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Brave Hearts  作者: 九JACK
プロローグ
1/127

召喚

カードゲーム×RPGのファンタジー作品です。

よろしくお願いします。

 紅月 昴は中学三年生。勉強もできて、運動もできて、一見、何も悩み事がないような明るい少年に見える。

 しかし彼にはただひとつ、悩みがあった。


「昴くん、おはよう!」

「おはよう!」

「紅月くんは今日も元気だね」

「うん、おはよう」

 クラスメイトからの挨拶に応じる少年こそ紅月 昴だ。

「よっ、昴」

「あ、こないだのゲーム、面白かったよ」

「もうクリアしたのか?」

「うん」

「すごいよね、昴くんてばゲームやってても成績落ちないんだもの。誰かさんに見習って欲しいものね」

「な、なんで俺を見るんだよ!」

 口喧嘩を始めた二人をよそに昴の表情は沈む。

 鞄が重く感じる。きっと、まだあれが入っているからだ。

 昴の悩み事。それは──

 白紙のままの進路希望書。



 昴にはこれと言った夢がない。だから、提出期限の迫っている進路希望書が未だに白紙で焦っているのだ。

 他のクラスメイトはもうとっくにみんな提出している。まだ期限ではないが、早く出すように、と先生にも言われている。

 親に相談してみたが、昴の好きな道に進めばいいと言われてしまった。

(困ったなあ……期限もうすぐなのに)

 好きなこと、かあ……昴は特技は沢山ある。勉強も運動も好きだ。ゲームも人並みにする。手先が器用なので裁縫なんかもできたりする。

 しかし、特にこれと言えるようなものがない。

「まあ、順当に進学にしようかな……」

 そこまでは考えている。しかし希望書にはその先の進路まで書かないといけない。

「うーん……」

 今日も昴は進路希望書とにらめっこしていた。

「お兄ちゃん、何してるの?」

 小学生の妹、結芽が聞いてきた。

「進路希望書を書いてるんだ」

「しんろきぼーしょ?」

「簡単に言うと、将来の夢を書くものだよ」

「結芽のこと書くの―! 結芽ね、将来は立派なお嫁さんになるの!」

「いや……結芽のことじゃなくて、夢ね」

 言い得て妙な発言だったが。

「お兄ちゃんの夢を書くの?」

「うん、そうだよ」

「じゃ、お兄ちゃんは決まりだね!」

「えっ?」

 結芽は至極あっさりと言った。

「お兄ちゃんは勇者様になるんでしょ?」

 昴は固まった。

「ゆ、勇者様って……」

「神秘の世界アイゼリヤを救う為、お姫様を助けて、モンスターと戦って、魔王を倒すの!」

 かなりファンタジックな言葉が出てきたが、それで昴は得心がいった。

「もしかしてブレイブハーツのこと?」

「うん!」

 ブレイブハーツとは昴がやっていたゲームのことだ。勇者が異世界の姫に召喚されて、その世界を救う為に魔王と戦うロールプレイングゲームだ。ありきたりなゲームではあるが、それだけに昴は主人公の勇者に憧れていた。

「お兄ちゃん、勇者様になりたいって言ってた。だからなればいいんじゃない?」

「あのね、それは現実の話じゃないんだ。勇者にはなれないんだよ」

「ええ~、つまんない。お兄ちゃんが勇者様になったら、結芽は魔法使いになってお兄ちゃんを助けるのに」

「それは嬉しいな」

 でも、進路希望書には書けないや。

 困った顔のままだったが、昴はどこか晴れ晴れと、席を立った。

 ゲーム用のアナログテレビを点ける。ハードは接続済だ。カセットを入れる。

「お兄ちゃん、ブレイブハーツやるの?」

「うん、気分転換にね」

「結芽も見る!」

 しかし、結芽を呼ぶ声がした。母親の声だ。

「む~。見たかったのに~」

「残念。でも母さんの手伝いも大事だよ」

「うん! お手伝いする!」

 結芽が元気よく駆け出していくのを見送って、昴は画面に向かった。


 セーブデータを開こうとして、メニュー画面に見慣れない文字があることに気づいた。

「モード:アイゼリヤ……?」

 見たことがない。以前プレイした時にはなかった表示だ。やりこんだから、特別なモードが開けたのだろうか?

「とりあえず、やってみよう!」

 昴は迷うことなく確定ボタンを押した。

 ぷつり。

 昴の意識は何故か、闇に飲まれた。

 テレビ画面にはこう表示される。


 [新たなテイカーが召喚されました]


「ああ……私の力ではこれが限界です……」

 暗闇に包まれた神殿の中で少女が一人、崩れた。

「どうか、どうかこの世界を救ってください……五人の勇気ある者達よ……」

 赤、青、白、黒、黄。五色の輝きを見つめて少女は祈った。


「……なさ……! 起きなさい!」

 幼い子供のような声で昴は目覚めた。

「あれ? 俺……」

「やっと起きたわね」

 声に振り向く。するとそこには昴より頭一つ分小さい女の子がいた。猫耳の少女だ。

「ええと、君は誰?」

「聞きたいことはそれだけ?」

「うーんと、ここはどこ? 俺、家でゲームしてた筈なんだけど」

「……まあ、そうなるでしょうね」

 猫耳の少女は何から話そうかしら、と呟き、昴を見た。

「ここがどこかから言うわね。ここは神秘世界アイゼリヤ。あんたから見たら異世界よ」

「ええっ! アイゼリヤって、ブレイブハーツの?」

「あら、ブレイブハーツを知ってるの? なら話は早いわ。……いや、そもそもこの世界におけるブレイブハーツとあんたの世界のブレイブハーツが同じとは限らなかったわね」

 猫耳の少女はウエストポーチから、何やらカードを取り出した。

「あたし達の世界のブレイブハーツはこれよ」

「カードゲーム?」

「そう、ブレイブハーツはカードゲーム。詳しく話すと長くなるけど、端的に言うと、あんたはこのカードゲームをやる為にここに召喚された」

「召喚!? 誰が?」

「アイゼリヤの姫巫女、ヘレナよ」

 そういえば、ブレイブハーツの姫がそんな名前だったような気がする。

「もしかして、君がそのお姫様?」

「まさか。あたしはヘレナの友人よ。ヘレナはあんたを召喚するので力を使い果たして、今は眠ってる。代わりにあたしがあんたに説明するわ」

 少女は一呼吸おいて、言い放った。

「この世界を救って」


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