第97話 繋がる
「ターンアップ、ドロー」
千裕のターンが始まる。純冷にはリバースバックアップがなく、カウンターは狙えない。だが、代わりにフィールドの効果で貯めた手札がある。イリュージョナルスターのチャームチャージガードもある。防御態勢は万全、ダメージも2だからまだ余裕がある。
だというのに、なんだろう。エボルブもアブソープションもしない、ブレイヴハーツのスタイルとしては[あり得ない]千裕のプレイスタイルに負けるイメージがあるわけではないが、勝てるイメージも湧かないこの感じ。
これだからカードゲームは面白い。純冷は純冷で、自覚していないようだが、ゲーム馬鹿なのである。昴とどっこいどっこいくらいには。
その証拠に、千裕と相対する純冷の口角は好戦的に吊り上がっていた。
「スズエのアビリティ。山札の一番上を公開」
出たのは[薙刀の鎖使いヴェルダ]、アドベントされ、前列のアーミーはパワープラス3000となる。また、ヴェルダ自身は[CHAIN ROAD]の効果でパワープラス5000。元々のパワーが高いため、パワーアップされると単体でも充分脅威となる。
「ヴェルダのマニュアルアビリティ。センターが[鎖使い]のとき、山札から[鎖使い]を含むアーミーを一枚リバースバックアップにセットする。[小刀の鎖使いウォシェ]をリバースバックアップにセット」
この千裕の行動に疑問を投げたのは魔王だ。
「カード名を明かした状態でのリバースバックアップに意味があるのか?」
それにアミが答える。
「そうね、リバースバックアップは通常、何のカードを伏せたかわからないからこそ意味を持つ。相手の脅威としてね。でも、オープン条件を知っていて尚、避けられないリバースバックアップもあるわ。
例えば、黄属性ほどじゃないけど、相手のリバースバックアップを破壊に指定する能力はどの属性にもあるし、ダメージが増えたとき、なんてダメージを与えるゲームなんだから避けようがないでしょ。あと、隣のバックアップが開いたら、とか、前列にいたアーミーがダウンチャームに行った、とか。このアビリティのポイントは、任意でカードを選べるところね。避けようのないオープン条件のものを選ぶのもありだし、手札のカードで補うこともできる。
カウンター、相手の行動阻害に特化した白属性なら、やりようはいくらでもあるわよ」
そう、リバースバックアップを踏まないように行動するのがそもそも無理のある話なのである。[同じアーミーに攻撃されたとき]のようなよほど限定的な条件でなければ、大抵のリバースバックアップは開く。
「しかし、[CHAIN ROAD]との相性はいまいちに見えるが。これなら普通にバックアップとして呼んだ方がよかったのではないか?」
ウォシェは志願兵アーミーであるため、バックアップ能力も持つ。スズエはマニュアルアビリティによるパワーアップだけなので、単体アタックでは攻撃力が心許ない。それにアドベントされれば[CHAIN ROAD]のアビリティでウォシェはパワーアップできたのだ。ウォシェも志願兵アーミーの中では元々のパワーが高い部類なので、非常に有力なパワー要員となる。更にサイドならシェルターサークルに移動できるシェルターアーミーとしても使い勝手の良いアーミーだ。
確かに、魔王の言う通り、ウォシェは普通にアドベントした方がよかったように見える。だが、同名アーミーはデッキに四枚しか入れられない。そう都合よくほいほい出てくるものではないのだ。
それに、とアミはスズエのアビリティでアドベントされたヴェルダという竜人を見る。おそらくだが、あのアーミーにまだアビリティがあるのかもしれない。
「リバースバックアップを一枚セット。スズエでRainyを攻撃」
「ウンディーネでシェルター」
「ヴェルダで攻撃」
「!?」
パワー不足とはいえ、サイドを先に攻撃に向かわせる、先の千裕のターンとは真逆の行動に純冷は驚いた。クリティカルコマンドを積んでいるのは確実だろうが、リプレイコマンドがないわけではないのかもしれない。とはいえ、クリティカルコマンドより出る確率は低いはずである。
純冷はあらゆる可能性を脳内で巡らせたが、千裕が「シェルターする?」と聞いてきた。
