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Brave Hearts  作者: 九JACK
黒の街ホシェフ
24/127

第21話 死神とおばけ

「ターンアップ、ドロー」

 黒の王は再び、エボルブシーンに入る。

「[Hell]にエボルブ」

「えっ……!?」

 エボルブしたカードに驚く。リバースメインの[Hell]──黒いマントに大鎌を携えた死神だったのだ。

 [Hell]のカード自体は[Hell]自身のアビリティにより手札に戻っているので、不思議はないのだが、何故再び同じアーミーに戻すのか、理解が及ばない。

「[アブソリュートデス]と[墓場の番人ベリアルクロウ]はダウンチャームへ。ここで[ベリアルクロウ]のアビリティ。自陣にフィールドが設置されていて、アブソープションからダウンチャームへと送られたとき、このアーミーは再びアブソープションとして舞い戻る。──死人どもの骸の番人よ、主の元へ戻れ」

 その命に[Hell]の元へ飛来する一羽の烏。[Hell]の鎌の先に留まる。

「チューンシーン。正規兵[おばけのりっく]をアドベント。[りっく]の登場時アビリティでダウンチャームから[おばけのぱっち]を手札に戻す」

 死神の傍らに現れたのはまたしてもファニーなデザインのおばけ。足がついていなく、ひょろっと人魂のようになっているが、[ぱっち]と違い、腕が両脇からそれぞれ一本ずつ生えている。それにこのおばけには目がない。代わりに無駄に歯並びのいい口がどんと顔の真ん中を陣取っている。その口で楽しげに歌い出す様はファニーというか、シュールだった。

 そんな[りっく]の歌により、黒の王の手札に舞い戻ったカードに昴と裕弥に緊張が走る。[おばけのぱっち]には先のターンで痛い目を見せられたばかりだ。

 それに、どうやら黒属性はダウンチャームへ送られたカードに対するアビリティが多いらしい。[Hell]や[ベリアルクロウ]のアビリティにしてもそうだ。一度場からいなくなったアーミーが戻ってくる……どこか不気味に感じられた。

「[おばけのぱっち]をアドベント。リバースバックアップを一枚セットし、バトルシーンへ移行する」

 しかし、ここで見ていた昴に疑問が生じる。

 黒属性のアビリティは不気味だが、バトルシーンに移行するには違和感のある布陣だ。何が違和感かというと、全体的なパワー。単体で12000のパワーを誇る裕弥の[Knight]に攻撃するにはパワー不足なのだ。

 まず、両サイドのおばけたちは単体のパワーが[りっく]は10000、[ぱっち]は8000、と明らかに届かない上、バックアップもいない。[ぱっち]の後ろにリバースバックアップがセットされているが、先程セットしたばかりで、まだ開かれていないのだ。更に、センターの[Hell]も、元のパワーは前の[アブソリュートデス]と同じであるため、前ターンとアブソープションを含めたパワーは変わらず10000。それでは[Knight]に届かない。いくらセンターにはコマンドチェックがあるとはいえ、心許ない。

 まだアビリティがあるのだろうか。

「バトルシーン。先陣はセンターが自ら切ろう。[Knight]に攻撃」

「シェルターはしないよ」

 裕弥は油断なく相手を見つつ、宣言。まだ序盤であるため、順当な判断ではある。

「[ベリアルクロウ]のアビリティ。ダウンチャームから舞い戻ったターンのバトルシーン中は、パワープラス3000」

 なるほど、そんなアビリティがあったのか。と納得するが、それでもサイドのパワーが心許ないのは変わらない。

「コマンドチェック……[おばけのさっぴ]。ヒーリングコマンドだ」

 ヒーリングコマンドの能力自体は発動しないが、パワーアップができる。黒の王は[ぱっち]を選択した。

 裕弥に一ダメージが入る。

「リバースバックアップ、オープン」

 ここで裕弥の片端のバックアップがオープンされる。出てきたのは傷だらけの小リス。

「[星を見る子ナリファ]。シェルターせずにダメージを受けたとき、オープンされる。オープン時アビリティ。相手のバックアップかサイドを一枚指定し、破壊する。[ぱっち]後方のリバースバックアップを指定」

