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Brave Hearts  作者: 九JACK
中央神殿編
61/127

第58話 ターシャの日記

情報まとめという名の総集編。

 その日、ある程度の情報交換をし、一行はナターシャの部屋に宿泊することになった。マイムから指名手配されているナリシアと純冷などは街には顔を晒して歩けないだろう。魔王も魔王と知れたら一大事だ。幸い、ナターシャは天使の間でも位が高い。故に与えられた部屋は広いし、情報が漏洩する心配もなかった。

 ナターシャは昴と純冷だけが起きて熱心にデッキ調整をするのを眺めていた。眺めながら、情報をまとめる。


 召喚テイカーについて

 アイゼリヤに召喚されたテイカーは、スバル、スミレ、アミ、チヒロ、クロハの五人。

 スバルは赤属性、炎竜中心のデッキの使い手。アミ曰く、ブレイヴハーツ馬鹿。かなりこの世界のカードゲームを好んでいるらしい。年齢は十五歳。

 スミレは青属性、精霊中心のデッキを使う典型的な守備重視のデッキ、というだけでなく、カウンタータイプの戦術も取れる、手札次第で戦術を組み換えられる柔軟性のあるデッキを使う。スミレ自身も思考に柔軟性があり、他のテイカー五人に比べるとブレーンな印象がある。年齢は十六歳。ナリシアと行動を共にしている。

 アミは最近唐突に売れ始めたアイドルテイカー、通称ブレイカー・アミと同一人物。黄属性を使う。プレイスタイルはブレイカーの名前が示す通り、相手のアーミー、手札、山札などの強制破棄、破壊と呼べるものだ。本人はなかなかに短気で負けず嫌い。年は十五歳。

 クロハという人物は不明瞭な部分が多い。まず異彩を放っているのが、魔王……世界の死神と呼ばれる存在に取り憑かれていること。スバルの証言からすると、マントを羽織っていないと正常な自我が保てないらしい。魔王と二重人格のようになっており、魔王が主に表に出ている。黒のテイカーだ。年齢はスバルたちと同じくらいだと思われる。

 最後にチヒロ。スバルにはユーヤと呼ばれていた。シエロ曰く、ユーヤとは白の王の名前だというから、チヒロに白の王が取り憑いたと考えるのが順当だろう。スミレとは顔見知りらしいが、記憶喪失になっているし、合流したときから眠っており、目覚めない。

 順番としては、チヒロ→クロハ→アミ→スミレ→スバルの順に召喚されたようだ。世界の死神である魔王がクロハに取り憑いたことにより、魔王による阻害が取れて、三人目以降はまともな召喚が成功している。

 五人が五人とも、それなりに強いらしい。チヒロは、当初ユーヤと名乗っていたらしいが、赤の街エシュから白の街セアラーに向かうまでの間、連戦連勝、魔王と対戦するまでは不敗を誇っていたらしい。

 人間──おそらくクロハ──の姿を取った魔王も、黒の街ホシェフの主として魔物たちを屈服させるために、ブレイヴハーツを行い、民全員に勝ったという。

 アミに至ってはブレイカー・アミと異名を持つほどに有名なテイカーとなっていることから、強いことは確実だろう。

 スバルはそんなアミのエシュでのライブに故あって参加し、アミとの対戦を望む者たちを悉く倒したという。その強さはアルセウスとの戦いでも見ているから、よくわかる。

 スミレはというと、スバルがアイゼリヤに降り立って最初に対戦した相手だという。スバルはそのとき青属性の特性を使いこなすスミレに敗北を喫したという。

 スミレに敗北を喫したのはスバルだけではない。ナリシアもだ。

 スミレとナリシアの出会いは精霊の巫女であるアリという女の子のエルフに端を発する。それは、スミレとナリシアが今指名手配されている原因に通じるところがある。

 青の街マイムでは、精霊王を召喚しようとしたらしい。その召喚の生け贄としてアリが捧げられそうになっているところを、スミレが間一髪で助けた。スミレはアリを連れて儀式の間から逃げ出し、蒼い森を抜けてマイムから逃げようとした。

 そこに立ちはだかったのがナリシア。精霊を崇めるエルフの風習らしいが、生け贄になるのを拒み、逃げ出したアリはエルフ全員から追われることになった。それは義理とはいえ兄妹であるナリシアにも定められたこと。マイムと人間の世界との境である蒼い森を守るのはナリシアの役目だ。ナリシアは蒼い森を抜けようとしていたスミレの前に現れ、アリを取り返そうとする。

