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集結


 ノインから誘われて釣りをやったヌルとアインスだったが、結局何も釣れずに終わった。

 釣りを切り上げた二人は、ノインに別れを告げ、屋敷に戻ってきた。

「これで案内は、一通り終了になります」アインスが言った。

「は、はい。ありがとうございました」

「どういたしまして」小首を傾げたアインスは、そういえばと思い出し「うまい具合に住人のほとんどとも会うことができたのでよかったです」と言った。「一度に紹介されても混乱するでしょうから」

「ほとんど、ということは全員ではないのですか?」

「はい。あと一人、ここのリーダー的な役割を担っている人がいます」

「えっ?」まっさきに挨拶した方が良かったのでは、とヌルは慌てる。

「大丈夫です、細かいことは気にしない人なので。それに、彼からは、このあと食堂で全員が集まる予定になっていると聞いています。住人との顔合わせも、その時 することになっていたはずです」

 それを聞いて、アインスが「よかった」と言った意味も理解出来た。たしかに、いきなり十人以上の人と初めて会ったら混乱しかねない。

 ちょうどよかったということで、ヌルは、頭の中を整理してみた。

 最初に出会った、ブロンドのロングヘアーが素敵な大人の女性が、アインス。

 食堂で出会った、お子様ライスを食べていた白い短髪のいかつい男が、ドライ。

 浴室で出会った、小柄な全裸男が、フュンフ。寒さで死にかけ、ランタンで暖をとっていた黒くて長い髪をした女が、フィーア。

 訓練場で出会った、射撃訓練をさせてもらえないガンマンが、ツェーン。

 遊戯室で出会った、スーツに身を包み白髪を後ろに撫でつけた口髭の男が、ツヴァイ。長髪のなんかアブナイ雰囲気の人が、ゼクス。

 エントランス・ホールで出会った、浴衣にかんざしという民族衣装でキツイ印象のある女が、ズィーベン。ワンピースにリュック姿の、どこかのほほんとした印象のある女が、エルフ。

 屋敷の外で出会った、絵描きの方がアハトで、釣り人がノイン。

 名前を間違えたりして失礼の無いように、ヌルは頭の中を整理した。

 頭の整理をしていたら、「ヌル」という耳に届いた新たな情報に疎くなっていた。

「ヌル」

 何度か名前を呼ばれ、ようやくアインスから声を掛けられていたことに、ヌルは気付いた。

「あ、はい。す、すいません」

「べつに謝らなくていいですよ」柔和な笑みを浮かべるアインス。「招集がかかるまで、短いかもしれませんが、少し部屋で休んでいてください。いろいろあって疲れたでしょう」

「そ、そんなことは…」否定しようとしたヌルだが、たしかに一度落ち着きたいという思いも無いわけではなかった。「では、失礼します」

 頭を下げて、部屋に行こうとしたヌル。だが、

「……部屋、わかります」

 とアインスに問われて、

「…いいえ」

 決まり悪そうに首を振った。

「ふふっ。部屋の前まで、案内します」

「…よろしくおねがいします」


 ヌルは、自分の部屋に来た。

 初めての自室。

 そこでまず、最初と今、アインスの前で恥かいた事を後悔した。



 ひとしきり後悔すると、気持ちを切り替え、部屋の確認を始めた。

 シャワールームとトイレ、あとは最低限の生活が出来るスペースとベッド、そして狭いスペースを占領する荷解きされていない私物の入った段ボール箱がいくつか置いてある。

 たったそれだけの簡単な確認作業をしていたら、放送がかかった。

「全員ただちに食堂に集合。繰り返す、全員ただちに食堂に集合。もう一度言うぞ…」

 三度目の放送を聞きながら、ヌルは、急いで食堂に向かった。



 ヌルが食堂に行くと、そこにはすでにアインスがいた。

 ヌルと別れたあと、そのままの足で食堂に来ていたようだ。

 長テーブルの角に座っていたアインスは、ヌルが来たことに気付くと、彼に自分の向かい側に座るよう促した。

「普段は何処でも構いませんが、全員で集まる時はなんとなく決まっているので」

「あ、はい…」

 ヌルは、指示されるままに席についた。

 しばらくすると、次の住人が現れた。

 しかし、その顔には見覚えがなかった。

 だからヌルは、この人が最後の一人・リーダーだと直感した。

 ガタッと音を立て、席を立つヌル。

 しかし、

「挨拶なら、あとでいい」

 と言われ、静かに座った。

 それからは、男のことを盗み見るように観察した。

 長テーブルの上座に座る男。髪の毛は、若干のクセ毛。肘をついて組んだ手で口元を隠し、目は瞑っている。黙ってそこに居るだけ、それなのに、刺すような威圧感をヌルは感じていた。

