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遊戯

まだ案内しています。

カメ速度ですいません。


 食堂、浴場、訓練場ときて、次は案内されたのは、休憩室の様な所だった。

 数人掛けのテーブルがいくつかあったり、床にごろ寝できるようなスペースがあったりと、その部屋は、食堂やエントランスホールと比べてかなりリラックスできそうな、そんな雰囲気を感じる。

 きっとここで談笑したりボードゲームのような遊技に興じたりするのだろう。

「ここは、特に使用目的を限定せずに住人同士が自由に利用できる、いわゆる遊戯室の様な所になります。自室で休息をとるのもいいですが、ここならたわいない会話や情報交換をして住人同士の友好を深めることが出来ます。暇な時などに来るといいかもしれません」

 アインスは、説明した。

 ヌルは、その話を黙って聞いた。

 しかし、聞いている時からずっと、テーブル席に座っている二人の男の存在が気になってしょうがなかった。



 一人は、スーツに身を包み、白髪を後ろに撫でつけ白い口髭を生やしている男。

 もう一人は、中性的な顔立ちをした長髪でユニセックスな格好をしている、たぶん男だ。

「勝負するか?」

 あきらかに男な方が、そう訊くと、

「ああ。受けて立つよ」

 やはり男だった方が、答えた。

 なにやら穏やかではない。口髭の男は不敵な笑みを浮かべ、長髪の男の方も微笑している。それなのに、二人の間にピリピリとした緊張感がある。

 とめた方がいいのでは、とヌルは思った。

 だが、その瞬間に場が動いた。

「ちくしょう!また負けかよ!」

「やはり女神の寵愛を受けているのはボクだったね」

 どうやら、勝負がついたようだ。

 ポーカーの。



「また賭けですか?」

 呆れた顔をして、アインスが二人のテーブルに近寄った。

「よぉ、アインス」

「ボクの連勝です」

「ちっ、次だ 次!」

 口髭の男は、カードのシャッフルを始めた。

「ところで、アインス」長髪の男は、「彼は、何者だい?」とヌルを指差して訊ねた。

「彼はヌル。今日からここの住人よ」

「へぇ」

「よ、よろしくおねがいします」

「ボクは、ゼクス。よろしく」

 ゼクスは、長い前髪をかきあげた。

「俺は、ツヴァイ」口髭の男は名乗ると、「新入り、お前もやっていくか?」とヌルをポーカーに誘った。

「い、いえ…」

「まだ案内の途中です」

 戸惑うヌルに代わって、アインスが断った。

「つれないねぇ~」

「余計な御世話かもしれませんが、賭け事もほどほどにしたほうが…」

「誤解だよ、アインス」ゼクスが言った。「たしかにツヴァイが緊張感を出す為にというから金銭を賭けて勝負しているけど、ボクはお金目的じゃない」

「嫌味か?」負け続けのツヴァイが顔をしかめた。

「ボクはただ、女神からの愛を確認したいだけなんだ」

「……………」呆れるツヴァイ。

「……………」この人アブナイ人かもと疑うヌル。

「……はい…」

 なんとかアインスだけ、相槌を打った。

「愛する男女が口付けをして愛を確認し合うように、ボクは、カードゲームを通して女神からの愛を確認する。わかるかい?」

 突然問われたヌルは、「え、あ、はい…」とうろたえたが、「勝利の女神がついているか的なことですか?」と答えた。

「そういうこと」ゼクスは、満足そうに頷いた。「女神からの寵愛を受けていれば、それはイコール勝利ということになる」

「…おいアインス、新入り君をさっさと連れていけ」

「そうします」



 アインスとヌルがいなくなった遊技場。

 そこで、まだツヴァイとゼクスはポーカーで勝負していた。

「キミも、ボクと一緒じゃないのかい?ツヴァイ」

「あ?」

「困った時はコイントスで決める。キミがよくやるアレも、神の導きを乞おうとしているのではないかい?」

「違ぇよ、ボケ」不愉快そうに、ツヴァイは返した。「俺のは、テメーの中の運を信じてやるモンだ。女神様 頼りのオメェと一緒にすんな」

「そうかい…よくわからないが、わかったよ」

「どっちだよ!」

「ツヴァイ、キミは強い。そのキミの運に勝つということは、それだけボクが女神に愛されているということ。それさえわかれば、それでいい」

 自信たっぷりのゼクスは、フルハウスの役が揃ったカードをテーブルの上に放った。

「ちっ、くそ! もっかいだ」


「よっしゃあ! ついに女神が俺のところにも来た」

 嬉しそうなツヴァイ。

 そんな彼とは対照的に、不満気に顔をしかめ、

「女神は気紛れだからね」

 とゼクスが言った。

「気紛れな女神さんが離れる前に、もう一勝負といこうや」


 ようやく二度、三度と強い役を作ることができ、波に乗れた気がしたツヴァイ。

 流れは自分の方に来ている。そう思ったのだが、

「女神は、やはり気紛れだ」

「……くそっ…」

 賭け金を上げた途端、まさかの連敗をしいられた。

「愛を確認するためには、離れてみることも必要。離れて、そしてまた会えた時、改めて愛の尊さを理解する。人は、失ってみないと理解出来ない事もある難儀な生き物だから」

「うるせぇよ…!」

 女神からの愛を静かに喜ぶゼクスに、ツヴァイが、冷たく言い放った。



 遊戯室を出て、少しした所。

「あのアインスさん…」

「大丈夫ですよ、ヌル。みんな、イイ人達です。少々変わった人もいますが」

「あ、はい…」

 ここにきて一番の不安を感じるヌルに、アインスは微笑みかけた。 


人物紹介

・ツヴァイ…後ろになでつけた白髪と白い無精ひげの男。

・ゼクス…中性的な見た目の男。



変な人が増えました。


もう少しでこの流れも終わらすことができます。

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