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Brave Hearts  作者: 九JACK
赤の街エシュ
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第3話 長い夜

 裕弥の紹介でエシュの宿屋で一晩を明かすことにした昴は一日を振り返りながら、苦い表情になっていた。

 人にクズとか言っちゃった。純冷のこと言えないや。

「そりゃ、あそこにくる人たちはあんな感じだから、仕方ないよ」

 裕弥はそう言ったけれど、昴はいまいちすっきりしなかった。

 一日に色々あった。突然異世界に召喚されるし、カードゲームは三回もやった。さすがに疲れた。今日は休もう。

 昴は早々と床についた。


 しかし、神様か誰かは知らないが、昴を休ませる気がないらしい。

 事件は起こった。


 夜中。昴は物音で目が醒めた。

「裕弥……? こんな時間に何を……」

 昴は同室の裕弥が何かしているのだと思って声をかけた。

 しかし、しっかり目を開けてわかった。何者かが裕弥を連れ去ろうとしていたのだ。裕弥が抵抗している物音だった。

「裕弥!」

「す、むぐっ」

 裕弥は口を塞がれてしまう。昴は何者かに飛びかかり、その手を裕弥から引き剥がそうとした。しかし逆に昴は振り払われてしまう。

 何者かは窓から逃げていった。

「待て! あてっ」

 昴の額に何かが当てられる。固くはない。紙、だった。

 部屋の明かりを点け、紙を開いた。

 ↑馬鹿には見えない文字」

下の方にそう書かれていた。

昴は若干ぴきっとなる。喧嘩売られた。

買おうかどうかと考えかけて、やめる。 今はここに書かれている文字を読むのが先だ。流れから考えて、これは裕弥を拐った犯人が置いていったものだろうから。

 冒険もののセオリーでは、こういった白紙の手紙というのは大抵[炙り出し]と決まっている。

 昴は部屋にあったマッチをすり、手紙を炙った。

「タウンショップで待つ」

 そんな文字が浮かび上がってきた。

 昴はデッキを持ち、そこへ向かった。


 タウンショップでは。


「あれー? 店員さん、ここって良い子の寝る時間には閉まってるんじゃなかったっけ?」

 裕弥が店員に訊ねた。

「その通りですが、今夜は特別営業なので」

「ふーん」

 裕弥は表情にこそ出ていないが、焦っていた。まずいな、と。

「僕をここに連れて来て、どうするつもり? リュート」

 虎の獣人が裕弥の声に応じて出てきた。

「はっ、俺様のテリトリーで偉そうに振る舞った身の程知らずなお子さんへのお仕置きさ」

「……イカサマのテリトリーじゃなくて?」

 リュートがぶちりとキレた。

「調子乗んなよ、ガキが!」

 鋭い爪のついた拳が裕弥の顔面に向かう。

「やめた方がいいよ」

 裕弥は早口に言った。リュートがすんでのところで拳を止める。

「ああ?」

「やめた方がいい。千裕が出て来ちゃう」

 言っている意味がわからず、リュートの眉間が更に皺を寄せる。

「千裕だあ? あの坊主の他にもお前のお友達がいるってか?」

「まあ……そんなとこ」

 裕弥の表情が気持ち苦味を帯びる。それに気づかずリュートは言った。

「じゃあ、そいつも後でぶっ飛ばしておかねえとな」