「おい」

 男が口を開いた。

「どうしました?」応えるアインス。

「他の連中はどうした?」

 男が言うと、そういえばとヌルも思った。

 なかなか次の人が来ない。

 何かあったのかなと、ヌルもアインスに疑問の視線を向けた。

「あ…もしかしたら、来ないかもしれません」

 恐る恐るといった感じで、アインスは答えた。

「来ない?」男の眉間に皺が寄ったのを見て、ヌルの中の緊張度が上がった。「来ないとは、どういうことだ?」

「言葉通りの意味です」

「なにか釈明の言葉はあるのだろうな?」

 静かだが男が怒っている事は、ヌルにも伝わってきた。

「はい」

 自分のことではないのに、ヌルは、自分の罪状を聞くように肩をすぼめて、アインスが言うのを聞いた。

「ツヴァイは、コインで裏が出たそうです」

「出欠をコインで決めるな!」

「ドライは、食事中」

「なら、ここで食えよ! お子様ランチを部屋に持っていってまで食うな!」

「フィーアは、みんなが行くなら私も行く、と」

「いや、とりあえず来いよ!」

「フュンフは、じっと座っていられないから」

「じゃあ、ここで立っていろ!」

「ゼクスは、気分じゃないそうです」

「気分で決めるな!」

「ズィーベンは、パスとだけ」

「せめてその理由を言えよ!」

「アハトは、今は気分が乗っているから無理だそうですが、もし気分転換をしたくなったら来るそうです」

「気分転換の為にやっているわけじゃねぇよ!」

「ノインは、後で行く、と」

「今来い!」

「ツェーンは、訓練で銃弾を使う事や喫煙スペースを設けてもらうことに関して、ズィーベンやアハトに掛け合ってみるそうです」

「絶対無理だろうけど頑張れば!」

「エルフは、私の分もよろしく…」

「するな!」

 ヌルは、圧倒された。今の一瞬で繰り広げられた会話のような、ボケとツッコミのような、不思議なやり取りに。

 住人達の様々な欠席理由を代弁したアインス。そんな彼女に、怒涛のツッコミを入れ続けた男は、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。

 そんな男からは、先程までヌルが感じていた 刺すような威圧感は消えていた。

 とりあえずなんか気の毒、ヌルはそう思っていた。



「みんな、忙しいみたいですね」

 男に気を遣っているのだろう、アインスが不自然な笑みを浮かべている。

「いや、忙しくないだろ。メシ食っているヤツとかいたぞ」

「たぶん、今は手が放せないからという人もいたはずです」ふてる男をフォローするアインスは、「もう一度、放送をかけてみませんか?」と提案した。

「いや、無理だろ」

「大丈夫です。私、放送かけて来ます」

 そう言うと、アインスが席を立ち、何処かに消えた。

 約一分後。

 館内放送からアインスの声が聞こえた。

「全員、食堂に集合してください。大切な話があります。長時間拘束するようなことはありませんので、可能な限り出席してください」

 アインスの放送から、約一分後。

 ぞろぞろと住人達が集まってきた。

「すぐ終わるんだろうな?」とツヴァイ。

「まあ、多少冷めた所で味が劇的に落ちる事もない。そこも、御子様ランチの魅力の一つなのだから」とドライ。

「来ちゃった」テヘッと舌を出したフィーア。

「さっさと始めようぜ」とフュンフ。

「焦ってもイイ事はないよ。事を急いてばかりいると、足下に咲く一輪の花を見過ごしてしまう、踏んでしまったら取り返しがつかないだろ」前髪をかき上げるゼクス。

「ゼクス、うるさい。アイ姉、用件は何?」とズィーベン。

「気分転換しに来たよ」とアハト。

「事前に行ってくれたら、僕だってちゃんと来るさ」とノイン。

「アインスの後でいい、この場を借りて俺からも話をさせて欲しい」とツェーン。

「来たよ、アインス」笑顔のエルフ。

 結局、みんな来た。

「アインス…」うな垂れた男が、蚊の鳴くような声で言った。「俺、そんなに人望無いかな?俺、もしかして嫌われてる?」

「すいません! もう少し気を遣って、何人か来ないでください」

 男をフォローするために、アインスが、せっかく来た住人達に無茶言った。

「何度も呼んでおいて、来たら『来るな』てか」やれやれといった態度のツヴァイ。

「別にいいけど、振り回される方の事も考えてよ」不満気なアハト。

「居ても良いなら、ボクは居させてもらうよ。戻るのも面倒くさいし」とノイン。

「私も居させてもらうわ。少数派はイヤ」とフィーア。

「なにもしないなら、俺から意見がある」話を切り出そうとしたツェーンだった。が、

「うるさい、ツェーン」とズィーベンに怒られた。「アイ姉、アタシも要らないの?」

「そんなことないわよ、ズィーベン」

「御子様ランチのようだな。ここで絶対になければならない存在、つまり旗はヌル。俺達は、代用は利くが無くてはならない存在、付け合わせといったところか」とドライ。

「うるさい、ドライ」言葉にトゲのあるズィーベンのマネをして言うと、エルフは楽しそうに笑った。

「一度舞台に上がったのだから、何もせずむざむざと帰ることはできないな」とゼクス。

「どうでもいいから、さっさとやろうぜ」

 フュンフがそう言うと、場の空気が「早く始めよう」という感じになった。

 アインスが何をしても、この空気は変わりそうにない。

「始めてくれ、アインス…」力無く、男が言った。「まず新入り君を紹介して、住人が一人ずつ自己紹介するつもりだ。俺の代わりに、進行してくれ」

 男の声は、小さかった。が、ヌルの隣に座っているエルフには聞こえたようだ。

「え、みんな挨拶は済ませたみたいだよ。たぶんあとはツヴェルフだけ」

 それを聞いて、ツヴェルフと呼ばれた男が、さらに落ち込んだ。

 細かいことは気にしないと聞いていた人が、ここのリーダーらしい人が、激しく落ち込んでいる。

 かける言葉も見つけられず、ただただ心の中で同情するヌルだった。 


やっと全員揃いました。

嬉しいです。



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