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Brave Hearts  作者: 九JACK
黒の街ホシェフ
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第19話 謎生物現る

 英雄騎士・シエロを探して、黒の街[ホシェフ]へ向かった昴、裕弥、アミ、サバーニャ、ハンナの五人。

 セアラーを出、それらしき場所に辿り着くが……



「うーん、どうしようか……」

「スバルたま、わたくちにおまかせあれ!」

 昴の前でそう言って豆のような手で胸らしき部分を叩く変な生き物。

 甲高い声のその生き物は、白くて、丸くて、全体的にふさふさしていて、どこからともなく生えた糸のような四肢の先に豆サイズの手足がついている。

「本当、どうしようね……」

 昴の隣にいた裕弥も珍しく困り顔だ。

 昴と裕弥は顔を見合せる。

「だから、ユーヤたまも、わたくちにおまかせくださいな!」

「「どう、しよう……」」

 二人は溜め息が出そうなのを堪えながら、同時に呟いた。


 一方。

「なんなのよ、この臭い!?」

「本当ね……」

 怒り気味のアミについて歩く若干げっそりとしている女性はアミの付き人のハンナ──ではなく、猫獣人の情報屋、サバーニャだ。

「大丈夫? サバーニャ。ここ本当に臭いわよね。元の世界じゃ嗅いだこともないくらい。誰よ、こんなになるまで臭源放置してるやつ」

 鼻につんとくるような、ともすれば胃を悪い意味で刺激するような臭気の中で、アミは彼女の基本仕様として認識されつつある怒りモードを発揮していた。

 正直、側で聞いているサバーニャはたまったもんじゃないが、それを指摘する気力はない。元々悪いアミの機嫌が悪化するからというのもそうだが、それよりも──彼女はこの臭気に心当たりがあったのだ。

 あまり少女に対して明かしたくないものだったが、原因を目の当たりにする前に知っていた方がいいだろうと考えたサバーニャは、重い口を開いた。

「アミ、この臭いを嗅いだことがないっていうんなら、それは何よりだわ。一生嗅がずにいられれば、よかったでしょうね」

「そんなの、言われなくても思ってるところよ! この臭いは一体何なの!? あたしはそれが知りたいわ!!」

 渋い顔して、サバーニャは言い放った。

「死体が腐る臭いよ」


 どうして、こうなったのだろうか。

 それは、昴、アミ、裕、ハンナ、サバーニャの五人が、英雄騎士シエロを探して黒の街[ホシェフ]に足を踏み入れようとしたときのことだった。


 セアラーから伸びていた一本道の暗い街道を抜けると、二つの大きな柱が立っていた。柱には謎の紋様が刻まれている。

「地獄の国[ホシェフ]へようこそって、こっちには書いてあるわ」

 右側の柱に触れてサバーニャが言った。サバーニャが読めたところを見ると、どうやら紋様はこのアイゼリヤの文字らしい。

「ちょっと違うわ。これ、アイゼリヤの古い言葉なの。だから、異世界から来たっていう昴たちはもちろん、ハンナさんも読めないはずよ」

 サバーニャの捕捉に昴とアミがハンナを見ると、ハンナはこくりと頷いた。

「じゃあ、なんでサバーニャは読めるの?」

「そりゃ、私は情報屋だからね」

 灰色の猫耳を片方ぴこん、と曲げながらウインクで答えるサバーニャ。一同、微妙に反応に困る。

「とりあえず、怪しさ満点のここが目的地ホシェフで間違いないようね」

 アミが苦虫を噛んだような表情で言い、右の柱に歩み寄る。その後ろに静かにハンナが付き従う。

 昴もそちらに同行しかけたが、裕弥が全く動いていないことに気づく。──いや、動いてはいた。ただし、他の者たちとは逆の左の柱へ。

「裕弥? どうしたの?」

 昴がその背を追いかけて、問う。裕弥は答えず、ただじっと左の柱に書かれた紋様を見つめている。

 もしかして、これが気になるのかな?

「ねぇ、サバーニャ。こっちはなんて読むの?」

 昴は裕弥が紋様を解読しようとしているのだと思い、サバーニャに訊く。右の柱とは若干異なる紋様だが、似たようなものだろう、とあたりをつけていた。

 ところが、問いを受けたサバーニャは、一瞬神妙な面持ちになり、首を横に振った。

「ごめん、昴。そちらは全く見たことがない字だわ」

「「えっ?」」

 奇しくも、サバーニャの隣にいたアミの声が重なる。昴はそれ以上の問いを発せず、口をつぐんだ。

 短気アイドルが代わり、声を上げる。

「え、何よ! サバーニャあんた自信満々にこっちは呼んどいてそっちは読めないとか、どういうこと? あたしたちには似たようなもんにしか見えないんだけど? ねぇ、情報屋さん? ここが本領発揮のしどころじゃないかしら?」

