第74話 精霊王の願い
話を一通り聞き終え、昴が純冷を見る。うーん、と唸って一言。
「純冷はコミュ障には見えないけどなぁ」
「見えないんじゃなくてコミュ障じゃない」
純冷が頭を抱える。
「でも、性質が似てるから精霊王と同化したんでしょ?」
「それはまだ仮定の話だろう」
「純冷と精霊王に関しては結構共通点あるから同化はおかしくないと思うよ」
片っ端から論破されていき、純冷が口元を引くつかせる。今のところ、否定する材料が見当たらないのだ。
そんな純冷に救いの手を差し伸べたのはナターシャだった。
「スミレと精霊王が適合したのはあくまで精神面の話ではなくて? コミュニケーション能力云々はまた別の話でしょう」
それは確かに。
純冷の中には弟を[守りたい]という意志が存在し、精霊王にはエルフたちを[守りたい]という信念が存在する。その部分だけが強く適合した、と考えるまでが今の段階でできる予測だ。
精霊王がコミュ障=純冷がコミュ障とはならないわけである。
「まあ、純冷はむしろコミュニケーション能力抜群というか、交渉力とかすごいよね」
ここに来るまで、アリシアを助けたいが役目に縛られていたナリシアを仲間にし、ナターシャからの信頼をそれなりに獲得し、アルセウスに認められ、中央神殿でのナターシャとの言い合いもほとんど純冷が征している。頭も回るが口も回る、といって過言ではないだろう。
昴はというと、偶然の出会いに助けられてきた側面がある。純冷との出会いもそうだが、千裕、アミ、魔王との出会いも、いずれはあったにせよ、かなり早いタイミングで出会っており、だからこそ、早く話が進んでいるのだ。
ナターシャは昴の話を振り返り、やはり、そっくりだと思った。──魔王討伐のために共に戦った彼に。
「まあ、交渉力はないと働き口がなかったからな。家族をいなすためにも口八丁は必要だった」
「大変だよね……」
弟の入院費用のために働いているとも言っていた。家族に反対されただろうし、雇ってくれるところだって、快くは思わなかったはずだ。
交渉力の一つもなければ、どうにもならないだろう。そんな厳しい生活の中に純冷はいたのだ。
昴は苦労というものを大してしたことがない。進路希望も書けないほど、夢がないのだ。夢と言われてぱっと思い浮かぶのが、テレビゲームのブレイヴハーツにはまっていた頃の話で「シエロになりたい」だった。子どもらしい夢ではあるが、中学三年生で、その夢は書けない。
「純冷はさ、こう、俺たちの中で頭が一つ抜きん出た部分があるから、精霊王と適合したんじゃないかな」
「わたしも、そう思う」
アリシアが告げた。
「でも、それだけじゃない。きっと、精霊王さまの願いもあった」
「精霊王の願い?」
ナターシャが首を傾げる。
精霊王の願いは[守りたい]だけではないのだろうか。
ちょっと考えただけだけど、と置いてアリシアは続ける。
「精霊王さまは話すのが得意じゃなかった。上手く自分の思いを伝えたかったけど、できなかった。スミレには、それができる。だから、精霊王さまがスミレを選んだんじゃないかって感じる」
なるほど。
自分にはできないこと。けれどどうしても叶えたいこと。それは確かに[願い]と呼べる代物だろう。
精霊王は精霊王なりに自分の口下手に悩んでいたのだ。もっと上手く伝えられたら、と思うことが多かったのかもしれない。
純冷がアリシアの頭をぽん、と撫でる。
「きっとアリシアの言う通りだ。精霊王のことをよく知っているからこそ、だろうな」
精霊王は孤独だったのだろう、と純冷は語った。自分の思いが伝わらないというのはもどかしく、悲しい。それを聞き取れる精霊の巫女だからこそ、精霊王の孤独をわかってあげられるのだ。
「きっと、スミレのデッキにわたしのカードが入っているのは、精霊王さまが一緒に戦いたいと思うからだよ」
「一緒に……か」
純冷はふと考え込み、それから昴に問いかけた。
「お前はどう思う? 昴」