純冷はごくりと一つ唾を飲む。もしかしたら、ここの行動次第で、このゲームの決着がついてしまうかもしれない……そんな緊張が走る。
純冷は手札を確認する。シェルターをするには充分だ。
鬼が出るか蛇が出るか……純冷は宣言する。
「チャームゾーンのイリュージョナルスター、アビリティによりシェルターサークルへ。チャームチャージガード!」
チャームチャージガードにより、イリュージョナルスターはシェルター値が5000上がる。これで手札を消費せずにシェルターすることが可能だ。
千裕からは何かの能力の発動の宣言もない。そのままセンターの攻撃が来る。
「[鎖使いKnight]の攻撃」
サイドによる二回の攻撃を防いだことにより、純冷のダメージはまだ二だ。クリティカルコマンドが来てもターンが回ってくれば、手はある。
「アンシェルター」
純冷の宣言に、千裕が鋭い眼光を向ける。
「いいんだな?」
相手を威圧する視線。それは純冷の知らない千裕の眼差しだった。けれど、不思議と誰だ、と思ったりはしなかった。
それに、純冷は既にシェルターしないことを宣言してしまっている。
純冷が頷くと、千裕は高らかに宣言した。
「センターのアタックがシェルターされず、自らがダウンしているとき、ヴェルダのアビリティ発動。リバースバックアップを公開」
二枚のリバースバックアップが公開される。一枚は先程公開してセットしたウォシェ。もう一枚は[双刀の鎖使いフェレ]という死神アーミーだ。
「[鎖使い]と名前に入っているのなら、オープン時効果を発揮せず、アドベント。そして」
次に放たれたのは、想定しうる中で最も恐ろしい言葉だった。
「ピンポイントアビリティ」
ピンポイントアビリティ。発動条件がかなり厳しく、細かいため、発動させるのが至難の業であるアビリティ。特定の名前や種族のアーミーを複数指定して発動させることが多いため、そのアーミーらを揃えるところから始めなければならない。
その分、発動したときの効果は絶大だ。
「フェレのアビリティで、場にいるセンター以外のアーミーの名前を参照。アーミー名に[刀]と[鎖使い]の両方が入っているアーミーが自分の他に三体以上おり、かつ種族も三種以上であることが条件」
スズエは[太刀の鎖使い]のヒューマンアーミー、ヴェルダは[薙刀の鎖使い]の竜人アーミー、ウォシェは[小刀の鎖使い]、種族は──ビーストアーミーである。
「数多の種族との繋がりが、俺を強くする! 一人でも、歩けるように、立ち向かえるように!! フェレのアビリティでフェレ、スズエ、ヴェルダ、ウォシェをチャームゾーンへ移動、センターにクリティカルプラス2!!」
「なっ」
パワーアップは必要ない。場に[鎖使い]がいなくなったことで、むしろパワーダウンすらしている。だが、センターにアタックを通すには充分なパワーを[鎖使いKnight]は持っている。それに、センターに通るパワーなら、パワーを上げる必要はない。何故なら純冷はもうアンシェルターを宣言しているのだから。超えるべき壁はない。
クリティカルプラス2ということは、純冷に3ダメージ入るということだ。3ダメージが入れば、純冷のダメージは5になり、千裕の勝利となる。
だが、純冷はすぐ平静を取り戻し、不敵に笑う。
「だが、千裕と私のダメージ数は同じ。私が一枚でもヒーリングコマンドを引けば、首の皮一枚だろうと繋がる」
「それは俺がクリティカルコマンドを引かなかったときの話だろ?」
強気に返す千裕が、山札の一番上をめくる。
「ブレイヴコマンドチェック、クリティカルコマンドゲット!」
「くっ」
クリティカル4。だが、純冷がヒーリングコマンドを二枚引けば、まだ勝機はある。
「一枚目、ブランク。二枚目……」
青属性の[藍染AIZEN]が出てくる。彼女は白属性のAIZENと同じ、ヒーリングコマンドだ。
「ヒーリングコマンドゲット! ダメージを1回復!」
三枚目はブランク。後がない。
純冷が四枚目をめくる。
その場の誰もが、息を飲む。
「[祈りのハレルヤ]……ブランクだ」
純冷の今回のキーカードが締めくくった。
そして、千裕が唱える。風を呼ぶ呪文を。
「ラヴァン」
勝敗は決した。




