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Brave Hearts  作者: 九JACK
赤の街エシュ
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第1話 青のテイカー

 昴が光の出口を出ると、そこは鬱蒼とした森だった。

「そういえば、地図とか全然持ってないんだけど……」

 アルーカはもういない。道案内は当然いない。

「まずは他のテイカーと会って戦いなさい」

 アルーカはそう言っていた。ブレイブハーツウォーズはカードゲームブレイブハーツで戦うものだ。とりあえず、人と会えということだろう。

 問題は、ここがどこかわからないことだ。街に行けば人に会えるだろうけれど……

「おや、そこの少年、もしかして道に迷っているのかな?」

「うわっ、獣人!」

 振り向くとライオン頭の獣人がいた。しかし落ち着いて考えると、アルーカだって猫の獣人だった。ここはゲームの世界なのだ。獣人がいたっておかしくはない。

「ええと、こんにちは」

「こんにちは。どうやらアイゼリヤに慣れていないようだね。それで一人旅は大変だろう? 私が街まで案内しよう」

「本当!?」

 いきなりの幸運と思い、昴は目を輝かせた。

「もちろんだとも。嘘を吐いてどうす」

 大仰に頷きかけた獣人にどこからともなく水がバシャッと降りかかった。

「誰だ!?」


「……ふん」

 上の方からしたその声の方向に向く。木の上にブレザー姿の少女がいた。見たところ人間のようだ。

「この程度で喚くとは、小さい奴だ。まあ、こそ泥だから仕方ないか」

「なにぃっ!?」

 ブレザーの少女はすたっと木から飛び降り、昴と獣人の間に立った。

「はあ……しかし二日前に会った[客]の顔をもう忘れているとは。とりあえず、盗んだものは返してもらう」

 少女はいつの間にかカードを一枚手にしていた。ブレイブハーツのカードだ。青属性のカードらしい。

「貴様、いつの間に……!」

「他のも預かっていく」

 少女はマジシャンよろしく、カードを何枚も手にし、広げた。獣人は言葉を失う。

「そこの。こんな奴は相手にするな。あと、一緒に来い」

「え? ああ、うん」

 少女に招かれて、歩き出す。立ち去りかけて、少女はふと止まった。ライオンの獣人に振り返る。

「ブレイブハーツで戦うこともできないくせに人のカードを盗むんじゃない。そんなのならこそ泥の方がまだましだ」

 捨て台詞に獣人の肩がびくりと跳ねた。

 昴は何かもやもやした気持ちを抱えて少女についていった。


 少女に連れられて辿り着いたのは、森の外れにある小屋だった。少女は遠慮の欠片もなくその中に入る。

「勝手にいいの?」

「……住んでいた者はもう土の中だ。私が来た時にはなんとか息があったが……」

「そっか……」

 深くは訊かなかった。

 さて、少女は一体ここで何をしようというのだろう?

「まだ名乗っていなかったな。私は青木 純冷すみれ。お前と同じ、ブレイブハーツテイカーだ」

「俺は紅月 昴。確かにブレイブハーツテイカーだけど、どうして?」

「……お前も異世界から召喚されたんだろう? アイゼリヤの巫女、ヘレナに。森で迷うのは不慣れな異世界人だけだからな」

 なるほど。

「って、君もヘレナさんに?」

「ああ。何故かは知らないがな……それで、お前に頼みたいことがある。わかるか?」

 純冷はデッキをちらつかせた。そう、ブレイブハーツテイカーが二人いて、やることと言ったら一つしかない。

「ブレイブハーツ、だね?」

「ああ。受けてくれるか?」

「もちろん。俺も相手を探していたところだし」

 少し、君に言っておきたいこともあるしね。

「なら……行くぞ」

 小屋中のテーブルに二人はデッキをセットする。

「Brave Hearts,Ready?」

「「Go!!」」


 [Burn]:赤属性、ドラゴン

 [Rainy]:青属性、フェアリー

 二人のリバースメインアーミーが開かれる。ブレイブハーツスタートだ。

「青のデッキ……」

「青属性と戦うのは初めてか?」

「うん。俺まだ1回しか戦ったことないし。アルーカは赤属性だったし」

「アルーカに会ったのか?」

 純冷はやけに驚いていた。

「君も会ったの?」

「ああ。しかし、私と戦った時は青属性のデッキだったぞ」

 それは不思議だ。

 純冷は驚いていたが、すぐに立ち直る。

「そういえば、アルーカは[七色のハーツテイカー]

