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Brave Hearts  作者: 九JACK
vsタイラント編
49/127

第46話 異形の意志

 形勢逆転。ダメージはアルセウスが3、昴が2となった。まだ昴は攻撃を二回残している。それも、[炎竜の咆哮]のアビリティで前列もパワーアップしており、後列のバックアップも磐石の状態。この一ターンで随分と昴が優位に立った。

 しかし、アルセウスが焦る様子はない。むしろ余裕綽々といった感じで、楽しげに笑みを浮かべている。楽しげなのは、相対する昴も同様だが。

 そんな二人の様子を眺めながら、アミはぽつりと呟いた。

「とんだ主人公属性よね」

 アミの脳裏に浮かんでいたのはアルセウスの簡単なプロフィールとテレビゲームブレイブハーツの主人公だ。

 アルセウスは敵ながらもフェアプレイを好み、真っ向勝負が大好きなよく漫画にいる主人公のような性格だと紹介されていた。実際、ゲーム内でも、小物のタイラントに仕えているとは思えぬほど気持ちのいいキャラクターだった。

 事実上のゲーム主人公──コウも同じだ。熱血というほど暑苦しいイメージはないが、卑怯を好まず、時折猪突猛進で危なっかしいけれども、真っ直ぐな少年という設定だった。実際のアイゼリヤにいた[コウ]はどうだったのかは知らないが……

 昴にも通じるところがある。よく考えると、昴の年齢からすれば[ブレイブハーツで育った]といっても過言ではない。シエロやモリさんに出会ったときの反応からして、かなりディープなファンなのだろう。ゲーム世界への憧れも少なからずあったにちがいない。

 だからかどうかは計りかねるが、昴の性格はブレイブハーツのゲームの主人公に影響を受けている気がする。

 などと考えるのは、どうも昴を見るゲーム内の固定パーティメンバー──シエロ、ナリシア、ターシャの反応が初対面を見るものではないからだ。

 久しぶりに会う親友を見るような目。

 親友……

 アミの脳裏にちらつく影があった。じくじくと心を闇が侵食してくるのがわかる。それを振り払うためにアミは軽く頭を振った。

 昴とアルセウスの対戦に意識を向ける。

 アルセウスの余裕ぶりにアミは一抹の不安を感じていた。

 昴はこのターン、しかもバトルシーンだけでかなり巻き返した。引きの悪さが気にならないくらいに。

 残り二回の攻撃を受けてしまえばアルセウスは負ける。さすがに手札は0ではないので、シェルターするだろうが……何か、プレイングが不気味なのだ。

 わざと昴のバックアップを開かせたのではないか。

 先刻のバトルシーンはわざわざシェルターを出すような場面でもなかった。ダメージは1だったのだ。結果論ではあるが、あそこでシェルターしなければ、昴のコンボは決まらなかったはず。

 しかも、状況からしてシェルターがバックアップオープンのトリガーになる可能性が高かった。わかりながら踏んだとしか思えない。それが不気味だった。

 対戦したことがあるからわかるが、昴のドラゴン連鎖は一度決まっただけでもかなりの脅威だ。

 初めて対戦する相手のスタイルを知るためにちょっとした賭けに出ることはあるが、あまりにもリスキーだったのではないか。

 フェアプレイを好むアルセウスが、昴の引きの悪さに手を抜くのは考えられない。ゲームで主人公たちの前に立ちはだかったときも、愛用の巨大ハンマー[ライナセラス]でパーティ全滅寸前まで追いやる人物だ。譬、剣一本の子どもが相手でも、全力。勝負事において慈悲を持ち合わせていない人物なのだ。

