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Brave Hearts  作者: 九JACK
黒の街ホシェフ
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第26話 召喚術

 炎を受けて膝をついた黒羽に歩み寄り、肩を貸す。ありがとう、と黒羽は掠れた声で言った直後、気を失う。

 色々訊こうと思ったのだが、仕方ない、と昴は黒羽を背負って立ち上がる。ふとその前に白いふよふよと浮かぶ毛玉──クリ坊が立ち塞がった。

「ん? どしたの、クリ坊?」

「スバルたまのせいで、スバルたまのせいで……」

 低く呟くクリ坊の周囲に黒い靄のようなものが立ち込める。不穏さを纏ったそれに昴は眉をしかめた。

 クリ坊が、はっきりと告げる。

「スバルたまのせいで、わたくちたちの王たまが、思い出ちてちまわれた!!」

 うああぁぁっ、と喚きながら昴に突進するクリ坊。昴はわけもわからず、けれど危険を察して後退るが、クリ坊はあっという間に目前に迫り──


 ぐしゃり。


 昴の後ろから伸びてきた手によって、クリ坊はいともたやすく握り潰された。

 唖然とする昴。肩越しに見やれば、黒羽の目が無感動に握り込んだ手を見つめていた。

「黒羽……?」

「立てる。降ろしてくれ」

 黒羽は地に足をつけると、手を開いた。

 開いた手の中から出てきたのは、米粒ほどの小さな物体。開放されたのを知ってか、ふよふよと浮かび始める。

「って、これまさかクリ坊!?」

「そのとおりにございます、スバルたま!」

 普段よりも割り増しで甲高い声が返ってきて唖然とする。小さすぎて浮かんでいることしかわからないがいつものように身振り手振りもしているのだろうか。必死に。

「クリスティン」

「!? 王たま!!」

 黒羽は自分のマントを羽織り直しながら応じる。

「オマエは認めていないようだが、オレはヘレナの術により、異世界の人間と魂が融合されてしまった。クロハはオレではないがあれもまたオレ。魔王であるオレもまたここに存在する。何が不満だ?」

「王たま……」

 クリ坊の声が翳り、聞き取りづらくなる。

「わたくちは、王たまがあのことを思い出ちてちまわれたので、また王たまが狂ってちまわれると、それを恐れて」

「大丈夫だ。不本意ながら、ヘレナの術でクロハと同化したために、和らいでいる。……喪失感がなくなるわけでもないがな」

 完全に置いてきぼりになった昴は、黒羽──というか黒の王とクリ坊の会話が落ち着くのを見計らって声を上げた。

「あの、どうなっているんですか? 俺にもわかるように説明していただけるとありがたいんですが」

 なんとなく、黒羽ではなく黒の王だと察したので、敬語になる。黒の王は昴に静かな面差しで応じた。

「オレはさっきも言ったとおり、魔王の役目を果たすためにアイゼリヤへやってきた。だが、偶発的にヘレナの召喚術の媒体になってしまい、今はこの[クロハ]という少年の体の中に意識体として存在する」

「召喚術の媒体……意識体?」

「コウヅキスバル。オマエもクロハと同じ、異世界からの召喚者だな?」

「はい」

「ヘレナが五人の少年少女を召喚したことは把握している。しかし、召喚術というのは不完全な術で、類稀なる魔力を持つヘレナでもってしても実現できないとされていた魔法だ」

 確かに、テレビゲーム内のアイゼリヤでも召喚術というのは夢の魔法とされていた。エルフなどは彼らの神様[精霊王]を召喚できるらしいが、それは召喚というより宗教でよく聞く降霊だった。依り代に目的の人物を降ろす、というような。

「そもそも、召喚術がアイゼリヤで実現しないのは当たり前。今代にはちゃんと伝わっていないようだが、アイゼリヤにおいて召喚術は禁呪なのだ」

「ええっ!?」

「ここは異世界同士の並行を保つための世界ぞ。そのアイゼリヤが世界の並行を揺るがしてどうする?」

 それは確かに。

 けれどそれだと、昴たち五人は禁呪によって召喚され、その上その召喚術が成功してしまっているのだ。

「禁呪が成功したのは、二人目に召喚されたクロハがオレと同化したからだ。オレは外部からアイゼリヤに干渉できる数少ない存在。また、他の世界とアイゼリヤとの干渉を妨げる障害でもあった。オレという枷が消え、クロハ以外の召喚はやすやすと成功したはずだ」

 なるほど、と感心しかけ、昴はあることに気づく。

「黒羽が二人目ってことは、裕弥は? 裕弥は一番最初に召喚されたって言ってた」

 問うと黒の王は沈鬱な面持ちになり、黙り込んでしまう。

 クリ坊が聞かないでくだたいませ、と静かに告げた。

「王たまにとっては辛い事実をユーヤたまは抱えております」

「そう……」

 痛みを堪えるような王の表情に昴は納得した。

「ところで、他のテイカーには会ったか?」

 しばらくして、黒の王が口を開く。

「この少年を元に戻すにも、この愚かしいブレイブハーツウォーズを終わらせねばならない。そのためには他の五人のテイカーと会う必要がある」

 何をしなければならないかなど全くわかっていなかった昴は道筋を示され感動するが……あ、と表情を凍らせる。

「すっかり忘れてた……」

「む、どうしたのだ?」

 昴の苦い面持ちに怪訝な顔をする黒の王。昴は重たい口を開き、言う。

「俺は貴方や裕弥以外の二人にも既に会っています。一人は自分なりに行動するって一回会ったきりなんですけど。もう一人は……うぅ」

「もう一人がどうかしたのか?」

 昴の脳裏に金髪のツインテールと怒り気味に吊り上がった眦が浮かぶ。

「街の前の柱ではぐれて、ばらばらになって探そうと思ってはいたんですよ? いたんですが……忘れてたって言ったら、アミ絶対にキレるよ……」

 頭を抱える昴。黒の王は昴の説明に驚く。

「柱で、だと……!? もしや、オマエたちと反対側の柱にでも吸い込まれたのか?」

「え、そうですけど。なんで知ってるんです?」

 王ばかりか、クリ坊も慄然とした声を上げる。

「王たま、もう一方のはちらとは……」

「ああ、まずい。スバル、案内する。すぐその者の元へ行くぞ!」







 次回からアミ視点に変わります。昴と裕弥が黒の王とのブレイブハーツを行っている頃、物騒なところに転がり込んだアミとサバーニャはどうなっているのか。

 昴くんは忘れてた宣言しましたが、作者は忘れてませんよ? だから折檻は昴くんだけにしてね、アミちゃん。

昴「作者ひどいっ!?」





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