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Brave Hearts  作者: 九JACK
黄の街オール編
42/127

第39話 不穏

 新キャラ登場祭りでやんす!!


 その男はなかなか面妖な姿をしていた。

 顔は猫。赤茶色と白の虎猫らしい。目はくすんだ青。ごつごつした人間の手で巨大なハンマーを持っている。ハンマーの頭は元の世界の家庭用の一般的な冷蔵庫くらいはある。

 それを軽々と担ぎ、にやりと笑う獣人に純冷は覚えがあった。

「アルセウス・マードリック……」

「おっ」

 名を呟くと虎猫獣人が反応した。

「見かけないお嬢ちゃんだけど、おれってば案外有名?」

 純冷は言葉を返さず、無表情な視線を返す。ナリシアとターシャが目線で問いかけてきたが、今は悠長に説明している場合でもないだろう。

 見た目から感じ取れるとおり、アルセウス・マードリックは戦士だ。

 しかもただの戦士ではない。[狂戦士]だ。

 これもブレイブハーツでの知識だが、おそらく通用するだろう。

「なるほどな。バーサークゼウスで来るなら、黒幕はタイラントといったところか」

「「!!」」

「ほう、嬢ちゃん、タイラント知ってんのか。妙ちくりんな風体の割に知ってんなぁ」

 タイラントの名にはナリシアとターシャも覚えがあるらしい。アルセウスは余裕の笑みの中に微かに純冷への警戒心を滲ませた。

 妙ちくりんな風体──純冷のブレザーのことだろう。言われ慣れている、と捨て置いた。

「それで、何か用?」

 問いを放ったのはターシャだ。んん? とアルセウスは惚けた表情をする。

「麗しい天使サマのご尊顔を拝見しに参りました」

「偽りは許さないわ」

「嘘じゃないんだけどなぁ」

 ターシャの鋭い視線にアルセウスは肩を竦める。

「大方、通りたい道が結界で塞がれていて面倒だったから壊したんだろう」

「おっ、嬢ちゃんいい勘してる。まじ何者?」

「で、結界を壊してみたら天使が出てきてあらびっくり。そこでようやくタイラントの命を思い出した」

「あらやだ心読んじゃう系の魔導師サン?」

 おちゃらけたアルセウスを完全無視。純冷は端的に要求を述べる。

「タイラントについて教えてもらおう」

「おやおや? 嬢ちゃん詳しそうなのに」

「生憎、私の知識は魔王侵攻時止まりでな。一体何年経ったのやら。時が経てば人の考え方も変わるだろうし。タイラントが何を考えているのかぜひ知りたい」

「なぁる。嬢ちゃんみたいな考えのやつ、好きだぜ」

 アルセウスはにっと人好きのする笑みを浮かべる。

 びゅっ

「が、全然タイラントに仕える気なさそうだから、駄ー目!」

「カホール!!」

 台詞と共に放たれたアルセウスの槌の一振り。純冷は即座に呪文を唱えて対処する。

 カホールの声に応じて純冷たち四人を囲う氷の壁ができた。がちんとアルセウスの槌を受け止め、割れる。

 がしゃん

「案外呆気ないのな。胆の据わってる嬢ちゃん、好みだったんだけどなぁ」

「……勝手に殺すな」

 横合いからした声にアルセウスは飛び退く。真横に純冷がいたのだ。

「おいおいどういう手品だ? おれが気づかないとか相当だぞ」

「お前が迂闊なだけだ。勝利を確信して一瞬酔っただろ」

「おお、おお、一体どこのお師匠サマだよ。怖い上に図星」

 純冷はカホールの壁が作った一瞬を逃さず、飛び退いただけである。アルセウスの横に回ったのはついでだ。

 ナリシアたちも上手く退いたらしい。追撃を警戒し、ナリシアとターシャで防御壁を張っている。

「全くもって面白ぇ」

 アルセウスの目は他の三人に行くことはなく、純冷を品定めするように眺め回す。