 だとしたら、何かある。

 アミはごくりと唾を飲み、二人を見つめた。

 アルセウスは昴の残り二回の攻撃を片方だけ防ぎ、ダメージ4とリーチをかけられていた。

 昴がターンの終了を告げ、アルセウスに渡る。

「ターンアップ、ドロー」



 アルセウスの手札は今のドローで一枚。先程のターンで使いきったらしい。

 引いたカードを見て、アルセウスの表情が険しいものとなる。す、と青い目を閉じてカードを掲げる。

「古よりの掟のために異形(コトカタ)ながらも生きてきた者たちの長よ、反撃の狼煙を上げ、今こそ起て! エボルブ!!」

 その場に衝撃が走る。エボルブ。そのシステムはブレイブハーツのルールにあるにもかかわらず、ほとんどのものが使用しない、センターを変更するもの。

「正規兵[異形(ことかた)狂戦士(バーサーク) ゼウス]!!」

 アルセウスの後方に現れたそのアーミーはこれまで現れたコトカタシリーズのアーミーと同じく、竜人と人間の様相の混じったものであった。だが、誰もが息を飲んだのは。

 逞しい人間の腕、赤い虎の肌のような模様を浮かべる竜鱗、青い瞳。──種族は違えど、[ゼウス]はあまりにアルセウスと似ていた。

 しかも名前には[バーサーク ゼウス]とある。アルセウスの二つ名そのままだ。

「えっ……!」

 サバーニャが記憶にないカードに驚く。

 情報屋として結構名の売れているサバーニャはその名に恥じぬようあらゆる情報を網羅していた巷に出回っているカードはもちろん、通常カードショップなどでは手に入らない稀少なカードの情報も知っている。ブレイブハーツのカードについてなら全て把握しているという自負があった。

 しかし、昴やアミと出会ってからは、見たことのないカードを度々見かける。昴の[BURN]やアミの[Lightning]、裕弥の[Knight]もそうだ。ましてや、アイゼリヤに実在する人物と同じ名のカードなど。

 信じられないといったところで始まらない。だが、信じがたいことだった。他の面々もそうだっただろう。

 そんな中、比較的落ち着いている人物もいた。ナリシアとその陰で様子を見ていたアリである。彼らは以前、アリと同じ名を持つアーミーが純冷のデッキに入っているのを見た。

 やはり、他にも実在の人物と同じ名のカードがあるのか、とナリシアは納得していた。

 驚愕に彩られた空間の中でアルセウスはターンを進める。

「[ゼウス]のセンター登場時アビリティで、山札の上五枚を破棄する」

 ばらばらと山札から五枚がダウンチャームへ落ちていく。

 手札もアーミーもない状況でデッキまで破壊するとは、自爆としか思えない。だが、アルセウスの目には負ける気など微塵もなく、昴は困惑した。

 何が始まるんだ?

「機は熟した」

 疑問に答えるようにアルセウスは宣告した。

「フィールド[還るべき場所]のピンポイントコールアビリティ!」

「コールアビリティ、ですって!?」

 場が震撼する。昴やアミは一度だけ聞いたことがある。

 コールアビリティとは、[ダウンチャームへ破棄されたカードをフィールドに復活させる]タイプのアビリティ。()()()()特性だ。

「センターが[異形]の名を持つアーミーであり、なおかつ[ヘルメス][アフロディテ][ガイア][アレス][ゼウス][クロノス][ウラノス][ポセイドン][ハデス]のいずれかの名を冠している場合、ダウンチャームより同じ条件に即した名のアーミーをアドベントできる」

 ダウンチャームよりアーミーをアドベントする能力。まさしくコールアビリティだ。

 アルセウスが呼んだのは左サイドに[異形の魔女 ガイア]、そのバックアップは[異形の剣士 ヘルメス]、右サイドには[異形の司祭 クロノス]、その後方に[異形の天使 アフロディテ]、センター後方には[異形の眷族 ウラノス]である。