 黒の王はその破壊を受け入れる。破壊指定時にオープンされる典型的なカウンタータイプのリバースバックアップではなかったようだが、ダウンチャームへ送る前に公開されたカードは黒のアーミー。

「これにより、[死者たちの巣窟]のアビリティ発動。一枚ドロー」

 手札が増える。よく見るとあまり減っていない。

 それに、カードを破壊されたというのに、妙に余裕があるように見えるのが、また不気味だ。まだ何かあるのだろうか。

 その不吉な予感はすぐ現実となる。

「リバースバックアップ……[おばけのさっぴ]のアビリティ発動」

「「!?」」

 その宣言に先程ダウンチャームに送られたカードを昴と裕弥は見た。確かに、そのカードは[おばけのさっぴ]だった。

「このアーミーはダウンチャームに送られたとき、その能力を発揮する。……一人では存在することもままならない非力なものは他者にすがり、生き永らえる。[おばけのぱっち]の後方にアドベント」

 [さっぴ]は前衛のいるバックアップに戻ることができる。

「そして、前衛のアーミーが同類であれば、そこに本来以上の力を与える」

 更に発揮された[さっぴ]の能力により[ぱっち]が3000パワーアップ。

「そして同類たちは共鳴する。[りっく]はダウンチャームから[おばけ]がアドベントされたとき、パワープラス5000」

 [さっぴ]一枚で一気にパワー不足が解消される。

 裕弥は残り二回の攻撃を受けることとなった。

「ターンエンド」

 裕弥にターンが回る。



「ターンアップ、ドロー」

 裕弥のターン。

「チューンシーン。フィールド[時止まりの古城]をセット。[古よりの使者サージュ・ド・シュエット]をアドベント」

 [Knight]の傍らに白い梟が現れる。ばさりと白い羽根をはためかせ、その羽根が[Hell]めがけて飛んでいく。後方の小リスの[ナリファ]が魔法らしき光線を羽根に送った。羽根はきらきらときらめきながら、[Hell]に真っ直ぐ飛んでいく。

 が、またしても、その攻撃を[ぱっち]が阻む。

「サクリファイスにより攻撃を無効化」

 更にフィールド[死者たちの巣窟]の能力で黒の王の手札が増えた。

「でも、これで[Knight]の道を遮るものはなくなった。[Knight]、[Hell]に攻撃」

「アンシェルター」

 黒の王はシェルターせずに受ける。ようやくダメージが入った。

「クリティカルコマンドゲット。二ダメージを受けてもらう」

「ダメージコマンド……二つともブランクだ」

「[時止まりの古城]のアビリティ。ブレイブポイントを2支払い、センターをアップ。もう一度行け、[Knight]」

 先のコマンドチェックで増えたクリティカルは生きている。しかし、対する黒の王に慌てた様子はない。むしろ、不気味なくらいに落ち着いている。

 そして、彼は呟いた。

「フロム・ヘル」

 その呟きに応じて、[Hell]の前に黒い影が現れる。纏う黒い靄は徐々に晴れていき、その姿を露にした。明確になったその顔に、裕弥も昴も驚愕する。

「[アブソリュートデス]……!」

 顔の半分が骸骨と化した死神。それは間違いなく、[Hell]の前にエボルブしていた[アブソリュートデス]だった。

「何故、今!?」

 理解が及ばない昴の疑問に、黒の王は静かに答える。

「言っただろう、"フロム・ヘル"と。死神は地獄から何度でもやってくる。[アブソリュートデス]の能力は、地獄から死神どうるいの下へ舞い戻り、そこに降りかかる災厄を全て吸収する」

 つまり、ダウンチャームにいるとき、"死神"のセンターが攻撃されると、シェルターサークルに出て、攻撃を無効化するのだ。ただし、自分のダメージが2以上ないと発動できないアビリティ。

 ダウンチャームを使ったトリッキーな戦術と攻撃無効能力。なかなか手強い相手だ。白に対してもそうだが、昴の使う赤属性とは尚更相性が悪いことだろう。どれだけクリティカルを乗せても、パワーを増強しても、無効化。これほど力押しの赤と相性の悪い相手はいない。

