第33話 主人公キャラクター
そこまでの説明を聞き、純冷は目を見開く。
「シエロが仲間探しに出たのか」
ゲームシナリオでの知識でいくと、ここまでの話は前日譚だ。ゲームの始まりではもうヘレナは魔王に拐われていることが発覚しており、たまたま主人公のキャラクター──つまりプレイヤーが操作する"勇者"がシエロと出会ったところからスタートするのである。
ちなみに並行世界の管理がどうという話はゲーム序盤では全く明かされていない話だ。ヘレナを取り戻さなくてはならないのは、ヘレナがアイゼリヤにおいて重要な役割を担う人物で、ヘレナがいないと世界が滅んでしまう危険があるから、となんとなくぼかした説明がされるだけである。ストーリーを進め、終盤になれば明らかになるのだが。
純冷の発言にターシャは軽く頷く。
「シエロはわたしたち魔王討伐隊一行のリーダーみたいなものだった。シエロが自ら人選し、それで全てを解決に導いたからこそ、彼は[英雄騎士]とまで渾名されるようになったのよ。まあ、彼自身はその渾名、好きじゃないみたいだけど」
俯き加減で語るターシャ。傍らで聞いていたナリシアの表情も翳る。
「一番の恩人を守れないで何が英雄だ──って、シエロは言ってたね。最後に会ったとき」
「ナリシア、シエロに会ったのか?」
純冷が食い付きよく訊ねる。いささか冷静さを欠いた純冷の声色にナリシアがきょとんとした。
しまった、と純冷は口を引き結ぶ。シエロはテレビゲームのブレイブハーツにおいて、最も人気のキャラクターで、全国の男の子の憧れだ。当然、純冷の弟も憧れていた。それにつられ、純冷も若干はまっていた。
つい、素の反応が出てしまい、渋い顔をする純冷。気まずさを振り切るため、続けてくれ、と少々ぶっきらぼうに言葉を置く。
「シエロには何ヵ月も前に会って、それっきりだよ。アイゼリヤを放浪しているみたいだけど、今の足取りは全然掴めないな」
純冷が放った疑問に生真面目に答えるナリシア。それにターシャがうんうんと頷く。
「あのことがあって以来、シエロにはちょっと声をかけづらいっていうか。かける言葉が見つからないのよね」
「あのこと? 何か魔王との戦いとは別にあったのか?」
純冷の放った疑問にターシャははっとして口をつぐむ。いけないことを訊いてしまっただろうか。
代わりにナリシアが躊躇いながらも答えた。
「今のブレイブハーツウォーズが始まってからだけど……獣人国の王が死んだんだ」
「なっ」
獣人国の王。純冷は記憶を手繰り寄せる。テレビゲームのシナリオ内でなかなか重要な位置にいるサブキャラクターだったはずだ。
獣人国といえばシエロの祖国である。その王に一体何が、とは思ったが、訊ける雰囲気ではなかった。重い空気が立ち込める。アリも獣人国の王と聞いて何か思うところがあったらしく、暗い顔で口を閉ざしていた。
「話を戻すが、シエロとはどんな風にして出会ったんだ?」
純冷が知っているとおりであれば、シエロはまず竜国で主人公に会うのだが、主人公キャラクターはプレイヤーが主に動かすためのキャラクターだ。アイゼリヤでは実在したのだろうか。
ターシャは記憶を辿るようにぶつぶつと呟きながら空を見上げる。やがて思い出したようで、あ、と続けた。
「確かシエロはコウって人間を連れていたわ。竜国で会ったって言ってたかしら? わたしのところに来たときにはコウとナルがいたから……ナル、あなたのときにはコウはいた?」
「いたよ。不思議なやつだってシエロに紹介された」
意外なことに主人公キャラクターは実在したらしい。ゲームのシナリオどおり、竜国にいる設定だ。しかし奇妙なのは名前。
RPGには大抵主人公キャラに名前が設定されている。プレイヤーは自由に変えることができるが、初期設定くらいはされている。
一から名前を設定できるRPGなど、某大手のものくらいしかない。
そんな中でブレイブハーツはプレイヤーキャラクターに最初から名前がついていない珍しいゲームだった。
コウ──そういえば、鍔樹が主人公に着けていた名前と同じ、だな。
偶然、か?
「そのコウというのはどういう人物だったんだ?」
「あら、わたしのことは知っているのに、コウのことは知らないのね」
ターシャが意外そうな声を上げる。純冷の想像どおりであれば"コウ"というのは主人公キャラクターの設定どおりの人物のはずだが、確信が持てず、曖昧にごまかした。
「まあ、コウはあの件で名を上げたというわけでもなかったからね。元々騎士っていう地位を持っていたシエロや森の守護者の任を持っていたぼくとは違うさ」
「そうね」
ナリシアの言葉にターシャは納得し、話を続けた。




