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Brave Hearts  作者: 九JACK
プロローグ
2/127

ブレイブハーツウォーズ

「……今なんて?」

 昴が聞き返す。猫耳の少女はむっとして返す。

「三度は言わないからよく聞きなさい。この世界を救って!」

 きょとん。そんな文字が表示されそうなほど、昴は呆然とした。

「世界を救ってって……そう言ったの?」

「それ以外、どう聞こえたっていうのよ」

 頭の中で咀嚼し、昴は声を上げる。

「ええっ!? 僕が? 世界を? 救う? 救えるの?」

「……その疑問の意味がわからないわ」

 苦虫を噛み潰したような表情で少女は続ける。

「状況が理解できていないようだから、アイゼリヤの現状から説明するわ。ブレイブハーツはね、この世界における戦争の為のツールなの」

「せ、戦争?」

「怖がることはないわ。銃弾や大砲が飛び交うようなものじゃないから。というか、それが嫌でヘレナはブレイブハーツを作ったんだけど。――ブレイブハーツウォーズ。このカードゲームを使った戦争はそう呼ばれているわ。戦争を止める為にヘレナが作ったシステム。カードゲームで戦争の勝者を決めるの」

「カードゲームで?」

 どうやってそれを判断するのだろう。

「ゲームに勝利すると得られるハーツポイントというものがあるの。それの獲得数をヘレナが住む神殿で管理している。いち早く、指定数のポイントを貯めた者が戦争の勝者。これがヘレナの決めたルールよ」

 なんか、意外とわかりやすいルールだ。

「でも、住民の一部はそれだけじゃ納得しなかった。そこでヘレナはルールを二つ追加したわ」

 一つは「勝者は敗者に魔法を使うことができる」というもの。

 もう一つは「戦争の勝者は望みを一つ叶えることができる」というもの。

「そのルールを人々は喜んで受け入れたわ。ヘレナは安心した。敗者に使える魔法は死に至るようなものではないし、これで世界は平和になる。ヘレナはそう信じていた。けれど、追加したルールが戦争を悪化させた」


 一つ目のルールは、ブレイブハーツウォーズが進む毎に変化を遂げていき、敗者により強い痛みを与える魔法となっていった。

 もう一つのルールはむしろ更なる争いを呼んだ。勝者になれないと考えた者は強い者を狩るようになってしまったのだ。叶えたい望みは誰にでもある。その望みの為に手段を選ばない者が出てきたのだ。

「今、アイゼリヤは酷い状態よ。銃弾や大砲が飛び交ってた頃の方がましだったんじゃないかしら。少なくとも、あの頃より人死には多いわよ」

 昴は唖然とするしかなかった。何しろスケールが大き過ぎる。昴の日常からはとても考えられない内容だ。

「それを、どうやって救うの?」

「ブレイブハーツに対するにはブレイブハーツしかないわ」

 意外と結論は簡単だった。

「要するに、俺がそのカードゲームをすればいいんだね」

「理解が早くて助かるわ。まさしくその通りよ。で、これまでの話を聞いた上で、やる?」

 説明を思い返すと恐ろしいカードゲームだ。普通の戦争よりも人が死んでいるなんて。

「怖いカードゲームだね」

「ええ。それでも死んでしまった者以外、脱落者はいないわ」

 猫耳の少女は昴の様子を伺う。怖じ気づいたかしら? などと考えながら見ていると、不意に昴は顔を上げた。その表情に息を飲む。

「そんなに危険だってわかってても、続けているんだね、みんな」

 なんで、そんな顔ができるのよ? ──今度は猫耳の少女が呆気にとられた。

 昴は笑っていたのだ。


「怖いってわかってるのに、続けるなんて、きっと楽しいゲームなんだね!」

 昴は笑って言った。

 違う。彼らが続けるのは各々の思惑の為であって、決してブレイブハーツが楽しいからではない。少女はそれを嫌というほど理解していた。しかし、昴の言葉を否定することはできなかった。

 あまりにも無邪気に笑うのだ。その顔には恐れなど微塵もない。もうやってみたいという思いでいっぱいだというのは誰の目にも明らかだった。

「……最早聞くまでもなさそうだけど、敢えて聞くわ。ブレイブハーツ、やってみる?」

「もちろん!」

 即答だった。少女はため息を吐く。

(ヘレナ、あんたは随分とんでもない子を呼んだわね)

 少女は思いながら、次の行動をとった。

「ではカードゲームのルールを説明するわ」

 少女がすっと右手を振ると、テーブルが現れる。

「これ、魔法?」

「まあね。ブレイブハーツをする宣言をすれば、この世界のどこにでも現れるわ」

 便利な魔法だ。

 それはさておき、と少女は指を鳴らした。すると今度は五色の光が現れる。

「カードゲームに参加するのならこの五色のデッキの中から一つ選びなさい。それがあんたのデッキになる。手に取って見てもいいわよ」

 昴はすっと手を伸ばした。手は導かれるように赤い光へと向かった。赤属性のデッキ。中身を見て、昴は頷いた。

「うん、俺、これにする」

「あら、そんなに簡単に決めていいの?あんたがこの世界にいる限り、ずっとその色を使わなくてはいけないのよ?」

「うん、これでいい。いや、これがいいんだ」

 自分でも不思議なくらい、手馴染みがいい気がした。

「わかったわ。あんたは赤デッキ、[アドム]の使い手よ」


「[アドム]?」

「見せた通り、ブレイブハーツのデッキは5種類ある。赤はアドム、青はカホール、白はラヴァン、黒はシャホール、黄はツァホーヴという具合にね。それぞれデッキの特徴も違うし、勝利した時に使える魔法も違う。自分に合うデッキかどうかは使ってみないことにはわからないけど、参考までに教えておくと、アドムは炎と関連が強い。パワーが売りのデッキよ」

「パワー押し、か……」

 単純だけど、ごちゃごちゃと考えるより楽だ。

「じゃあ、デッキを持ってテーブルにつきなさい。ルールはやりながら説明するわ。始めるわよ」


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