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Brave Hearts  作者: 九JACK
中央神殿編
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第63話 青木家

 純冷の推測を聞いたアミが、なるほどね、と頷く。

「それなら色々納得がいくわね」

「俺もそう思う」

「ブレイヴハーツウォーズの目的にも沿っているからな」

 二人の同意を受けると、さて、と純冷が千裕を見やる。そこには複雑な表情が浮かんでいた。純冷は千裕が裕弥ではなく、千裕であることを知っているから、「裕弥」を重んじ、自らを否定する千裕に対して何と声をかけたらいいかわからない。そう考えると、アミが色々言ってくれたのはよかったかもしれない。手荒とは思うが。

「そろそろこいつにも話を聞かないとな。いつまでも現実逃避をされていては困る。……私の顔を見て、何か思い出してくれるといいのだが」

「ああ、知り合いなんだっけ」

 アミが軽く確認する。純冷は頷いた。

「そういえばさ、純冷の知ってる千裕ってどんな子なの?」

 昴が問いかけると、純冷は神妙な面持ちになった。

「鍔樹……弟の話は覚えているか?」

「病気だっけ? タイラントに病院の幻影壊されて大変だったよね」

「……ああ」

 純冷が暗い表情になる。今も病床についているであろう弟のことを思い出しているのかもしれない。

「少し、私のことを話そうか」


「姉ちゃん!!」

 純冷にはもう懐かしい声である。純冷には弟、鍔樹(つばき)がいる。彼はしばらく女当主が続いた青木という家に久しぶりに生まれた男児である。

 故に、周囲から期待されていた。次の当主として。

 しかし、順風満帆に事が進まないのが世の常である。何があったかというと、鍔樹は──とても当主なんて重荷を背負えないほどひ弱だったのだ。

 ただ、それだけの理由。それで、家から親戚中から、白い目で見られるようになるのだ。

 そんな目に耐えられなかったのは、現在の当主である純冷たちの母だった。母は自分が当主であることに誇りを持っていたし、男児を生んだことも誉に思っていた。

 そんな母のプライドを、病弱な息子の存在が傷つけたのだ。といっても、鍔樹とて、そうなりたくて病弱になったわけではない。母のそれは他に当たり所もないものだが、鍔樹に当たるのは完全に八つ当たりだ。

 気が狂った母は、鍔樹に暴力を振るい、強くなることを強要した。強要したところで、どうにもならないというのに。

 おかしくなった母を純冷は当然止めた。

 それに対し、母はこう叫んだ。

「お母さんの言うことが聞けないの!?」

 当然、純冷も言われっぱなしではない。

「今のあなたはおかしい。間違っている」

「家も継げない女のくせに!!」

 そんなことを言ったら、母も女だろう、と言い返そうとしたが、父に止められた。

「正論をぶつけるばかりじゃ、つらいだけだ」

「でも、母さんは間違ってる!!」

「それなら、純冷、お前が鍔樹を守りなさい」

「父さんも守ってよ! 父親でしょう!?」

 けれど、父は純冷に振り向くことはなかった。そのまま母の傍で、母を慰める言葉をかけるばかりで、息子娘には見向きもしなかった。

 純冷と鍔樹の父は、子どもより伴侶を選んだのだ。

 誰も、助けてくれる人はいない。施設に入ろうか、と考えたこともあったが、それは体裁ばかりを気にする母によって阻止された。家にいさせてもらうだけ有難いと思いなさい、と言われたことを純冷はよく覚えている。その時点で、自分はこの人たちにとって「子ども」じゃないことを認識した。自分のステータスを積むための「道具」にしか過ぎないのだ、と気づいた。

 父も母の味方だから、助けてはくれず──ただただ鍔樹の病状だけが悪化した。

 遂に、鍔樹は病院に入院することになってしまった。

 そんな頃に出たのが、テレビゲーム、ブレイヴハーツだ。欲のない鍔樹がCMをやるたびに食い入るように見ていたのを見て、純冷が小遣いはたいて買った。純冷も少なからず興味はあったから。

 病弱な鍔樹の面倒を見ながら、純冷はブレイヴハーツをプレイしては、鍔樹にその動画を撮ってみせ、一緒に攻略法を探したり、好きなキャラクターについて語り合ったりしていた。

 そんな最中に出会ったのが、どことなく不思議な雰囲気を纏った同じ年頃の久遠千裕だった。

 髪の色が白、なんてそれこそゲームのキャラクターにしかいないような容姿は目を惹いたし、病院の中でも「住人」と呼ばれるくらい長く入院している子どもということも、純冷たちに親近感を持たせた。

 特別な個室が与えられており、そこで、千裕もブレイヴハーツをプレイしていた。ゲームができる個室なんて羨ましい、と鍔樹があまりにも素直な感想を言ったために、純冷が思わず笑ってしまったのもいい思い出だ。

 そうして、千裕と仲良くなってからは、純冷も鍔樹も、少しは救われたような気がした。

 鍔樹も、生でブレイヴハーツを見られることに狂喜乱舞するくらいには喜んでいた。それを純冷も嬉しく思っていた。


「まあ、入院費すら払ってもらえなくなって、私が働き始めて忙しくなってから、あまり会うこともなくなっていった。鍔樹も体調を崩すことが多くなって……それを察したのか、千裕自身の身に何か起こったのか、しばらく会っていない。まさか異世界転移しているとは思わなかったが」

「やっぱり、テレビゲームのブレイヴハーツはあたしたちが召喚されたことに何か関係がありそうね」

「黒羽には確認してないけど、千裕までやってたっていうんなら、その線は強いだろうね」

 テレビゲーム、ブレイヴハーツ。RPG界に激震をもたらしたといってもいいゲームだ。作り込まれた世界観、全体的なビジュアルのよさ、それでいながら、低年齢層にもわかりやすいストーリー。しかし、中高生、ゲームオタクたちをも唸らせるクオリティの作品として有名。ただ、ゲーム会社が不明で、作品の制作に一部携わったアミですら、その全容を知らない、不思議な作品。

 きな臭い、とアミは思った。

「もしかして、ブレイヴハーツを作ったやつらの目的って……」

 今度はアミが可能性を提示し、それに少し議論して、彼らはようやく床に就いた。

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