 あっという間に空だったアルセウスのフィールドが埋まる。

 だが、それだけではなかった。

「更にアドベントしたものと異なる名前の[異形]アーミーがいるなら、そのアーミーをアブソープションできる。来い、アレス!」

 空中でくるりと一回転して、アレスはゼウスと並び立つ。アルセウスのフィールドは異様な姿を持つものたちが集う場となった。

「還るべき場所はここにある。異形たちはそこへ還るために剣を振るい続ける。これがアビリティ[異形の意志]だ」



 エボルブのたった一手でアルセウスのフィールドは整った。

「行くぞ」

 アルセウスが好戦的な笑みを浮かべる。

 まず先陣を切ったのはガイア。後方のヘルメスが両手に持つ剣を投擲する。その剣が上空を通過する直前でガイアが手にした錫杖をとんと地面に一つき。すると剣が何百にも増え、そのままBURNの方へと降り注いだ。

 昴に1ダメージ。

 息を吐く間もなく、クロノスが迫る。幻影なのか揺らめく分身がBURNを取り囲み、何やら呪文を唱えて鎖でBURNの体を締め付ける。そこへ、後方でアフロディテが唱えていた魔法が完成し、BURNの上に容赦のない雷が落ちた。

「ダメージコマンド……[炎霊 ほむら]、ヒーリングコマンドゲット!」

 ダメージはプラスマイナス0で3のまま。

 そしてとうとうセンターの攻撃。

 センターのゼウスは階級が正規兵であるため、元のパワーが9000と高い。それにアブソープションの3000、ウラノスの支援で7000、フィールドの効果で5000のパワーアップが加わる。合計24000パワーだ。

 対するBURNは元パワーが6000、アブソープションは3000、自らのアビリティで5000が加算され、更に先程のヒーリングコマンドでプラス5000。合計19000。その差は5000。ブレイブハーツのシェルター値は5000か10000で統一されている。つまりこの場合、シェルターは10000以上なくてはならない。

「[フレイムサラマンドラ][竜の友 サイ]でシェルター!!」

 現在3ダメージだが、クリティカルコマンドを引かれると終わってしまう。それゆえにコマンドが出ても通らない万全の姿勢で臨んだのだが。

「それはコマンドが一枚だった場合の話だろう?」

 アルセウスは笑みを崩さず、言い放った。

「ところが、[ゼウス]は二回コマンドチェックができる」

「えっ!?」

「階級の問題ね」

 思い当たったらしいサバーニャが解説する。

「ブレイブハーツには主な階級が三つある。ご存知[奴隷][志願兵][正規兵]よ。けれど、かなり稀少なこれより上の階級のアーミーがいるの。それが[騎士]。[騎士]階級のアーミー自体は未だ現れていないけれど……昴、アブソープションのシステムは覚えてる?」

「アブソープション? [奴隷]や[志願兵]のアーミーをセンター専属の支援みたいにつける……っていう理解でいいんだよね?」

「ええ。もう一つの特性は?」

 あ、とそこで声を上げたのはアミ。

「[志願兵]のアーミーをアブソープションしたときだけ、階級が一つ上の扱いになるのよ! つまり[志願兵]のアレスをアブソープションした[正規兵]のゼウスは[騎士]階級の扱いになるのね!」

「ご名答。そんな[騎士]階級は[ドライブコマンドチェックを二回行える]能力がある」

「二回……」

 昴は自らの敷いた(シェルター)を見る。シェルター値は15000。アルセウスが()()コマンドを引いても通らない。

 しかし、二枚なら?

 運よく二枚連続でコマンドを引けるとは限らない。だが、昴は胸中に湧く焦燥を抑えることができなかった。

 何故なら、アルセウスはこの対戦中、ほとんどコマンドを引いていない。フィールド全体を通して、出てきたコマンドは[異形の天使 アフロディテ]一枚きり。

 つまり彼のデッキには残り15枚のコマンドカードがまだあるのだ。

 昴がごくりと唾を飲むのと同時、アルセウスは一枚目のコマンドをめくった。

「[フレイムサラマンドラ]──クリティカルコマンドだ」

 ゼウスに5000のパワーとクリティカルが1追加される。

 大剣をBURNめがけて振りかざし、鍔迫り合う。きちきちと小さな火花が散った。

 ゆっくりと二枚が開かれる。


「[異形の悪鬼 ハデス]──ドローコマンド」




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