 ナリシアのアルを大切に思う気持ちを見抜いたスミレはナリシアとブレイヴハーツで対戦し、勝利。共にアリを守るために逃げることになる。それがマイムから指名手配が回っている理由らしい。スミレは冷静沈着で、時に淡白にさえ見えるけれど、意外と情に篤いのかもしれない。

 情に篤いのはスバルも同じだ。でなければ、アルセウスを治療してほしいなどと申し出ることはないだろう。まあ、スバルのあれは篤いというか、熱いというか。

 熱血漢なのかな、とも思うけれど、プレイスタイルは結構堅実だ。あまりピーキーな能力はなかったように思う。……ただ、引きが強いだろうか。いや、アルセウスと戦ったときは明らかにデッキの回りが悪かった。それでも挽回して勝ちを得たのだから、引きが強いと言えるだろう。

 だが、普通に負けることもあるらしいからよくわからない。

 これまで得た情報を踏まえるに、召喚されたテイカーの中でも、人間的には普通と思われていたスバルとスミレがブレイヴハーツにおいて、異彩を放っていることは否めない。タイラントとの対戦のときにその異常性は発揮された。はっきりと覚えている。

 スバルはアルセウスを倒し、奪われたスミレのデッキを取り戻すために、タイラントに挑もうとしていた。だが、スミレがそんなスバルを遮り、タイラントとの対戦を自分に譲ってほしいと言って戦ったことはまだ記憶に鮮明だ。

 そのとき、起こった現象が信じられない。スミレがあのとき語った通り、テイカーは最初に手にした[運命]の属性のカードしか使えないはずなのだ。だが、あそこではその[運命]を覆す出来事が起こった。──赤属性のスバルが本来青属性であるはずのスミレに自らのデッキを譲渡したことだ。それにより、スミレは一時的にではあるが、赤属性のカードを使うことができた。

 しかもスミレは初めて使う属性にも拘らず、赤属性のデッキを使いこなし、更にはアルセウスの戦法であったコトカタシリーズのピンポイントアビリティまで生かした。とても初めて使うとは思えない。異様な順応性である。それで一度は負けたタイラントに勝利を収めている。

 あのときスバルとスミレの間に起こったデッキ譲渡という現象は、様々なブレイヴハーツを見てきたが、見たことがない。タイラントのデッキの所有権利剥奪という能力も見たことはないが……テイカーの召喚によって、ブレイヴハーツというカードゲームに変化が起こっていることは否定のしようがない。

 更に、召喚されたテイカーの一人であるアミは今日、ブレイヴハーツにおいて、幻の階級とされる[騎士]階級のアーミーを顕現させた。

 白のテイカーチヒロには白の王ユーヤが、黒のテイカークロハには黒の王魔王がついている。そのことから、他のテイカーにもそれぞれの属性の王と呼ばれる存在が取り憑いているのではないかという疑問が浮上している。黄のテイカーアミには黄の王に相当するであろう天使長が、青のテイカースミレには青の王に相当する精霊王が憑いているという疑惑が浮上した。

 だとすると、赤のテイカースバルにも、赤の王と呼ばれる存在が憑いている可能性がある……

 赤の王、その存在には私やシエロ、ナリシアには大きな心当たりがある。赤の街エシュはかつて、竜が多く住み、竜との共存を望む竜の友と呼ばれる一族がいた。

 魔王がヘレナ姫を拐い、アイゼリヤを侵攻してきた際、魔王に立ち向かったのは、シエロを中心とし、中央神殿からは私、精霊王国からはナリシア、竜国からは竜の友と呼ばれる一族の少年だった。

 コウ、という名前の少年。彼は私たちの前に立ち塞がった難関を諦めずに乗り越え、魔王の真実に辿り着いた。

 スバルはコウにとても性格が似ている。魔王侵攻の際に、魔王を退けた英雄として、彼の名は広く知られてもいいはずだった。

 ……けれど、コウは一介の少年としか認識されず、元々強い力を持つ、シエロ、私、ナリシアの添え物扱いで世界に名を馳せることはなかった。

 ただ、竜の友の一族からは誉として、竜の友を治める長の地位を与えられたと聞く。

 もし、コウがスバルに憑いた赤の王に該当するなら、あらゆることに納得がいく。

 ここぞというところで、決して負けない、挫けない。その姿はコウそのものでその姿勢こそがアイゼリヤを救うのではないか、と私は思っている。



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