「いやぁ、実に気に入った。本当、仲間になんね?」

「そっちがなれ、と言いたいのだが」

 無理だろう? と純冷が紡ぐと満足げにアルセウスは笑う。

「おれは強くもねぇやつの仲間になんかならねぇよ」

「タイラントはさして強くなかった気がするが」

「言ってくれるねぇ。暴力だけが強さじゃねぇよ、嬢ちゃん」

 そうか、と純冷は真っ直ぐアルセウスの瞳を捉えた。

「それなら、暴力ではない勝負にも応じてくれるな? バーサークゼウス」

「うん?」

 純冷は懐からデッキを取り出す。

「ブレイブハーツだ」



「ブレイブハーツだぁ?」

 純冷の言葉にアルセウスは胡乱げに目を細める。隅に退いたナリシアたちも何故今? というような顔をしていた。

「ブレイブハーツウォーズ。今やアイゼリヤのほとんどの住民が参加しているカードゲーム闘争だ。暴力だけが強さじゃないというのなら、お前も知っているだろう?」

「知っちゃいるが……まさかそんな方法で勝負を挑まれるとはねぇ」

 アルセウスはハンマーを持っていない方の手でぽりぽりと頬を掻く。

「悪いが、おれは今デッキを持っていない。すぐに戦うのは無理だな」

「ならば場所を変えよう。なんなら、お前のアジトにでも行って直接タイラントと話をつけた方が早いか」

 きっぱりと告げた純冷をアルセウスがくつくつと笑う。

「本当に面白ぇ嬢ちゃんだ。いいぜ、付き合ってやろうじゃねぇか」

 そちらさんも寄りな、とアルセウスはナリシアたちを手招きする。訝しみながらも純冷の方へ寄ってきた。

「もっと寄れってのな。転移陣使うんだから」

 アルセウスはどこからともなく、ぴらりと紙を一枚取り出す。何も書かれていない白い紙。それを空にひらりと舞い上げ。

 ザザザッ

 目にも止まらぬ速さで、何かをした。かしんという音にアルセウスの手元を見ると、ハンマーの柄に何かを納めていた。一瞬見えた鈍い輝きは──刃物か。

 空に目を戻すと、先程放たれた紙は複雑な紋様を象り、切り刻まれていた。おそらくアルセウスがやったのであろう。

 紙の紋様はくるくると空中で回りながら肥大化し、落ちてくる。純冷たちを覆い尽くすほどの大きさになったそれはすっと純冷たちの上に落ちて──

 瞬間、純冷たちの姿が場から消えた。


 浮遊感。エレベーターみたいだな、と純冷はぼんやりと思った。

 すと、と地に足がつく。紙に覆われてから姿の見えなかった仲間たちも近くに降り立ったらしい。小さくほっと息を吐き、辺りを見渡す。

 地面は赤いカーペット、高級感のあるクリーム色の壁には手摺があり、凝った装飾がされている。城だろうか。

「こっちだよ、嬢ちゃん」

 隣からアルセウスの声がした。そちらに振り向くと、大きな階段。やはり赤いカーペットが敷かれている。見上げると、階段の先に誰かが佇んでいる。

 よく見えるようにとの配慮か、アルセウスが一歩退いた。純冷はその人物をじっと見上げる。睨み付けるように。

 後方でナリシアとターシャが息を飲んだ。

「タイラント」

 純冷がその名を呟くと不機嫌そうな声が下りてきた。

「おい、ゼウス。我輩は天使様をお連れしろと言ったはずだ。なにゆえに無礼な(わっぱ)と薄汚いエルフが二匹いるのか」

 尊大に問いを放ったのはアグリアル・タイラント──純冷の知識で言えば、かつて西の地が獣人国になる前に統治していた公爵だった。



 アグリアル・タイラント。獣人国になる前のアイゼリヤ西域統治者──否、支配者と言った方が正しい。

 独裁者で、特に人種差別や偏見の多い人物として有名だ。賢王が現れたことによってその地位を追われ、その非道なまでの人種差別から、中央神殿の監視下に置かれることとなった人物。

