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訓練


「ここは、訓練場です」

 ヌルは、次の部屋に案内された。

 そこには、身体を鍛える器具が、点々と置かれていた。

「個人的に鍛えたい時や単純に身体を動かしたい時は、ここを利用することを勧めます」

 次に、隣の部屋に移動した。

 そこには、ただただ広い空間があった。

「ここは、模擬試合等ができる場所です。周囲の壁は頑丈な作りになっているので、派手に暴れても大丈夫です。他にも、静かに瞑想したい時などもいいかもしれません」



 訓練施設を紹介してもらった。

 率直な感想は、すごく充実しているな、だった。

 これから生活していくうえで、強い肉体を持ち、戦闘に慣れるということは、必ず求められることになる。

 その為に必要な、非常に素晴らしくてありがたい設備が、ここにはあった。

「もう少し見てもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 アインスの許しを得て、ヌルは、訓練場を自由に見学して回った。



 ガシャーン、ガシャーンやって上半身を鍛える器具がある。

 ガシャーン、ガシャーンやって腹筋を鍛える器具がある。

 ガシャーン、ガシャーンやって下半身を鍛える器具もある。

 ガシャーン、ガシャーンやらずに黙々と走るやつもある。

 身体の色々な部位を鍛える為の、色々な器具が、そこにはあった。

 ここでガシャーン、ガシャーンやれば強くなれるだろう。

 そんなことを根拠もなく思い、トレーニングして汗を流す自分を想像していたヌルは、実際にガシャーン、ガシャーンやっている音を聞いた。



「誰だ、お前?」

 ガシャーン、ガシャーンやってトレーニングしていた男が、ヌルの存在に気付いた。

 そのあまりに突然の出会いに、委縮するヌル。

 だが、

「彼は、今日からここの新しい住人になるヌルよ」

 とアインスが助けてくれた。

「ほう」

 微笑を浮かべた男は、トレーニングを中断して、ヌルの前に立った。そして、

「俺は、ツェーン」

 と名乗り、握手を求めてきた。

「は、はじめまして、ヌルです」ヌルは、握手に応えた。

 先程も、握手は交わした。風呂上がりの全裸男・フュンフと。

 しかし、その時とは違う熱気を、ヌルは感じていた。

 小型犬とライオンの違いとでもいうのか、感じる威圧感が違った。

 噛まないよ、大丈夫だから、そう言われても安心できない大きな圧を、今は感じる。

 握手する手がジワッと汗ばむのを感じた。

 そんなヌルの反応に気付いてか、ツェーンは「すまないな」と謝った。

「トレーニング中で汗をかいているので、キミの手も濡れてしまった。無理を言うようだが、悪く思わないでくれ」

「い、いえ…」

 ヌルが反応に困っていると、「ふふっ」と微笑したアインスが、ヌルに耳打ちした。

「緊張するのも仕方ないけど、ここの住人は悪い人たちじゃないから怖がらないで。そう言いたいみたいですよ」

「あ、はい」少し安堵する自分に、ヌルは気付いた。

「聞こえているぞ、アインス」苦い顔をしたツェーンは、ポケットから取り出した煙草に火をつけ、「ま、解釈は自由だ」と煙を吐き出した。

 照れているのかな、とヌルは思った。



「ところで、ツェーン。ここでトレーニングしているのね」

 アインスが訊いた。

 すると、苦虫を噛み潰したように煙草のフィルターを噛み潰し、ツェーンは答えた。

「知っているか、アインス…。銃弾には、限りがある」

「ええ、もちろん」

「ガンマンに射撃訓練は必須だ」

「そうでしょうね」

「ジレンマだな。ガンマンとして訓練しようとすると、銃弾を消費することになる。だが、そうすると『銃弾もタダではない』とズィーベンやアハトがうるさい」

 どうやらツェーンは、射撃訓練をしたいらしいが、射撃訓練をしていると銃弾を無駄にしていると文句を言われるらしい。

 それで、「ま、ガンマンにも筋力は必要だし、接近戦にも対応できなければ戦場では生き残れない。仕方がないから、ここでの訓練で我慢しているというワケだ」と自分に言い聞かせているようだ。

 なんか大変そうだな、とヌルは同情してしまった。



 ツェーンは一服し終えると、またガシャーン、ガシャーンと訓練に戻った。

 次の施設を案内する為、ヌルを連れて行こうとしたアインス。だが、ツェーンとの別れ際に、思い出した。

「ツェーン。今度から、ここも禁煙になりましたよ」

「……喫煙者には生きづらい世の中になったな」

 なんか大変そうだな、とヌルはまた同情してしまった。



「他にも訓練場みたいなところって、あるのですか?」

 ヌルは、訊いた。

 ツェーンとの会話から、射撃場のような場所もありそうだとヌルは考えていた。

 もしかしたら、もっといろいろとあるのでは?

 そう思ったヌルだが、「いいえ」とアインスは首を横に振った。

「特別に設けられた訓練場のような施設は、他にはありません。あとは、屋外の自然を利用する形になります。実際、大浴場であったフュンフなんかは野山を駆け回ってそれを訓練と称したり、ツェーンは落ちる木の葉を標的に狙撃訓練したりするようです」

「へぇ~」

「あっ、そういえば…」

 アインスは、何かを思い出したようだった。

「どうしました?」

 ヌルは訊いた。

 しかし、アインスは、何も言わずに来た道を小走りで戻って行った。

「ツェーン」

「どうした、アインス?」

 ガシャーン、ガシャーンやっていたツェーンの所に戻って来て、アインスは言った。

「アハトから『銃撃音がうるさいから射撃訓練を控えるように』と言伝を預かっています。それに、ズィーベンからは『煙草の臭いが服につくからやめて欲しい』と」

「………………」なんとも言えない苦い表情をするツェーン。

 本当に大変そうだな、とヌルは同情した。


人物紹介

・ツェーンは、拳銃使い、つまりガンマンです。喫煙者のガンマン、煙にまみれていそうです。



続きます。


ちゃんと続くかわかりませんが、書きたいと思っている話があります。そこまで、よかったら御付き合いください。

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