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Brave Hearts  作者: 九JACK
中央神殿編
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第77話 アミからの警告

 アミの顔は真剣そのものだったが、聞いていた一同は首を傾げるばかりである。

「いや、お前の母親にそっくりという話はもう聞いたぞ?」

 全員が思っているであろうところを代弁したのは純冷だった。

 確かに[アンナ]のカードはアミに似ているし、アミが母親似ということであれば、アミの母親にそっくりなのも説明がつく。

 けれど、アミの口振りでは、このカードがアミの母親[そのもの]であると言っているように受け取れるのだが、間違いないだろうか?

「そうでもなきゃ、同調するわけないでしょ。それに、私たちが召喚されたことの人選が偶然でないというのなら、[王]と呼ばれる存在が身内でも不思議はないわ」

「アミ、それでは理由が薄いぞ。我々にはお前が母親と思いたいからそう思っているようにしか聞こえない」

 純冷はアミに果敢に切り込んでいく。理路整然としているのがいかにも純冷らしい。

 どんなに歯に衣着せぬ物言いができたとしても、ここまで正論をわかりやすく突き付けられたなら、返す言葉もないだろう。純冷が言い過ぎたんじゃないか、と昴が心配してアミを見ると。

「それなら、あんたも精霊王と同調してみなさいよ。私を信じなかったことを、悔いるといいわ」

 アミは不敵に笑っていた。

 純冷が疑問符まみれの顔で訝しげにアミを見る。昴もナターシャもちんぷんかんぷんだ。

 そんな三人に言い聞かせるようにアミが告げる。

「きっと、他の[王]も選ばれた人物にそっくりなはずよ。でも、それだけじゃない。私はね、警告してあげているの」

「……警告?」

 眉をひそめる純冷に、アミはさらりと答える。

「そ。あんたたちが私みたいにアイゼリヤの根幹に関わるような人物を引いたとき、後悔やら何やらでゲームを投げ捨てないように」

「どういうことだ?」

 要領を得ない説明に、純冷が返すと、そうね、とアミは口元に指をあてがった。それから少し考えて、冷静に宣告する。

「このアイゼリヤのブレイヴハーツというゲームに、私たちの[家族]が巻き込まれているわ、と言えば、納得するかしら」

「家族……?」

 純冷の顔からさっと血の気が引いていく。純冷にとって、家族と言えば一人しかいない。

 そんな傍らで、昴が横槍を入れる。

「……もしかして、アミはキャラデザを知っている、とか、そういうこと?」

 そういう切り口は考えていなかった、と純冷とナターシャが目を見開く。

 言われてみれば、アミがテレビゲームのブレイヴハーツの裏側を知っていてもおかしいことはない。主題歌を担当した歌手なのだ。スタッフと顔を合わせたり、収録現場でそういう話になってもおかしくない。

 しかし、アミはしっかり否定した。

「それはないわ。ブレイヴハーツは不思議なゲームだっていうのは知ってるでしょう? 名もない小会社が作った単発ヒット作。アナザーストーリーや次回作が期待されたものの、名もない小会社は名もないまま。あれだけ流行ったのに会社名すら忘れられている。エンディングを迎えてもスタッフロールすらない。ただ[Ami]という歌手がテーマソングを歌っていることくらいしか、知られていなかった……」

 その[Ami]さえも、顔出しはしておらず、昴たちも言われるまでアミのことだとは思わなかった。あらゆることが異例な作品がブレイヴハーツである。

「ってことは、アミもスタッフに会ったことはないの?」

「そうよ。[夢の在り処]は作詞が私で作曲と編曲が風間慎吾(しんご)……私の父よ。やり込んだなら、それくらいは知っているでしょ?」

 確かに。テーマソングの情報しか流れないエンディングは十回も見れば情報過多なくらいだ。作詞はAmi、作曲と編曲は風間慎吾となっていた。アミの苗字は風間だから、風間慎吾が父親というのも嘘ではないだろう。

 しかし、スタッフに会わずして、どうして仕事を獲得できたのか。

「まあ、制作スタッフとは直接会ってのやりとりがなかったの。話すとまあ面倒くさいんだけどね。妙な仕事だったわ。でも私もまだアイドル見習いだったし、小さい仕事でも受けようと思ったから引き受けた。おかげで馬鹿売れしたわけだけど」

 それはおいといて、とアミは話を戻す。

「私は一度だけ、コンセプトアートを見せてもらったの。なんでか今まで忘れていたのだけれど……[ママがいる]って喜んだ覚えがあったわ」

「コンセプトアート……」

 けれど、前述した通り、ブレイヴハーツにおいて、天使長、精霊王、獣王のビジュアル公開はなかった。

 宣伝ポスターには真ん中にシエロ、その左右にナターシャとナリシアが並び立ち、全体にうっすらと魔王の黒い影が描かれ、後方には祈りを捧げているようなヘレナが幾重もの拘束に絡め取られていた。煽り文は「世界を救うために、戦え」というわりとありきたりなものだった。しかし、実際に[世界を救う]という言葉の意味がとても重要な伏線として回収されたため、「煽り文からこの力の入れようはただ事じゃない」とも話題になった。

 このポスター絵はAmiの[夢の在り処]のシングルの初回限定バージョンの表に使用されていた。

「シングルのイラストの裏には、こっそり脇役たちが描かれる予定だったのよ。天使長と精霊王と獣王が。まあ、三人共後ろ姿だったし、結局は予定は変更になって、魔王の後ろ姿が片隅に描かれただけだったけれど」

「……後ろ姿だけでお前は母親と断定したのか」

「その頃何歳だと思ってんの? 私今でも子どもなのよ?」

 確かに。十四歳だったか。ブレイヴハーツが発売されたのはもう何年も前の話。昴はまだ小学生だった。アミとは同い年だから、アミも小学生だっただろう。

「それにね……精霊王の後ろ姿、あんたに似てたのよ、純冷」

「後ろ姿って……」

「そうね、あんたは納得できないかもしれない。でも、これは……関係あると思うの」

「それにはオレも同感だ」

 背後から同意の声が聞こえ、アミが驚いて見ると、魔王が起き上がっていた。

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