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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
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第87話 竜国を訪れるアルセウス

 アルセウスはエシュよりずっと南のゴツゴツした山やら洞窟やらが多い場所へ来ていた。

 何故か、と言われると……自分でも何故こんな面倒事を引き受けてしまったのかは全くわからない。

 中央神殿でのこと。

「アグリアル=タイラントについては、中央神殿内に投獄し、天使の管轄下で監視することが決まりました。ブレイヴハーツウォーズが終わるまで……否、終わっても、彼の自由が確保されることはないでしょう。彼はそれだけのことをしました」

 タイラントの起こした暴動についての結末をつらつらと冷たく聞こえるほど淡々と宣告したのは気高き天姫として天使の中でもそこそこの地位にあるナターシャだった。

 続くのはそのタイラントに仕えていた自分への処罰だろう、とどこか他人事のように構えていたアルセウスは続いた一言に驚かざるを得なかった。

「尚、それに長年仕え、用心棒として雇われていたアルセウスには情状酌量の余地があるとし、無罪放免とします」

「……はあ!?」

 自らも投獄されるだろうくらいに思っていたアルセウスは驚愕した。先の魔王との戦いにおいても幾度か邪魔立てした。裏でタイラントが糸を引いていたとはいえ、世界の危機に余計なことをしたのは確かなのだ。

 それが無罪放免とはどういうことだ、とアルセウスは思わずナターシャに詰め寄った。ナターシャは少し困った表情をして答える。

「あなたを罰したいのは山々なのだけれど、元を辿ればあなたもタイラントの差別主義の被害者なのよ。見世物小屋から救ってもらったと言ったけれど、タイラントはそれも同じだったのではなくて?」

「それは……」

 見世物にされていた。それは一概に否定できなかった。タイラントはわざと自分の嫌う人種を傍に置き、小間使いにすることによって、来客にアルセウスの醜さや小汚なさを示したり、自分が支配していることへの優越感に浸っていたりした。

 それに何も思わずに生きていたわけではない。が、獣人の中でまで忌み嫌われる容姿を持つ自分が、手に職を就けて真っ当に暮らす方法なんて、他にはなかった。譬それが悪だとしても。

「まあ、この判断の大幅は、あなたに憧れているという異世界の子たちの主張も含まれているわ。今私があなたに語ったのも、スミレという子からの受け売り。けれど私はそれに流されたのではなく、それも真っ当な意見だと考えたからこの意見に賛同した。それに……これはスバルという子からの受け売りなのだけれど、アルセウス、あなたは完全に妨害ばかりをしたわけではないわ。直接戦ったことのある私からすると癪な話なのだけれど、手加減をしていたのでしょう? それは妨害行為が完全にあなたの意志の下に行われたことではない、という証明になるわ」

 スミレは確か、冷静沈着だが肝の据わった少女だ。スバルはアルセウスに憧れているなどと宣った少年である。……二人の個性がそれぞれに出ている意見だった。

 この天使もそれらを鵜呑みにしたわけではなく、タイラントがどういう振る舞いをしていたか、アルセウスの人格的な部分はどうなのかを吟味したのだろう。真面目な天使らしく。

 で、無罪放免を獲得したアルセウスは晴れてフリーになるのだが。

「けれどそれではあなたが納得しないでしょう。というわけで私たち……ひいてはあなたの弁護をした子どもたちのために一肌脱ぐ、という形を取るのはいかがでしょう?」

 それはとても名案だった。あの純真無垢なやつらのために、何より自分が好む気質の者のために何かができるというのは、アルセウスにとってもいい話だ。エゴではあるかもしれないが、一種の免罪符になるような気がした。

「で、俺は何をすればいいんだ?」

 ──となって、アルセウスは今、エシュの森を抜けた更に南にある元竜国に来ているわけである。

 それもこれも、アミのライブのためだ。

 アミのライブの目的は獣人族を募り、獣王復活を目指すものだ。獣人さえいればいいのではないか、とアルセウスは思ったのだが。

「獣王がタイラントから土地を奪い取ってまで救おうとしたのは何も獣人だけではないわ。忘れてはいけないのはタイラントが獣人差別主義なことではなく、人間史上主義だったことよ。つまり、人間以外の種族は皆蔑む対象だったの。エルフでさえ差別するのよ? 竜人だって肩身が狭かったはずだわ」

 アミの言にアルセウスは納得した。タイラントの気質は誰よりも傍にいたアルセウスが理解している。

「獣王は竜人も救ったの。竜人は竜国があるから獣王の国には来なかったけれど。……そいつらに呼び掛けに行くのがあんたの役割よ」

 竜人の他にも、竜の友という一族もタイラントに虐げられ、後に獣王に救われた。彼らにも獣王復活に一役買ってほしい、というのがアミの意見だった。

 だが何故自分が、という思いはアルセウスの中にまだある。自分は獣人で、竜人ではない。竜の友に至っては人間だ。何の関係があるのだろう。

「……まあ、俺のデッキは竜人だからか」

 コトカタシリーズは竜人でできている。そこに縁を感じたのかもしれない。

 カードと現実に、何の関係があるんだか。

 と思っていると、いかにも竜が住んでいそうな洞窟に辿り着いた。

 竜は気難しいと聞くが、大丈夫だろうか。

 若干不安になりながら、アルセウスは洞窟に足を踏み入れた。

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