の異名を持つと聞いたことがある。きっと、どの属性のデッキも使いこなせるという意味なのだろう」

「へえ、アルーカってすごいんだね」

「ヘレナの友人だと言っていたから、彼女だけ特別なのかもな」


 さて、ゲームに戻ろう。昴の先攻だ。

「ドロー。エボルブは飛ばして、チューンシーン。[炎霊 フレアエンジェル]をアブソープション!」

 炎の体を持つ少女の精霊がBURNの下に舞い降りる。そして、その姿は金色の槍へと変化し、BURNの手の中に収まる。

「サポートアーミーに[炎竜 クリムゾンフレア]を呼ぶ!」

 純冷はそこで一言言った。

「お前、本当にこの世界に来たばかりなんだな」

「ん? どうかしたの?」

 純冷はメインアーミーのサークルを指差した。

「ブレイブハーツの際、テイカーはメインアーミーサークルやサポートアーミーサークルをそれぞれセンター、サイドと略して呼ぶんだ。その方が呼びやすいだろう?」

「うん、確かに」

 これは勉強になった。

「ありがとう」

「気にするな。同じ初心者だからな」

「……でも」


 昴の表情が険しくなる。

「さっきはなんであの人にあんな厳しいこと言ったの?」

 純冷も目を細める。

「さっき……とは、あの獣人のことか」

「うん。君は、あの人のこと、こそ泥だとか、それ以下だとか言ってただろう?なんであんな酷いことを言ったんだ」

「事実を言ったまでだ」

 純冷は冷たく言い放った。

「奴はブレイブハーツテイカーではない。しかし、数多のテイカーからカードを盗み、それを売って生活していた。戦う意思もないくせに、そんなことをする奴はクズだ。それ以外になんと呼ぶ?」

「それでもきっと、一所懸命生きるためにやっているんだ。ブレイブハーツだって、怖いと思っているからできないだけで……」

「違うな」

 純冷は昴から視線を外し、小屋の中の小さな棚を見た。

「奴はブレイブハーツテイカーになり損ねたいわば敗者だ。だから家族を失った。今では己の誇りすら失っているがな」

 棚の上には写真立てがあった。そこにはライオンの獣人が、家族と写っていた……

「……少し雑談が過ぎたな。私のターンだ。行くぞ」

 純冷は淡々とゲームを進める。

「私もエボルブは飛ばし、チューンシーン。フィールド[水霊の集い]をセット。このフィールドにより、自分のターン中、場に青属性のアーミーが出る度に私は一枚ドローできる」

 そして純冷はセンターのRainyに[イリュージョナルスター]をアブソープションし、1枚ドロー。

「センターの後方にバックアップをセット。バトルシーン! RainyでBURNを攻撃」

 センターのRainyと並び立つイリュージョナルスターが星のついたステッキを振る。そこから七色の光が溢れ、Rainyはそこに息を吹きかける。

 するとそれは巨大な波となってBURNを襲った。

「ターンエンド」

 昴にターンが回る。


「俺のターン。ドロー。フィールド[炎竜の咆哮]をセット。正規兵[フレイムガトリンガー]をサイドによび、フィールドの能力でデッキの一番上を確認。志願兵[エッジスナイプドラゴン]。炎竜のため、バックアップに呼ぶ」

 これで昴の陣営はフルアタックができる。

「更にフィールドの能力で場の炎竜の数だけ前列のアーミーはパワーアップ!!」

 竜たちの総攻撃。Rainyは三ダメージを受ける。

「ダメージコマンドチェック……奴隷[藍染AIZEN]。ヒーリングコマンドゲット。ダメージを一枚回復する」

「ターンエンド」


「ターンアップ、ドロー」

再び純冷のターン。

「ねぇ、純冷」

「なんだ?」

 純冷は一枚のカードに手をかけた状態で昴を見た。見たというか、睨んだといっても差し支えはないであろう眼光を向けた。

「純冷がここに来た時、この小屋にいた人って……」

「そうだ。あの獣人の家族」

 純冷は再び棚の上の写真に目を向ける。

「私が来た時は……遅かった。賊にやられていた。あの獣人はそれを私が全て片付けた後、やつは私の前に現れて、カードを盗っていった。この小屋の前でな」

「……」

 昴は言葉を失う。

「これを許せると思うか? ……少なくとも私は、やるせなくなった。家族を放って、そんなことをしているやつを、許せる訳ない」

 純冷は手をかけていた一枚を取る。

「チューンシーン。イリュージョナルスターをアブソープション!」

「えっ……」

 純冷は同じアーミーをアブソープションした。

「別のアーミーをアブソープションした時、通常なら、事前にアブソープションしていたアーミーは退却する。しかし、ここで先にアブソープションしていたイリュージョナルスターのアブソープションアビリティ発動!」

