第71話 ヘレナの目論見
「……は?」
ナターシャはしばらく純冷の言っていることが理解できなかった。予想していなかったのだろう。
最終的に戦う相手はヘレナだと。
もちろん、天使であるナターシャは神の使いであるから、アイゼリヤの決まり事を犯したヘレナには罰を与えなければならない、とは思っていた。
だが、純冷の口調を聞いていると、ヘレナが魔王戦とのときの魔王のような位置に当たるのではないか、というように聞こえてくる。
「だから、そうだと言っている」
「え? この世界の頂点に君臨するといっていい人物よ?」
「頂点に君臨するからこそ、だ。ターシャ、魔王と戦ったときのことを思い出してほしい。何故ターシャたちは最後に魔王を倒そうとした?」
「え、それは魔王が魔物たちを統括し、頂点に君臨する存在だったから……あ」
気づいたらしい。時間がかかるのは仕方ない。ここは自分たちが暮らす世界である、と理解しているナターシャたちと、ここはゲームの中の世界である、と理解している昴たちとでは発想が食い違って当然だろう。
ブレイヴハーツウォーズが戦争ではなく、ゲームなのなら、ラスボス、最終目標がいなくてはならない。それがヘレナだと昴と純冷は推測している。
ブレイヴハーツはヘレナが発案したのだから、ヘレナができるのは至極当然のことなのだ。
「抜け穴だったわ……」
「そう仕向けるために、わざわざ私たちと王を融合させたのだろう」
「王の器に適した俺たちが選ばれたんだろうね」
破壊衝動に囚われた少女、大切な者を亡くした悲しみ、守るべきものがある。
「だからこそ、獣王は復活させるべきなんだ。魔王の願いを叶えるために」
「魔王の?」
今度は昴が説明していく。
「ヘレナさんは異世界召喚の禁を犯した。魔法があるこの世界で禁を犯すほどの魔力を使うなら、いくら姫巫女さまといえども、消耗が激しくなる。その限界値として、ヘレナさんは五人まで、と予測していたんじゃないかな? 属性が五色なのって、これが前提だったんじゃない?」
「つまり、ヘレナさまは元々、召喚を前提としてブレイヴハーツを作ったわけ?」
「[なんでも願いを叶える]なんてわかりやすく奪い合いになりそうな景品ぶら下げたんだよ? 予想してなかったんならよっぽどのおっちょこちょいだね」
仮にも憧れのゲームのお姫さまをおっちょこちょいとはなかなかな発言だが、予想できていなかったのなら、確かにそれ以外の言い表しようがない。
世界のためにこれだけ考える姫巫女さまがただのおっちょこちょいなわけがない。五属性に分けたのも意図的だろう。
白の危ういほどの影響力。これは獣王を表した属性。黒は魔王の色。そして魔王が喪失に苦しむことも予想していたにちがいない。
「ヘレナさんは最初から獣王に適応する人物を一番最初に呼ぶと決めていたんだ。王の魂は統合され、別人となる。獣王は魔王の数少ない理解者だ。それが亡くなったとなれば、死神だって、生を渇望するでしょ」
「魔王にそんな人の心みたいなものがあるのかしら?」
ターシャは気づいてないんだね、と昴は続けた。
「会ってから魔王は白の王、獣王の話が出るたびに顔を歪めて、苦しんでいたよ。自分で殺したっていうときも、本当なら泣き叫びたかっただろうに。
それに[Knight]のカードを見たとき、騎士だったなら守れって言ったんだ。シエロにも似たようなこと言ってたでしょ?」
魔王の喪失の悲しみは人ならざるものだからこそ、深く胸に刻まれ、力ある故に、蘇らせられたら、と願ってしまう。
「それが黒属性の本質。だから破棄されたカードが場や手札に戻るコールアビリティが存在するんだと思うよ」




