをアドベント。フィールドの効果でウォシェはパワープラス5000を得、千裕は二枚ドローする。そこからは[鎖使い]を全面展開し、フィールドの効果で全体のパワーが上がる。昴の手札ではシェルター値が心許ない。
昴は既に3ダメージ。高パワーの攻撃を二回防ぐのはきつい。
「[Knight]でセンターにアタック」
「……アンシェルター」
「コマンドチェック[藍染AIZEN]──ヒーリングコマンドゲット」
おまけに千裕の引きも手伝って、いよいよ打つ手がなくなる。
手札や正規兵のシェルターサークルへの移動を含めても一度の攻撃を防ぐのが手一杯だ。5ダメージ目は避けられない。
コマンドのパワーを加えられたウォシェの攻撃。
「アンシェルター!」
昴は潔く、ヒーリングコマンドに賭けることにした。
が、出たカードはフィールドカード。
「ラヴァン」
竜巻に襲われる中、昴は満足げに笑っていた。
「千裕はやっぱり強いや」