 というと、シエロたちの冒険譚には全く関わりのなさそうな人物であるのだが、実はテレビゲームブレイブハーツのストーリー中に出てくるのである。主人公たちの妨害をする敵キャラクターとして。

 また、タイラントを倒すイベントをクリアすると、図書館で読めるようになる書物の中にタイラントに関する解説も出てくるのだ。

 タイラントという人物はゲームで言うとよくいる小物キャラクターである。メインストーリーには出てくるけれど、中ボスですらない。人気などこれっぽっちもないキャラクター。

 だが、純冷が覚えていたのは、このタイラント、実は隠しシナリオにやたらと登場するのである。というか、隠しシナリオで主人公たちのクエストを邪魔するのはほとんどタイラントの一味なのだ。

 目的は賢王への嫌がらせ及び彼の粗探し。小さすぎて純冷が哀れに思ったほどだ。

 今、階段の上に佇む人物はゲームでのイメージと全く違うことなく、人を見下すような冷酷な雰囲気を漂わせていた。顔は若干しわが増えている。年を取ったからか、ゲームイメージより少し貫禄があるかもしれない。

 まだ十代半ばの純冷を[(わっぱ)]と表現するのはよしとしよう。しかし、[薄汚いエルフが二匹]とは、さすがは人種差別で名の知れた暴君(タイラント)といったところか。

 怒りを隠す代わり、純冷はぎりっと拳を握った。

 アルセウスが上手いことその手が隠れるような位置に移動し、己が主に応じる。

「すまんな、タイラント。天使サマにくっついて来ちまったんだ。それにちょいとこの()()()()が気に入っちまって」

 ふとアルセウスの言葉に違和感を覚えた。[小僧っ子]? 純冷のことを指しているようだが、アルセウスは一目見て純冷を女と見抜き、[嬢ちゃん]と呼んでいたはず。タイラントは男と勘違いしているようだが、何故わざわざそちらに合わせるのだろう? 不思議でならない。

 そう思っているとアルセウスはちらりと純冷を見やり、軽くウインクをした。意味はわからないが、悪意があるようではないので、成り行きに任せるとしよう。

「ほう、お主が気に入るとは珍しい」

 タイラントの視線が純冷に向く。純冷は真っ向から受けて立つ意志を持って再度睨み上げた。

 すると、アルセウスの人間の手がわしゃりと純冷の頭を掴む。実際は撫でているつもりなのだろうが、力加減がわからないのか地味に痛い。

 純冷が不本意な視線を送ると、アルセウスはしたり顔をタイラントに向けた。

「いいでしょう? この物怖じしない目。それでおれに[ブレイブハーツで勝負しろ]と言ってきた。デッキを忘れたって言ったら、[ならお前の雇い主のところに連れて行け]とさ。胆が据わってるだろ?」

「ほう? 我輩とブレイブハーツを、か」

 タイラントの目が細められ、じっと純冷を見据える。純冷は挑戦的な色を滲ませて見返した。

 しばらくそうして、ふっとタイラントが笑みをこぼす。

「よかろう、我輩が相手になってやる」

 懐からタイラントがデッキを取り出し、スタンバイ、と唱える。

 現れたテーブルに純冷はすぐさまデッキをセット。階下に来ようともしない相手に静かな眼差しを送る。

 では、と一言置いて、タイラントが高らかに告げる。

「Brave Hearts,Ready?」

「「GO!!」」




 やったー! 次回は待ちに待ったカードシーンだ!!

 お盆だけど頑張るぞー。

 ブレイブハーツのルールを忘れちゃった方は本作のプロローグ「チュートリアル」をお読みください。


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