「やめた方がいいよ。あの子、僕より強いから」

「んあ? ……関係ねえな」

 さあ、ブレイブハーツだ、とリュートはデッキを突きつけた。

 そこへーー

「ちょっと待った!」


 昴がやってきた。

「裕弥、無事?」

「うん、ぎりぎり」

 裕弥の眼前には未だリュートの拳があった。

「リュート、君の仕業だったんだな! 喧嘩は買うことにしたから、俺と勝負だ!!」

 昴は珍しくキレていた。多分、あの手紙のせいだ。

「ほう、俺様に勝負を挑んでくるたあ、いい度胸だ。腕っぷしに自信があるのか?」

「何言ってんだ。ブレイブハーツに決まってるだろ!」

 昴はデッキを出した。

「俺、今こいつにアドム食らわせてやらないと気が済まない」

「ふん、いいだろう。……店員、特別製のフィールドを」

「かしこまりました」

 店員が何かスイッチを押す。すると、AテーブルとCテーブルが床下に消え、残ったBテーブルは表面が外れた。

「具現化魔法テーブルでございます。店内では通常、アドムなどの魔法を建物を守るために禁止しておりますので、このテーブルは1つのみですが」

 昴は俄然やる気が出てきた。

 お互い、テーブルにデッキをセットする。

「Brave Hearts,Ready?」

「「Go!!」」


「BURN」

「竜騎士 ハイカー」

 お互い、赤のテイカーらしい。昴の先攻からだ。

「ドロー。エッジスナイプドラゴンをアブソープション!」

 エッジスナイプのアブソープションアビリティで山札の一番上がドラゴンなら、アドベントできる。

「一番上は……[炎竜の子 サラマンドラ]! よってアドベント!!」

 サラマンドラはセンターの後方に呼ばれた。昴はそこからフィールド[炎竜の咆哮]をセットし、ターンを終了する。

「俺様のターン。ドロー」

 昴のプレイングをリュートは内心、鼻で笑っていた。

「さっきのターン、お前はカードを出す順番を間違えたな」

「ん?」

 昴は何のことかさっぱりだ。

「アブソープションする前にフィールドカードをセットしておくべきだった。そうすれば、一ターンで陣形を整えられたのにな」

 炎竜の咆哮の能力は[シェルターサークル以外にドラゴンアーミーが現れた時、山札の一番上がドラゴンなら、アドベントできる]というものだ。確かに、呼ばれたアーミーからの連鎖も可能なため、ドラゴンの多い昴のデッキなら、すぐに場を埋められただろう。

「でも、それじゃあ君の思うつぼだろう?[竜騎士]を主軸にしたリュートさんのデッキは相手アーミーの排除に特化してるって裕弥が教えてくれたよ」

「ぐっ……」

 それがリュートのプレイスタイルだった。

 プレイングを見抜かれているとなると、難しい。リュートはジャケットの後ろに手をやった。

「舐めた真似すんじゃねぇよ」

 いつの間にか後ろにいた裕弥がその手を掴む。さっきまでの裕弥とは眼光が違う気がしたが、まあ、それはさて置こう。

「まだゲームは始まったばかりだよ、リュートさん。続きをどうぞ」


「チューンシーン。[竜騎士 ラゼル]をアブソープション。続いてフィールド[団結の剣]をセット」

 リュートのアブソープションは竜たちが合体する昴のとは違い、センターの竜騎士に新たな竜騎士が並び立つというもの。フィールドは剣と太陽が描かれた旗が掲げられたものだ。

