第75話 カードと住民
どう思う、とは純冷にしては要領を得ない質問だが、昴にはなんとなく意味がわかった。
純冷に見せてもらった[精霊の巫女 アリシア]のカード、アルセウスのデッキにあった[ゼウス]というカード。見た目や名前が似ているカードが実在する、ということに関してだろう。
それはアイゼリヤの人物に限らない。顕現したばかりのアミの[天使の長たる者 アンナ]がアミにそっくりなことや、アンナという名前がアミの母親と同じ名前であることも気がかりだ。
「うーん、まあ、王の下で共に戦いたいっていうのは、カードに意志があるならあり得ないことではないね」
「意志? カードに?」
ナターシャがぴんと来ないらしく、疑問符を浮かべる。そんな傍ら、アリシアが冷静に告げた。
「カードが精霊のような存在なら、あり得なくはない。それに、ブレイヴハーツを作ったのはこの世界の姫巫女さま。不思議なことが起こっても不自然ではない」
ヘレナは不思議な力を持っているらしい。まあ、並行世界の並行を保つ力は魔法を凌駕するほどに不思議な力と言えるだろう。そんな大きな魔法が使えるのだから、カードに何かしらを込めることができても不思議ではない。
「それに、ブースターパックを開けて、自分の属性しか出ないのも不自然だしな」
「えっ?」
ナターシャ的には自然なことだったのだが、真っ向から覆された。
純冷が首を傾げるのに対し、昴は苦笑しながら説明した。
「俺たちのいた世界では、デッキを強くするためのパックは運試しみたいな感じで、色々な属性のカードが入っていて、自分の属性のいいカードを引き当てられるかどうかっていうのもカードゲームの楽しみのうちなんだ」
「それは、確かに楽しそうね」
ふぅん、とナターシャが自分のデッキを見る。
「まあ、ヘレナさまは真似ただけだから、完全再現、というわけにはいかないのでしょう」
それもそうだ。ヘレナとて人間である。
「遊びやすくはあるけどね」
「やはり、真似ただけあって、大まかなルールは私たちのいた世界のものと似ているからな」
「それで、あなたたちは急に飛ばされてきたにも拘らず、ブレイヴハーツに強いわけね……」
そもそも、カードゲームに強い者を召喚しなければ意味がないのだから、昴たちが選ばれたのはある意味道理と言える。
ナターシャが納得したところで、昴は話を戻した。
「それで、カードの名前にアイゼリヤの住民と同じ名前、同じ容姿のものがあることについてだけど……アリシアが言うように、その人そのものの意志が反映されているかは怪しいと思うね」
「しっかり言い切るんだな」
怪しい、という表現は和らげてはいるが、可能性はほとんどないと言っているようなものだ。
「だって、[アーミー]なんて生々しい呼び方させてるんだよ? 元々戦争する気しかなかったと思うけど」
アーミーとは兵士という意味である。そんなアーミーに自分の世界の住民たちを当てはめるなら、ヘレナの狙いは戦争を起こすことにあったとも言える。
……といっても、カードゲームによる戦争だ。兵器が並び立ち、銃器が放たれる物騒なものではない。
ヘレナなりの平和的解決法なのだろう。
「それと、カードに自分の名前が入ることで自分が戦争をしていると錯覚させる効果もあるんだと思うな」
「なるほどな。自らがアーミーになるというわけだ」
「それに、魔法によるフィールド具現化システムもなかなか凝ってるし」
そう、そこもポイントなのだろう。
「でも、そう簡単に錯覚するものかしら?」
ナターシャの挙げた疑問符に、昴も純冷も返す言葉がない。推測の部分が大きいからだ。
「思い入れが強くなるのは確かだよ。ターシャだって、[気高き天姫 ナターシャ]ってカードがあったら、大事にはするでしょ?」
「まあ……そうね」
「あとは天使長のカードだけど……アミに似てるのは偶然かな?」




