後編
「僕が好きなのは君なんだ、リリア」
「…っ!?」
兄の言葉に、これ以上ないぐらいに大きく目が見開く。
(今、なんて言った?私を好きだって、言った…?)
「嘘でしょ…?」
「嘘なんかじゃない。君が生まれてからずっと君を愛していた。絶対に守り抜くと決めたんだ」
「それは…家族としてでしょう?」
「違う!一人の女性として、好きなんだ」
グッと肩を抱かれ、反転させられる。
そうして見れた兄の顔はとてもつらそうで、胸がギュッと締め付けられる。
「君を愛してるんだ、リリア。一人の女性として、誰よりも」
まっすぐにこちらを見つめる瞳は自分と同じ薄茶色。
間違っても兄妹なのだと、認識させられる。
「ほん、とうに…?」
だけど、そんなのはもういい。
背徳感など、たった今捨てた。
だって、私も貴方の事を愛しているんだもの。
「本当だ。…なんて、こんな事 を言っても君を困らせるだけだよね」
ごめんね、と言って肩から手を離す。
だけど、その手が離れる前にリリアの手が彼の手を掴んでいた。
「リリア…?」
困惑したような、そんな表情を浮かべたフィリオスに、リリアは恥ずかしさを抑え小さく自分の気持ちを口にした。
「え…?」
困惑した表情から、信じられないとでもいうかのような表情に変わり、リリアは唇をキュッ結んで俯き、再度、はっきりと口にした。
「私も…お兄様が好きです。一番、好きです」
「リリア…」
「本当、ですよ?」
恥ずかしすぎて顔をあげられないから、チラリと伺うようにして兄を見る。
その瞬間、兄が唾を飲み込んだのが分かった。
次いで自嘲すると片手で顔を覆い下を向いた。
「…困ったな」
「え?」
「いや、なんでもない。それより…本当にいいんだね?リリア」
何が、と言わなくても分かる。
私達の関係は他の人とは違う。
誰かに知られたら、それでおしまいなのだ。
私達はこれから実の兄妹で禁忌を犯そうとしている。この事は快く思わない人が大半だろう。
誰かに知られて、それが国民にまで知れ渡ったら、私達は引き離されてしまうかもしれない。
でも、それでも。
私は、兄が好きだから。
兄以外の男の人と一緒になるなんて信じられな いし、信じたくない。私は兄しかいらない。
兄がいれば、それでいいのだから。
「…この身が朽ちようとも、私は貴方をお慕いしております」
ずっと傍にいる。
貴方との未来を、一緒に歩んでいきたい。
そうずっと決めていた。
「…ありがとう、リリア」
ふわりと、万人を魅了する笑顔を浮かべたフィリオスに、リリアは思いっきり抱きついた。
フィリオスはそんなリリアを容易く受け止め、ピンクブロンドの髪をいとおしそうに撫でる。
「お兄様、お兄様」
「リリア。僕の愛しいリリア」
苦しかったはずの兄を呼ぶ声も、今では幸せな気持ちになれる。
これは何かの魔法なのだろうか。
だとしたら、とても幸せだ。
「リリア」
とてつもなく甘い声で名前を呼ばれ、恥ずかしがりながらも顔を上げる。
そうすれば見慣れない熱を持った薄茶色の瞳が近づいてきていて。
この先に何が待っているのか、容易に想像できたリリアはそっと目を閉じる。
触れるか、触れないか。
そんなギリギリの距離で、フィリオスは囁く。
「もう後戻りはできないよ?」
…いいの。
もう、決めたのだから。
その兄の言葉にリリアがコクリとうなずけば、フッ、と優しい吐息の後柔らかくて暖かいものが唇に触れた。
初めてのキスは侍女の誰かが言っていたように、とても甘くて幸せな気持ちになれた。
「―愛してる、リリア」
兄の満面の笑みに、幸せだよという事を伝えるためにリリアもふわりと微笑む。
「私もです、お兄様」
バサバサと羽ばたいていく鳥達が、まるで私達を祝福しているかのように聞こえたのは、きっと気のせいではない―。
*・*・*・*・*
幸せを分かち合う二人は知る由もなかった。
まさかこの後待ち受ける運命が、後世に関わってくるとはー…




