第44話 開戦!!vsゼウス
「馬鹿なことを言わないで!!」
真っ先に反応を示したのは天使。鋭いオレンジ色の眼差しでタイラントを睨む。
「デッキの所有権の剥奪ですって? そんなの、認められるわけないじゃない。ヘレナ姫の行動に疑念を抱いていても、中央神殿はヘレナ姫のサポートにつく。故にブレイブハーツにおいても、他属性に転向しないように、の他、決まり事に則って管理を行っているのよ?」
「ハン、中央神殿の認可など関係ない。我輩が得た能力であるのだ」
タイラントは天使の反論を鼻で笑う。
「実際に我輩が使っていた赤属性のデッキは他人──そこのバーサークゼウスのものだ」
バーサークゼウスの名に昴はやっぱり、とタイラントの前に立つ獣人を見上げた。腕が人の手をした虎猫の獣人。ゲームの知識から昴もその人物の名を予測していたらしい。
同時にタイラントの言に驚きを禁じ得ない。
「ゼウスに勝ったの? ……いや、ゼウスがタイラントと戦ったの?」
昴の意外な着目点にほとんどの面々が目を点にする。それもそうだろう。タイラントとバーサークゼウスことアルセウスの関係を知る者は少ない。
ゲームの中でも気づく人しか気づかなかった裏設定である。アイゼリヤの住人が知っていなくても無理はない。
「ああ、バーサークゼウスとタイラント……特殊な主従関係ね」
どうやらブレイブハーツをプレイしたらしいアミにはわかったらしい。彼女は正解を紡ぐ。
「奴隷と主人の関係」
「!?」
アルセウスとタイラントを除くアイゼリヤの住人たちに驚愕が走る。
「奴隷と主人だって? 馬鹿な。ゼウスはおれたちも敵対したことのあるやつだが、タイラントとは対等な関係にあったぞ?」
「その認識が間違ってんのよ。そもそも人種差別の激しいタイラントが獣人のゼウスを重用するってのがおかしいとは思わないの?」
アミの指摘にはっとする一同。
テレビゲーム・ブレイブハーツにおいてバーサークゼウスというのは[タイラントの手先]として主人公たちの行く手を幾度となく阻んできた。タイラントを尊敬し、その思惑の邪魔となるものは容赦なく排除する、狂戦士。事実、タイラントもアルセウスを重用しており、常に傍らに彼を置いた。
その様子からバーサークゼウスはタイラントの右腕とまで評されたのである。奴隷と主人という上下関係は信じ難いだろう。
アミの冷静な指摘にアイゼリヤメンバーはあっと納得する。
タイラントはそれらを鼻で笑った。
「いくら己に従順な戦士といえど、そもそも、我輩がこの見てくれだけでも気色の悪いやつなんぞを受け入れると思うてか? 本に、勇者連中というのは甘いやつらだ」
惜しみない侮蔑にアミが顔をひきつらせる。昴もタイラントを睨んだ。
「あんたには感謝とかそういうのはないわけ? 獣人だろうが、何だろうが、そいつがあんたを守ってきたのは事実でしょうが」
アミがじろりと睨むが、効いた様子はなく、タイラントは片眉を吊り上げる。
「守る? そんなこと、頼んだ覚えはない。我輩に従順で有能だから使っているだけだ」
魔王とアルセウス以外の全員がその台詞に視線を鋭くする。シエロが叫んだ。
「ゼウス、お前は何故そんなやつに従う!?」
その問いにアルセウスは動じることもなく、ただ視線だけを向けて答える。
「騎士サマよ、あんたにはわかるめぇよ。何の弊害もなく、普通に育ったあんたには」
その声が昴には落ち着いているようで悲しげに聞こえた。
残念ながら、昴にもアルセウスの詳しい過去についてはわからない。アルセウスは名前のある敵キャラクターというだけで、タイラントとの関係以外の背景説明はされていなかった。ネット上にもあまり情報はない。
アルセウスとタイラントの関係が奇妙であることは確かだ。そもそも、何故獣人嫌いのタイラントが獣人の中でも異形のアルセウスを奴隷とはいえ、自分の側に置くのかも不明。
だが、一つ明らかなのは。
「あなたとタイラントがどういう関係か、詳しいことは知らない。けれど、あなたはタイラントに利用されている。あなたはそれを理解しているの?」
当然のようにタイラントはアルセウスを見下している。それは先の言でも明らかだ。しかしアルセウスは理解しながら、尚もタイラントを慕っているように見える。