 実体を失い、霊体となったイリュージョナルスターがRainyの中に入っていく。

「魂は常に戦友と共に……イリュージョナルスターはアブソープションから外れた時、センターの下のチャームゾーンに置かれる」

「チャームゾーン……」

 青属性はチャームゾーンを利用した戦術が特徴なのだ。

「Rainyはチャームゾーンに青属性のアーミーがいる時、パワーアップする。このRainyで攻撃!」

「シェルターとして、サラマンドラをアドベント!!」

 奴隷アーミーのサラマンドラはシェルター値が高い。純冷のコマンドチェックはブランクだ。

 しかし、純冷のターンは終わらない。

「リバースバックアップオープン!」


 純冷のセンターの後方にあるバックアップが開かれる。

「自分の攻撃が相手にシェルターされて通らなかった時、[湖の霊 ローレライ]はオープンし、能力を発揮する」

 青属性、奴隷アーミーのローレライはリプレイコマンドを持つ。リバースバックアップとしてオープンされた時の彼女の能力は、コマンド時の能力と似ている。

 リプレイコマンドは味方アーミーを1枚選択し、そのアーミーをアップすることができる。ただしこの時選べるのは、センター以外のアーミーのみ。

 しかし、バックアップオープン時のローレライはセンターをアップする。

「アップしたセンターは再び攻撃できる……Rainyで攻撃!」

「くっ……」

「コマンドチェック、クリティカルコマンド! BURNに二ダメージを与える」

 昴のダメージコマンドはブランク。形勢は逆転した。

「ターンエンドだ」


 昴のターン。

「ターンアップ、ドロー……リバースバックアップをセット。サイドのフレイムガトリンガーで攻撃」

「フラワーポップ リィスでシェルター」

「BURNで攻撃」

 BURNのパワーはアブソープションを含めて12000。フィールドの能力で更に3000パワーアップしている。合計パワーは15000。対するRainyは12000。

「……ここで、チャームゾーンのイリュージョナルスターの能力発動」

 純冷の宣言と共にRainyのチャームからイリュージョナルスターがシェルターサークルに現れる。更に通常5000のシェルター値が10000にあがっている。

「え!? どういうこと?」

「これがイリュージョナルスターの能力。青属性の特徴的なアビリティと言って差し支えないな」

 チャームチャージガード。チャームゾーンからシェルターとして出てきた上に、センターが青属性のアーミーなら、シェルター値が5000アップする能力だ。

「これならコマンドが出ても通らない」

 純冷はそう告げたが、昴の顔には笑みがあった。

「リバースバックアップ、オープン!」

 しまった、とこれまで冷静だった純冷に動揺が走る。

「[溶岩竜エンセイ]。オープン時アビリティで、BURNにパワープラス5000。また、フィールドの能力でパワープラス1000」

 21000パワー。しかし、シェルター値と合わせた純冷のRainyは22000。僅かに届かない。純冷はこけおどしか、と構えを解いた。

 だが昴は尚も不敵に微笑む。

「純冷、まだBURNとRainyのバトルは終わってないよ」

「……ああ、コマンドチェックがまだあったな。しかし、そうしょっちゅう出るものでもない」

 昴は、純冷が言ううちに山札の一番上のカードを見た。それを純冷に公開する。

 純冷ははっとした。

「[炎竜の子 サラマンドラ]……クリティカルコマンドだ」

「くっ……!」


 あと一ダメージで勝負は決まる。そしてまだ昴の攻撃は残っている。

「正規兵のクリムゾンフレア、Rainyに攻撃!」

「……シェルターサークルに、藍染AIZENをアドバント」

「あっ…」

 純冷の手札はフィールドの能力で増えていた。シェルターなど、いくらでもされてしまう。

「……ターンエンド」

「では、私のターンだ……」

 対して昴の手札は四枚。シェルター値は5000が三枚と10000が一枚。純冷のRainyの攻撃を防ぐには足りない。それに、他のアーミーを呼ばれたら……

「ターンアップ、ドロー。[ウンディーネ]をアドバント。バトルシーン」

 万事休す。


 昴は負けた。

「……さて、ブレイブハーツのルールを行使させてもらう」

 純冷が言うのに昴は迷いなく頷いた。

「いいよ。覚悟はできてる」

「……カホール」

 純冷が唱えると、氷の礫が昴に降注いだ。

「いたた……負けちゃった。純冷は強いね」

「それは……この戦いに勝ったら、何でも願いを叶えてもらえるんだ。……私には何を賭しても叶えたい願いがある。誰にだって一つくらいあるだろう?」

昴は俯いた。

「そっか、そうだよね」

「……いいゲームだった。ありがとう」

「うん、こっちこそありがとう。……ちなみに純冷はこれからどこに行くの?」

「私はしばらくこの小屋にいる。本当は街に行きたいが……」

 純冷は棚の写真を見る。

「最近、この辺りは物騒らしいからな。物騒なのをどうにかしたら行く」

「そう。一緒に来てくれたらいいかと思ったんだけど」

 純冷は苦笑いした。

「悪いな。ただし代わりに……この地図をやるよ」

 純冷は棚の引き出しから地図を出し、昴に渡した。

「ありがとう。でも、いいの?」

「ああ。地図がなくても街に行く方法はいくつかある。……ま、いらなくなったらまた会ったときにでも返してくれればいいさ」

 昴がきょとんとする。

「ブレイブハーツを続けていれば、また会うさ」

「ありがと、じゃ、その時は負けない」

「ふん、次も勝つ」


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