 かっこいい……! 昴は先程までの険しさはどこへやら、いつもの輝きに満ちた目でリュートのプレイの一つ一つを見ていた。

「そして、リバースバックアップをセット! バトルシーン。騎士たちの攻撃!!」

 二人の騎士がBURNに向かってくる。

「ここでアブソープションのラゼルのアビリティを発動。相手サークルが4つ以上空いているなら、アブソープションしてるアーミーのクリティカルを1増やす」

 コマンドはブランクだったが、昴に二ダメージ。ダメージコマンドもブランクだ。

「ターンエンド」


 昴は何故か喜んでいた。

「よかったあ……俺、ここに来てよかったよ」

「ああ? 何言ってやがる?」

「だって、こんな楽しいカードゲームができるんだ! しかも相手は強くて、勝つために色々考える。……楽しいよ!」

 昴の目の輝きにリュートは一歩退く。先程までの責めるような色合いは消えていた。

 こんな顔して、その上ブレイブハーツを楽しいなんて言うやつ、初めて見たぜ……

「俺のターン。ドロー。リバースバックアップを二枚セットして、バトルシーン。BURN、竜騎士を攻撃だ!」

 コマンドはブランク。

「ふん、大したことないな」

 リュートのダメージは一。しかし、昴は不敵に笑った。

「そんなことないよ。だって俺はまだターンエンドを宣言してない」

「……まさか!」

 リュートは昴のサークルを見る。

 さっき置かれたばかりの二枚のバックアップが開かれていた。

「二枚とも、[炎竜の子 サラマンドラ]だと……!?」

 炎竜の子 サラマンドラは相手センターに自分のセンターの攻撃がヒットした時にオープンする。

「火種の竜の咆哮が、新たな力を呼び覚ます! サラマンドラのオープン時アビリティ!」

 子竜が吼える。すると、大きな炎を纏った竜が降臨した。

「正規兵[炎翔竜 サラマンドラ]をアドベント!」

 炎翔竜 サラマンドラ。炎竜の子 サラマンドラが成長を遂げ、進化した姿だ。

「この能力の発揮後、炎竜の子は山札へと帰る」

「ぐっ……」

 炎竜の子 サラマンドラはクリティカルコマンドを持つ奴隷アーミー。それが山札に戻れば、コマンドとして再び登場する可能性もある。

「なるほど。サイドの空きサークルが埋まったことで再び攻撃ができるというわけか。しかし甘いな。バックアップなしでは竜騎士には届かない」

 炎竜の咆哮でサラマンドラのパワーは13000に上がっている。普通ならアブソープションも含めたパワー10000のハイカーに攻撃は届く筈だ。

 ところがリュートはフィールド、団結の剣をセットしている。団結の剣は、相手アーミーがバックアップによって支援されていない時、センターのパワーを5000アップすることができる。よってハイカーは15000。13000のサラマンドラ単体では届かない。

 それでも昴は笑っていた。

「忘れてるよ。炎竜の咆哮で俺は炎竜を呼べる」

 そう、炎竜の子の能力でアドベントしたサラマンドラは二体ともドラゴン。よって山札の上から炎竜を呼べるのだ。

「フレイムガトリンガー、エッジスナイプドラゴン!」

 空きサークルに昴は二体アドベントした。しかし。

「おいおい、フレイムガトリンガーは正規兵アーミー。前列の支援はできないぜ?」

「うん、そうだね。でも、炎竜の咆哮がここでまた生きる」

 場にドラゴンが増えたことで、前列は更にパワーアップ。二体増えたので2000アップすると、サラマンドラは単体15000。

「同じパワーなら攻撃は通る。つまり、サラマンドラは単体でも攻撃できる!」

「……これが狙いか!」

 二体の炎竜の咆哮が場に轟いた。


 ゲームは競り合いが続いた。

 そして、勝利したのはーー

「リュートさん、ありがとうございました。……アドム!」

 昴だった。

 アドムの炎に倒れるリュート。炎が消えると、昴は手を差し伸べた。

「ありがとうございました」

 その手をリュートは不思議そうに見つめる。

「手なんか借りなくても、起き上がれるよ!」

「うん。でも、握手」

「え……?」

 リュートは目を丸くする。

「楽しかったから、ありがとうございました。強い人とブレイブハーツができて嬉しかった」

「強い? 俺がか?」

「もちろん。イカサマなんてしなくても強いって」

 リュートは心が洗われたというか、目が覚めたような気がした。

 昴の手をしっかり握り、ありがとう、と返した。


 さて、昴は店員にも礼を言い、裕弥に振り向いた。

「さ、帰ろう、裕弥」

 手を差し出す。するとーー

「馴れ馴れしく触るな!」

 手を払われた。

「裕弥……?」

「俺は裕弥じゃない」 雰囲気がまるっきり違うその少年は、こう名乗った。

「俺は裕弥を守る騎士《Knight》ーー千裕だ」


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