昴はそこまでしてタイラントを慕う理由よりも本当に理解しているのかを確認したかった。
「ああ。そんなのは最初からわかってるよ。奴隷ってのは主人の持ち物だ。持ち物が使われることにゃ何の不思議もねぇ」
つーわけで、とアルセウスは目を細める。
「タイラント、ここにいる連中を始末してもいいか?」
「無論」
タイラントの承諾を得るなり、アルセウスの手首がぶんとぶれる。すると一瞬にして巨大なハンマーがその手の中に現れた。
昴は目を細める。当然その武器のことは知っていた。アルセウス愛用のハンマー[ライナセラス]。常人の腕力では到底扱えない代物である。
ゲームではあまり好んで使う者の少ないハンマーだが、この[ライナセラス]は人気があった。アルセウスの専用武器であるため装備できるものにもならなかったし、武器コレクトのうちにも入らなかったが。
シエロ、天使、エルフに緊張が走る。おそらく三人共、かつて[ライナセラス]の威力を身をもって体感しているからだろう。常人には決して扱えないであろう代物だが、それをアルセウスが持てばとんでもない威力を発揮する。
「そんな物騒なやり方をするの?」
緊張した空気の中に昴が問いを一つ落とす。ほとんどの視線が昴に向いた。
アルセウスが片眉を吊り上げる。
「物騒? 関係あるか。タイラントがお前らを始末していいと言ったんだ。方法なんておれの好きにしていいだろう」
「嫌だよ。シエロたちアイゼリヤの人たちはいいかもしれないけど、俺やアミは戦争なんてしたことないもん。抵抗できる余地が残されてないじゃん」
「……ふぅん?」
アルセウスは昴の意見に興味を示したようだった。記憶と合っていて、昴は内心ほっとする。アルセウスは一方的なやり口を好まない性格。フェアプレイを好む人物だった。ゲームと同じでよかった。
予想通りの反応を得られたので、昴は淀みなく続ける。
「俺たちだって、あなたやタイラントに言いたいことが色々ある。この場の誰もが戦える方法にしよう」
「誰もが戦える? 何だ?」
もちろん、と昴は懐からデッキを取り出す。それをアルセウスに突き出し、不敵に笑った。
「ブレイブハーツだよ」
昴の言葉にアルセウスは片眉を吊り上げる。
「おいおい、おれは今、ブレイブハーツはできねぇぞ? タイラントはおれのデッキ使ってんだ」
「所有権、返してもらえば?」
至極あっさりとした昴の返答に場の一同が狐につままれる。一人タイラントが高らかに笑った。
「わっはっはっ、我輩が返せと言われて返すと思うのか? 面白いことを言う童よのう」
「返さないなら、俺がゼウスのデッキの分までひっくるめて戦うだけだし」
嘲りが多分に含まれたタイラントの言葉にも動じることなく返した昴に、タイラントは軽く唸った。しかし、すぐに鼻で笑う。
「ハッ、わざわざ返すなどとしなくとも、そこの小童のデッキを奪った瞬間から、そいつのデッキの所有権は戻っておる。ヘレナ姫の作ったルールとやらの影響で複数属性のデッキを所持できないらしい。なんともややこしいことよ」
タイラントは悪態を吐くが、昴としてはいいことを聞いた。
「これでバーサークゼウスと心おきなくブレイブハーツができるね!」
満面笑顔の昴の一言に「このブレイブハーツ馬鹿が」とアミが低く罵る。アミのその言葉が昴に届いたかどうかはともかく、昴の目的はもちろん[ブレイブハーツを楽しむ]だけではなかった。まあ、目的の大部分であることは否定できないが。
「自分本来のデッキじゃないとフェアじゃないからね」
「ふぅん。お前さん、なかなかいいこと言うねぇ。異世界人とやらはおれ好みの性格が多いと見える」
アルセウスはライナセラスを一振りして消し、タイラントが純冷との対戦で使っていたテーブルからデッキを取る。
辺りを見回し、彼は猫独特の瞳を細めた。
「おれにゃ、お前さんらの心を壊そうとかいう趣味はねぇ。その意志を打ち砕くことはあってもな。──スタンバイ!」
アルセウスが叫ぶと、タイラントと純冷が使っていたテーブルは消え、昴とアルセウス、それぞれの前に新たにテーブルが現れた。そこにデッキをセットする。
互いの準備が整ったところで、開戦の宣言がなされた。
「Brave Hearts,Ready?」
「「GO!!」」
やっとカードシーン!!d=(^o^)=b