 それに何より刮目すべきは。

「……ターンエンド」

 アイゼリヤに来てから常勝不敗を誇っていた裕弥が手も足も出ない状態であること。

「裕弥……」

 昴は裕弥を見やる。その表情はいつもより固く、こめかみから一筋、汗が流れ落ちていた。

「ターンアップ、ドロー……っく」

 悠々としていた黒の王だが、苦しげに顔を歪める。二人が来たときからそうだが、黒の王のこの様子は何なのだろう。

「……ぃと……」

「え?」

 黒の王の掠れた呟き。裕弥と昴が注意を向けると、黒の王が懸命に言葉を紡いでいた。

「ナ、イト……」

 黒い瞳が裕弥を──その後方の[Knight]の姿を捉える。その意を図りきれず、二人はきょとんと続く言葉を待つばかりだ。

「騎士よ、何故あの人を、救ってくれなかった……?」

 その問いかけを聞きながら、昴ははっとする。黒の王の頬を幾筋もの涙が濡らしていた。

「何故だ……何故だ、Knight! それがオマエの役割なのだろう? オレには決してできないことだ。だから代わりにオマエが果たしてくれると、オマエが守ると言ったのだろう? 何故だ、何故、あの人は死んでしまった!?」

 そこにあったのは嘆き。誰に対して投げられたものかは昴にはわからない。ただ、切実な思いであるのは、王の涙からわかった。

 けれど、妙だ。この人、裕弥の[Knight]に向かって語りかけている?

「ねぇ、裕弥」

 裕弥に心当たりがあるか訊こうとして、そちらにも異変が起こっていることに気づいた。

 裕弥は黒の王を凝視したまま動かない。しかし、小刻みに体が震えている。

「…………ぁ」

 小さく開いた口から声が零れる。

「裕弥?」

 昴の胸に不安ばかりが谺する。一人、全く理解できず、状況から置き去りにされたような感覚が胸をざわつかせた。

「裕弥? 裕弥!」

 何度か名を呼ぶと、はっとしてこちらを向く。

「昴」

「大丈夫?」

「うん、なんとか。……でも、今何か、思い出したような」

「えっ!」

 裕弥の思いがけない発言に驚くが、それを追及することはできなかった。黒の王がターンを再開したからである。

「[黄泉帰りの老爺]をアドベント。リバースバックアップをセット……攻撃」

 皮膚が所々腐敗した老人が携えたランプを[Knight]に振り上げる。この[黄泉帰りの老爺]は黒アーミーがセンターのときパワーアップするため、単体でもパワーは充分。その上、[さっぴ]の支援のおまけつきだ。裕弥は手札から奴隷アーミーの[ディーヴァ]を出してシェルターする。

 ここで裕弥の手札が残り一枚に。ところが相手の攻撃はまだまだ続く。

「[りっく]の攻撃」

「アンシェルター」

 ここで[老爺]のアビリティが発動。自分以外の前衛サイドアーミーが攻撃したとき、そのアーミーが黒属性なら、3000パワーアップさせる。よって[りっく]のパワーは13000。通る。

 裕弥のダメージにリーチがかかる。コマンドもない。

「[Hell]の攻撃」

 センターは今回、アブソープションの[ベリアルクロウ]によるパワー補正はないため、パワーは10000。12000の[Knight]に通すには、コマンドを引かなくてはならない。

「……アン、シェルター」

 裕弥が固い声で告げる。残り一枚の手札が何かわからないが、相手のコマンドが出る確率はあまり高くない。そう踏んでの判断だろう。

 しかし。

「コマンドゲット。アップコマンド。[老爺]をアップ、パワーはセンターへ」

 無情にも戦いの幕は降ろされた。

 裕弥のコマンドチェックは──ブランク。


「シャホール」


 王の呪文に応じて、裕弥の周りにうねうねとした黒い触手が現れた。触手は裕弥を取り囲み、飲み込んでいく。

「ぐっ、うああぁぁっ!!」

「裕弥っ!?」

 裕弥の苦鳴が轟いた。




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