「う」

 反論に詰まるサバーニャ。昴は哀れみの視線を送ることしかできない。相変わらず、アミは気の短すぎるお姫様だ。

「わからないものはわからないもの……私だって、アイゼリヤの全てを知ってるわけじゃ」

「[ようやく来たな、白の王よ]」

 全く関係ない言葉がサバーニャの小さな反論を遮る。虚をつかれて、昴もアミも視線を移す。

 声の正体は白髪の少年──じっと左の柱を見上げていた、裕弥だった。

 普段のふわふわした雰囲気は微塵もない。まるで別人になったような、千裕のような剣呑とした雰囲気。

「裕弥? だよね?」

「うん、僕」

 昴に答えると元のぽやっとした空気にもどる裕弥。昴はなんだかほっと息を吐く。

「ところで、今のは?」

「ん、この柱の文字」

「「「えっ!?」」」

 淡々とあり得ない答えを紡いだ裕弥に昴、アミ、サバーニャが目を剥く。

 けれど、誰かが問う前に、異変が起きる。


「歓迎しよう、次代の王よ」


 バリトンの声が降り注ぐ。音源はわからない。ただ、わっ、と裕弥が声を上げ、左の柱に引っ張られる。昴が咄嗟にその手首を捕まえ、一緒に引っ張られていく。

 右の柱の方でも同じ現象が起こっているようだ。柱の吸引に抗いながら、昴はアミたちの方を見る。三人とも、悲鳴とともに柱に吸い込まれてしまった。

「昴」

 裕弥が苦悶の表情を浮かべながら、紡ぐ。吸引の影響か、上手く口が動かないようで、言葉は短い。

「行こう」

 昴は一瞬迷ったが、頷いた。

「うん」

 そうして、抗うのをやめた二人は左の柱に吸い込まれるのだった。


 すたっ

 降り立つ際、尻餅覚悟だった昴だが、裕弥がラヴァンを使ったらしく、風を纏って地面に足をつく。

「ありがとう、裕弥」

「ん、どういたしまして」

 ふわりと白髪を揺らし、裕弥が応じた。

「ところでここ、どこだろうね?」

 裕弥が問いを口にし、昴は唸る。

 昴と裕弥が降り立った場所は黒い。

 暗闇というか、黒い。ただただ黒い。しかし、互いの姿が見えないわけではなく、正しく言うなら、黒ではない互いの姿だけがその空間から浮いていた。

「黒いね」

「うん、黒い」

「ところでさっきの、何だったんだろうね?」

「うーん」

 一旦場所に対する疑問は放棄し、別な疑問を口にする裕弥、それに唸る昴。どこかデジャブだが、それはさておき、二人は辺りを見回し、必死に現状把握に努めた。

「ホシェフの中、かなぁ?」

「そうかもね。黒の街っていうくらいだから、街中黒いのかもね」

「どんな人が住んでいるのかなぁ?」

「魔物とかいるって、サバーニャ言ってたよね。ゲームで出てくるゴブリンみたいな?」

「うわぁ、僕たちそれと戦うの? 武器とかないけど、どうやって?」

「それはここ、アイゼリヤだから、ブレイブハーツででしょう」

「あ、そっか」

 そんな会話を繰り広げながら、二人はぶらぶら黒い空間を歩く。

「でも、魔物もブレイブハーツするの?」

「したら楽しいよ!」

 ……若干の現実逃避が感じられなくもない。

 アミがいれば、「こんのブレイブハーツ馬鹿がっ!」という罵倒が炸裂していただろうが、裕弥はへらっと笑って「そうだね」とやんわり応じる。

 現実逃避気味な空気が色濃くなったそのとき──


「あーらわーれたーで、あーりまーすなー!?」


 間延びした小さい子どもより甲高い特徴的な声とともに……空から何かが降ってきて、ほよん、と裕弥の頭で跳ねた。

 裕弥の頭でバウンドしたそれは、ふわりと裕弥の前に落ちてくる。裕弥は反射的に両手を前に出し、それを受け止めた。

 羽根のように軽いそれは、白くて、丸くて、全体的にふさふさしている何か、だった。

 ふさふさが心地よいような気もするがどんなに天然な裕弥でも、これと先程の声を結びつけられないほどぼけてはいなかった。

 証拠に、裕弥の手に降り立った瞬間、ふにゃぁ、という力の抜ける声がした。

「え、ええと」

 裕弥が謎の生き物? にかけるべき言葉を探し、戸惑う。昴も裕弥の手を覗き込みながら、目を白黒させている。

 昴か裕弥が言葉を見つけ出す前に、ぴょん、と白い謎生物が跳び上がり、二人の前にふよふよと浮いた。

「「!!」」

 二人の驚愕は声にならない。

 しかし、それを一切気にせず謎の生き物は告げた。

「わたくちこそ、黒の王たま一番の召し使い、クリスティンであります!! お二人たまのご尊名をお窺いしたくあります」


(この体のどこに口があるんだろう?)

(よく見ると、手足っぽいの生えてる。糸っぽいけど)

 昴と裕弥、謎生物クリスティンの問いには答えず、二人してどこかずれたところに突っ込みを入れていた。

「あの、ご尊名をお窺いしたく」

 ほんのりと丸い正面の真ん中の両端が赤くなる謎生物。

「「そこ頬っぺだったの!?」」

 期せずして、二人の声が重なる。謎生物は恥ずかしげに糸のような腕の先についた豆っぽい手で赤い部分を押さえて、そうでございます、との言。

 いや、そこは全く問題ではない。

「ところで、お二人たま、お名前は?」

 三度目になるその問いを謎生物は口にした。

 昴、裕弥ははっとしてようやく答える。

「俺は昴」

「僕、裕弥」

「スバルたまとユーヤたまですね!」

 かくして二人は謎生物、もとい、クリスティンとの出会いを果たしたのであった。



 というわけで冒頭に繋がる。


※しばし、昴×裕弥サイドが続きます。



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